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改正保険業法によって保険商品の販売勧誘規制はどう変わったか?

ファイナンス

改正保険業法について

 「保険募集の形態の多様化が進展している状況等を踏まえ、保険募集に係る規制をその実態に即したものとするため、保険募集人の体制整備義務を創設する等の措置を講ずる必要がある」との理由で、平成26年に保険業法が改正され(平成26年5月30日公布)、本年(平成28年)5月29日に施行されました。
参考:保険業法等の一部を改正する法律の概要(金融庁)

  当該改正は、金融審議会「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ」報告書(「新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について」(平成25年6月7日)、以下、「保険WG報告書」といいます)における提言等を踏まえ、行われたものです。
 本稿では、改正内容のうち、保険代理店の保険募集実務に対する影響の大きい、保険商品の販売勧誘規制の改正内容を紹介します。
 今般の改正の柱である①「意向把握義務」②「情報提供義務」の2つの項目を、順次解説します。
 なお、当職は、上記保険WGの実務委員に任命頂いておりましたが、本解説の記載内容は当職の個人的見解である旨、ご了解をお願いします。

「意向把握義務」

「意向把握義務」導入の趣旨 

 改正保険業法294条の2では、保険募集人に対し、新たに「意向把握義務」を導入しています。これまで保険業法には、顧客の意向を把握する義務は規定されていませんでした。
 導入の趣旨は、保険WG報告書によると、以下のとおりとされています。

  • 募集人が顧客の抱えているリスクやそれを踏まえた保険のニーズを的確に把握した上で当該ニーズに沿った商品を提案・分かりやすく説明することを通じ、顧客が、自らの抱えているリスクやそれを踏まえた保険のニーズに当該商品が対応しているかどうかを判断して保険契約を締結することの確保が重要
  • 顧客が自らの抱えているリスクを認識し、その中でどのようなリスクを保険でカバーするのかを認識した上で保険に加入できる環境を更に整備するため

 つまり、保険募集人に一定の行動を求め、顧客が、自らのリスク・保険ニーズに、その保険商品が対応しているか否かを判断したうえで、契約を締結することを確保するということが、意向把握義務導入の目的です。

「意向把握義務」により求められる行為

求められる行為は

 「意向把握義務」により求められるのは、以下の行為です。

  1. 顧客の意向を把握すること。
  2. 1 の意向に沿った保険商品の提案をすること。
  3. 1 の意向に沿った、保険商品の内容説明をすること。
  4. 保険契約の締結に際し、顧客の意向と保険商品の内容が合致していることを顧客が確認する機会を提供すること。

 保険WG報告書によると、「顧客ニーズを把握するための具体的な手法については、商品形態や募集形態に応じて、保険会社・保険募集人の創意工夫に委ねる」一般的義務規定(プリンシプル)とされています。

監督指針に定められた方法

 しかし、「意向把握義務」履行に係る具体的な方法は、「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下、「監督指針」といいます)に細かく定められており、保険募集人は事実上これに拘束されることとなります。
参考:保険会社向けの総合的な監督指針

 監督指針(Ⅱ-4-2-2(3))には、「意向把握型(基本型)」、「意向推定型」、「損保型」の3つの方法が記載されています。典型的に想定するのは、「意向把握型(基本型)」は来店型乗合代理店のケース、「意向推定型」は生命保険の訪問型営業職員のケース、「損保型」は損害保険代理店が損害保険商品を販売するケースです。

 「意向把握型(基本型)」と「意向推定型」はほぼ同じですが、上記「「意向把握義務」により求められる行為」に記載した顧客の意向の把握を保険募集の開始時に推定することを認めるのが、「意向推定型」です。

意向把握型 意向推定型
① アンケート等で意向を事前把握 ① 顧客属性や生活環境等から意向を推定
② 意向に沿った個別プランを作成・提案 ② 推定した意向に沿った個別プランを作成・提案
③ 把握した意向と個別プランの関係性を説明 ③−1 ②の都度、設計書等の目立つ場所に、推定した意向と個別プランの関係性を記載のうえ、説明
③-2 個別プランの提案を通じて顧客の意向を把握
④ 最終的な意向の確定 ④ 最終的な意向の確定
⑤ 最終的な意向と当初把握した主な意向の比較を記載した上で、相違点があれば相違が生じた経緯等を説明 ⑤ 最終的な意向と当初把握した主な意向の比較を記載した上で、相違点があれば相違が生じた経緯等を説明
⑥ 最終的な意向と保険契約の内容が合致ししているか確認 ⑥ 最終的な意向と保険契約の内容が合致ししているか確認
⑦ 契約締結 ⑦ 契約締結

 「意向把握型(基本型)」と「意向推定型」の両方法には、「振返り」と呼ばれる、最終的な顧客の意向と、当初把握した意向を比較し、相違する場合には相違点を確認するというプロセスが求められているのが特徴です。

 一方、「損保型」は、損害保険契約のニーズの顕在性や、喫緊の保険付保の要請から、一定プロセスの緩和が図られており、上記「振返り」が求められていない点が特徴です。監督指針では以下の対応が求められていますが、原則として改正保険業法施行に対応して損害保険会社により改訂された保険申込書を利用して対応できるもの、と考えられています。

  1. 「主な」意向・情報を把握
  2. 個別プランの作成・提案
  3. 主な意向と個別プランの比較を記載
  4. 「把握した顧客の意向」と「個別プラン」の関係性をわかりやすく説明
  5. 意向確認

「情報提供義務」

 改正保険業法294条は、保険募集人に対し、新たに「情報提供義務」を導入しています。
 その具体的内容は、「内閣府令」すなわち保険業法施行規則で規定されることとなっています。

 この点、「情報提供義務」でまず想定されるのは、顧客に販売勧誘する具体的保険商品の内容説明です。しかし、この新しい義務の導入によって、保険業法300条1項1号に基づき、従来より交付している「契約概要」・「注意喚起情報」の制度が大きく変更されるものではありません。

 その一方で、「情報提供義務」に関しては、保険商品の内容説明以外に、留意しておくべき2つの大きな変更点があります。

保険契約の締結又は保険契約に加入することの判断に参考となるべき事項に関する説明

 1つは、「保険契約の締結又は保険契約に加入することの判断に参考となるべき事項に関する説明」として、一定の付帯サービスに関する内容説明が求められるようになる点です(保険業法施行規則227条の2第3項2号)
 これにより、自動車保険のレッカー牽引サービス等のロードサービスのような、「保険契約(保険契約の趣旨・目的、保険事故、保険給付の内容・方法)と関連性が大きい付帯サービスに係る事項」の説明が法的に求められることとなります。

比較推奨規制

規制の概要

 2つめの変更点は、比較推奨規制です。  これは、改正保険業法の中で保険募集実務に大きな影響を与える可能性があります(保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ、ハ)。
 「比較推奨規制」とは、複数の所属保険会社の比較可能な同種の保険商品の中から、一定の保険商品を選別・提案するような、いわゆる「乗合代理店」のような代理店に適用される情報提供義務に関する規制です
 言い方を変えれば、乗合代理店とは違い、取り扱う複数社の保険商品を保険募集人側で全く選別することなく、顧客に対して全部並べて「お客さんが好きな保険を、自由に選んで買って下さい」という、言わばスーパーマーケットのようなかたちで保険を販売する場合には、この比較推奨規制は適用されません。

「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する場合

 比較推奨規制を理解する上で、一番の重要ポイントは、「顧客の意向に沿った保険契約を選別」するか、それを行わないかで規制内容が異なる、ことです。

 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する場合には、①取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要、②当該提案の理由(推奨理由)、の各説明を行うことが求められます(保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ)

「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しない場合

 一方、「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しない場合(要するに具体的な顧客意向以外の、保険募集人側の都合等を含めた諸事情により提案商品を選別する場合)には、当該提案の理由(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等)を説明することが求められます(保険業法施行規則227条の2第3項4号ハ)

 このように、「顧客の意向に沿った保険契約を選別」するかどうかで、保険業法施行規則227条の2第3項4号の「ロ」が適用されるか、規制内容の異なる「ハ」が適用されるかが決定される、という点が、まさに当該規制のポイントです。

顧客の意向に沿った保険契約の選別を行う場合 顧客の意向に沿った保険契約の選別を行わない場合
保険業法施行規則227条の2第3項4号ロ 保険業法施行規則227条の2第3項4号ハ
以下の各説明を行う必要がある
  • 取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要
  • 当該提案の理由(推奨理由)
以下の説明を行う必要がある
  • 当該提案の理由(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続、経営方針上の理由等)

 言い方を変えれば、どちらの方法も許容されているのですから、保険代理店としては、当該規制対応を検討するに当たっては、まずもって自らが「顧客の意向に沿った保険契約を選別」するのか、しないのかを経営判断する必要があります。

比較推奨規制における実務

「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する場合に求められること

 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する場合には、①取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要、②当該提案の理由(推奨理由)、の各説明を行うことが求められることとなります。

取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要

 取扱保険商品のうち、顧客の意向に沿った比較可能な同種の保険契約の概要を説明することにより、顧客に保険商品の選択肢が示され、(従前よりも透明性が確保された中で)顧客が自由な商品選択を行うことが可能となります(品揃え豊かなメニューの提示機能)。
 具体的には、「保険商品のパンフレットの商品概要に記載している内容を提示」することが想定されています。

 なお、監督指針によると、「保険募集人の把握した顧客の意向に基づき、保険の種別や保障(補償)内容などの商品特性等に基づく客観的な商品の絞込みを行った場合には、当該絞込み後の商品」の概要明示でよいものとされています。

当該提案の理由(推奨理由)

 推奨理由を説明することは、保険募集人から顧客への商品選択上のアドバイスを指します。
 この推奨理由説明は、従前より重要事項説明義務の対象とされてきた商品内容の説明とは質的に異なります。理念上その前段階に存在する「どうしてその商品を選ぶのか」という商品選択上のアドバイスが、「顧客の意向に沿った保険契約を選別」する保険募集人には、規制(法的義務)として求められることとなります。

 商品選択を行う際に他者からアドバイスを受けたい、という顧客側(ひいては社会)の要請が相応に存在する中で、当該規制の新設は、利用者利便・利用者保護の観点から、大きな前進と評価されるべきものです。

 推奨理由説明が規制レベルで求められるということは、その品質・正確性を、保険代理店において組織的に確保する必要があることを意味します。

具体的な方策

 一方で、推奨理由説明は、それぞれの顧客の意向・状況に基づいたものである上に、保険募集人等と顧客との双方向的なやりとりの中で実施されるものであり、事案ごとに様々なバリエーションが想定されます。

 定型化が困難な点が、推奨理由説明の品質・正確性の組織レベルでの確保を困難にする一つの要因であると考えます。

 処方箋を提示することはなかなか困難ですが、個々の保険募集人の能力や保険に係る知識・知見の当該保険募集人組織(保険代理店)に相応しいプロレベルでの確保を行うことはもちろんのこととして、典型的な顧客ニーズと取扱商品との関係の整理、その関係を顧客に対し説明する「言葉」を社内規則・マニュアル等でパターン化し、最低限のレベルを確保すること、必要に応じシステム的に補助すること等の方策が考えられます。

「顧客の意向に沿った保険契約を選別」をしない場合に求められること

 「顧客の意向に沿った保険契約を選別」しない場合にも、一定の説明(特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由等)が義務付けられています。
 具体的には、どのような説明を行うべきなのでしょうか。

具体例

 これに関し、「募集コンプライアンスガイド【追補版】(日本損害保険協会)」22頁には、次の具体例が示されています。

■「当店は、□□損保・生保の商品を主に取り扱う経営方針である」
■「当店は、□□損保・生保のグループ会社であるため、□□損保・生保の商品を提案する経営方針である」
■「当店は、所属保険会社の中で最も事務に精通している●●損保を提案する経営方針である」
■「当店は、自店での取扱件数が多い▲社の商品をご案内する経営方針である」 など

 これらの具体例によれば、「代理店の経営方針に基づくこと」が示されていれば、規制が求める最低限のレベルは充たす、ということになるでしょう。決して、高いレベルの説明が求められているわけではありません。

 これらの理由説明の目的・趣旨は、「自分は、『顧客の意向に沿った保険契約を選別』する者ではない」という、保険募集人の立場を表示する機能にあるものと考えられますが、上記程度の説明でも当該目的は十分達せられるものと思われます。

立場表示機能の重要性

 この、保険業法施行規則227条の2第3項4号ハに基づく理由説明による「立場表示機能」は極めて重要と考えます。自らの都合で提案商品を選択している場合に、あたかも顧客のために比較推奨を実施しているかの如く装うことは、顧客に対してアンフェアな行動であり、そもそも許容されるべきではありません。

 監督指針中に、「形式的には客観的な商品の絞込みや提示・推奨を装いながら、実質的には、例えば保険代理店の受け取る手数料水準の高い商品に誘導するために商品の絞込みや提示・推奨を行うことのないよう留意する」といった記載(Ⅱ-4-2-9(5)②(注1))や、「各保険会社間における「公平・中立」を掲げる場合には、商品の絞込みや提示・推奨の基準や理由等として、特定の保険会社との資本関係や手数料の水準その他の事務手続・経営方針などの事情を考慮することのないよう留意する」といったような記載(Ⅱ-4-2-9(5)③(注))が存在することも、このような考えが明確化されたものと理解できます。

おわりに

 改正保険業法により、保険商品の販売勧誘規制に関して新たに導入された「意向把握義務」、「情報提供義務」は、いずれも重要な規制で、保険代理店の現状の保険募集実務に大きな影響を与えるものです。
 保険代理店の対応が、監督官庁が求める最低限のレベルを充足する必要があるのは当然ですが、それを超えたどのレベル感でこれらの規制に対応するかは、正に保険代理店の経営判断ということとなります。

 顧客への説明・アドバイスの品質確保・維持を行うことは、改正保険業法への対応でありながら、一方で、説明・アドバイスの品質で顧客が保険を購入する保険代理店を選別するという面もあるため、保険代理店の本質的領域(競争領域)への対応と捉えることもできるのではないでしょうか。

 改正保険業法施行に当たり、保険代理店が考えなければならないことは沢山あります。しかし、それは単なる規制対応を超え、プロとしての本質的行動に直結するものです。保険代理店がいろいろ「思考」することはプロとして当然のこと、決して無駄なことではないものと考えています。

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