グローバルリスクマネジメント

第1回 中国ビジネスにおける法務と税務のリスク

国際取引・海外進出

目次

  1. 中国の法務について
    1. 中国の法律実務を理解することの意義
    2. 中国の法律実務の特徴
    3. 企業活動のリスクとなりうる近時のトピック
  2. 中国の税務にはどのような問題があるか
    1. 中国の税務実務を理解することの意義
    2. 中国の税務実務の特徴は
    3. 企業活動のリスクとなりうる近時のトピック

 本連載は「グローバルリスクマネジメント」と題して、世界に展開する日本企業がビジネス上留意すべき最新の問題、およびこれに対応するためのポイントを紹介します。
 ビジネスのグローバル化が進む現代においては、企業が直面するリスクも多様化・複雑化しています。このような状況を踏まえて、企業のご担当者にタイムリーかつ的確な情報をお伝えするのが本連載の目的です。
 今回は、本連載の初回として、多くの日本企業にとって国際貿易の主要な相手国であり、また、重要な製造拠点・消費市場である中国における法務、税務面のリスクをテーマとして解説します。

中国の法務について

中国の法律実務を理解することの意義

 日中間の経済的結びつきが強くなった現在、多くの日本企業にとって、中国関連の取引を行うこと、また、これに伴う法的問題の処理が必要となることは珍しくありません。
 中国に自社の機械を輸出する、中国に製造拠点を設ける、中国でスーパーマーケット等の小売業を営むといった各種ビジネスの中では、売買や輸出入に関する法律、現地法人の設立や運営に関する法律、製品品質や消費者保護に関する法律、従業員雇用に関する法律等、中国の各種法律およびこれに基づく実務運用の内容が問題になります。

 そして、企業の法務担当者に対して、中国の各種法律問題に関して他部署からの相談が持ち込まれることもあるかもしれません。このような相談ニーズに対応するためには、中国の法律実務について、日本国内の法律問題と同様、普段からその理解を深め、かつ知識のアップデートを行っておくことが必要です。

中国の法律実務の特徴

 「中国現地のビジネスでは細かい法律や契約よりも、人間関係が重視される」というような意見をしばしば耳にすることがあります。しかし、近年の中国における法整備や実務運用の蓄積状況を踏まえれば、上記のような見方は必ずしも妥当ではないようにも感じます。

 民事取引、外商投資、会社法制、製品品質、消費者保護、労働関係、独占禁止および不正競争防止等の分野において、急速に法体系の整備・執行強化が進み、取引当事者の契約意識も急速に高まっているのが今の中国の姿です。 「中国における法律実務」をあまり特殊なものと捉えないほうが良いと思います。

 他方で、中国の法律実務にはいくつかの特徴的な部分もありますので、これらの点に留意しておくことは有意義です。

複雑な法体系

 まず法体系の複雑さです。中国において、ある法的領域に関する国家の法規には、「法律」だけでなくその細則規定たる「行政法規」「部門規則」等が存在することが一般的ですが、これらの成立時期の前後により、同じ問題を規制していながら、それぞれの規定の内容が相互に異なるということがあります

国家レベルの法規と地方レベルの法規が並存している

 また、同一の法的問題(例えば従業員の休暇制度等)を規制する国家レベルの法規と各地方レベルの法規が並存し、後者が独自の規制を行っているということもあります。これらの各状況は、最近、各主管部門が成立時期の古い規定を整理すること等を通じて徐々に解消されてはいますが、企業としては留意すべき事項です。

法改正のペースが速い

 このほか、中国では新法規の登場や既存法規改正のペースが速いです。自社のビジネスに関してこれまで参照していた規定がいつの間にか廃止され、新規定が施行されている、ということも起こります。

 例えば、最近では「人口及び計画出産法」の改正法施行(本年1月1日)に関する動向に注意が必要です。いわゆる一人っ子政策の廃止を主要な内容とする当該改正法の施行に伴い、各地における関連地方性法規の改正が相次いでいます(例として、北京市では「北京市人口及び計画出産条例」の改正規定が本年3月24日に施行され、上記「人口及び計画出産法」の改正内容に沿った休暇制度変更等を行っています)。

 このほか、独占禁止法(「反独占法」)関連領域では、現在、①リーニエンシー制度、②経営者承諾制度適用に関するガイドラインや、③知的財産権の濫用行為に関するガイドラインの制定手続が進められている点にも注意が必要です(国家発展改革委員会価監局は、本年2月2日、「水平的独占合意案件リーニエンシー制度適用ガイドライン」(上記①に関連)および「反独占案件経営者承諾ガイドライン」(上記②に関連)の各パブコメ稿を公表し、また、これに先立つ昨年12月31日、「知的財産権の濫用に関する反独占ガイドライン」(上記③に関連)のパブコメ稿を公表しています)。

行政許認可の要求が多い

 そして、近時では簡略化(ネガティブリスト採用や届出制への移行等)が進められているとはいえ、中国では特に外国資本によるビジネス参入、運営および撤退の各段階における行政許認可の要求が多く、かつ、当該許認可手続に関する各地方における独自性が強い、ということも理解しておきたいところです。

企業活動のリスクとなりうる近時のトピック

 以下では、日本企業の中国ビジネスにおいて、法的リスクとなりうる中国における近時のトピックに触れます。

独禁法規制

 中国では独禁法規制が強化されています。2008年8月1日の独占禁止法施行以降、現在に至るまで、合併や買収等の企業結合に伴う商務部への企業結合申告が厳格に要求されるようになり、また、国家発展改革委員会を始めとする独禁法執行部門による独禁法エンフォースメントが増加しています。

 特に、2014年以降は価格カルテル等に対する当局取締が強化されました。日系企業との関係では、同年夏頃に日系の部品製造企業8社、ベアリング製造企業4社(合計12社)が処罰された事例、2015年秋に日系自動車メーカーの中国合弁企業の販売会社が処罰された事例、また同年末に複数の海運会社が処罰された事例が記憶に新しいところです。

 これらの動向に対しては一部で「外資たたきではないか」というような疑問が呈されることもありますが、近年では、外資系、国内資本系いずれの企業に対しても、価格カルテル等の取締が強化されているというのが現地の実情ではないかと思います。

消費者保護規制

 生活水準の向上等に伴い、中国の消費者の商品・サービスに対する要求は高まっています。他方で食品の安全性問題に代表されるように、消費者の合法的権利が侵害される問題は後を絶ちません。これらの事実を背景として、中国では消費者保護の各種施策が強化されています。2014年3月には改正版「消費者権益保護法」が施行されました。

 改正法は懲罰的賠償制度の強化、消費者公益訴訟制度の規定や個人情報保護条項の新設等を行い、消費者の権利保護を強化する一方で事業者の責任を強化しています

 消費者を直接の顧客とする商品・サービスを取り扱う企業としては、上記のように厳格化される消費者保護規制に適切に対応することが求められます。 それだけでなく、現地では、品質問題の発生や不十分なアフターサービスに対して、消費者保護の立場からメディアが強い批判を行うことがあることに注意が必要です。日本ブランドの製品・サービスは中国で人気が高いですが、消費者の期待値が高い分、問題が発生した場合のメディア批判等のリスクは大きいことにも留意すべきと思います。

環境規制

 「PM2.5」に代表される、中国の大気汚染問題がここ数年注目を集めています。2016年1月には改正版の「中華人民共和国大気汚染防止法」も施行されました。その前年には、改正版「環境保護法」も施行され、環境汚染行為を行なった企業に対する罰則が強化されています(例えば、改正版「環境保護法」第59条では、汚染物質の違法排出を行う企業等に対する罰金額の上限を設けず、当該行為の是正まで日々罰金が加算される制度を採用しています)。

 このほか、上記のような中央レベルの規定だけでなく、北京市を始めとする各地方政府が独自に定める汚染改善・防止政策も活発に実施されています。
 大気汚染状況が悪化した時期には、その改善を図るために自動車の通行制限や工場の操業一時停止が命じられることがあります。
 更に、より根本的な汚染防止措置として、当該地域における新車購入時のナンバープレート発給を抽選制・オークション制とする地域や、環境に対する負荷が高いと判断された工場に対する移転要請等を行う地域もあります
 これらは、外資系の企業の生産活動に対しても直接の影響を及ぼしうる動向です。大気汚染問題に限らず、各種の環境汚染源とこれによる生活環境悪化に対する当局の姿勢は非常に厳格です。近時の中国における環境規制の強化は、中国に進出する日系企業としても重要な留意点です。

労働者保護規制

 最後に、中国における労働者保護規制の強化に触れます。2008年に登場した労働契約法は、使用者と従業員との間の労働契約期間に対する規制(一定の条件に合致した場合、当該契約を無固定期間のものにすること等)を通じて労働者の地位の安定化を図りました。

 また、この法律の2012年改正では、労働者派遣制度の使用条件厳格化(使用可能職種の詳細化や、使用者企業内における上限割合の設定等)等を通じて、制度の濫用防止や派遣労働者の権利保護を図りました。

 このように厳格化傾向にある中国の労働者保護規制は、現地の生産拠点や販売拠点等において多くの現地労働者を使用する進出企業にとって、特に留意が必要な動向であるといえます。

中国の税務にはどのような問題があるか

中国の税務実務を理解することの意義

 企業が中国関連ビジネスの法的問題を検討する際、同時に税務の観点からの検討が必要となることが少なくありません。

 後述するような「サービスPE(Permanent Establishment:恒久的施設)」「出向者PE」「ロイヤリティに対する関税課税」および「出資持分の間接譲渡」といった税務問題は、日本本社より現地法人に対する技術サービス等の役務提供、本社従業員への現地法人への出向、現地法人に対する技術ライセンス付与、現地法人からの撤退等の場面において、その法的構成、スキームを決定するために事前に考慮されることが多くなっています。

 このような状況下において、中国の税務実務に対する一定の理解をしておくことは、日本企業の法務担当者にとっても有意義です。

中国の税務実務の特徴は

 ここでは、中国の税務実務の特徴につき、日本の制度との比較という観点から整理します。

 例えば「挙証責任」について、日本では原則として責任は課税庁にありますが、中国では納税者にあります。

 また「時効期間」も、日本は原則5年で脱税等の場合は7年とされていますが、中国は過失の場合3年または5年(移転価格の場合は10年)、脱税等の場合には無期限ということになっています。

 そして「延滞税等の割合」ですが、日本では加算税が10%~35%であり、延滞税は①納期限から2か月までは年「7.3%」と「特例基準割合+1%」のいずれか低い割合、②納期限から2か月経過後は年「14.6%」と「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合とされており、2016年は①が2.8%、②が9.1%ということになります。これに対して中国では、加算税は50%~500%であり、延滞金は原則として年18.25%(1日当り0.05%)というように大きく異なります。

日本と中国の税務実務の比較例

日本 中国
挙証責任 課税庁 納税者
時効期間 原則:5年
脱税等の場合は7年
過失の場合:3年または5年(移転価格の場合は10年)
脱税等の場合:無期限
延滞税等の割合 加算税:10%~35%
延滞税
① 納期限から2か月まで
年「7.3%」と「特例基準割合+1%」のいずれか低い割合
② 納期限から2か月経過後
年「14.6%」と「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
(2016年は①が2.8%、②が9.1%)
加算税:50%~500%
延滞金:原則として年18.25%(1日当り0.05%)

企業活動のリスクとなりうる近時のトピック

 以下では、日本企業の中国ビジネスにおいて、税務リスクとなりうる中国における近時のトピックに触れます。

「サービスPE」に関する問題

 日本の本社が中国現地法人に従業員等を派遣して特定の技術サービス等の役務を提供して、これに対する報酬を受領する場合において、一定の条件の下でその役務提供が6か月を超えると(期間の計算方法その他条件の詳細は省略します)、日本の本社が中国に恒久的施設(PE)を保有していると見なされうるという問題です。

 PE認定がなされると、上記日本の本社に対して、中国において企業所得税の課税がなされる可能性があります(日中租税条約第5条、第7条)。
 この場合におけるPE認定の別の効果として、上記役務提供のための出張者がいわゆる「183日ルール」(183日を超えない短期滞在者に対する免税規定。日中租税条約第15条第2項)の適用を受けられなくなり、出張者に中国における個人所得税納税義務が発生するという可能性もあります

「出向者PE」に関する問題

 日本本社が自社従業員をその中国現地法人に出向させて、出向者が現地法人のために業務を行う場合、その出向者に対する給与支払いは、本来、現地法人が行うべきです。
 他方で出向者が、継続的に日本における社会保険納付を希望している等、その状況次第では、実務上、日本本社を経由して、出向者に対する給与支給(間接支給)を行うことがあります。

 このような間接支給のケースに関して、最近では、中国の税務当局が日本本社から中国現地法人に対する役務提供が存在するものと判断して、PE課税を行おうとする事例が発生しています(この場合、当局としては、当該日本本社が上記間接支給に対応して当該現地法人から送金を受ける給与負担金に着目していることが多いものと思われます)。

 この問題に関しては、「国家税務総局公告2013年第19号」等の関連文書に基づき各種の観点(支払対価に関する諸要素やリスク負担者の有無等)よりPE認定の是非が判断されており、これに対する企業側の対応における留意点も様々ですが、少なくとも、上記のような出向形態を採用している日本企業としては、税務リスクが存在することを認識しておくことが必要であるといえます。

ロイヤリティに対する関税課税の問題

 中国の現地法人が日本の本社から製品製造技術のライセンスを受けてそのロイヤリティを支払う一方、製品を製造するための原材料や部品等を日本本社から輸入している場合に、税務当局がそのロイヤリティに対して、関税および輸入段階の増値税を課する事例が増加しています
 このような当局の方針は、上記のような取引においては、本来、原材料や部品等の製造のために発生した研究開発費用等を輸入代金に加算せず、低額で輸入通関し(関税および輸入段階の増値税を節約し)、加算されなかった金額を製品製造技術のライセンス料で回収しているのではないか、という考え方に基づくものであると思われます。

 この点、ロイヤリティの支払が、原材料、部品の生産上必要な技術に関するものである場合や、上記製品自体、中国現地法人では何の加工も行わず(簡単な加工のみを行う場合を含む)、そのまま商標を付けて販売できるようなものであるのなら、上記のような関税、輸入段階の増値税の課税には合理性があるかもしれません。 他方で、そのような事情が存在しないにも関わらず、上記のような課税の主張が当局からなされた場合には、主張の妥当性の有無について慎重に検討することが必要です。

出資持分の間接譲渡に関する問題

 日本法人が中国法人の出資持分を第三者である外国法人に譲渡した場合、中国において、その譲渡益に対して10%の源泉所得税が課税されます

 これは、中国国内税法および日中租税条約において、中国法人の出資持分を譲渡した際の課税権は、所得の源泉地である中国にもあるとされているためです。

 この点、上記の日本法人が、当該課税を回避することを目的として、まず中国以外の国に持株会社を設立して当該会社に中国法人の出資持分を保有させるというスキームを採用した上で、当該持株会社の持分を第三者に譲渡する、という処理(この場合、上記中国法人の直接の出資者には変更がないことになります)を行なった場合、これは当該中国法人の間接譲渡に該当するものとして、中国において、10%の源泉課税が行われる事例があることに留意すべきです。

連載第2回:海外腐敗行為防止法とはどのような制度か? 日本企業が対策を取るために知っておくべきリスクの基本

関連する特集

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する