法務部に配属されたあなたへ

第2回 6人の先輩に聞きました、法務部員にとって大切なものは何ですか?

法務部

新しく法務部門へ配属された皆様に向けて、企業法務の第一線で活躍される先輩たちからメッセージをいただきました。新しい環境への期待を抱く方や、突然の異動で不安な方にとっても、これから法務パーソンとして活躍するための指針となるはずです。

第2回は日清食品ホールディングスでCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)を務める本間正浩氏、グリー株式会社執行役員 法務総務部長の梅屋 智紀氏、シティライツ法律事務所の水野 祐弁護士、アサヒビール株式会社経営企画部 担当副部長の永島 康正氏、担当課長・弁護士の中谷 裕子氏、そして匿名でご協力いただいた都内のIT企業で法務を担当されているアイさん(仮名)からのメッセージをお届けします。

様々な視点から、新しく法務部員になった際の心構え、これから学ぶべきことについて伺いました。

法律の専門家としての能力を磨き、謙虚な姿勢を貫け

日清食品ホールディングスの本間正浩氏からは、インハウス・ロイヤーとしての心構えを伺いました。1990年代、日本ではまだ30人ほどしか企業内弁護士がいなかった時代から企業内での経験を重ねた本間氏ならではのメッセージです。

  • 本間 正浩
  • 日清食品ホールディングス株式会社
    執行役員 CLO(グループ法務責任者)、ジェネラルカウンセル、弁護士
  • 1989年に千代田国際経営法律事務所に入所。その後、GE、デル、新生銀行などの法務部門長を経験し、2013年に日清食品ホールディングの執行役員兼CLO(チーフ・リーガル・オフィサー)に就任。
インハウス・ロイヤーは、法律の専門家としてのプライドを持ちながら謙虚な姿勢を貫く、という2つの相反することを追求しなければいけません。

弁護士資格を持っている法律のプロフェッショナルのはずが、企業内に入ることによって、「自分はサラリーマンだから」と気が緩んでしまう人がいます。

しかし、サラリーマンとして生きることはそんなに簡単なものではありません。「サラリーマンになる」ということは、同僚と同じように、「明日からあなたは営業をやりなさい」と言われた時に、自分が弁護士という事を忘れて営業に行けますか?その覚悟はありますか?と聞かれることなのです。ビジネスマンとして、一般に必要な知識が必要です、法律のプロとしての基盤だけでは足りません。

プロとして雇われている以上、法律のプロであり続けるために勉強をすることは自分の責任であり、会社に対して研修を要求するようなものではない。研修ならば有給を取得して行くくらいの気持ちが必要でしょう。もちろん、これは単なる心構えの問題でしかないですが

企業内の弁護士に限らず、渉外弁護士であっても、一般民事、特に裁判を軽視する若手の方が多いように思います。民法、会社法はもちろん、民事訴訟法は基礎中の基礎です。ビジネスの現場では明確な答えがない中で結論をだす必要があります。その時には基礎に立ち返り、考えられないといけません。そのためには、これら基礎法について通じておくことは不可欠です。

自社や業界特有の法律、特定分野の法律だけ詳しくなってもダメです。会社の中で法務人員は少ないので、ジェネラリストであることが求められますし、社内からは法務担当に対して、基礎的なことが質問される場面が多くあります。その時、質問に答えられないと信用を無くしてしまいます。「私は◯◯法の専門家なので、それ以外は答えられません」と言っても通りません。

信用という面で言えば、自分は専門家、という立場で「法律はこう」という言い方をすると社内で反発を買ってしまいます。

弁護士は法律しか知らないだろうと思われがちなので、わからないことはわからない、と聞き、ビジネスに興味を持てば、周囲は面白がって色々教えてくれるでしょう。本人のキャラクターもあると思いますが、可愛げを持つことは大事です。上司、同僚に対してリスペクトを持ち、ビジネスを理解していくことでお互いに補完しあえるような関係を築けるとよいですね。

目の前にある問題へ取り組み続ければ「木」が「森」になる

グリー株式会社の梅屋 智紀氏からは、若手の法務部員がどういう視点で能力を伸ばしていくべきか。将来役員を目指すために大切なことについて伺いました。

  • 梅屋 智紀
  • グリー株式会社
    執行役員 法務総務部長 ニューヨーク州弁護士
  • 1993年NTT入社。2001年米国バージニア大学ロースクールにてLL.M.取得。その後、三菱商事株式会社法務部、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン株式会社グループリーガルカウンセルを経て、2013年8月グリー株式会社へ入社。執行役員法務総務部長。
「確かな専門知識に裏付けされた問題解決への提案能力」が法務部員に求められる最終的な能力です。

そのためには、まず法務知識の引き出しを増やす努力を常に怠らないこと。最初は引き出しの数を増やすことに注力し、その次に自分の得意分野を作って引き出しの幅と奥行きを拡張するイメージです。

次に、事業側が求めているものの本質を引き出すコミュニケーション能力を常に磨くこと。相手が何を求めているのか、その求めているものに法務としてどのような解決策を提案できるのか。会話の中でうまく引き出していけるようになると一人前です。

若手のうちは、法律だけに限らず幅広い知識を習得するため、色々なことにチャレンジしてみると良いと思います。たとえば、法務部だけでなく事業部の同期と常に情報交換し、社内の事業が今どういった方向に向かっているのか、それに対して法務部はどのようにサポートできるのか考えてみる。

学生時代の友人とも情報交換し、自分の会社の事業領域以外でどのようなことが今起ころうとしているのか、それに対して自分はどのように備えるのか。そういった意識を少しでも持てば、いつもの飲み会も自分のためになるはず。社会には自分が成長する機会がいくつも転がっています。

もしも、将来役員を目指すのであれば、 若手法務部員と法務役員が会社から求められる役割の違いを認識しましょう。例えて言うなら「森」と「木」です。

まずは目の前にある「木」(個々の事業と関連するリスク・問題)に取り組みましょう。経験を積んでいけば、あなたが取り組んだ「木」は徐々に増えていきます。そしてそれが「森」(会社経営と経営が抱えるリスクや問題の集合体)になっていくのです。最初から「森」を見てもその中にある「木」は見えません。まずは「木」から取り組んでください。自分が良くわかる「木」がたくさんある「森」になったとき、「森」も「木」も見ることができる法務の専門家、すなわち法務役員になる準備ができていると思います。

歴史上、法務の仕事が最もエキサイティングな時代

シティライツ法律事務所の水野 祐弁護士は、著書『法のデザイン』の中で「ルールは時代とともに変わっていく/変わっていくべきという認識と、ルールを「超えて」いくというマインド」が大切なこと、と提唱しています。情報技術の発展によって「法の遅れ」が顕著となる時代を共に歩む法務部の方々に向けたメッセージをいただきました。

  • 水野 祐
  • 弁護士(東京弁護士会)。Arts and Law代表理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。その他、FabLab Japan Networkなどにも所属。
  • IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。
「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」が経済産業省で行われており、4月に報告書が公開されました。こちらに、これからの法務人材に求められるマインドやスキルについて記載があるので、ぜひ読んでみてください。

若手の法務部員であれば、まずは基本的な法務能力(書面作成能力、法的思考など)の滋養を優先するべきだと思います。

希望どおり法務に配属された方も、法務への配属が希望どおりではなかった方も、法務の仕事が歴史上もっともエキサイティングなこの時代(私はそのような気持ちで仕事をしています。)を一緒に楽しみ尽くしましょう。

国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告

法務以外の知識やスキルも重要

アサヒビール株式会社経営企画部の永島 康正氏は、法務部を離れ、営業現場の最前線で法務業務をした経験があります。ビジネスの現場で求められる法務の役割を教えていただきました。

  • 永島 康正
  • アサヒビール株式会社
    経営企画本部 経営企画部 担当副部長
  • 2008年入社。法務担当。総務法務部、首都圏統括本部総務部を経て、2016年9月より現職。
法務として求められる能力を日々研鑚することはもちろん、法務以外の知識やスキルを磨いたり、法務以外の関係者と積極的に交流を持つことも重要だと思います。私自身、法務以外の分野で培ったスキルや、社内外の方との交流によって得られた知識・経験が、法務としての判断の幅を広げる事に役立った気がします。

法務の素養がある方は、どうしても文章や説明が長くなりがちです。ただ、ビジネスの現場は時間との戦いで、短時間で情報を伝えることが重要です。原稿用紙10枚程度の情報をパワーポイント1枚にまとめるなど、意識して文章の短縮を心がけ、実践しみてはいかがでしょうか。

ロースクールを卒業されて法務に配属された方は、基本法の知識のほか、法的な考え方を身につけたと思います。実務は既存の知識で良し悪しの判断ができるものはごく僅かで、ビジネスの現場から相談されるものはグレーな案件ばかり。そんな時こそ枝葉末節に拘泥せず、ロースクールで学んだ原理原則に立ち返り、シンプルに物事を考えるのが重要だと思います。

リーガルリスクの指摘だけでなく、解決策まで求められる

アサヒビール株式会社経営企画部の中谷 裕子氏は、弁護士事務所から転職されたインハウス・ロイヤーです。法律事務所とは違う立場で、企業内の法務担当として求められること、ライフステージの変化の中でキャリアを築いていくために必要なことはどのようなものでしょうか。

  • 中谷 裕子
  • アサヒビール株式会社
    経営企画本部 経営企画部 担当課長・弁護士
  • 2011年入社。法務担当。大手法律事務所を経て、2011年9月より現職。
会社は事業を遂行しているので、検討すべきリスクはリーガルリスクのみならずレピュテーションリスク等様々です。したがって、法務担当者としてリーガルリスクを検討する場合でも、その他のリスクへの影響等バランス感覚を大切にする必要があります。

また、法務部に求められていることは、リーガルリスクの指摘に留まらず解決策まで提言していくことですので、どうしたら解決につながるか常に考えながら仕事を進めていく必要があるでしょう。

スキル面でいうと、会社内では契約書の審査や意見書の作成などのワードファイルの編集ばかりでなく、法的問題を整理し、自分の考えを様々な形式でまとめる機会が多くあります。そのため、パワーポイントやエクセルといったスキルも若いうちに獲得しておいた方が良いと思います。

将来は結婚、育児をしながら働きたいと考えている方もいるかもしれませんが、ご主人の職業や子供の性格、置かれている状況も、考え方も人それぞれのはずです。どのような場合でも、自分が今後どのようにキャリアを積んでいきたいかを考え、焦らず、目標に向かって一つ一つ努力を積み重ねていくことが大切ではないでしょうか。また、結婚にも育児にも「想定外」はつきものですが、一人で抱え込まず、周囲に状況を相談してみると良い解が見つかることも多々あると思います。

リーガルマインドを学ぶこと

都内のIT企業で法務を担当されているアイさん(仮名)は、少人数の法務部に所属し、女性は自分だけ、周囲には男性が数人、という環境で仕事をされていました。法務部員に求められる「リーガルマインド」の重要性と女性が少ない職場の意外な良い面についてコメントをいただきました。

  • アイさん(仮名)
  • IT企業勤務
  • 司法試験受験を経て第二新卒で法務部に配属。
傾聴力(話しかけやすさを含む)、あたりをつける能力、そして少しの得意分野、この3つが法務担当に求められる能力かと思います。

まずは事業部の担当者から気軽に話しかけてもらわないことには情報が集まらず、リスクを事前に察知することができません。事業部に媚びる必要はありませんが、嫌われてはいけないのです。そしてじっくり傾聴し、情報を整理し、「ここに何か法規制やリスクがありそう」とあたりをつけていきます。さらに、自信のある分野があれば「あの分野はあの人に聞こう」と、事業部の担当者から話してもらう確率がより上がるはずです。

成長するためには、若手のうちに「リーガルマインド」を学ぶ機会を作る事をお勧めします。どんなに年配で実務経験豊富な法務部員の方でも、リーガルマインドを学んだ経験がないと、視野が狭くなって応用が利かない印象があります。そういう方は、部員同士で話していても、弁護士と話してもイマイチ話が通じていないように見えます。

リーガルマインドを学ぶ、といっても知識を詰め込むのではなく、考え方を体得するという意味です。司法試験の受験経験があればよいのですが、大学の社会人向け講座や法律系の予備校の授業を受講するという手段もあります。お金も時間もかかりますが、長い目で見ると、各種検定の受験より有意義ではないかと感じています(もちろん検定の受験も、知識を得るという意味では大変有効です)。

男性ばかりの職場に配属され、不安に感じている女性の方もいるかもしれません。私もそうでした。ところが、これはむしろラッキーなことなのです。たとえば労務系の問題で「女性の法務部員に相談したい」という場合もあると思いますし、女性というだけで話しかけやすいと思ってくれる事業部の方は、一定数いるはずです。そういう点で、他の男性部員にない優位性を得られる機会が増えるかもしれないですし、女同士特有のめんどくさい人間関係にも巻き込まれなくてよいかもしれません(笑)。

関連する特集

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する