民法改正(債権法改正)と不動産取引への影響

第5回 建築請負契約の留意点(その1)

取引・契約・債権回収

目次

  1. 民法(債権法)の改正に伴う建築請負契約の注意点
  2. 建築請負契約における契約不適合責任に関する留意点
    1. 契約不適合責任の成立要件に関して留意すべきポイント
    2. 契約不適合責任に基づく注文者の救済手段に関して留意すべきポイント
  3. 関連法の改正についての留意点

民法(債権法)の改正に伴う建築請負契約の注意点

 2017年5月26日に、民法(債権法)の改正法案(以下「改正民法」といいます)が成立し、2020年4月に施行されることになりました。
 建築請負契約その他の不動産取引において用いられている契約書は、現行の民法を前提に作成されていますが、改正民法には、現行民法とは大きく異なる規定が多数存在しています。そのため、今後は、現在使用している契約書の各条項について、改正民法でどのように変わるのかを確認したうえで適切に見直すことが必要不可欠となります。

 前回は、『第4回 建物建築請負契約に関連する改正民法の概要』と題して、改正民法で新たに規定された「請負における契約不適合責任」、判例を踏まえて改正、明文化された「請負における仕事未完成の場合の報酬請求権」などの概要について説明しました。

 本稿からは、民法改正による建築請負への影響および建築請負契約の注意点について説明します。本稿においては、まず建築請負契約における契約不適合責任に関する留意点を解説します。

 なお、民法改正による建築請負への影響および建築請負契約の注意点については、売買契約に関する留意点と基本的に同様ですので、『第2回 不動産売買契約の留意点(契約不適合責任)』も参照ください。

建築請負契約における契約不適合責任に関する留意点

 『第4回 建物建築請負契約に関連する改正民法の概要』で説明したとおり、民法の売買に関する規定は、当事者が互いに対価的意義を有する給付をする有償契約一般に適用されることから(改正民法559条)、売買の契約不適合責任の規定は請負にも準用されます(これは現行民法においても同様です)。

 改正民法では、請負についても売買と同様に、仕事の目的物に瑕疵があった場合の注文者の修補請求権・損害賠償請求権(現行民法634条)、契約解除(現行民法635条)の規定(瑕疵担保責任)を削除し、新たに「種類又は品質に関して契約内容に適合」する仕事の目的物を引き渡す責任を規定しました(改正民法636条)。

契約不適合責任の成立要件に関して留意すべきポイント

(1)「契約の内容」に関する契約条項

 『第4回 建物建築請負契約に関連する改正民法の概要』で説明したとおり、改正民法では、「請負人は、性能、品質、規格等において契約の趣旨に適合した仕事を完成させる義務を負っている。(中略)ここでいう「契約の趣旨」は、契約で明示的に合意されていた内容だけでなく、その契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づいて定まる。仕事の目的物が性能、品質、規格等において契約の趣旨に適合しないものであるときは、これを修補して契約の趣旨に適合したものにする義務を負う。」とされています(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(平成25年7月4日補訂)」(以下「補足説明」といいます)第40「請負」・2「仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任」(478頁)参照)。

契約の内容に関するトラブルを避けるためのポイント

 しかし、不動産売買契約と同様、改正民法下においては、「契約の内容」とは何かが必ずしも明らかではないため、その解釈を巡って争いになる事態が予想されます。また、改正民法下では、裁判所が、現行法下での「瑕疵」とは異なる解釈を採る可能性もあります。後の紛争をできる限り予防し、不測の損害を被る事態を避けるためには、建築請負契約書において、契約をした動機・目的や契約締結に至る経緯等をできるかぎり明確にすることが重要です。

 また、建築請負契約においては、設計図、仕様書(特記仕様書、標準仕様書)のほか、現場説明書や質問回答書その他の関連資料等に具体的に契約の内容(目的物の仕様等)等が記載されるのが通常です。

 もっとも、①実務上、建物の仕様は請負契約締結時にすべて詳細に特定されるとは限らず、詳細は設計、施工を進めながら徐々に形成、変更を重ねて特定していく場合があること、また、②「性能発注」による発注(性能要件や技術水準を提示して発注する方式)がなされる場合があること、など建築請負の特殊性を踏まえて「契約の内容」を判断する必要があることに留意すべきです。詳細は、井上治「不動産再開発の法務 –都市再開発・マンション建替え・工場跡地開発の紛争予防」(商事法務、2017年)376頁等もご参照ください。

【留意すべきポイント】
  • 「契約の内容」を明確にするために、契約をした動機・目的、契約締結に至る経緯が明確になっているか?
  • 「契約の内容」として、目的物の仕様等が明確になっているか?
  • 建築請負の特殊性(段階的な仕様の確定、性能発注等)を踏まえて「契約の内容」が判断されているか?

(2)「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図」による不適合の場合

 なお、前述のとおり、「契約の内容に適合しない」仕事の目的物が注文主に引き渡された場合、注文者には、損害賠償請求、追完(修補)請求、報酬減額請求、契約解除が認められますが、「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」については、これらの請求が認められません(改正民法636条本文)。

 ただし、当該不適合に関し、「請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったとき」は除かれます(改正民法636条ただし書)。

 ここでいう「指図」には、注文者の単なる希望などはあてはまらず、請負人を拘束する性質のものに限るとして厳格に解すべきであるとされています(東京地裁平成3年6月14日判決・判時1413号78頁)。実際、発注者の希望の表明なのか指示なのかの判断は微妙な問題であり、発注者の言動だけでなく、当該工事の内容、当事者の当該問題についての知識、従来の関係、それに至る経過などを総合的に判断して、請負人を拘束するものであったかどうかを判断するほかないとされています。
 詳細は、前掲・井上381頁以下等もご参照ください。

契約不適合責任に基づく注文者の救済手段に関して留意すべきポイント

 前述したとおり売買の契約不適合責任の規定は請負にも準用されますので、改正民法では、契約不適合の状態に応じて、①追完(修補)請求(改正民法562条1項)、②報酬減額請求(改正民法563条1項、2項)、③契約の解除(改正民法564条、541条、542条)、④損害賠償請求(改正民法564条、415条)が認められることになります。

(1)追完(補修)請求に関する契約条項

 改正民法では、売買と同様に、請負人が契約の内容に適合しない目的物等を引き渡した場合には、履行が不能である場合等を除き、注文者には追完請求権が認められます(改正民法559条、562条1項)。追完の方法には、修補が含まれます。
 追完請求のうち、履行の方法が複数ある場合には注文者に選択権がありますが、「注文者に不相当な負担を課すものではないとき」は、請負人は注文者の請求とは異なる方法での履行の追完をすることが可能とされています。

追完(修補)の方法選択によってトラブルを避けるためのポイント

 『第4回 建物建築請負契約に関連する改正民法の概要』で説明したとおり、請負人は、注文者に不相当な負担を課するものでないときは、注文者が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができます(改正民法562条1項)。

 ここで問題となるのは、追完方法・修補方法について、注文者・請負人間で見解の対立が生じるようなケースです。注文者が建築建物の施工を初めからやり直す(建替えその他の完全な追完)ことを要求する一方で、請負人は欠陥として認められる範囲の必要最小限の修補工事(相対的にコストの安価な必要最低限の対策)により対応することで、争いとなることが想定されます。実際、現行民法下においても、補修方法をめぐって争いとなるケースは少なくありません。

 後の紛争をできる限り避けるためには、建築請負契約書において、追完(修補)方法をあらかじめ規定しておくか、もしくは、注文者(または請負人)のみが追完方法を指定できることを明確にしておくことなども考えられます。

【留意すべきポイント】
  • 追完(修補)の内容として求める目的物の性状・状態が明確になっているか?
  • 追完(修補)方法や、追完(修補)方法の選択権者は明確になっているか?
追完(修補)不能の判断基準を明記することによってトラブルを避けるためのポイント

 『第4回 建物建築請負契約に関連する改正民法の概要』で説明したとおり、改正民法では、修補請求をすることができるか否かは、履行不能の規定(改正民法412条の2)により「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるとき」にあたるか否かで判断されることになります(補足説明・第9「履行請求権等」・2「契約による債権の履行請求権の限界事由」(106頁)参照)。

 たとえば、目的物の建替えや修補に過大の費用を要する場合に、履行の追完をすることが不能と判断され、報酬減額、契約解除、損害賠償などによって対応することを求められる場合もあります。しかし、どのような場合であれば(どの程度の状況となれば)追完不能とされるのかは必ずしも明らかではありません。

 そこで、後の紛争をできる限り避けるためには、建築請負契約書において、追完・修補に過大の費用を要する場合(たとえば、「追完・修補に要する金額が○円を超える場合」、「追完・修補に要する金額が請負代金額の○割を超える場合」)には修補を行わず、他の救済措置で対応する旨を明記することも考えられます。
 不動産取引の規定についてではありますが、猿倉健司「不動産業・建築業の債権法改正対応【連載】第1回 不動産業(売買)(その1)」(ビジネス法務2018年2月号)99頁もご参照ください。

【留意すべきポイント】
  • どのような場合に契約の追完(修補)が不能となるかが明確になっているか?

(2)報酬減額請求に関する契約条項

 改正民法では、請負人が契約の内容に適合しない目的物等を引き渡した場合には、注文者の責めに帰すべき場合を除き、報酬減額請求権が認められます(改正民法559条、563条1項、2項)。

報酬減額の算定方法や算定基準を明確にする

 『第2回 不動産売買契約の留意点(契約不適合責任)』で説明したのと同様に、報酬減額の算定方法は実務上問題となる可能性があります。この点について、改正民法では「不適合の程度に応じて」報酬の減額を請求できると規定されているのみで、具体的な算定方法は明らかではありません(改正民法563条)。

 そのため、算定方法に疑義が生じないようにするために、建築請負契約書において、報酬減額請求の算定方法や算定基準時等について定めておくことが考えられます。たとえば、(契約締結時または引渡し時の)“適合物であれば有する価値”“実際に引き渡された不適合物の価値”の差額を減額することなどが考えられます。算定方法の詳細については、前掲・猿倉100頁もご参照ください。

【留意すべきポイント】
  • 報酬減額請求の算定方法や算定基準時が明確になっているか?

(3)損害賠償請求の要件に関する契約条項

 改正民法においては、契約不適合があっても、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」は、損害賠償請求をすることはできません(改正民法415条1項ただし書)。

請負人の帰責事由がない場合の損害賠償請求を明記する(注文者の立場から)

 そのため、現行民法と同様に、注文者(債権者)が請負人(債務者)に無過失責任を負わせたい場合には、建築請負契約書においてその旨を明記することが考えられます。

【留意すべきポイント】
  • 契約不適合責任に基づく損害賠償請求について、請負人に無過失責任を負わせる特約が規定されているか?
帰責事由の立証責任を注文者に負わせたい場合(請負人の立場から)

 契約不適合責任に基づく損害賠償請求において、「債務者の責めに帰することができない事由によるものである」かどうか(債務者の帰責事由)の立証責任は、債務者側にあります。そのため、請負人(債務者)が、帰責事由の立証責任を注文者に負わせたい場合(立証責任を転換したい場合)には、建築請負契約書において、その旨を明記する必要があります。

【留意すべきポイント】
  • 契約不適合責任に基づく損害賠償請求について、帰責事由の立証責任が債権者(注文者)に転換されているか?

(4)損害賠償請求の賠償対象・範囲に関する契約条項

損害賠償の対象・範囲設定を明確にする

 『第2回 不動産売買契約の留意点(契約不適合責任)』で説明したのと同様に、実際の紛争において認められる損害賠償の対象や範囲は必ずしも明確とはいえません。

 そこで、後の紛争を避けるために、建築請負契約書においても、以下のように損害賠償の対象や範囲を明記しておくことが例として考えられます。この場合、注文者としては損害賠償の範囲をできる限り広くすることを希望し、他方で、請負人としてはできる限り限定することを希望するものと考えられます。

 下記は、それぞれの立場から希望することが考えられるいくつかの例となります。

立場 契約書に明記する損害賠償の対象や範囲
注文者 被った一切の損害を賠償範囲に含める
請負人 通常かつ直接の損害に限定する(間接損害や予見すべき特別事情による損害を排除する)
請負人 損害賠償額の上限を設定する
注文者
請負人
損害賠償額を固定額とする(損害賠償額の予定)
【留意すべきポイント】
  • 損害賠償の対象・範囲について明確になっているか?
    1. 被った一切の損害を賠償範囲に含めたい場合
    2. 通常かつ直接の損害に限定したい場合(間接損害や予見すべき特別事情による損害を排除したい場合)
    3. 損害賠償額の上限を設定したい場合
    4. 損害賠償額を固定額としたい場合(損害賠償額の予定)
損害賠償費用の項目を明記する

 また、後の紛争をできる限り避けるためには、これまでの裁判例において損害賠償の対象として認められるかどうかが争いとなった費用項目等について、必要に応じて、建築請負契約書において、注文者(または請負人)が負担すべき具体的な損害項目として明記することも考えられます。

 具体的な損害項目については、前掲・井上398頁以下等もご参照ください。

【留意すべきポイント】
  • 契約不適合責任に基づく損害賠償請求について、注文者または請負人が負担すべき費用・損害項目が明確となっているか?

(5)契約の解除に関する契約条項

 『第4回 建物建築請負契約に関連する改正民法の概要』で説明したとおり、改正民法下では、現行民法における請負契約解除の規定(現行民法635条)が削除され、債務不履行による契約の解除に関する一般的な規定に委ねられることになりました。そのため、請負についても、売買と同様に、追完の催告期間経過後に債務の不履行が「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微である場合」には契約解除ができないこととされました(改正民法564条、541条ただし書)。

契約解除するための要件を明確にする(請負人の立場から)

 もっとも、ここにいう「軽微である場合」の内容は必ずしも明確ではなく、現行民法にいう「契約をした目的を達成することができない場合」(現行民法635条本文)と必ずしも同一の場合を指すものであるとは限らないため、注意が必要です。たとえば、“契約目的は達成できる”が“軽微とは言えない”欠陥が存在した場合、現行民法では契約解除できなかったものが、改正民法では契約解除できることになりうるということです。また、現行民法では、「建物その他の土地の工作物」については請負契約の解除ができませんが(現行民法635条ただし書)、改正民法ではこのような制限はなくなります。

 これらの点については、注文者にとっては契約を解除しやすくなることを意味しますが、逆に請負人として解除される事態を限定したいということであれば、建築請負契約書において「契約をした目的を達成することができない場合」場合に限り契約解除を認めること、または、契約解除が認められない場合の条件を明記するなど、契約解除することができる場合を明確にしておくことなども考えられます。

【留意すべきポイント】
  • 契約解除が認められない場合(債務不履行が「軽微である」場合)がどのような場合か明確になっているか?
  • 「契約をした目的を達成することができない」場合、債務不履行が「軽微である」場合のいずれの場合に契約解除ができるのか明確になっているか?
債務者(請負人)の帰責事由がない場合の契約解除を避ける(請負人の立場から)

 さらに、『第2回 不動産売買契約の留意点(契約不適合責任)』で説明したのと同様に、現行民法とは異なり、契約解除に債務者(請負人)の責めに帰すべき事由は必要とされていません。

 このことは、注文者にとっては契約を解除しやすくなることを意味しますが、逆に請負人として解除される事態を限定したいということであれば、建築請負契約書等において手当てすることが必要となります。たとえば、契約不適合を理由とする契約解除の要件として請負人の帰責事由を要件としたい場合には、建築請負契約書において、その旨を明記する必要があります。

【留意すべきポイント】
  • 請負人に帰責事由がある場合にのみ契約解除ができる契約条項となっているか?
契約解除が認められない事由の立証責任・判断権者を明記する

 改正民法では、債務不履行の程度が「軽微である」ことについては、契約解除を主張される債務者(請負人)側で主張立証しなければならないことになります。そのため、請負人として、立証責任を注文者に負わせたい場合(立証責任を転換したい場合)には、建築請負契約書において、その旨を明記することが考えられます。

 また、債務の不履行が「軽微である」かどうかは必ずしも明確ではなく紛争となる可能性があります。注文者として、この点についての解釈を巡った紛争を予防するためには、建築請負契約書において、注文者が「軽微である」と合理的に判断した場合には契約を解除することができることなどを明記しておくということが考えられます。

【留意すべきポイント】
  • 契約解除する場合について、債務の不履行が「軽微である」ことの立証責任が債権者(注文者)に転換されているか?
  • 契約解除する場合について、債務の不履行が「軽微である」ことの判断権者が明確になっているか?

関連法の改正についての留意点

 具体的な取引においては、当該条項が無効と判断されないように、公序良俗や、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)(新築住宅の請負のケースなど)、消費者契約法(注文者が個人のケースなど)、その他の法令等の適用がないか、同法令等に違反するおそれがないかどうかも確認のうえで、適切な契約条項とする必要があります。

 そのため、関連法の改正について規定している「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」についても、注意が必要です。

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