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データビジネス時代に「公正な競争」はどうあるべきか

競争法・独占禁止法

 近年、多様なデータを収集し保有することが、企業の競争力を生むようになりました。グーグルやFacebook、アマゾンなどの米国企業を中心に、データを利活用してビジネスを有利に展開する企業が加速的に増えつつあります。

 このような状況下で、競争法上の問題が生ずる事態が発生しています。たとえば、欧州連合(EU)欧州委員会は2017年6月27日に、EU競争法に違反したとして、米グーグルに約27億ユーロ(約3,000億円)の制裁金を科すと発表しました。グーグルが自社の検索サイト「Google」上で、自社の商品比較サイト「グーグルショッピング」を優先して表示したことが、競合サイトを不利にしたと判定されました。日本においても、競争法に関する議論は進められており、公正取引委員会競争政策研究センターは2017年6月6日に、「データと競争政策に関する検討会 報告書(以下、報告書)」を公表しました。

 今回は、昨年度開催された「データと競争政策に関する検討会」(公正取引委員会)で委員を務めた弁護士法人内田・鮫島法律事務所の鮫島 正洋弁護士に、データが競争力の源泉になる時代において、法制度はどのような視点を持つべきなのか、お話を伺いました。

企業の競争力はもはや市場シェアだけでは判断できない

データと競争政策に関する検討会では、どのような視点で検討をされたのでしょうか。

 従来の独占禁止法(独禁法)は、市場シェアが高い企業や売上額が大きい企業が市場競争を歪めていくことを防ぐための規制です。これまではそうした企業が「ビジネス上の強者」として見られていましたが、この数年、データを多く保有していることが「ビジネス上の強者」になりうる状況が発生しています。

 「ビジネス上のシェアはまだ小さいけれど、データのプラットフォームを整備していて、データをたくさん持っている」という事例を、独禁法の対象としなくていいのかというのが、この委員会の基本的な視点です。データを多く保有していても、ビジネスシェアが大きくない企業に対しては、既存の独禁法の枠組みでは規制ができない場合もあるのです。10年20年くらい前だと、データの多さに基づいて優越的地位などを主張する余地はなかったと思いますが、データ量がビジネスの競争力に直結するこの数年はそうも言っていられない状況です。

欧米諸国と比較して、日本の取り組み状況はどうなのでしょうか。

 データ保有企業に対しての規制の考え方については、日本よりもヨーロッパの方が進んでいると聞いています。とは言え、日本はグローバル的にも重要なマーケットの1つですから、他国とは異なる独自路線を取ることはできません。

 また、規制をせずにいた場合や、逆に厳しく規制した場合、日本の産業競争力はどうなるのか、といった問題があります。特にビッグデータビジネスに関しては、日本企業よりもグーグルなど米国企業の方が優れている状況において、どのくらいの強さで規制をすべきなのかという点も、公正取引委員会が持っている視点の一つでしょう。

報告書を拝見したときには、グーグルやFacebookなど海外の企業にデータを握られている状況に対して、日本としてどう戦っていくかというところから始まったのかと思っていました。

 もちろん日本としてどう戦っていくかという問題はありますが、それは独禁法の問題というよりはビジネス上の競争の問題だと捉えています。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 鮫島 正洋弁護士

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 鮫島 正洋弁護士

規制の必要性があるデータとそうではないデータ

検討会において議論の対象となっているデータはどのようなものでしょうか。

 パーソナルデータ(いわゆる個人情報を含む)と、機器等のデータの2種類を中心として議論しました。機器等のデータは、たとえば工場などでその瞬間その瞬間どういう圧力で加工したかというようなデータです。
 あくまでも、データの種類を特定した方が議論しやすいという趣旨であって、その2種類のデータだけを規制の対象にするということではありません。

従来の独禁法では、シェアの高い企業が競争者を排除して価格を吊り上げていくという状況が想定されていたとすると、有料サービスを念頭に置いていたように思います。これに対して、「Google」や「Facebook」は基本的には広告収入がメインで、利用者に対しては無料でサービス提供しています。ここも独禁法の概念の変更ポイントとして捉えられるのでしょうか。

 「独禁法により議論すべき対象を有料サービスから無料サービスに拡張した」という説明もできるかもしれませんし、「そもそもデータプラットフォームが無料サービスによって形成されることが多いとなると、データの扱いを独禁法という視点で論じるときには、無料サービスを論じざるを得なかった」という説明の仕方もあるように思います。同じ事象を2つの観点から説明しているだけで、どちらも正しいと思いますね。

皆が同じサービスを使っていることによってネットワーク効果が生み出されます。これに対して政府がどこまで介入していけるかということについてはどうお考えですか。

 ユーザーである我々に対して、公正取引委員会当局が、「これ以上Amazonを使うとデータの蓄積が著しくなるから楽天を使いなさい」というような指導をすることは、そもそもの独禁法の概念からしてありえません。ただ、委員会では、「ある事業者が集積したデータを他の事業者に公開する義務みたいなものを生じさせるべきなのかどうなのか」という論点はありました。

かなり深い論点ですね。

 相応の投資によってデータを集めた企業が、他の事業者にデータを公開することを義務付けられたとしたら産業は萎縮してしまうので、データ公開義務という概念は原則としては採用し得ないという前提をとりつつも、例外もありうるのではないかという議論をしました。

例外としては、どういったものが想定されるのでしょうか。

 たとえば、ある事業者が、CTスキャンの画像と疾患との関係に関するデータを日本国中の病院と独占契約を締結して、データを吸い取れるようにしたとします。CT画像に対応してどのような健康状態なのか、がんは悪性かどうか、といった情報は、広く公開されることによって国民の健康の増進に寄与するという点で公益的な性質を持ちます。このように、公開しないと公益性が阻害されるようなデータについては、別立てで考える必要があるのではないかという議論があります。

たとえばCTスキャンのデータをたくさん持っている事業者が、1つの大学病院だけと独占契約して、その代わりにデータを非常に高額でその大学病院だけに提供するというのはまずいということでしょうか。

 そういう場合に、独禁法でもなんらかの手当てがされる可能性が報告書では示唆されています。つまり、データ収集の自由、また公開を強制するものではないという原則論を貫きつつも、やはり一定の制約が必要な場面もあろうというところまで踏み込んでいます。

では、グーグルのように、世の中にある全ての情報をとりあえず集めようとして、それを他社など特定のところに提供するわけではなく、自社だけで使っていこうという場合も、人類共通のデータとして、規制の対象にしていくということはあり得るのでしょうか。

 「Google」上にアップされている写真データなどは、誰かが同じことをすれば撮影・取得できるデータですから、データの性質上他社も取得できる可能性があるということを勘案すると、先ほどのCTスキャンの事例に比べると規制しにくいと思います。

 誰かが同じことをすれば取得できるデータという意味では個人情報も同様ですが、個人情報はネットワーク効果がありますから若干異なる扱いがされるかもしれません。たとえば「LINE」を利用している人が「LINE」と似たような他のアプリに10個加入するということは普通はないですよね。

グーグルと同じコストをかけて、世界中で自動車を走らせて画像を取得していく自由は誰にでもあるわけだから、やれないことはない、という理屈ですね。とはいえ、現実にはやれない気もしますが…。

 やれないのかやらないのかはわかりませんが、それはビジネスの問題でしょう。そこにお金をかけたグーグルに「それを開示しなさい」というのは、ビジネス論としても法律論としてもおかしいですよね。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 鮫島 正洋弁護士

個人情報保護との関係

データ開示の可能性を高めていくことは、個人情報保護やプライバシーの保護に抵触はしないのでしょうか。

 個人情報保護法の規制対象になる情報は、妨げられざるを得ない場合もあるでしょうね。ですから、検討会の議論の前提としては、個人情報性は考慮しないということになります。先ほどのCTスキャンのデータについても、個人情報性を無くしたからといって、データとしての意味がなくなるのかというと、そんなことはないわけですから。個人情報性はなくても、ビッグデータ化して、AIで画像診断するということができるわけですよね。

企業としては、「個人情報だから出せません」という理屈を立てられない場合も当然あり得るということですね。

 少なくとも個人情報ではないような加工はできるでしょう。もちろん、個人情報があった方がデータとして有用であり、価値は高いとは思いますけれどね。

つまり、データを匿名化して整理する義務はないけれど、整理した上でどこか単独の事業者に提供している場合、そのデータの公益性が高いときは独禁法の規制対象になる可能性がある、ということですね。

 そうだと思います。独禁法は、公益性や、第三者による代替収集の困難性など、様々な事情を考慮した上での総合判断をするので、そういった事情が判断されるということはあり得ることです。  

グーグルへの制裁、日本ではどう考えるのか

グーグルやFacebookは、新しいサービスができると積極的に買収していますが、結合審査についてはどのように考えていくことになるのでしょうか。

 もちろん従前のアプローチだとA社とB社が結合することによってどれくらいの市場シェア、支配的な地位を得るかということが判断材料となっていましたが、そこに加えて、結合によりデータ集積の度合いがどのくらい進むかということも射程に入ってくるでしょう。

データの蓄積については判断が難しそうですね。

 それは「誰かが他で取れる性質のデータ」なのか、それとも「もうそこに集積されたら誰も手を出せないデータ」なのかによって、まず判断するでしょう。市場シェアによる判断とは異なる要素が入ってくる可能性はあると思います。

先生ご自身としては、ユーザーの利便性と市場・産業の関係は、どういったところがポイントだと思われますか。たとえば、ほとんど「Amazon」で買い物をして、他で買わないユーザーがいたとしたら。

 それは、アマゾンが優れたeコマースサイトを提供しているからという話ですよね。だからそこはしょうがないと思います。

あくまで公正な競争の中でユーザーが選んでいるということですね。

 はい。ただ、アマゾンがシェアの高さに乗じて何か横暴なことをやり出したら、独禁法の問題になるだろうと思います。たとえば、出品するショップに不当な要求を繰り返すなどですね。

グーグルが欧州委員会から制裁金として3,000億円を課せられたというニュースがありましたが、グーグルの検索サイトで常に「グーグルショッピング」を上位に表示するということは、先生から見ても不当なものなのでしょうか。

 「グーグルショッピング」は自分たちのサービスですよね。これが別の検索サイト企業に対して、「グーグルと取引したいのであれば、グーグルショッピングの検索結果を1番上に乗せろ」というようなことをしたら、不公正な取引方法にもあたり得るような気もしますが、自分たちのサービスを自分たちのプラットフォーム上で優先させるというのは、少なくとも日本の独禁法で今までなされてきた議論からは若干距離があるような気がしますね。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 鮫島 正洋弁護士

データビジネスにおける契約の重要性

今まで伺ったお話はどちらかというとパーソナルデータについてのお話が多かったと思いますが、機械等のデータに関しては実際に現場ではどのような問題が起きているのでしょうか。

 たとえば、エレベーターを設置した業者がエレベーターの運行データについて、「我々がエレベーターを保守するのだから、他の業者にはデータを出しません」といった場合、囲い込みにつながります。

 このとき、真っ当な価格で真っ当なエレベーターの保守サービスを提供するのであればよいのですが、ある日突然、「今まで1万円で行っていた保守費用を来年からは100万円にします」というような不当な値上げをすることも考えられるのです。当然、ビルの管理者としては、「それだったら別のところに頼みます」となりますが、「データは開示できないので、別の業者ではできませんよ」という話になってしまうと、これは不公正な取引方法というような観点で議論する余地はあります。

どのような形であれば規制できるのでしょうか。

 この例だと、ビルの管理者との契約の話ですよね。まずそもそも、安全上や保守の観点から、保守業者がエレベーターの運行データを取得すること自体は全く問題ないですし、保守を依頼する保守契約も問題はありません。問題はそこから先ですよね。

 こういった事例になると、従前の独禁法の枠組みでは規制をできるのか微妙です。というのも、エレベーターの保守業者が高いシェアを有していればともかく中小の事業者で、データを囲い込んでシェアを高めていこうとする行為だけを取り出したときに、従前の独禁法の枠組みには乗らない面が出てくると思います。

データを持っていることを競争力の源泉にすることはできると。

 競争力の源泉にはしていいんですよ。ただ、その地位を利用して第三者に不当な要求をすると、独禁法の話になりうるということです。

報告書では、大企業と中小企業が業務提携するときに、得られるデータを全て大企業の所属にするという例をあげて問題点を指摘しています。ただ、このような契約をすること自体は、対価が支払われていればよいということでしょうか。

 それ自体はそもそも契約自由の原則ですよね。ただ、その大企業が中小企業に対して、「得られるデータは全部うちの知的財産だ」というようなことを言うのが、独禁法上どう評価されるかというような議論はあるでしょう。しかし、それは従来の独禁法の優越的地位の濫用と変わりません。データが登場するというだけであって、データ固有の話ではないように思います。

実際に、データを全て大企業に持って行かれてしまい、後で苦しんでいる中小企業は結構存在しているのでしょうか。

 そういう中小企業がいるから、弊所のような業態が成立するという構図ですよね。

そのような中小企業が泣き寝入りせずに済む手段はないものでしょうか。

 事後で救済する手段はないですね。だから逆に契約締結の段階や交渉の段階で、ちゃんと専門家へ相談しに来たほうがいいのです。契約を締結してしまったら、独禁法上の問題や、強迫行為というようなよほどの問題がない限り、違法な契約ではなくなってしまいますので。

今後、データに対する競争法上の規制はどのように動いていくのでしょうか。

 今後どれくらい報告書のとおりに公正取引委員会が動くのかという点はよくわからないところです。

 とはいえ、データがビジネスの競争力に大きな影響を及ぼすという傾向は確実に進んでいて、公正取引委員会だけでなく、産業競争力を進める経済産業省としては、「ビッグデータについては別途不正競争行為類型を作ろう」という議論をしています。特許庁は、「データをどういう風に保護するのか、そもそも保護する必要性があるのか」といったことを検討しています。
 いま、各省庁によって、様々な角度からデータに対する規制の是非について、検討されている状況です。

ありがとうございました。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 鮫島 正洋弁護士

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