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【連載】金融機関を中心とした反社会的勢力への対応 第3回 反社会的勢力との契約関係の解消

危機管理・コンプライアンス
本行 克哉弁護士

はじめに

 本連載では、金融機関を中心とした反社会的勢力への対応について、「反社会的勢力と個人情報保護法における開示」、「反社会的勢力との和解」、「反社会的勢力との契約解消」という3つの場面を想定してリレー形式でそれぞれ論じていく。
 第1回は「個人情報保護法における開示」について、前回は「反社会的勢力との和解」について解説を行った。

 金融機関において、融資を実行した後に、債務者が反社会的勢力(以下「反社」という)に該当することが明らかになった場合、暴力団排除条項(以下「暴排条項」という)を用いて当該融資金についての期限の利益を喪失させて回収を図ることが法的に可能であるとしても、どのような計画(プラン)に基づいて取引解消をはかるべきかという点について検討したい。
 なお、本文中意見にわたる部分については筆者の個人的見解であることをお断りする。

業務の適切性と財務の健全性

 銀行法は、金融機関に対し、業務の適切性財務の健全性を求めているところ(銀行法1条)、業務の適切性の観点からは、反社会的勢力の排除が要請され、財務の健全性の観点からは、回収可能性の確保が要請される
 個々の事案においては、これらの観点を総合的に考慮していく必要があるが、基本的には、業務の適切性の観点が重視され、反社会的勢力の排除に向けての動きが要請されることになる。
 もっとも、債務者が約定弁済1を継続している状況で、債務者が反社であることを理由として期限の利益を喪失させることは、かえって金融機関に回収不能による経済的損失を招くとともに、反社会的勢力に事実上の回収不能による利益を与える結果となるのではないかという問題がある2

 反社との関係解消を含むリスク管理態勢の整備は一種の経営判断事項であり、暴排条項を適用して取引解消を図ることが法的に可能な場合であっても、債権回収の極大化(財務の健全性)や反社に手残り利益を残さないという観点からすれば、暴排条項を適用せず約定弁済を受け続けること、あるいはただちには適用せず、タイミングを見計らって暴排条項の適用を行うことが、金融機関の取締役の善管注意義務に反せず、経営判断(裁量の範囲)として認められる場合があり得る3

 このような財務の健全性の観点などを考慮した結果、例外的に期限の利益の喪失時期を遅らせることが許容されるかどうか、遅らせるとしてどのようにモニタリングを実施し、効率的な回収措置を含め、どのように取引解消に向けたプランニングをするのかという点を検討する必要がある4

プランニングにあたっての着眼点

 金融機関としては、どのように取引解消に向けたプランニングをするのかという点が課題となるが、その際に考慮に入れるべき着眼点としては以下のようなものが指摘されている5

債務者に関する着眼点
  • 属性の内容および濃淡(危険性の程度)
  • 行為要件の有無および内容
  • 犯罪行為、行政からの許認可取消し等
  • 事業の内容・今後の事業継続の可能性等
回収可能性に関する着眼点
  • 融資の審査時の状況、融資の内容
  • 融資の約定弁済の内容
  • 今後の約定弁済による回収見込額(将来の約定弁済の継続可能性)
  • 担保および担保以外の資産の状況
  • 期限の利益喪失による回収見込額
  • 他の期限の利益喪失事由の有無および内容等
その他の着眼点
  • 関係する取引の有無およびその内容
  • 他の債権者の状況
  • レピュテーショナルリスク
  • 社会的影響(利害関係人への影響)
  • 安全確保のリスク(期限の利益を喪失した場合に想定されるリアクションの程度)等

事例検討

 融資実行後に暴排条項を適用して取引解消を図るためのプランニングを行うにあたっては、個々の事案ごとに前述の着眼点を含む事情を総合的に考慮する必要があり、このプランニングに際しては、弁護士の意見書を取得するなど専門家の意見を踏まえるべきである。
 ここでは、具体的な事例を通じてどのようなプランニングをすべきかについてイメージを掴んでいただくため、若干の検討をしてみたい。

ケース1

 甲銀行の債務者Aは、株式会社であるが、直近の警察照会により、同社の取締役乙が暴力団組員であり、A自体も暴力団関係企業に該当することが判明した。
 また、乙は、近年Aを利用して、他の企業に対し、資金供与などの暴力的要求行為を行っているとの情報が入った。
 Aに対する融資取引は、10年前に実行された収益不動産の購入資金を使途とする融資のみであり、現在1億円の残高が残っている。
 この不動産には、甲を根抵当権者とする根抵当権が設定されており、極度額(5億円)や不動産評価額(3億円)からしても、担保不動産競売を行った場合には融資残高の回収が高い確率で見込める状況である。
 このような状況の中、乙が恐喝容疑で逮捕されたとの報道が入り、上記担保不動産の中にあるAの本社フロア(10階)には、暴力団関係者が出入りしていたとの報道もあった。なお、Aは、不動産賃貸業以外に、建設業も行っている。
 このようなケースにおいて、甲銀行は、Aに対する融資についてただちに期限の利益を喪失させ、融資金の回収に動くべきか。

結論

  甲銀行は、他に特別な事情がない限り、ただちに期限の利益を喪失させ、担保不動産競売、賃料債権に対する物上代位、不動産収益執行等の方法により、融資金の回収に動くべきであると考える。

補足説明

 Aは、暴力団関係企業であり、Aの役員である乙も、暴力団組員という属性である。乙はAを利用した具体的な暴力行為も行っているという情報があるため、不法性が強く、業務の適切性の観点からは強く関係解消が要求される
 資金使途は不動産購入資金であり、トレースできているものの、この不動産そのものが暴力団活動に使用されている可能性があり、賃料収入の一部が暴力団活動のために用いられている可能性も考えられる。

 他方で、甲銀行とAとの間の取引は、不動産担保付融資のみであり、当該融資金については、不動産評価額からすれば、期限の利益喪失後、担保不動産競売に至ったとしても、全額の回収を見込むことができそうである。

 この点、競売手続では、市場取引に比べて売却見込額が低くなる点や、暴力団関係者が出入りしているという報道から入札が控えられる可能性、報道により他のテナントが撤退し、賃料収入が減少する可能性を考慮すると、結果的に全額回収とならない可能性もあるが、現時点での影響は不明であり、ただちに債権回収に大きな不安があるとはいえない。したがって、財務の健全性の観点からも大きな問題があるとはいえない

 加えて、Aの役員である乙が恐喝容疑で逮捕されたとの報道によりAが暴力団関係企業であるとの情報が広まることにより、仕入先や販売先などの取引先も関係解消に動き始める可能性がある。

 また、Aが不動産賃貸業以外に、建設業を営んでいるところ、乙の逮捕により建設業許可が取り消される可能性もある。したがって、Aの事業継続については大きな懸念が生じ、現時点で約定弁済がなされているとしても、今後も継続的に約定弁済がなされるとは限らないと思われる
 さらに、担保不動産の登記記録には、甲銀行を根抵当権者とする抵当権が設定されていることや、今後報道により、甲銀行とAとの間の融資取引の事実が公表される可能性も考えると、速やかな関係解消を行わないことによるレピュテーショナルリスクは大きいと考えられる。

 Aが暴力的要求行為を行っていることは、甲銀行が回収に乗り出した段階での甲銀行従業員等に対する直接的な危害が及ぶリスクがないとはいえない。ただ、このリスクが想定されることのみをもって、関係解消を行わないでよいという判断は合理的とはいえず、警察や法律事務所との連携により、できる限り職員の安全確保に努めつつ、回収を図っていくことになろうかと思われる。

ケース2

 甲銀行は、債務者Aに対し、住宅ローン融資を行っており、保証会社が住宅ローンについて保証を行っている。今般警察照会を行ったところ、Aは、末端の暴力団員と仕事上密接な交際がある(いわゆる共生者に該当する)との情報を取得した。ただ、過去、Aが暴力的行為に及んでいるという情報はなく、前科前歴があるという情報もない。
 住宅ローンの資金使途は、自宅購入資金であり、自宅には保証会社の抵当権が設定されている。
 Aは、自宅で反社ではない配偶者と子2人(12歳、15歳)と暮らしており、自宅に暴力団関係者が出入りしているという情報はない。
 住宅ローンは約30年前に実行されて、現在残高は100万円程度であり、約1年程度で完済に至る見込みである。Aはこれまでに住宅ローンの返済を遅滞したことはない。
 自宅は、老朽化により建物の価値は評価できないが、建物を撤去する前提での土地の評価額は、1,000万円である。保証会社との関係では、Aが反社であったことを理由に代位弁済を拒絶される兆候はない。
 このようなケースにおいて、甲銀行は、Aに対する融資についてただちに期限の利益を喪失させ、保証会社から代位弁済を受けるべきか。

結論

  甲銀行は、ただちにAの期限の利益を喪失させるのではなく、モニタリングを行いつつ、約定弁済を受けるという判断を行うことも許容されると考える。
 ただし、モニタリングの結果、Aの自宅に暴力団関係者が出入りしているとの情報や、暴力的行為に及んでいるとの情報や、約定弁済が滞るとの情報などがあった場合には、さらなる情報収集のうえ回収方針について再検討すべきである。

補足説明

 まず、Aは、共生者との情報がある以上、不法性がないとはいえず、暴排条項を適用して期限の利益を喪失させることも可能である。また、住宅ローンについては、保証会社の保証があり、代位弁済を受けることにより、全額の回収を図ることは可能であり、保証会社も担保実行により残額を回収できる可能性は高い。

 ただ、住宅ローン融資の場合には、資金使途が確認できている限り、自宅の購入資金に全額が用いられることにより、直ちに暴力的活動のために利益になっているとはいえず、本件では、自宅に暴力団関係者が出入りしているとの情報もない以上、反社の利益になっているとは言い難い
 また、代位弁済と担保実行による回収を図るとした場合、反社ではないAの家族の住居までを奪う結果となる一方、期限の利益喪失から担保不動産競売手続による回収には半年~1年程度の期間を要する可能性が高く、1年程度の約定弁済の継続により完済に至るのと比べ、若干早期回収を図ることができるとしても、そのメリットは小さいと考えられる。

 レピュテーショナルリスクの観点から検討すると、銀行の業務の適切性の観点から、Aとの関係解消がわずかに遅れることによるレピュテーショナルリスクがないとはいえないが、他方で、約定弁済を継続している者に対する担保不動産競売を実施することについての社会的非難がなされる可能性もないとはいえない

 以上を総合的に考慮すると、上記ケース2において、他に特別な事情がない限り、Aに対する期限の利益を喪失させず、住宅ローンの約定弁済を継続することにより回収を図るという判断を行うことも許容されると考える。
 もっとも、上記のとおりモニタリングを継続する必要があり、事情の変更があった場合には速やかに回収方針を再検討する態勢を整備しておく必要がある。

おわりに

 特に金融機関においては、実務上、取引を開始した後に債務者が反社会的勢力と判明する場面が少なくないと思われる。このような場合には、弁護士など専門家の見解を踏まえて経営判断を行うべきだろう。
 本連載では、反社会的勢力に関する対応として、個人情報保護、和解、契約の解消という実務の中で問題となることが多いテーマについて解説を行った。折に触れて参照いただくことで、実務に携わる方々の一助となれば幸いである。

【連載】金融機関を中心とした反社会的勢力への対応
第1回:個人情報保護法における開示
第2回:反社会的勢力との和解


  1. 約定弁済とは、債務者と金融機関との間の契約(金銭消費貸借契約など)において定められた時期・方法に従った借入金の返済のことをいう。 ↩︎

  2. 森原憲司「みずほ銀行への行政処分を契機に金融機関に生じた懸念について」銀法765号4頁以下参照。 ↩︎

  3. 鈴木仁史「反社会的勢力との融資取引の解消(1)-期限の利益喪失についての判断-」金法1988号85頁。金融庁の「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」No.76も速やかに取引関係の解消を図ることを原則としつつ、債権回収の最大化を図る観点等を考慮した具体的対応を検討する余地を認めている。 ↩︎

  4. 福栄泰三「融資取引からの反社会的勢力排除‐取引の解消に向けて‐」第79回民事介入暴力対策和歌山大会実行委員会編「金融取引からの反社会的勢力排除」14-15頁(金融財政事情研究会、2015年)。 ↩︎

  5. 鈴木仁史「反社会的勢力との融資取引の解消(2)-期限の利益喪失についての着眼点-」金法1990号98頁以下。國吉雅男「提携ローン問題等を踏まえた金融機関に求められる反社対応にかかる態勢整備上の留意点-平成25年12月26日付『反社会的勢力との関係遮断に向けた取組の推進について』および平成26年6月4日付改正監督指針の解説ならびに具体的論点の検討-」前掲注3・181頁も参照。 ↩︎

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