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企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか

第1回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(前編)

コーポレート・M&A 公開 更新
渡辺 樹一 西谷 敦

コーポレートガバナンス・コードの導入後、企業価値向上に向けての企業統治に関する議論が活発化する中、企業による不祥事は依然として頻発しています。企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか、本稿では、2014年1月~2018年6月に上場企業によって公開された調査報告書173件の分析から、連載で回答を導き出してみたいと思います。
なお、本稿における意見にわたる部分は筆者の私見であり、所属するまたは所属していた法人、組織の見解ではありません。

本稿の末尾には、「データ不正をめぐる法的責任等」について、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷 敦弁護士との対談形式のコラムを掲載しています。

調査報告書で開示されている原因と再発防止策

昨年(2017年)の企業不祥事を振り返りますと、品質データの改ざんや偽装検査など製造に関する不祥事が最も印象に残った方が多いのではないでしょうか。

ここ3年の製造関連の不正といえば、2015年の大手タイヤメーカーの建物の免震ゴムの性能データ改ざん、準大手ゼネコンと建設会社等による共同住宅(マンション)の杭打ちデータ改ざんに始まり、2016年には、海洋土木大手企業による東京国際空港地盤改良工事における施工データ改ざん、自動車メーカーによる軽自動車の燃費データ改ざんがあり、2017年に入って大手自動車メーカーの検査偽装や鉄鋼・非鉄大手企業の品質データ改ざん(以降、総称して「一連の製造不祥事」といいます)、それに続く同類の不祥事が発生しました。

このように、製造関連の不正が相次ぎましたが、従来からあった「技術やデータに関する事項は専門家がしっかりやっている」という日本企業のモノ造りへの信頼が大きく揺らいだ年であったような気がします。

【製造関連の不正に関する「一連の製造不祥事」】

  1. 大手タイヤメーカーの建物の免震ゴムの性能データ改ざん(2015年)
  2. 準大手ゼネコンと建設会社等による共同住宅(マンション)の杭打ちデータ改ざん(2015年)
  3. 海洋土木大手企業による東京国際空港地盤改良工事における施工データ改ざん(2016年)
  4. 自動車メーカーによる軽自動車の燃費データ改ざん(2016年)
  5. 大手自動車メーカーの検査偽装(2017年)
  6. 鉄鋼・非鉄大手企業の品質データ改ざん(2017年)

しかも公表されている調査報告書を見ますと、これらの事例には、①現場の従業員が長年にわたって不正行為を継続した、②長期間にわたって経営陣はその事実を知らず、それゆえ是正されなかった、というほぼ共通の事象があります。

これら2つの事象について、企業にとっての最大の問題は、長期間にわたる不正行為が、株価の下落や信用の失墜による収益の低下、リコールや損害賠償等の企業価値の毀損を招いてしまったこと、そして、経営者がこれらの現場の不正行為を監視する仕組みを保持していなかった(それゆえ、その点を改善しなければ現場での他の不正行為が再発し得るという)ことです。

なぜこのような不祥事が起きてしまうのか、どうすれば防止できるのか、調査報告書で開示されている原因と再発防止策は下記の図のようになっているのですが、本稿では、それらをさらに深堀りして、企業として行うべきことを提言してみたいと思います。

【一連の製造不祥事(6事例)の発生原因と再発防止策(調査報告書より)】

一連の製造不祥事(6事例)の発生原因と再発防止策(調査報告書より)

図の中の「閉鎖的な組織の弊害(タコツボ現象)については「第2回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(後編)」で述べますが、「一連の製造不祥事」でほぼ共通の事象として見られたのが「目標達成への強いプレッシャー」と「風通しの悪い組織風土」です。

「目標達成のプレッシャー」と「組織風土」から発生する不正

目標達成への強いプレッシャー

まず「目標達成への強いプレッシャー」ですが、「最高の燃費を目指して、他社に負けるな」とのトップからの発言を受けた開発担当幹部が「何としてでも目標を達成しろ。やり方はお前らで考えろ」とのプレッシャーを現場にかけ続けていた上記④の2016年の自動車会社の事例1、「他社に追いつけ追い越せ。自社で開発した新工法なので成功させないといけない」というトップの発言を受けた支店長が「失敗は許されない」というプレッシャーを現場にかけて引き起こされた上記③の海洋土木大手企業の事例2など、トップの思いをくみ、幹部や管理職が実績を残そうとして、現場がそれらの重圧に負けて企業不祥事となったという構図が見られます。

風通しの悪い組織風土

また、「一連の製造不祥事」では、トップが社内で起こった不祥事を知るに至るまで長い年月がかかっている点が大きな問題です。前記2-1の「目標達成へのプレッシャー」が組織の上から下への問題であるのに対して、「無理だ」と声をあげてもトップに届かない、あるいは現場の本音がトップに伝わらないという、組織の下から上への風通しの悪さは「組織風土」の問題です。

上層部からの理不尽とも思われる指示に、現場や管理職が「無理だ」と言えない、あるいは目標の達成というトップの意向に沿うために、社内のルールに反するような行為を現場の判断で行うことを余儀なくされるような状況』こそが企業不祥事の問題の本質だとすれば、それは彼らの道徳意識というより、むしろ組織風土の問題、すなわち、ガバナンスの領域です。前記2の図の発生原因に挙げた「従業員のコンプライアンス意識の欠如」を生じさせたのは、ガバナンスの欠陥であるという見方をすべきではないでしょうか。

目標の達成というトップの意向に沿うために、社内のルールに反するような行為を現場の判断で行うことを余儀なくされるような状況は、ガバナンスの領域の問題

「目標達成への強いプレッシャー」があり、かつ「風通しの悪い組織風土」があると不正が発生する』、これが「一連の製造不祥事」から学ぶ1つ目の教訓です。では、この2つの問題はどのようにしたら解決できるのかを見ていきます。

企業の対応策

目標達成のプレッシャーのかけ方

「利益なくして経営なし」。これはその通りなのですが、目標を設定する際、生産量や生産効率等については、人員や設備、技術上の能力の面から妥当性のある数値目標を、事業部門のコンセンサスのもとに設定することを経て、目標の妥当性を確保することが肝要です。なぜならば、それは「このような実現性のない目標を達成しろというのならば数字を創るしかない」という現場の不正の正当化を排除し、現場に対して健全で合理的なプレッシャーを与えることとなるからです。

製造業については、さらに以下を実践することが収益の確保、すなわち企業価値の向上に大きく寄与します

  1. 財務的な指標は、生産効率の向上やコスト削減のツールとなる原価計算、原価管理に紐付けされたものとする。
  2. 財務的な指標だけではなく、品質(工程能力、不適合品発生率等)、顧客満足度、技術開発等の視点を加えた目標や指標を設定する。
  3. 目標管理(目標の達成度合いの予実分析・管理 )を行う。

目標管理は、問題発見時に必要な対応策を講じることに繋がりますからまさに経営改善の手法となります。

健全な価値観の共有

一般的に、どの上場会社も企業倫理や行動規範等の行動準則(コード・オブ・コンダクト)を定めています。組織風土に問題があるとすれば、それらの趣旨や精神を尊重する企業文化・精神が醸成されていないこととなりますから、取締役会による行動準則のレビューを求めているコーポレートガバナンス・コードの補充原則2-2①への対応の問題となります。

【コーポレートガバナンス・コード 補充原則2-2①】

取締役会は、行動準則が広く実践されているか否かについて、適宜または定期的にレビューを行うべきである。その際には、実質的に行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存在するか否かに重点を置くべきであり、形式的な遵守確認に終始すべきではない。

コーポレートガバナンス・コードへの実務対応としては、単なるコンプライアンスアンケートに留まらない、組織風土の現状を測定する従業員サーベイ(調査)を実施するのが具体策となります。測定するのは、たとえば、以下のような事項となります。

  1. 行動準則の認識・理解度や順守状況
  2. 品質よりも納期を優先するなど社内ルールに矛盾するような事態は発生していないか
  3. 各所管部署の業務(営業、購買、生産など)について不合理と思われる社内ルールはないか
  4. 内部通報制度は活用出来るか、活用できないと思われる場合は、なぜそう思うのか
  5. 社内の風通しの良さの度合い
  6. 企業価値向上に向けての社内の空気と自分の気持ち
  7. など

無記名方式で声なき声を吸い上げ、結果を取締役会に報告し、対応を審議する。このような従業員サーベイは、通常、企業価値向上にむけて従業員に心を寄せる経営者のメッセージが付されることとなりますから、役職員の士気が上がり、組織の風通しも良くなり、価値観を共有する手段となるでしょう。

次回は、後編として「経営と現場の乖離」等の問題についてお話しします。

第2回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(後編)


コラム「データ不正をめぐる法的責任等について」

企業の責任

渡辺
アンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷 敦弁護士に伺います。品質データや性能データ不正を巡る法的責任について、まず、企業の法的責任から教えてください。

西谷
製造データ不正を行った企業に対する法的なサンクションとしては、①行政処分(許認可・認証の取消し、営業停止処分、業務改善命令、公共事業入札への参加指名停止処分など)、②民事責任(取引先からの損害賠償請求)、③刑事責任(詐欺罪や不正競争防止法違反罪(虚偽表示罪)での告訴・告発など。後者につき、2015年の大手タイヤメーカーの建物の免震ゴムの性能データ改ざん案件における子会社の起訴事案参照)が考えられます。法的責任以外にも、マスメディアによる報道により、④企業の社会的信頼が失われるリスクがあります。

渡辺
行政処分に関連して、日本工業規格(JIS)や品質管理の国際標準規格(ISO90013等)の認証取消しが問題になっていますが、これらの認証が取り消されるとどのような影響がありますか。

西谷
まず、JISについては、工業標準化法上、JIS認証の取消し、認証業務の一時停止、改善命令といった処分や、罰金のサンクションがあります。JIS認証を取り消された場合、たとえば、取引先との販売契約上、JIS認証が製品規格の前提となっている場合には、契約条件に沿った製品の納品ができず、債務不履行となるリスクがあり、また、JIS認証が自治体などの入札参加要件になっている場合には、入札に参加できないリスクもあります。製品に対する信頼を失うというレピュテーション・リスクも重大です。

なお、工業標準化法に違反した場合の罰金は、現行法では最大100万円とされていますが(同法70条参照)、経済産業省では、製造業の品質データ改ざんが続いたことを受け、今の100倍にあたる最大1億円に引き上げることが検討されているため、要注意です(2018年1月の第196回通常国会に改正案を提出予定4

ISOが取り消された場合も、契約上の債務不履行や、入札参加資格を失うリスク等、同様のリスクがあります。

従業員の責任

渡辺
次に、製造データ不正を行った従業員はどのような法的責任を負うのでしょうか。

西谷
社内では懲戒処分の対象となる他、企業・取引先からの民事賠償請求の対象、あるいは告訴・告発を通じた刑事責任を負担することもあり得ます。

渡辺
不正行為を行った従業員を監督する立場にあった上司(たとえば、支店長やチームリーダー)も責任を負うのでしょうか。

西谷
上司についても、監督責任を怠ったことが認められれば、懲戒処分の対象となることがあり得ます。ただし、結果責任を問うことはできませんので、当該上司に期待されている役割上、実際に不正を防止できる状況にあったことが懲戒処分の前提となります。

経営陣の責任

渡辺
製造データ不正を行った企業の取締役・監査役および執行役員はいかなる法的責任を負うでしょうか。

西谷
経営陣が従業員に不正を指示するなど、自ら不正に関与していた場合には、当然、民事責任や、刑事責任を負担する可能性があります。
一方、経営陣自身が不正に関与していない場合であっても、従業員の不正行為を知りながら放置していたような場合や、内部統制システムの構築に不備があるような場合には、善管注意義務違反を根拠に民事責任が問われる可能性があります。

渡辺
製造データ不正案件において経営陣が負担する民事責任や刑事責任の具体的内容を教えて下さい。

西谷
民事責任については、製造データ不正により不良品を納入された取引先の損害を賠償する責任(職務を行うについて悪意または重過失があった場合の第三者に対する責任、会社法429条1項)の他、製造データ不正によって生じた企業の損害を賠償する責任(会社法423条1項)があります。後者については、企業が直接責任追及訴訟を提起する場合と、株主代表訴訟が提起される場合があります。

次に、刑事責任については、製造データを提出した先の自治体あるいは規格違反の製品を受領した取引先等から、詐欺罪や不正競争防止法違反罪(虚偽表示罪)で告訴・告発される可能性が考えられます。

渡辺
取締役や監査役を懲戒解雇することはできますか。

西谷
取締役や監査役と会社は委任関係にあり、従業員ではありませんので、従業員の地位を兼任している場合を除き、就業規則の適用はなく、したがって、懲戒解雇することはできません。企業としては、自主的な退任を求めるか、株主総会の決議(監査役の場合は特別決議)により解任する必要があります。

渡辺
取締役ではない執行役員は、取締役と同様の責任を負いますか。また、雇用型か、委任型かで負担する責任に違いはありますか。

西谷
執行役員は任意の役職であり、会社法上の機関ではありませんので、取締役とは異なり、会社法上の対第三者責任(会社法429条1項)や会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)に問われることはなく、また、株主代表訴訟の対象となることもありません。ただし、民法上の一般不法行為等を根拠とする民事責任や刑事責任を負担する可能性はあります。以上の点は、雇用型か、委任型かで違いはありません。

なお、執行役員の解任については、雇用型の場合は、労働法の適用により解雇権濫用法理に反した解雇は無効となるのに対し、委任型の場合は、正当な理由がない場合であっても、任期満了により、あるいは任期途中の解任によって契約関係が終了し得るという違いはあります。ただし、契約形式が委任型であっても、実態に鑑みて労働法上の強行法規である解雇権濫用法理が適用される可能性があります5

渡辺
社内処分の一環として経営陣の報酬を減額する場合、具体的にはどの程度減額するのが通例でしょうか。

西谷
経営陣自らは不正に手を染めておらず、監督責任あるいは道義的責任が問われるにとどまる場合は、辞任・解任ではなく、報酬の減額をもって不祥事のけじめをつけることが多く見られます。たとえば、代表取締役は30%を3か月減額、不正を起こした部署の担当取締役は20%を3か月減額、非担当取締役は10%を3か月減額といったように、社会的・道義的責任の重い順に段差をつけることが通例となっています。

なお、減額率や月数はケース・バイ・ケースであり、代表取締役の報酬額の50%を6か月減額としたケースもあります(2016年の海洋土木大手企業による東京国際空港の地盤改良工事における施工データ改ざん案件参照)

渡辺
経営陣の報酬を減額する場合、企業としては、社外取締役や非常勤の監査役、あるいは顧問の報酬も減額する必要があるのでしょうか。

西谷
自ら不正に関与している場合は別ですが、不正事案において社外取締役、非常勤監査役や顧問の善管注意義務違反が認められるケースは稀であり、したがって、これらの役職者の報酬を減額する例は、一般的には少ないと言えます。ただし、社会的インパクトの大きい事案では、たとえば社外取締役や監査役の報酬の20%を3か月分「自主返上」するといったケースもあります(2015年の大手タイヤメーカーの建物の免震ゴムの性能データ改ざん案件参照)


  1. 参照:「燃費不正問題に関する調査報告書」(2016年8月2日) ↩︎

  2. 参照:「平成27年度 東京国際空港C滑走路他地盤改良工事における施工不良等に関する調査報告書」(2016年7月26日) ↩︎

  3. 組織が品質マネジメントシステム(QMS: Quality Management System)を確立し、文書化し、実施し、かつ、維持すること、また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善するために要求される規格(参照:日本工業標準調査会「ISO 9001について」) ↩︎

  4. 日本経済新聞「JIS法違反の罰金100倍、最大1億円 経産省方針 神鋼など不正続発受け管理体制も対象に」(2017年12月26日) ↩︎

  5. 詳細につき、松井真一「執行役員制度をめぐる理論と実務(下)」(商事法務)23頁以下 ↩︎

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