「働き方改革」の行方と企業に与える影響

第2回 柔軟な働き方と副業・兼業の解禁 モデル就業規則を踏まえて企業に求められる対応とは

人事労務 公開 更新

 前回の「第1回 企業側と働く側から見た「働き方改革」の本質」に続き、現在検討されている柔軟な働き方についての各施策の具体的な内容について詳論します。
 もっとも、その施策は幅広く、すべてに触れることは困難ですので、本稿では特に厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」におけるトピックを中心に詳論します。
 なお、本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属するまたは所属していた法人、組織の見解ではありません。

柔軟な働き方と多様な労働者

柔軟な働き方(テレワーク)

(1)柔軟な働き方とテレワーク

 柔軟な働き方を達成するため、正社員に対しては、フレックスタイム制や裁量労働制の導入を行うことが考えられます。また、たとえば、育児や介護をしている正社員に対してはライフステージの一定の期間において、労働時間、勤務場所、職務内容について特別の条件のもとで雇用を継続することも考えられます。このほか、行うタスクの内容によっては、一人で集中して作業をするほうがよいということもあります。そうした働き方を可能とする制度として改めて特に注目されているのは、テレワーク(労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務)です。

(2)事業場外みなし労働時間制の導入

①通達

 厚生労働省も従前より、在宅勤務を前提とした労働時間管理の方法について一定の要件の下、労働基準法38条の2に基づく事業場外みなし労働時間制を適用できるとの通達を設けていました(「情報通信機器を活用した在宅勤務に関する労働基準法第38条の2の適用について」(平成16年3月5日基発第0305001号))。しかし、その後、IT技術の進歩により、在宅勤務だけでなく、サテライトオフィス勤務や特定のオフィスに限られない場所でのモバイル勤務といったテレワークも増加してきたことから、今回、新たなガイドラインの制定が議論されています。

【テレワーク(労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務)の分類】
  • 在宅勤務:労働者の自宅で業務を行う
  • サテライトオフィス勤務:労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用する
  • モバイル勤務:ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務を行う
(出典:厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」)
②「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」

 平成30年2月22日に策定された「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」においては、労働基準法38条の2にいう「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難である」場合とは、従前のとおり、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、かつ、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことをいうことを確認しています。

【テレワークにおいて事業場外みなし労働時間制が適用されるための要件】
  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
  2. かつ、
  3. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 そのうえで、①の場合とは、使用者が労働者に対して情報通信機器を用いて随時具体的指示を行うことが可能であり、かつ、使用者からの具体的な指示に備えて待機しつつ実作業を行っている状態、または手待ち状態で待機している状態にはないことを指す、とされています。
 したがって、たとえば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや、通信可能な状態を切断することが認められている場合や、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合等は「使用者の指示に即応する必要がない」場合に当たることが確認されています。

 また、②についても「具体的な指示」には、たとえば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれないことが明記されています。
 すでに従業員のほとんどが携帯電話などを保有している現状においては、使用者が把握しようと思えば従業員のすべての行動を把握することが理論的には可能となります。しかし、このガイドライン案では、実際に従業員が即応することが義務付けられていない場合には常時通信可能な状態にあるとは評価しないことが明記されています。

 また、もちろん、使用者が事業場外みなし労働時間制を適用せず通常の労働時間管理を行うことも可能ですが、その場合には、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切に労働時間管理を行わなければならないとされています。
 企業にとっては、職場にいない従業員の行動について、逐一把握して管理を行うか、大胆に裁量に委ねるかの2択ということになりますが、職場での労働時間管理とは異なり、実際には本人の申告に依拠せざるを得ないことや、プライバシーの問題と不可避である在宅での勤務を管理することの難しさ、厳格な管理を行えばそもそも柔軟な働き方のメリットを減殺しかねない等の問題から、事業場外みなし労働時間制を導入することが望ましいように思われます。

限定正社員

 今後も職務・勤務地を限定しない正社員は主流となるものと考えられますが、労働人口が減少するなか、企業としても、育児・介護と仕事の両立を望む者、高齢者、外国人や障害者など多様な労働者について、その能力を発揮できる制度を用意しておくことはこれまで以上に重要となると推測されます。

 もっとも、こうした労働者を採用する場合、必ずしも既存の正社員としての雇用が適切であるとは限りません。たとえば、企業が高度なキャリアを積んだ労働者を中途採用する場合、通常は特定の職務を遂行することが期待されていますし、また、家族の事情や本人の希望から転勤を望まない労働者や、労働時間に制約のある労働者も存在します。他方、一般的に、有期労働契約においては労働時間、職務、勤務地等が限定されていることもありますが、安定的な雇用が見込まれないとして十分に魅力的な採用条件とはならない可能性があります。

 そこで、企業と労働者との間で、職務、勤務地、労働時間等を限定しつつも、期間の定めのない労働契約である「限定正社員」として採用することが考えられます。また、今後、改正された労働契約法18条に基づき有期雇用契約社員が無期転換した場合も限定正社員となる可能性があります。

  • 勤務地限定正社員:転勤するエリアが限定されていたり、転居を伴う転勤がなかったり、あるいは転勤が 一切ない正社員
  • 職務限定正社員:担当する職務内容や仕事の範囲が他の業務と明確に区別され、限定されている正社員
  • 勤務時間限定正社員:所定労働時間がフルタイムではない、あるいは残業が免除されている正社員
  • いわゆる正社員:勤務地、職務、勤務時間がいずれも限定されていない正社員
(出典:厚生労働省「勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて」)

 こうした限定正社員については、採用時に、両当事者の合意内容を明らかにしておくため、労働契約書において、その限定された職務や勤務地、労働時間等の内容について記載を行っておく必要があります。また、専門性を期待して限定正社員を採用するような場合には、「職務定義書」などを利用することで、企業が当該社員に要求する職務内容とそのレベルについて合意を行うことも考えられます。

 なお、こうした職務や勤務地等の限定が存在する場合、人事権が制約される反面、職種転換等の努力義務も後退することとなるため、解雇前に使用者に求められる配転等や教育・指導などの雇用維持の努力の程度が緩和されることとなります。

高度プロフェッショナル制度

 さらに、労働基準法改正により、職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合、健康確保措置、本人の同意や労使委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする高度プロフェッショナル制度の導入も検討されています。

 同制度については上記「働き方改革」と矛盾しているとの批判もありますが、労働が自己実現の一つにもなりうることは事実であり、労働者の意思と裁量のもと「昼夜を問わず業務に没頭する」または「遊ぶように働く」ような能動的な働き方が完全に否定されるべきではないように思われます。

 問題は、これが他者に強制されることであり、また、知らないうちに健康を害する状態に陥ることにあります。そこで、こうした要因を防止する措置のもと、労働時間の制限にかかわらず、自らの能力を発揮できる高度プロフェッショナル制度を設けることは、働き方の多様化や自主性なキャリア形成を尊重する施策においては自然な流れと思われます。

副業・兼業の解禁

副業・兼業の議論

 「働き方改革」の議論においてやや特殊といえるのが「副業・兼業の推進」です。これまで「労働」といえば、暗黙の前提として「働かす使用者」と「働かされる労働者」という構図が描かれてきました。これは、「労働時間」を「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」1と定義されているとおり、ある意味当然のこととされていました。時折、「働き方改革」に対して「「働かせ改革」に過ぎない」といった批判も散見しますが、このように現在の法律上の考え方では「労働」が「働かされること」を前提としている以上、「働き方」とは「働かされ方」と同義になってしまうことは当然といえます。

 しかし、副業・兼業については、これを行うか否かは、労働者のイニシアティブによって決まります。したがって、本当の意味で労働者の主体性による「働き方」改革といえますし、「第1回 企業側と働く側から見た「働き方改革」の本質」でご説明した「キャリア選択」の可能性を広げるという意味でも象徴的な意味合いを持ちます(副業・兼業は(当然のことながら)労働者の自由であり、働き方の選択肢を増やすことにほかなりません)。

 参照:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット

就業規則の副業・兼業の制限条項の有効性

 現在、多くの企業では、就業規則において「会社の許可なく他人に雇い入れられること」を禁止しています。

 ところが、多数の裁判例においてはこの規定をそのまま有効とは認めておらず、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じさせない程度・態様の副業・兼業は禁止されないと判断されています。

 逆に、禁止できる副業・兼業は、①本来の職務と重複する兼職(勤務時間が重複するなどそもそも両立し得ない職務)、②副業において過度な長時間労働が予想されるなど労務提供に支障をきたす蓋然性が高い兼職、③競業他社における就労となります。また、守秘義務などに違反できないことは当然です。

 厚生労働省がこれまで公表してきた「モデル就業規則」においても副業・兼業が一律禁止されていましたが、厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」が平成29年12月25日に新たなモデル就業規則案(「モデル就業規則改定(案)(副業・兼業部分)」)を公表したことを踏まえ、平成30年1月に「モデル就業規則」が改定されました。同規則では労働者の副業・兼業は自由とされていますが2、事前に届け出ること3、一定の事由に該当する場合には使用者が制限することができるとされています。

(副業・兼業)
第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合
(出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」)

企業の対応

 こうした社会情勢の変化を踏まえると、今後、副業・兼業を希望する労働者も増えてくることが予想されます。企業としては、モデル就業規則のとおり、例外的な兼業・副業のみ禁止するような取り扱いに移行することが考えられます。

 他方、兼業・副業を行う場合においても、企業に対する誠実義務や就業規則において定められた他の義務を遵守するよう求めることは当然に認められますので、守秘義務、競業避止義務等に違反した場合には懲戒処分を課すことがありうることを十分認識させることも必要となります。

まとめ

 以上の通り、「働き方改革」は単なる残業規制にとどまるものではなく、企業の側においては正社員雇用を中心とするオペレーションシステムの変更を求めるとともに、働き手の側においては複数の選択肢から自主的にキャリアを設計することを可能とするものといえます。企業、働き手ともに、いま一度見直しを行うことが望まれます。

<追記>
2018年3月1日:「副業・兼業の促進に関するガイドライン」、「モデル就業規則」、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」の公表により、内容面を一部修正・追加いたしました。
2017年12月28日:「柔軟な働き方に関する検討会」報告(2017年12月25日)の公表により、内容面を一部修正・追加いたしました。

  1. 最高裁平成12年3月9日判決・民集54巻3号801頁等 ↩︎

  2. 労働者の副業・兼業を認めるか、就業規則にどう規定するかは、労使間で十分に検討する必要があります(参照:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」) ↩︎

  3. たとえば、自社、副業・兼業先両方で雇用されている場合には、労働時間通算に関する規定(労働基準法38条、通達)が適用されます(参照:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」) ↩︎

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