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営業現場で使える!英文契約書のポイント

第1回 英文契約書の基礎知識

取引・契約・債権回収
宮田 正樹

はじめに

 この連載を始めることになったきっかけは、昨年(2016年)9月にわたしの初の単著である『元商社ベテラン法務マンが書いた 英文契約書ハンドブック』(以下「本書」または「英文契約書ハンドブック」といいます)を日本能率協会マネジメントセンターに出版してもらったことです。本書が「BUSINESS LAWYERS」編集部の目にとまり、英文契約書について解説する連載をしてみないかと、お声掛けを頂きました。

 さて、「元商社ベテラン法務マン」と本書のタイトルに示されていますが、どういった経歴なのか?と気になった方もいらっしゃるかと思います。
 簡単にわたしの経歴をお話しすると、1947年に京都市で生まれ育ち、大阪大学法学部を卒業後、商社(伊藤忠商事)に就職しました。靴・履物の輸出営業部で社会人生活をスタートし、靴・履物の輸入・国内営業担当者、カナダの靴・履物輸入販売会社での駐在を経て、帰国するやいなや、42歳で法務部への異動を命じられたのです。そうです、わたしは、営業担当者から法務担当者に転任させられたという結構珍しい経歴の法務パーソンなのです。

 法務部に異動してからは、今までとは畑違いの分野の仕事に困惑し、営業時代にはよくもまあ何も知らずに取引をしていたものだという反省と周りの法務パーソンとの知識のギャップで劣等感にさいなまれる日々でした。しかし、退路は断たれているわけで、法務部の中で習い・学び・慣れるしかなかったわけです。
 幸い、総合商社という組織は「前向き案件」も「後ろ向き案件」も山ほどあり、トラブルも日常茶飯事という「ケース・スタディの宝庫」でして(当時ですよ)、毎日がOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)であり、これを重ねるうちに徐々に経験と自信を身につけていくことができました。その結果、以前は反省と劣等感の元であった日本での営業経験、カナダでの駐在という経験すべてがわたしの法務担当者としての資産に変わっていきました。おかげで、その後も法務の世界で生きてくることができました。

 このような経歴なので、今でも、法務の初心者や営業パーソンの方々が英文契約書に対して抱く不安やとまどい、疑問を共有することができるのです。

 海外の顧客とのビジネスに関わる「国際契約としての英文契約書」については、新任の法務担当者や営業の方々にとって有益とわたしが考える知識や契約パターンを「英文契約書ハンドブック」にほぼ盛り込んでいます。
 そこでこの連載では、より実務に軸足を置いて、海外の顧客とのビジネスを進めていく各段階でのコレスポンデンス(英文でのメールのやり取り)、契約書その他書式、法的な留意点などを取り上げていきたいと思っています。
 これにより、法務と営業との契約意識の乖離を出来るだけ縮めたいと考えています。たとえば、営業担当者にありがちな契約のとらえ方として、割と簡単に契約を解除したり、解除されたりするものと考えていることがあります。そのため、些細な違約を理由として相手方に契約解除を通知し、無用な争いを引き起こしたり、簡単にキャンセルを受け入れたりすることがあります。連載ではそのような事例も取り上げていくつもりです。
 法務担当の皆様は、営業の方々にこの連載をご紹介の上、彼ら・彼女等の実務に役立てていただくと共に、この連載から伺える営業の日々の実務の状況を把握し、的確なアドバイスを提供してあげていただきたいと思います。

 それではまず、「英文契約書の基礎的知識」に触れてみましょう。

英文契約書の基礎的知識

 この連載でとりあげる「英文契約書」は、国際取引、すなわち「国境を越えて行われるモノ(製品、サービス、技術・情報を含む)、カネ(金、資本)およびヒト(人)にかかわる取引」に関して締結される「英語で書かれた」契約書です。

 現代においては、英語を母国語としない当事者同士であっても、国際契約は英文で作成・締結されることが圧倒的に多く、グローバル・スタンダードともいえます。
 英文での契約であるということだけでその契約に英米法が適用されるわけではありませんが、そこに書かれた文章・言葉の英語としての意味の解釈において、英米法の影響を受けることは否めません。また、近・現代の世界経済をリードしてきた英国・米国の法律、商慣習が国際取引に強い影響を与えてきたという歴史的背景から、国際取引にかかわる紛争の処理において英米法の法理、判例、商慣習が大きな役割を果たし、影響を与えています。

 そこで、英米法を中心に英文契約の基礎知識をまず紹介します。

契約の成立要件

 我々日本人は通常は日本法をベースに法律関係を判断していますから、「契約」はいつ・どのようにして成立するのか?といわれると、教科書的に「申込に対して承諾があったとき」、原則としてその様式は問わない(書面である必要はなく、口頭でも成立する)、というのが常識と考えています。
 いわゆる「大陸法」1 に属する日本の民法上の考え方はこのとおりなのですが、イギリスやアメリカの法体系である「英米法」2 の世界では「申込に対する承諾」だけではまだ十分でない、まだ更に要件が加わる必要があるという考え方がなされています。
 その要件で、最も重要視されているのが「consideration(約因)」と呼ばれているものです。

 “consideration”とは「考慮、熟慮、思いやり、報酬、対価」などの意味を持つ単語ですが、契約に関しては「約因」と訳されるのが一般的です。英米法では、契約の成立には当事者間の合意(申込に対する承諾)だけではなく、この「約因」が必要とされており、約因がない場合には、法的拘束力(法的強制力)を認めないとされています。従って、「贈与契約」のように、一方のみが義務を負うような契約は、約因がないため認められない、ということになるわけです(贈与であっても書面でなされたものは、拘束力があるとされてきていますので、通常は問題ありません)。
 「約因」としては、一定の義務負担行為(作為、不作為)であればよいとされていますが、実行済の過去のものは「約因」とはならない(”past consideration”)とされています。

 通常のビジネスは、売買契約を代表とする「双務契約」ですから、「約因」の有無が問題となることはありません。
 しかし、一方だけが守秘義務を負担する片務的秘密保持契約であって、契約締結前に秘密情報を渡してしまっている場合などには、その秘密情報の提供は「past consideration」なので「約因の交換がないため拘束力のない契約である」と判断される可能性があります(片務的な秘密保持契約であっても、通常は契約締結後になされる「情報の提供」に対して「秘密を守る」という約因の交換があるため、拘束力のある契約と判断されるはずです)。このような場合に、約因は形式的なものであってもよいとされていますので、下記のように前文で名目だけの金員の支払い(例文の場合10ドル)を定めることがあります。

【例文】
NOW THEREFORE, in consideration of ten dollars ($10.00) in U.S. funds and of the mutual promises, covenants and obligations contained in this Agreement, the receipt and sufficiency of which is hereby acknowledged, the parties agree as follows:
【訳文】
以上、アメリカ通貨で10ドルおよび本契約に含まれる両者の約束、誓約、義務などを約因とし、それらの受領や十分性については本書において了解の上、両者は以下のように合意する:

【契約の成立要件における大陸法と英米法の違い】

ユニドロワ原則とウィーン売買条約

 国際契約に適用されることがある主要な「原則」「条約」として次の2つがあります。

ユニドロワ原則(“UNIDROIT Principles of International Commercial Contracts”)

 ローマに本部を置く私法統一国際協会(International Institute for the Unification of Private Law)がアメリカのリステイトメント()を国際的なレベルで実現することを意図して1994年に採択したものです(最新版は2010年版)。その前文によれば、国際契約の当事者のための中立的な準拠法、契約法の立法者のためのモデル、国際条約の解釈・補充の参考資料などとして利用されることを予定しています。契約当事者が明文でもってその適用を合意した場合の他、仲裁の審理において国際規範として参照されることがあります。

リステイトメント(英:Restatement)は、アメリカ合衆国の各州の州法と判例法の現状を分析し、おおよその共通事項を各法分野(契約法(Contracts)、不法行為法(Torts)、財産法(Property)、担保法(Security)など)ごとに法典の形にして注釈をつけたものです。リステイトとは、各州の判例法を収集・分析して「再び記述し直す」(re-state)という意味です。このリステイトメント自体は、アメリカ法律協会という民間の団体が発行するものにすぎないことから、法的な効力を有する法律ではなく、二次資料 (secondary sources)にすぎないとされています。しかし、アメリカ法律協会のメンバーは、連邦の最高裁裁判官や控訴裁判所長官を含む、学識と実務経験を有する優秀な人間から構成されているだけでなく、その発行に至るまでの手続も公平で厳格なものとされていることから、判例においてしばしば引用されるなど高い信頼と権威を得ています。

ウィーン売買条約(“The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods”:CISG)

 国連の国際商取引法委員会(UNCITRAL)が制定した国連条約(1980年にウィーンで署名されたため、「ウィーン売買条約」と通称されています)。1988年1月1日に発効、日本は2008年7月1日に「加入書」を寄託したため、2009年8月1日より発効しています。
 英国はまだ批准していないもののアメリカ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、韓国、カナダなど85カ国は締約国になっています(2017年1月現在)。まだ実務的にはあらゆる問題を解決しているとはいえませんが、国際的にも締約国が増えてきており、現状では非常に成功したといわれている国際条約の1つです。

 この条約が適用される取引契約は、営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約について、①両当事者の営業所のある国がいずれもウィーン売買条約の締約国である場合か、②国際私法の準則によればウィーン売買条約の締約国の法の適用が導かれる場合のいずれかです(1条)。
 「物品」売買契約が対象ですが、消費者取引、競り売買、有価証券、船や航空機、電気などの売買については適用されません(2条)。
 なお、「製造物供給契約」も物品売買契約となり得るとされています(3条)。

 ユニドロワ原則もCISGも、契約の成立については「申込に対する承諾」がなされたときとなっており(considerationの存在などは要求されていません)、申込も承諾も原則としてその意思が相手方に到達したときに効果が生じるものとなっています。

 ユニドロワ原則もCISGも、国際契約を取り扱う法務担当者としては、勉強しておくべきものといえます。

日本人が特に留意すべき英米法の特徴:「契約違反:債務不履行」の取扱い

厳格責任主義

 損害の発生につき、故意・過失がある場合に限り加害者が賠償責任を負うという「過失責任主義」をとっている日本法と異なり、英米法では当事者に過失等の帰責事由を必要とせず、債務不履行に関して原則は厳格責任(無過失責任)であり、不可抗力等による免責は認められていません

 一定の場合には売主の損害賠償責任を免責する法理として目的達成不能(frustration:英国)や履行不能(impossibility:米国)、履行困難性(impracticability:米国)の法理により救済されることがありますが、その範囲はいわゆる「不可抗力事由(Force Majeure)」に比べると極めて限定的です。

 そのため、英文契約書においては、当事者間の特約として不可抗力免責条項(Force Majeure)を定めておくことが重要となります。

救済は損害賠償が原則

 債務不履行に対する救済として、日本法は1.履行請求、2.損害賠償請求、3.契約解除の3つを請求できるものとされていますが、英米法では債務不履行に対する法律上の救済(remedy in law)は原則「損害賠償」と考えられています。

 英米法の考え方では、「重大な契約違反(material breach)」に該当しない限り、損害賠償は請求できても、契約解除までは求めることはできません。したがって、その違反に対して契約解除を請求せざるを得ないほど重要な事項・条項については、その旨を明示的に契約書に定めておくことが必要であり重要です。この考え方は、前述のユニドロワ原則やCISGにも取り入れられており、違反が「重大な(fundamental)」ものであることを解除の条件としています。

 また、契約違反に対する通常の救済は金銭による損害賠償(金銭賠償:monetary damages)で十分であると考えられているので、特定履行(specific performance:契約上の義務を履行させること)や差止命令(injunction)による救済(契約に違反する行為をやめさせること)などは「equity(衡平法)上の救済」とされており、損害賠償では適切でない場合に、実質的損害を回避するため、裁判所の裁量によって認められるものと考えられています。
 したがって、差止命令などequity上の救済を求める必要がある場合には、損害賠償を請求することによって差止を請求する権利の妨げになるものではないことを明らかにするために、損害賠償条項に“without prejudice to any other remedies and rights hereunder” (本契約上の救済手段や権利に影響を与えることなく)損害賠償を請求できる、などと記載したりすることになります。

【注:コモン・ローとエクイティ】

 英米法の特徴とされる「コモン・ロー(common law)」 は、1066年のウィリアム大王によるノルマン征服の後、古くからのイングランドの慣習を基にしながら、国王の common-law court(コモン・ロー裁判所)での判例として、形成されてきたものです。
 ところが、そのコモン・ローの決まりに当てはまらないケースや、人々が望むような救済が得られない場合などが出てきます。そこで15世紀ころから、コモン・ローの制度によっては認められるべき救済が得られないと考える当事者が、国王に直接訴えて、その裁量で救済を得るようになってきます(後には、こういった問題は大法官(Lord Chancellor)が司るようになります)。こうして形成されたのが、「エクイティ(equity)」(日本では「衡平法」と訳されています)です。そのため、かつてはコモン・ロー裁判所とエクイティ裁判所が別々に存在しましたが、現在は、英国も米国も、1つの裁判所で両方の裁判を扱っています。

おわりに

 今回は英文契約書の検討をするうえで知っておきたい基礎的な知識、英米法の考え方について触れましたが、いかがだったでしょうか。次回は契約書の書式の種類や、英文契約特有の用語について解説します。

 第3回以降は、最も基本的なビジネス形態である「商品売買」を題材として、取引の引合い段階から見積書の依頼・提示、売買契約書の締結、出荷案内・着荷報告、支払督促、商品クレーム、そして和解契約という一連のやり取り流れにおける交信(コレスポンデンス)の文例と注意事項の指摘、相手方に提示する書式や契約書の見本と解説などを行います。

 その次に、海外での業務を委託する業者との「業務委託契約(Agent型と非Agent型)」についていくつかの書式と注意点を、トラブル事例を交えて、紹介します。そして、これら契約を締結後に生じることのある、「契約内容の修正」、「契約解除」、「契約の更新や延長」などの際に取り交わす覚書の書式を紹介します。

 上記のような構想の下にスタートしますが、ご意見・ご質問・ご希望がありましたならば、わたしがわかる範囲・できる範囲で取り上げていく所存です。
 どうぞよろしくお願いいたします。

元商社ベテラン法務マンが書いた 英文契約書ハンドブック
2018年度 GBL国際法務研修基礎セミナー

コースB「国際契約の基礎」講座

【開催期間】2018年10月11日(木)~2019年2月14日(木) 19:00~21:00

毎週木曜日開催。この期間内で、1回でも数回でも自由に選択できます。

【会場】  きゅりあん セミナー会場:東京都品川区東大井5-18-1

【受講料】 1回あたり:10,800円(資料代含む・税込)
なお、全17回出席する場合については、151,200円(税込)。
企業単位での申込や、毎回違う方が受講することも可能。

【主催】  一般社団法人GBL研究所

【後援】  レクシスネクシス・ジャパン株式会社 / ビジネスロー・ジャーナル(Business Law Journal)


くわしくはこちら

  1. 大陸法:ドイツ・フランスを中心とするヨーロッパ大陸諸国の法律。ローマ法系に属し、成文法主義を中心として成り立つ。 ↩︎

  2. 英米法:イギリスの法律およびそれを受け継いで発展したアメリカの法律の総称。判例法・慣習法を中心とする不文法を中心として成り立つ。 ↩︎

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