風営法改正の先に広がるナイトタイムエコノミー 企業の競争力につながるルールメイクの可能性と課題

知的財産権・エンタメ

2016年6月に改正風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)が施行され、従来は原則午前0時までとされてきたクラブなどでのダンス営業、および飲食店でのエンターテインメント営業が、一定の条件を満たすと朝まで営業可能となった。昨年の12月1日にはラッパーで渋谷区観光大使ナイトアンバサダーを務めるZeebra氏が「東京ナイトメイヤー」の発足準備委員会設立を宣言し、夜から翌朝までの間に行われる経済活動「ナイトタイムエコノミー」に注目が集まっている。

風営法改正に至るまでに何が起き、そしてこれからの展望はどのように描かれているのだろうか。改正のきっかけとなった運動の当初から関与した弁護士の齋藤 貴弘氏に、ルールメイクの可能性と課題について聞いた。

世論喚起の方法をアップデートした風営法改正

齋藤先生は風営法改正の契機となった、「Let’s Dance署名推進委員会」の共同代表を務められました。どのような活動をされてきたのでしょうか。

2012年に大阪・京都で起きたナイトクラブの一斉摘発を受けて、大阪・京都のクラブ事業者が、坂本 龍一さんや大友 良英さんという著名な有識者を巻き込んで運動を始めたところからスタートしました。

ルールメイクをする行程で世論喚起は重要です。「この法律がおかしい」という機運を醸成するにあたってメディアに取り上げられると、政治家もその情報を感じてくれるので、具体的な政策提議をするにあたって動きやすい空気を作れます。

海外のロビイングの本には、パブリックリレーションズ(PR)と具体的なロビイングが必要だと書かれています。アメリカだとPR会社がロビイングをすることもあり、イメージ広告を使ったり、インフルエンサーのような人に問題提起をさせたり、それを広告らしくする手法はよくありますね。

風営法の改正は著名人が声を上げて世論が出来上がっていった、稀なケースにも思えます。

ナイトクラブの世界の有名人ではなく、広く音楽文化に浸透し、かつ間口の広い人に呼びかけてもらうことを意識しました。全く関係ない人が言っても、取ってつけたようになるので難しいですが、坂本 龍一さんはもともとYMOで活躍され、テクノミュージックを通じてクラブカルチャーにも親和性のある著名な方ですから、一般の方も、海外メディアにも賛同してもらいやすかったです。

ナイトクラブやダンスはどうしてもマニアックな世界なので、光を当て過ぎるとよく思わない人もいる。あるいはそこまで関心がない、共感が得られない分野だと思います。「ナイトクラブではなくダンス」というコピーライティングも重要だったと思います。

弁護士が世論喚起をする時は社会的弱者と一緒になって草の根的なデモや署名をしたり、裁判所前でビラを配ったり、どうしてもそういう形になりがちです。それも1つのやり方ですが、違うやり方があって良いのかなと。世論喚起の方法を全体的にアップデートする必要があって、色々なやり方を試していましたね。

確かに世論喚起というと、弱者のために、裁判所の前で、というイメージが強いです。

そうすると色眼鏡で見られたり、訴求できる範囲がすごく狭くなったりします。今回は、むしろ経済成長ができるという点を訴えましたし、クラブカルチャーはマイノリティの文化なので、多様性の話も踏まえたPRも戦略的にしていました。

経済成長ができるという点の訴求は、意識的にしたのでしょうか。

約16万筆集まった署名を議員会館に持って行って、2013年に「ダンス文化推進議員連盟」をつくってもらいましたが、議連をつくってもらう段階では経済的なメリットを訴求していませんでした。

当時は民主党政権から自民党政権に移った直後で、規制改革会議が「成長戦略のための岩盤規制を崩す」というキャッチフレーズを掲げて立ち上がりました。規制改革会議や安倍政権が持つ問題意識に刺さる言い回しを考え、夜間市場の創出といった経済的なメリットを訴求していったのです。オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった段階で「ナイトエンターテインメントは当然必要」という文脈作りをしていました。

最初のきっかけは、摘発が激しかったクラブを救うことだったのですが、実現するには世論の共感を得て、かつ政治を動かさなければいけない。それに沿うストーリーづくりを意識的にしていった感じです。

議連をつくるにあたり、最初から賛同してくれる政治家はいましたか。

署名の段階からメディアでかなり取り上げられ、世論喚起ができていたので、議員の方々は問題意識を持ってくれていました。いきなり話を持っていっても、突っぱねられることはありませんでしたね。

クラブ業界は、政治家とのつながりは全くなかったのですが、社交ダンス業界は全国にネットワークがあり、政治家とのつながりもあるので、社交ダンス業界との連携体制をつくることで議員とのネットワークをつくっていきました。

ガバメントリレーションシップというのですが、政府との関係をどうつくるかは、ロビイングの1つのスキルです。

弁護士の仕事として認識されなかった点が課題

法改正までの行程で、つまずいたことや課題はありましたか。

振り返ってみるとうまく進んだように思いますが、実績もノウハウもない中、その都度悩みながらやっていました。法改正は実現できましたが、弁護士の仕事として認識されなかったので、手弁当での活動となった点は課題です。

報酬を受け取ることは難しかったのでしょうか。

改正までは誰かからお金をもらえる状況ではなかったと思います。クラブなどの事業者は規制緩和によって利益を受けられますが、弁護士は規制緩和されてもすぐに利益を得られる立場ではありません。そういう状況では、多くの弁護士はロビイング、ルールメイクに関わらないでしょう。すると、「継続性がない」「たまたまうまくいった」「音楽好きの齋藤がいたからできた」という話になってしまう。

風営法が改正され、報酬を得られるような動きはないのでしょうか。

改正風営法の施行によって規制が緩和され、「新しい産業をつくっていこう」という話になりました。個々の企業や業界では難しいので、昨年4月に自民党議員が中心になり、経産省、国交省、観光庁、文化庁、内閣府からも担当者が集まって「ナイトタイムエコノミー議員連盟」ができ、一緒に政策をつくっているところです。
また、民間のアドバイザリーボード(顧問委員会、監査役会)も併せてつくりました。新しいナイトタイムエコノミー、夜間市場を創出していこうと、民間、議員、省庁で昨年いっぱい会議をして、それを踏まえて今年から政策化していくところです。たとえば、観光庁の政策として、ナイトエンターテインメントの推進など、観光資源の開発を議論しています。多くの企業にとって経済的なポテンシャルはあると思い、弁護士にとってもビジネスの領域になるかもしれません。

「ナイトタイムエコノミー」や「ナイトメイヤー」という言葉を目にする機会が増えています。12月にはZeebra氏によって「東京ナイトメイヤー」の発足準備委員会設立が宣言されました。

密室ではなく、なるべく公にして色々な人を巻き込んでいく。そんなPRをずっと続けています。
政治的な透明性は重要で、今まで「夜」と言うとアングラなイメージが強く、企業はなかなか進出してこなかったですが、風営法改正によって、夜の市場規模の大きさを理解してもらいつつ、ナイトメイヤー1という制度を整備して企業が参入しやすい雰囲気をつくっています。

ニューポート法律事務所 弁護士 齋藤 貴弘氏

ニューポート法律事務所 弁護士 齋藤 貴弘氏

企業の競争力に直結する、ルールメイクの力

海外では、ロビイングをする弁護士は報酬を得てビジネスが成立しているようですが、日本で変わる可能性はないのでしょうか。

自分たちの手でルールを変えることが経済的メリットになるという認識を持っている企業は少数だったと思いますが、最近は、風営法以外の分野でも様々な企業から相談が寄せられるようになってきました。

企業がロビイングやルールメイクの必要性を認識して、専門家に報酬を払うのであれば、ビジネスとして成立するということですね。

ただ、行き過ぎると、えげつないことをして法律を変えてしまう、場合によっては収賄のように加熱してしまいます。
ロビイングと言うと、密室でコソコソしている感じが出てきやすく、「何か怪しい」という受け止められ方をしてしまう。可視化して皆の意見を取り込んでいく、オープンイノベーション的な発想でのロビイングが重要になってくるかもしれません。

企業のルールメイクに対する意識は国内と海外でどう違いますか。

日本と海外はルールメイクに対する意識が全く違う、特にプラットフォームサービスに関する意識が違います。プラットフォームの利用規約は法律や規則とは別のレイヤーでのルールになります。プラットフォームの利用規約にしたがってビジネスをせざるを得ない人たちは、できることが決まってしまう。
たとえば民泊も今までの日本の法律ではBtoCモデルに則って、旅館業法などの業法で消費者保護を図っていましたが、AirbnbによってモデルがCtoCに移り変わったことで、従来の法規制が構造的に追いつかなくなっている。BtoCのBを規制していた業法が、プラットフォームの利用規約に変わってきています。

そもそも日本はそういった変化の認識があまりなく、企業も、新しいサービスを創出しようという規制当局も、なかなか追いついていませんでした。最近は政府も意識が変わってきて、検討会を開いたり、レギュラトリーサンドボックス2を導入したり、新しい仕組みはできつつあります。

日本企業全体で、問題意識は高まっていると思いますか。

大企業に比べてベンチャーは柔軟に動いていますが、大企業はコンプライアンスを重視するあまり動きづらくなっている。大企業がルールメイクに入ってこないと市場規模は大きくならないので、意識を変えていくことが今は必要だと思います。

ルールメイク、ロビイング、パブリックアフェアーズ3が専門の企業はありますが、そのクライアントの多くが外資系企業です。日本企業でも特定の業種では規制対応を行っていますが、目立った動きは、まだ少ないと思います。
安倍政権は成長戦略として規制緩和を掲げていて、今までのように国が企業を応援してお金を出すのではなく、ルールメイクをして民間が動きやすくなるようにしています。そこに乗れるかどうかが、企業の競争力にそのまま直結するでしょう。  

企業にとってルールメイクのメリットが伝わると普及しそうですが、なぜ普及しないのでしょうか。

規制改革会議は、規制改革によって経済活性化する材料を求めているので、企業がその思惑につながる提案ができれば、受け入れるモードになっています。ただ、企業の意識はそこまでいっていません。日本人のマインドにボトムアップで国をつくっていく、ルールをつくっていく、という発想がなかったのかもしれません。

そうしている間に海外企業が日本に参入し、市場を奪われている実態があります。

日本経済はずっと右肩上がりだったので、ルールや規範に則って皆で足並みを揃えていれば自動的に成長していけた。そんな時代が崩れて20年ほど経ちます。右肩上がりの経済を皆で上っていくモデルではなく、成熟したところで何か尖ったものをつくっていくことに価値があり、競争力になるでしょう。そこをクリアするために、マインドを変えていくことがすごく重要です。ただ、世代交代は起きていて、若い人たちは新しいビジネスをつくっているかなと思います。
また、海外企業と競争する環境になる、あるいは一緒にビジネスをする機会が増えれば、日本ならではの慣習は崩れていくと思います。

日本はポテンシャルがすごく高くて、観光でもテクノロジーでも、伸びしろは大きいと思います。多くの企業が、問題意識や前向きな感情を持ってくれたら良いですね。

従来の弁護士の枠に収まらない活躍を

弁護士が持つ法的な知識、スキルはロビイングやルールメイクにどう役立つのでしょうか。

風営法改正の時には、安心安全もあわせて実現していくのは当然重要でしたので、警察とも密に協議をしました。警察側の要望にも十分配慮しながら、インパクトある産業創出が可能な法改正を目指していく。官邸も巻き込みながら、議員と警察とでかなり密に利害調整を行いました。この利害調整をめぐる交渉は、弁護士として学んだ交渉スキルを法改正というフェーズで再現したイメージです。

ルールメイクをしたいというマインドを持つ弁護士はどう動いていけば良いですか。

クライアントの課題やニーズに対して意識を向けることだと思います。法規制が事業のボトルネックになっているケースは多くあり、逆にいうと法規制対応が企業の競争力に直結する時代になっています。弁護士がこのような課題を企業と共有し、事業戦略を実現していくために規制対応を行っていく。これが臨床法務(紛争解決)、予防法務より前段階の戦略法務とよばれる領域です。

新しい職域だと思いますが、弁護士がその発想を持つには、顧客インサイト的な啓蒙やロースクール等での教育に加え、弁護士にとってのビジネスとして確立させることも重要だと思います。

弁護士のビジネスモデルとしてはどういう可能性があると思いますか。

規制緩和の先には新しい産業創出のチャンスが広がっています。そこで新しい産業創出のサポートをすることも弁護士の仕事として重要になると思います。今、個人的に相談が多いのが、ブローキング(取引の仲介)と呼ばれるものです。たとえば、ナイトタイムエコノミーを推進するにあたって、あるエリアの都市開発プロジェクトが立ち上がったとします。このようなプロジェクトにおける弁護士の役割は、不動産価値を高めるために法的リスクを減らして開発を成功させること。すでにまとまった契約書をチェックするだけでなく、価値を高めるためにどんなコンテンツを入れたら良いかなども含めディールメイクの段階から入っていく。クリエイティブやビジネスに近い領域での業務になるので、一般的な弁護士業務とは異なりますが、弁護士の職能と別の職能の掛け合わせとして、新しい可能性を感じます。

緩和のロビイングをし、さらに緩和された領域で新しく生まれる新規産業の創出を戦略法務の視点で支援する。アメリカではエージェントやマネジメント業務などを弁護士が普通に行っていますが、今ニューヨークの弁護士にも協力してもらいながら、そんなことにもチャレンジしています。

ブローキングは弁護士のスキルを活かせるということですか。

クリエイティブな領域もありますが、基本的には契約条件をめぐる利害調整なので、弁護士のスキルにもマッチするように思います。ビジネスの後工程で発生する契約書のチェックが、契約を作成前の交渉フェーズにスライドしているという話です。
ただ、ブローキングは色々な人たちの間に入るので、コンフリクトには十分注意する必要があります。

手弁当ですさまじい時間と労力を投下したロビイングの回収には、色々なやり方があるはずで、そこは創意工夫だと思います。僕自身の事例を通して、なるべく夢のある話をしたいなと(笑)。
弁護士業界というと食えない、稼げないと暗い話題も多いですが、新しい動き方をしている弁護士もたくさんいます。
皆が一緒になって、弁護士の職域として新しいフレームをつくらないといけませんね。

ニューポート法律事務所 弁護士 齋藤 貴弘氏


  1. 「夜の市長」と訳される。昼間の市長とは別に、夜の行政を専門に担当する責任者のことを指す。欧州各地で誕生していて、世界各地で同様のポストが設置される可能性があるとも言われている。 ↩︎

  2. 政府が革新的な新事業を育成する際、現行法の規制を一時的に停止する規制緩和策。 ↩︎

  3. 公共的な側面から見た企業広報。企業の社会的・公的責任を認識し、社会に対して積極的に貢献するために行う広報活動をいう。 ↩︎

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