エフオーアイ粉飾決算を巡る判決のポイント 上場時の主幹事証券会社にも初の損害賠償命令

コーポレート・M&A

 12月20日、株式会社エフオーアイの粉飾決算について株主が旧経営陣に損害賠償責任を求めた訴訟の判決が東京地裁であった。報道によれば、旧経営陣だけでなく、上場時の主幹事だった証券会社にも損害賠償責任が認められたという。上場企業の粉飾決算に対して引受証券会社の損害賠償責任が認められたことは初として話題となった。
 粉飾決算にはどのような責任があり、なぜ証券会社にも責任が求められる事となったのだろうか。金融商品取引法に関する実務に詳しい中央総合法律事務所の山田晃久弁護士に聞いた。

粉飾決算の責任とは

上場企業の粉飾決算について、法律ではどのように定められているのでしょうか。

 有価証券届出書や有価証券報告書などの開示書類に虚偽記載等があったことにより被害を被った投資家の救済を図るために、金融商品取引法は、かかる虚偽記載等(本稿にいう虚偽記載等には、①重要な事項について虚偽の記載があるとき、②記載すべき重要な事項の記載が欠けているとき、③誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているとき、の3つの類型を含んでいます)に関与した者について投資家に対する民事上の責任を定めています。

 開示書類の虚偽記載等に対する民事上の責任としては、大別すると、「発行市場における民事上の責任」と「流通市場における民事上の責任」とに分けることができます。
 「発行市場における民事上の責任」とは、有価証券の募集・売出しに応じて有価証券を取得した者に対する民事上の責任をいい、「流通市場における民事上の責任」とは、証券取引所を介して取得した者など、募集・売出し以外の場面で有価証券を取得した者に対する民事上の責任をいいます。
  以下の表は、開示書類の虚偽記載等に対する金融商品取引法に基づく民事上の責任をまとめたものです。なお、今回の民事訴訟(損害賠償請求)においては、金融商品取引法に基づく民事上の責任のほか、民法上の不法行為(同法709条、719条)に基づく責任についても根拠として主張されています。

該当条文 責任類型 対象行為 責任の主体 主観的要件
17条 発行市場における民事上の責任 虚偽記載等のある目論見書、虚偽表示等のある資料の使用 有価証券を取得させた者 立証責任転換※1
18条 有価証券届出書や目論見書の虚偽記載等 発行会社 無過失責任※2
21条 提出時の役員、売出所有者、監査法人等、引受証券会社等 立証責任転換
21条の2 流通市場における民事上の責任 有価証券届出書・継続開示書類の虚偽記載等 発行会社 無過失責任
22条、23条の12第5項、24条の4、24条の4の7第4項、24条の5第5項 提出時の役員、監査法人等 立証責任転換

※1立証責任転換:責任の主体が虚偽記載等について知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず虚偽記載等について知ることができなかったと証明したときは免責される。
※2 無過失責任:責任の主体が、虚偽記載等について故意・過失がなくても損害賠償責任を負う。

なぜ証券会社の責任が認められたのか

上場の審査に関わった証券会社の賠償責任が認められたのは初めてという事なのですが、証券会社の責任について教えてください。

 本稿執筆時点では判決文が公開されていないので詳細はわかりませんが、「エフオーアイ被害株主弁護団」のホームページによりますと、今回の民事訴訟(損害賠償請求)においては、発行会社であるエフオーアイの元役員や監査証明をした公認会計士のほか、引受証券会社売出所有者東京証券取引所自主規制法人も被告とされていたようです。
 そして、報道によりますと、地裁判決は、これらの被告のうち、元役員に対して金融商品取引法上の民事責任や民法上の不法行為責任に基づく損害賠償請求として約1億7500万円の支払を命じたほか、引受証券会社のうち主幹事証券会社に対しても金融商品取引法上の民事責任に基づく損害賠償請求(ただし、発行市場における民事上の責任に限ります)として上記金額のうち約3000万円の支払を命じたとのことです。

 上記の表のとおり、引受証券会社は、発行市場における有価証券届出書や目論見書の虚偽記載等について民事上の責任を負いますが、かかる責任の根拠要件の1つである故意・過失(主観的要件)の立証責任は、損害賠償を請求する原告(投資家)側でなく、損害賠償を請求される被告(引受証券会社)側に転換されています(金融商品取引法21条1項4号、2項3号)。すなわち、原告(投資家)側が「虚偽記載等」と「損害」を立証すると引受証券会社に民事上の責任が認められることとなり、被告(引受証券会社)側が免責されるためには、被告(引受証券会社)において故意・過失がなかったこと(厳密には、「虚偽記載等の不知」と「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」)を立証しなければなりません。

今回の判決ではなぜ証券会社の責任が認められたのでしょうか。

 引受証券会社は、発行会社の財務状況、経営成績その他引受けの適否の判断に資する適切な審査を行うことが求められています(金融商品取引法40条2号、金融商品取引業等に関する内閣府令123条1項4号)〔森本滋編「募集株式発行の法と実務」(商事法務、2016)264頁~265頁〕。
 報道によりますと、地裁判決は、エフオーアイの粉飾を示唆する外部からの投書が2度にわたって主幹事証券会社に届いていたと認定し、「売り上げの実態を確認するため追加調査をする義務があったのに不十分で、主幹事としての注意を尽くしていたとは認めがたい」(平成28年12月20日22時37分配信日本経済新聞電子版)として、主幹事証券会社の賠償責任を認めたとのことです。すなわち、主幹事証券会社においてこのような外部からの指摘を受けたにもかかわらず、これを踏まえて適切な引受審査を行っていなかったことが問題視されたということです。

証券取引所に責任はなかったのか

原告は東京証券取引所にも責任があるとして賠償を求めていたようですが、どのような場合に証券取引所に責任が及ぶ可能性があるのでしょうか。

 金融商品取引法は、証券取引所や自主規制法人1について、開示書類の虚偽記載等に対する民事上の責任を定めていません。このため、原告(投資家)側は、東京証券取引所と自主規制法人に対し、民法上の不法行為責任(同法709条、719条)を追及しようとしたようです。
 前掲エフオーアイ被害株主弁護団のホームページによりますと、地裁判決は、東京証券取引所や自主規制法人の賠償責任を否定したものの、自主規制法人については、上場審査にあたり投資家に対して不法行為法上の注意義務を認めたとのことです。おそらくは、具体的な注意義務違反までは認められなかったものの、抽象的には注意義務があると判示されたのだろうと思います。

 証券取引所や自主規制法人は、自主規制業務の1つとして、金融商品等の上場に関する業務を行っており(金融商品取引法84条2項)、その業務には株式等の上場審査も含まれます。地裁判決に従えば、証券取引所や自主規制法人について、上場審査にかかる業務を適切に行わなかったといえる場合(金融商品取引法84条1項参照)には、開示書類の虚偽記載等に対して民事上の責任が認められる可能性があるといえるでしょう。

今後、証券会社に求められる対応は

今後、証券会社はどのような点に注意して審査などを行うべきでしょうか。

 引受証券会社が開示書類の虚偽記載等についての民事上の責任から免責されるためには、引受証券会社自らが「虚偽記載等の不知」と「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」を立証しなければなりません。ここで重要なことは「相当な注意を用いた」という点です。引受証券会社としては、発行会社やその監査法人等からの情報を鵜呑みにせず、自ら主体的に発行会社のデューデリジェンスを行い、虚偽記載等を疑わせる事情があれば、少なくともその真否を確認することが必要といえるでしょう。 


  1. 現在、日本取引所グループ傘下の日本取引所自主規制法人が日本における唯一の自主規制法人であり、同法人は、東京証券取引所と大阪証券取引所から自主規制業務の委託を受けて、両取引所の自主規制業務を行っています。 ↩︎

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