企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか

第2回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(後編)

コーポレート・M&A 公開 更新
渡辺 樹一 市川 佐知子

前回、「第1回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(前編)」では「一連の製造不祥事」から学ぶ教訓として、『「目標達成への強いプレッシャー」があり、かつ「風通しの悪い組織風土」があると不正が発生する』ことを述べ、その対応策として、合理的な数値目標と目標管理、従業員サーベイ(調査)等を通じた価値観の共有等があることをお伝えしました。

本稿の末尾には、「ERMにおいて取締役会が果たすべき役割」について、田辺総合法律事務所の市川 佐知子弁護士との対談形式のコラムを掲載しています。

不正行為が発覚しない根本的原因 -「組織風土」と「経営と現場の乖離」

『「風通しの悪い組織風土」の中で「経営と現場の乖離」があると不正が発覚しない』。これが「一連の製造不祥事」から学ぶ2つ目の教訓です

【製造関連の不正に関する「一連の製造不祥事」】

  1. 大手タイヤメーカーの建物の免震ゴムの性能データ改ざん(2015年)
  2. 準大手ゼネコンと建設会社等による共同住宅(マンション)の杭打ちデータ改ざん(2015年)
  3. 海洋土木大手企業による東京国際空港地盤改良工事における施工データ改ざん(2016年)
  4. 自動車メーカーによる軽自動車の燃費データ改ざん(2016年)
  5. 大手自動車メーカーの検査偽装(2017年)
  6. 鉄鋼・非鉄大手企業の品質データ改ざん(2017年)

調査報告書にて「取締役会等の重要な会議においても、杭事業に関する提案・報告が非常に少なく、杭事業に対する関心が低かった」1とされた2015年の準大手ゼネコンと建設会社等による共同住宅(マンション)の杭打ちデータ改ざんの事例(上記②)、経営陣は「現場への関心が低く、開発の状況や開発現場の事業環境について踏み込んで理解し、対処しようとする姿勢が欠けていた」、「経営陣は、商品開発プロジェクトに関する会議の場で、専ら事業性の観点から競合車に勝つための燃費達成を求めるばかりで、技術的観点からの燃費目標の実現可能性について積極的に議論を行ったといえるような形跡は見当たらない」2とされた2016年の自動車メーカーによる軽自動車の燃費データ改ざんの事例(上記④)など、現場の「無理だ」という声がトップに届かないという「風通しの悪い組織風土」の中で、経営陣が自ら現場の状況を知ろうとしない、あるいは現場の状況を適切に監視する仕組みを保持しないという「経営と現場の乖離」があると不正の事実がトップに発覚することは非常に難しくなります。

「経営判断を間違えないための条件」の喪失

コーポレートガバナンス・コードの原則4-2では、下記のような記載があります。

【コーポレートガバナンス・コード 原則4-2の取締役会の役割・責務(2)】

取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。(後略)

経営陣は企業価値の向上にむけて果敢なリスクテイクを行っており、そのリスクテイクを「経営判断の原則」が支えているわけです。

その意味で、現場の従業員が行った不正行為を長期間にわたって経営陣は知らず、それゆえ不正行為が是正されなかったことについての問題の本質は、「経営陣が業務執行の現場の事実・実態を把握している」という「経営判断を間違えないための条件」の喪失にあります。事実に基づく情報があれば、経営陣の判断はおのずとしかるべきものとなるはずであり、経営陣が現場の事実・実態を知らないことは、まさに、経営陣が経営判断を正しく行うという前提条件を失っている状況であり、経営に致命傷を与えかねません。

ガバナンス主導の内部統制の敷設の必要性

第1回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(前編)」で、「一連の製造不祥事」では、『社内のルールに反するような行為を現場の判断で行うことを余儀なくされるような状況が報告されている』と述べました。社内のルール=内部統制であり、その構築義務は取締役会にあります。穿った見方をすれば、経営者が「不正・不祥事を起こすな」と掛け声だけかけて内部統制の自治的な対策検討や意思決定を現場の管理職等に丸投げしていると言えなくもありません。

コーポレートガバナンス・コードの原則4-3の抜粋となりますが、「取締役会は、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。」とあります3

細かいテクニカルな内部統制の敷設は担当部署に任せるにしても、取締役会への報告事項を再整備するなど、経営上のリスクについて何か問題が発生した場合は取締役会にその情報が速やかに上がってくるような仕組みを造ることが経営判断を間違えないための条件となります。

その結果、新しいリスクを察知した場合は、取締役会として経営陣に対して必要な措置を採ることを促すなど、企業として適切に対応できるような体制が必要です。(もしもそのような仕組みはあるがそれが報告されないということであれば、それは組織風土の問題に帰結します。)

ここで、企業としての具体的な対応策について論じる前に、「一連の製造不祥事」にほぼ共通してみられた3つ目の事象、「閉鎖的な組織の弊害(タコツボ現象)」について触れさせてください。

閉鎖的な組織の弊害(タコツボ現象)

「一連の製造不祥事」の場合、ほぼ共通して「閉鎖的な組織の弊害(タコツボ現象)」がみられるのですが、それが「経営と現場の乖離」を増長させた形となりました。
経営効率の観点から、組織の細分化、専門化は不可欠です。ただし、それは権限移譲の仕方によっては、次のような危険性を伴います。

  • 細分化、専門化された各組織内の従業員が、それぞれ自分の組織以外で何が起きているのか知らず、また、知ろうともしなくなる。
  • 自分たちの文化やルールが当然なものに思えてしまうため、それらについての適切性やビジネス環境の変化等に伴う見直しの必要性などについてあらためて考える努力をしなくなる。
  • 組織としての部分最適を求める傾向となりがちになり、企業としての全体最適を追い求める視野を失う。
  • 組織が過度に硬直化し、危険なまでに強固に根を張ると、リスクが見逃され、また、魅力的なビジネスチャンスも見えなくなってしまう。

これらが、タコツボ現象と呼ばれる、閉鎖的な組織の弊害です。実際、2017年に発覚した鉄鋼・非鉄大手企業の品質データ改ざん問題(上記⑥)の調査報告書4では、経営のスピードと効率化を図るため、下位の組織の自律的運営を促進した結果、組織の規律は各組織の「自己統制力」に依存する状況となった旨の記述があります。

経営効率の観点から不可欠な組織の細分化、専門化を進めつつも、上述したような組織の閉鎖性に伴う危険性の問題をいかに克服してゆくかが経営陣の重要な課題となります。

【組織の閉鎖性(タコツボ現象)への対応例】

  1. 大規模な組織においては、部門の境界を柔軟で流動的にしておく。社員の移動や他部門との絆を深められる場所や制度を設ける
  2. 各部門が情報を抱え込み過ぎるとリスクが蓄積される。全員がより多くのデータを共有し必要に応じて活用できるようにする
  3. 組織体系や分類を定期的に見直す。それらについて、時代の変化に即した、社員の視野が広がる、イノベーションが生まれるような見直しを行う
  4. 大規模ではない組織においては、期間限定の目的達成型の組織横断的なプロジェクトチームの編成を行う(製品開発、市場調査、業務提携、M&Aなど)
  5. 報酬制度やインセンティブについて、組織同士が社内で競争関係に陥らないよう、組織同士が協力し合うことを促すような協調重視の制度を考慮する

ガバナンス主導の内部統制の敷設

「経営と現場の乖離」を生じさせないための企業の対応策の例を列挙すると以下の通りとなります。

  • 取締役会への報告事項を再整備する(前記4)
  • 経営陣が現場の状況を知るために、フォアフロント・ミーティング(経営陣と現場社員の懇談会)を行う
  • 役員会での議論を活性化させるなどにより経営者の現場状況の把握を促進する
  • 従業員サーベイ(調査)による定期的な組織風土の把握を行う(「第1回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(前編)」参照)
  • 内部監査を活用する
  • 取締役会の機能を強化する
  • 監査役の機能を強化する

上記のうち、取締役会の機能強化および監査役の機能強化については、製造不祥事に限られたことではないため、次回、第3回以降において詳しく述べることとします。

企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか、次回以降、2014年1月~2018年6月に上場企業によって公開された調査報告書173件の分析を行い、分類ごとに答えを導き出していきたいと思います。

第3回 企業不祥事事例の分類と分析、不正ではない不祥事とコンプライアンス経営の重要性


コラム「ERMにおいて取締役会が果たすべき役割」

取締役会の機能強化と社外取締役

渡辺
田辺総合法律事務所の市川 佐知子弁護士に伺います。2017年に起こった鉄鋼・非鉄大手企業の品質データ改ざん問題では、現場任せであった経営陣に批判が集まっているようですが、経営のお目付け役である取締役会は機能していたのか、社外取締役は何をやっていたのかについても目を向けるべきであると思います。全社的リスク管理(ERM:Enterprise Risk Management)において、取締役会が果たすべき役割は何かについて教えてください。

市川
企業不祥事が起きると、社外取締役は何をしていたのかという疑問や批判が沸き起こります。コーポレートガバナンス・コードの導入・定着と機を同じくして不祥事が目立ったためでしょう。
コーポレートガバナンス・コードでは複数の社外取締役を擁する取締役会が「攻めの経営」を支援する側面が強調されています。しかし、モニタリングモデルをとる取締役会の本来的な役割は、やはり執行部のお目付け役、守りの経営にあるように思えます。だからこそ本来的役割の失敗として疑問や批判が沸き起こるのです。

これは法的責任論とは別次元でなされる議論であり、失敗がイコール、裁判所も認める善管注意義務違反というわけではありません。しかし、役員のするべきこと、善管注意義務の具体的な中身についての社会の見方や実務を形作る議論です。法的責任のあり方をいずれ変えていくかもしれないことには注意が必要です。

渡辺
第三者委員会報告書にも、再発防止策の1つに取締役会の機能強化を挙げるものが多くあります。他方で、社外取締役に不祥事対策を期待することはそもそもできないという手厳しい意見もあります。

市川
不祥事への対策には、①未然に防ぐ、②事後でも早期に発見するという2つがあります。どちらも情報が必要であり、情報を持たない者にはできません。社外取締役は、業務執行している社内取締役に比べて、どうしても保有情報が少なくなります。

情報を持つ社内取締役でさえできないことが、社外取締役にできるわけがない、という指摘はもっともです。この指摘は次の2つのポイントに分解できます。①情報のない社外取締役には期待できない、②しかし肝心の情報は実は社内取締役にもない、ということです。
これを正すため、まず社外取締役の保有情報を増やす必要があります。また、情報を持つ人が予防・申告しようと思ったとき、それを阻む空気や慣習のような社内の縛りを何とかしなければなりません。

社外取締役が企業のリスクを正確に把握するための視点

渡辺
社外取締役が保有情報を増やす、特に企業を取り巻くリスクを正確に把握するために有益な視点は何ですか。

市川
視点を3つご紹介しましょう。
まず大きさです。執行部が考える大きなリスク、たとえば5つを挙げるとして、社外取締役はそれを知っているでしょうか。リスクの大きさを財務諸表の勘定項目から測るのも一手だと思います。自動車のリコール隠しという不祥事は、会計的には製品保証引当金の過少計上と見ることができます。品質保証というと執行部、特に技術関連部門の責任であり、取締役会が口を挟める余地は少ないように感じますが、引当金の適正な計上というと、取締役会が議論すべき話題に変わってきます。

次に、不祥事年表です。不祥事と無縁という企業はあまりありません。どこの企業も、大きな歴史で見れば、不祥事を起こし、再発防止策を組んで運用に注力し、時が経って危機意識が薄れ、気が緩んで再発するというサイクルを繰り返しているのです。このサイクルの中で、企業が今どこの位置にあるか、社外取締役は知っているでしょうか。不祥事年表を執行部と確認すれば、リスクの内容、その変遷も知ることができます。

最後に、自分中心目線です。内部統制システムが全くない企業はありません。ある人が社外取締役に就任するときには、既に前期までの取締役会が構築したシステムがあり、執行部が運用しています。しかし、それが今あるリスクに見合っているのか、自分なりに納得できるでしょうか。前任者の判断に依存することは職務上の過誤の典型です。企業が晒されるリスクは、社外取締役個人が損害賠償させられるリスクの基礎をなします。会社のリスクを評価することは、個人としてとるリスクの評価でもあるわけです。

社外取締役は、これらの視点を持って企業のリスクをなるべく正確に理解することが大切です。さらに大切なのは執行部と議論し、認識を共有することだと思います。執行部はかなりの時間と資金を使って、ERMとしてリスクマッピングを行っているはずで、それを社外取締役にも共有すべきです。

社外取締役の情報収集には社内研修への参加が有用

渡辺
リスクを知った後、企業の対処方法について情報収集するには、社外取締役に何ができるでしょうか。

市川
社内研修に同席してみてはどうでしょうか。把握した大きなリスクについてキーパーソンに向けた教育がどのように行われているのか、肌で感じることができます。

不祥事の再発防止策として社内研修の充実は定番中の定番です。しかし一口に社内研修といっても色々です。自社の特殊性を考慮に入れず既製品の研修を輸入するだけ、著名な有識者を招へいするだけ、一方的な講義だけ、というものもあります。また、テーラーメイドで作り込み、議論参加型のお金のかかる研修コースを作っても、研修費はコスト削減要請があると真っ先に削られます。不祥事のサイクル中、危機意識減退期には改修の予算は出にくくなっているでしょう。
研修を見れば、大きなリスクへの対処の合理性のほか、企業の真剣度も見えるはずです。執行部にとっても、特別な準備作業は不要で、負担は少ないはずです。

社外役員と従業員がコミュニケーションをとる機会を許容する

渡辺
情報を持つ人が予防・申告しようと思ったとき、それを阻む空気や慣習のような社内の縛りへの対処として何ができるでしょうか。

市川
執行部トップのトーンを変えさせ、企業風土を刷新して、縛りを解くことが本来必要です。しかし容易ではありません。
他方で、情報を流す横道を作ることは比較的容易です。不正行為の事前または事後に誰かに相談したい、しかし社内ルートは適さないとき、社外役員に相談できるルートが存在することには大きな意味があると思います。しかしこのルートを知る従業員は少ないでしょうし、知ったとしても使用する上でのハードルはかなり高いでしょう。

したがって周知と使いやすくするための工夫が必要となります。社外役員と従業員との間に接点を作り、コミュニケーションをとる機会を設けることは、周知と工夫両方に有効です。そしてそのような機会を許容する執行部の姿勢が、嫌な情報でも聞きたいというトップのトーンを設定することになり、風通しの良い企業の風土を醸成していくという効用もあると思います。


  1. 「建設会社が施工した杭工事の施工データ流用の問題に関する中間報告書」(2016年2月9日) ↩︎

  2. 「燃費不正問題に関する調査報告書」(2016年8月1日) ↩︎

  3. 会社法362条4項6号、5項、会社法施行規則100条の定めでもあります。 ↩︎

  4. 「鉄鋼・非鉄大手企業グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止策に関する報告書」(2017年11月10日) ↩︎

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