その発注で大丈夫?フリーランスも独禁法の対象に 公取委初の判断で働く環境は改善されるか

競争法・独占禁止法

「人材と競争政策に関する検討会」報告書、公表の経緯

 平成30年2月15日、公正取引委員会が、有識者で構成される検討会の報告書、「人材と競争政策に関する検討会」報告書(以下、「本報告書」といいます)を公表しました。今後、同報告書で示された考え方を、独占禁止法の運用上の指針とすることが明らかになっています(平成30年2月21日付 事務総長定例会見記録)。

 後述するとおり、従来型の雇用関係とは異なる新しい働き方の一つとして、近年フリーランスが注目され、政府もこれを後押ししています。しかしながら、弱い立場にあるフリーランスとして働く方々をいかにして保護するかについては十分に制度が整備されているとは言えません。
 本報告書は、こうしたフリーランスに対して独占禁止法を適用するとともに、これを適用する上での考え方を整理して明らかにしたもので、極めて重要です。

 本稿では、この「人材と競争政策に関する検討会」報告書において、フリーランスに対するいかなる行為が独占禁止法上問題とされているか、大部にわたる報告書から主なものを取り上げてご説明します。
 なお、同報告書については、今後、全国主要都市において公正取引委員会による説明会が実施される予定です(「人材と競争政策に関する検討会」報告書に関する説明会について)。

「人材と競争政策に関する検討会」報告書の背景

個人として働く者の増加

 本報告書は、企業と労働契約を結ぶことなく働くフリーランスなどを独占禁止法で保護するうえでの考え方を整理したものです。従来型の雇用契約ではなく「個人として働く者」として、システムエンジニア、プログラマー、IT技術者、記者、編集者、ライター、アニメーター、デザイナー、コンサルタントといったフリーランスを検討の対象としています(本報告書第1の2(1))。なお、このほか、スポーツ選手・芸能人を含む幅広い職種や、通常の労働者も念頭に検討を行っています。

 また、フリーランスを含む「個人として働く者」が、「終身雇用や年功序列を前提とした雇用システムでは個人の多様な就労ニーズに対応しきれない状況があることや、オープンイノベーションの推進やITの進展により外部人材の重要性が増していること、インターネット上で企業と人材のマッチングが容易になったこと」を背景に、増加しつつあります(本報告書第1の1(1))。

多様で柔軟なワークスタイルの促進

 政府は、2017年12月8日、「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定し、従来の雇用契約の枠組みにとらわれない「多様で柔軟なワークスタイルの促進」について取りあげています。その中で、フリーランスやクラウドソーシングなどの雇用関係によらない働き方について、実態や課題の把握等に取り組み、その結果を踏まえつつ、2018年度から、労働政策審議会等において、法的保護の必要性を含めた中長期的な検討を進めるとしました。
 このように、労働の分野において、フリーランスは新たな形態の労働の担い手としてその存在感を高めています。

フリーランス人材等に対する制度的保護の必要性

 他方、こうしたフリーランス人材は、発注者との間で、情報や知識、交渉力に格差があることなどから、実質的に発注者側が一方的に決定した契約条件で取引することを強いられるといった問題が指摘されていました(「平成26年度今後の在宅就業施策の在り方に関する検討会報告書」10頁~12頁)。しかも、フリーランス人材は、こうした弱い立場にありながら、従来型の雇用関係における「労働者」には該当しないため、労働基準法・最低賃金法等による保護が受けられず、制度的な保護が極めて不十分な状況にありました。

 本報告書は、そういった問題について、働き方の多様化促進過渡期にある我が国においては、「個人として働く者」の増加に社会全体が対応しきれておらず、「個人として働く者」にそのしわ寄せが生じている可能性を示しており、独占禁止法の適用に係る考え方を整理することは、喫緊の課題となっているとしています(本報告書第1の1(2))。

 つまり、本報告書は、弱い立場にあるフリーランス人材等を保護するために、独占禁止法の適用可能性を整理したものということができます。

規制の対象となる行為の例

 では、本報告書が独占禁止法上問題となりうるとし、摘示した行為についてみていきます。
 本報告書は、広く独占禁止法上問題となりうる行為を類型化し、それぞれについて独占禁止法を適用するうえで考慮すべき事情を列挙しています。本稿ではそのうち、報告書内でより具体的に摘示されている行為について説明します。

 その際、本報告書の語法に従い、下記のように表記します。

  • 発注者:フリーランスなどに仕事を発注する企業等
  • 役務提供者:発注者から仕事を受注するフリーランスなどの「個人として働く者」として本報告書が検討の対象としている者

 なお、これらの行為もただちに独占禁止法上違法となるものではなく、個々の取引に存する個別の事情に応じて、最終的な判断がなされることになります。

秘密保持義務・競業避止義務

 発注者が役務提供者に対して、発注者への役務提供を通じて知り得た技術・顧客情報といった営業秘密や、その他の秘密情報を漏えいしないことを内容とする秘密保持義務を課す場合があります。また、発注者は、役務提供者に対してその契約終了後に、発注者と競合する者へ一定期間役務提供を行わないことを内容とする競業避止義務を課すことがあります。

 これらの秘密保持義務および競業避止義務は、その目的に照らして合理的な範囲で課される場合には、ただちに独占禁止法上問題となるものではないとしながらも、下記の場合については独占禁止法上問題になりうると指摘しています(本報告書第6の2)。

  • 発注者(使用者)が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をし、または、あらかじめ十分に明らかにしないまま、役務提供者がそのような義務を受け入れている場合
  • 発注者(使用者)の取引上の地位が役務提供者に対して優越しており、発注者が課す秘密保持義務または競業避止義務が不当に不利益を与えるものである場合

秘密保持義務・競業避止義務

 その上で、「不当に不利益を与えるものか否かは、これら義務の内容や期間が目的に照らして過大であるか、役務提供者に与える不利益の程度、代償措置の有無及びその水準、これら義務を課すに際してあらかじめ取引の相手方(役務提供者)と十分な協議が行われたか等の決定方法、他の取引の相手方(役務提供者)の条件と比べて差別的であるかどうか、通常の競業避止義務及び秘密保持義務との乖離の状況等を考慮した上で判断される」(本報告書第6の2)としています。

【「秘密保持義務・競業避止義務」について独占禁止法上問題となるか?の判断ポイント】
  • 義務の内容や期間が目的に照らして過大であるか
  • 役務提供者に与える不利益の程度、代償措置の有無およびその水準
  • 義務を課すに際してあらかじめ取引の相手方(役務提供者)と十分な協議が行われたか等の決定方法
  • 他の取引の相手方(役務提供者)の条件と比べて差別的であるかどうか
  • 通常の競業避止義務および秘密保持義務との乖離の状況

専属義務

 発注者が、役務提供者に対して自らとのみ取引をする義務を課す専属義務についても言及しています。

 専属義務については、その目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で専属義務を課すことは、ただちに独占禁止法上問題となるものではないとしつつ、下記の場合については独占禁止法上問題になりうると指摘しています(本報告書第6の3)。

  • 発注者が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をし、または、あらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者がそのような義務を受け入れている場合
  • 役務提供者に対して取引上の地位が優越していると認められる発注者が課す専属義務が、役務提供者へ不当に不利益を与えるものである場合

など

専属義務

 そして、ここにいう「不当に不利益を与える」の判断については、「役務提供者が今後事実上移籍・転職ができなくなるほどの程度である場合、その不利益の程度は相当大きい」とし、また、「契約期間終了後は再契約をしないとの意向を示した役務提供者に対して、それを翻意させるために、発注者が役務提供者に対して、報酬の支払遅延や業務量の抑制などの不利益な取扱いをしたり、悪評の流布等により取引先変更を妨害し再度契約を締結させたりするといった行為についても、不利益の程度がより大きくなる場合がある」としています(脚注82)。

【「専属義務」について独占禁止法上問題となるか?の判断ポイント】
  • 役務提供者が今後事実上移籍・転職ができなくなるほどの程度である
  • 契約期間終了後は再契約をしないとの意向を示した役務提供者に対して、発注者が報酬の支払遅延や業務量の抑制などの不利益な取扱いをする行為
  • 契約期間終了後は再契約をしないとの意向を示した役務提供者に対して、発注者が悪評の流布等により取引先変更を妨害し再度契約を締結させたりするといった行為

成果物の利用制限

 発注者が、役務提供者に対して、提供する役務により生ずる成果物について、次のような義務を課すことは、独占禁止法上問題があると指摘しています(本報告書第6の4)。

  1. 成果物について自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務付けること(成果物の非公表の義務付け)
  2. 成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止すること(成果物の転用制限)
  3. 役務提供者の肖像等の独占的な利用を許諾させること(肖像等の独占的許諾義務)
  4. 著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず、納品後や納品直前になって著作権を無償または著しく低い対価で譲渡するよう求めること

(1)成果物の非公表義務

 発注者が、役務提供者から提供された役務を利用して製作等した成果物を自らの成果物であるとして公表する一方で、役務提供者に対して自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務(成果物の非公表義務)を課すことがあります(①)。

 たとえば、質の高い成果物を製作できる役務提供者について、その名前が広く知られてしまうと、当該役務提供者に対する発注が増加し、発注者が再び発注しても受注してもらえる可能性が低くなってしまいます。そこで発注者は、その役務提供者を囲い込む目的で、役務提供者へ合理的な理由なく義務を課すことが考えられます。

 他方、このような義務を課されることは、役務提供者にとっては、自らが役務を提供したという事実が、受注を獲得する上で重要な競争手段となっている場合、他の発注者との新たな取引を制限する効果が生じます。
 そこで本報告書では、このような成果物の非公表の義務付けが独占禁止法上問題となりうるとしています。

成果物の非公表義務

(2)成果物に対する権利制限

 役務の成果物について、役務提供者に一定の著作権等の権利が発生する場合に、発注者がそれについて制限を課すことがあります。たとえば、発注者が成果物の転用制限をしたり(②)、役務提供者の肖像等の独占的な利用を許諾させたり(③)、著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず、納品後や納品直前になって著作権を無償または著しく低い対価で譲渡するよう求めることがあります(④)。
 これらの制限についても、本報告書では、独占禁止法上問題となりうるとしています。

(3)その他の場合

 また、これらの行為について、

  • 発注者が役務提供者に対して義務・制限等の内容について実際と異なる説明をし、または、あらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者がそのような義務・制限等を受け入れている場合
  • 発注者が優越的地位にある場合

にも、独占禁止法上の問題となりうるとも指摘しています(本報告書第6の4)。

発注者が役務提供者に対して実態より優れた取引条件を提示すること

 発注者(使用者)が役務提供者に対して事実とは異なる優れた取引条件を提示し、または役務提供に係る条件を十分に明らかにせず、役務提供者を誤認させ、または欺き、自らと取引するようにすることが、独占禁止法上問題となり得るとしています(本報告書第6の5)。

 こうした行為は、役務提供者が、発注者が提示する取引条件を正確に理解した上で提供先を決定することができず、加えて、正しい取引条件を提示する他の発注者(使用者)にも不利益をもたらすものだからです(本報告書第6の5)。

発注者が役務提供者に対して実態より優れた取引条件を提示すること

その他発注者の収益の確保・向上を目的とする行為

 発注者による以下の行為が、優越的地位の濫用の観点から独占禁止法上の問題となる場合があるとしています(本報告書第6の6)。

  1. 代金の支払遅延、代金の減額要請および成果物の受領拒否
  2. 著しく低い対価での取引要請
  3. 成果物に係る権利等の一方的取扱い
  4. 役務提供者が得ている収益の一部の譲渡の義務付け

 これらの行為は従来から「下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)」によっても規制されており、下請法の要件を満たせば、同法が適用されることになります。ただ、下請法には、発注者と役務提供者の資本金の規模や取引の内容等の要件があります。そこで本報告書は、下請法の要件を満たさず適用できない場合においても、独占禁止法上問題となりうるとしています(本報告書第6の6)。

その他発注者の収益の確保・向上を目的とする行為

最後に

 以上、本報告書についてみてきましたが、同報告書が発注者とフリーランスとの取引について相当程度具体的に言及していることがご理解いただけたかと思います。フリーランスとの取引がある企業にとっては、その取引に問題がないかを見直す基準として、また、フリーランスの方にとっては、自らの権利保護のために、本報告書の活用は今後必須になるでしょう。

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