Fintechで銀行法が改正 民間企業が突き動かした2017年法改正の動き

ファイナンス

2014年頃から耳にするようになってきたFintech。金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語であるFintechという概念が日本に浸透してきた当初は、技術的にも法的にも未知の存在として、非常に注目を集めてきた。現在では、Fintechという言葉自体はすっかり定着し、様々なFintechサービスが生み出されている。

Fintechサービスが勢いを増していく一方、まだまだ法律面では整備が追いつかず、グレーゾーンが多く残る分野でもある。とはいえ、Fintech事業者など民間企業はこの数年、審議会等へ積極的に参加し、政府に対して進言を続けてきた。そうして、少しずつではあるが、法律も改正の動きを見せている。2017年に改正された銀行法と電子帳簿保存法はまさにその一例だろう。

少子高齢化時代を生き抜くにはテクノロジーの力が必須

2017年9月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場した株式会社マネーフォワードは、Fintechを掲げる代表格の企業だ。同社は「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をスローガンに、個人向けの自動家計簿サービスや、企業向けの会計・請求管理・給与計算サービスといった、お金を起点としたサービスを提供している。

2017年11月に開催された「MFクラウドExpo 2017」で、同社の代表取締役社長 CEOである辻 庸介氏は次のように語った。

「少子高齢化時代となり、労働力が不足する日本において、いかに労働生産性を上げていくかが経営者の大きな課題だ。AI・ビッグデータ・IoTといったサービスを使って、いかに企業経営を向上させていくかが今後のテーマになることは間違いない」

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介氏

株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介氏

同社では2015年に、Fintechに関する調査・分析を行う「Fintech研究所」を設立し、近年のFintechムーブメントを推し進めてきた。審議会や研究会等でFintechの推進・普及に向け、積極的に提言を続けてきたことにより、今年ついに銀行法の改正に至った。

金融機関とFintech事業者とのオープン・イノベーションを促す銀行法改正

2017年5月26日に、「銀行法等の一部を改正する法律」が成立した。今回の改正は主に、電子決済等代行業に関する法制度の整備が目的となっている。電子決済等代行業者に対して登録制を導入し、以下のルールが整備された。

  1. 電子決済等代行業者の体制整備・安全管理に係る措置
    • 利用者保護のための体制整備
    • 情報の安全管理義務等
    • 財産的基礎の確保
  2. 電子決済等代行業者の金融機関との契約締結等
    • サービス提供にあたり以下の事項を含む契約を締結
      ・利用者の損害に係る賠償責任の分担
      ・利用者に関する情報の安全管理
  3. 金融機関におけるオープン・イノベーションの推進に係る措置
    • 電子決済等代行業者との連携・協働に係る方針の策定・公表
    • 電子決済等代行業者との接続に係る基準の策定・公表
    • オープンAPI導入に係る努力義務
(出典:金融庁「「銀行法等の一部を改正する法律案」に関する説明資料」)

金融庁の発表によると、今回の法改正は、利用者保護を確保しつつ、金融機関とFintech事業者とのオープン・イノベーション(連携・協働による革新)を進めていくための制度的枠組みを整備したものだとしている。API(Application Programming Interface)とは、ソフトウェア間でシステムの機能やデータを安全に利用するための接続方式である。つまり、政府は金融機関に対し、「外部のサービスに対して口座情報や取引機能を提供すること」を努力義務としたのだ。この背景には、世界的な規模で加速しているFintechの動きに対する問題意識がある。

マネーフォワードは、2015年10月からNTTデータの個人向けインターネットバンキング「AnserParaSOL」とAPI連携を進めており、法改正の前からAPI連携を推進してきた。同社の取締役 兼 Fintech研究所長を務める瀧 俊雄氏に今回の法改正の意義について質問したところ、次のような回答があった。

「今般の銀行法改正は、銀行が第三者に向けて決済機能やデータの利活用を開放することで、オープン・イノベーションを進めていくためのエポック的な出来事だと考えている。私たちは「アマゾン」での買い物や、「Uber Eats」で注文をするときに、どのような決済手段を用いたい、とは考えない。そこには経済取引を早く成立させたいニーズだけがある。今後の経済圏では、このような有効需要に決済機能がすぐに付随できるかどうかがカギとなってくる。

とはいえ、誰もが銀行へのデータアクセスや、決済代行の立場が取れてしまうと、銀行が有する社会的信用の高さからも好ましくはない。そのため、セキュリティや悪意ある行動が制御されるような制度が望まれてきた。それらに対応する目的を持つこの法改正は、今時点ではまだ「新規トピックとしての銀行API」という取り上げがされている段階だが、開かれた金融のあり方を作っていく基礎となることを期待している。私たちも今回を契機として、より利便性の高いサービスを提供し、消費者や経営者のお金の不安を解消する面で貢献していきたい」

電子帳簿保存法の改正で期待される経費精算業務の負荷軽減

銀行法改正以外にも、2017年にクラウドサービス事業者に大きな影響を与えた法改正として、平成28年度の税制改正による電子帳簿保存法の改正もあげられる。この改正で、2017年1月1日から領収書等の国税関係書類をスマートフォンやデジタルカメラで電子化できるようになり、企業の経費精算業務の負荷を減らすことが期待されている。

電子帳簿保存法は近年、段階的に規制緩和されてきた。同法は1998年7月に施行され、約20年の歴史がある。2005年には「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法)」が施行され、これにより、企業などで保存が義務付けられている文書について電子保存が認められるようになった。しかし、その要件や対象となる書類が限定的であったため、近年まで実務に取り入れている企業は少なかった。

このような状況下、民間企業や経済団体等が改正に向けて積極的に規制緩和を求め活動していった結果、国税庁は「平成27年度税制改正」において要件緩和を実施し、10年ぶりに同法の改正が実施された。そうして、段階的ではあるものの、2年連続で規制緩和されるに至った。

経費精算業務をスマートフォンだけで完結させることが可能に

今回の改正の大きなポイントは、領収書等の国税関係書類をスマートフォンやデジタルカメラで電子化できるようになったという点だ。これにより、たとえば領収書を受け取った社員は、外出先や移動中でも領収書を電子化することができるようになり、経費精算業務の大幅な効率化へとつながる。

マネーフォワードが提供する経費精算システム「MFクラウド経費」は、今回の改正によって、サービスに大きな影響が与えられた。同社のMFクラウド経費本部 本部長でMFクラウド経費プロダクトオーナーの今井 義人氏は次のように述べている。

「経費精算システムはクラウドの次のステージへと進み、我々は『第3世代の経費精算』へ移行したと考えている。第1世代の経費精算は、高価で大企業向けのERPシステム。その後2010年くらいにクラウドが普及し始め、第2世代へと移行し、より安価に提供することができるようになった。これからは第3世代。キーワードはモバイルオートメーション。オートメーションとはどういうことかと言うと、スマートフォンに経費精算で必要なデータが集まってくるといった世界観だ。つまり、これからは経費精算業務をスマートフォンで完結させることができるようになる」

株式会社マネーフォワード MFクラウド経費本部 本部長 MFクラウド経費プロダクトオーナー 今井 義人氏

株式会社マネーフォワード MFクラウド経費本部 本部長 MFクラウド経費プロダクトオーナー 今井 義人氏

モバイルオートメーションの具体例として今井氏があげたのが、ペーパレスな出張だ。たとえば大阪まで出張するとなると、東京からの新幹線代、現地での宿泊費、大阪府内での近距離交通費といった経費の申請が発生する。これらのデータを、様々なサービスと連携することによって、自分のスマートフォンに集約し、出張帰りの新幹線の中で、経費精算業務を済ませることができる。すでに、「MFクラウド経費」では飛行機や新幹線、タクシーなど2,500以上の外部サービスと連携させていると言う。


今回は、2017年に改正のあった銀行法と電子帳簿保存法に着目し、それらの法律が規制緩和されることによって実現される社会と、提供されるサービスについて紹介した。Fintechに限らず、テクノロジーの進歩によって、現在様々な法律の見直しが進められている。2018年も法改正に注目していきたい。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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