ロボアドバイザーをめぐる海外の規制動向

ファイナンス

目次

  1. 米国での規制動向
    1. 情報開示の内容・方法
    2. 適合性の原則
    3. 実効性のあるコンプライアンス・プログラムの採用・実施
    4. 投資者向け告知
  2. EUでの規制動向
    1. 利用者に対する情報提供の内容・方法
    2. 適合性評価
    3. 社内体制の整備
  3. 日本のロボアドバイザー業者への示唆
    1. 海外規制動向からの示唆
    2. 日本における近時の取組み
    3. AIファンドへの示唆
  4. おわりに
ロボアドバイザーの法的性質については「ロボアドバイザーとAIファンド 現状と今後の展望」をご覧ください。

米国での規制動向

2017年2月、米国証券取引委員会(SEC)の投資顧問局(Division of Investment Management)は、ロボアドバイザー業者向けのガイダンス(以下「SECガイダンス」という)を公表しました。SECガイダンスは、ロボアドバイザー業者が1940年投資顧問法(Investment Adviser Act of 1940)に基づく登録を受け、同法が定める義務を遵守しなければならないことを前提に、ロボアドバイザー業者がその事業の特殊性に照らして留意すべき事項を指摘しています。SECガイダンスは、ロボアドバイザー業者に対して新たな義務を課すものではなく、これらの業者が1940年投資顧問法の定める義務を遵守するために検討することが推奨される事項をまとめたものと解されます。

すなわち、ロボアドバイザー業者には、伝統的な投資顧問業者と比べ、(a)アルゴリズムへの依存度が高いこと、(b)利用者との意思疎通において人の関与が限定的であること、(c)投資助言・資産運用サービスをインターネット経由で提供することといった特殊性があります。この特殊性を踏まえ、SECガイダンスは、ロボアドバイザー業者に対し、特に、①情報開示の内容・方法、②適合性の原則、③実効性のあるコンプライアンス・プログラムの採用・実施について留意すべき事項を指摘しています。

情報開示の内容・方法

ロボアドバイザー業者も、伝統的な投資顧問業者と同様に、重要な事項について十分かつ公正な情報開示を行う義務、顧客を誤認させないための注意を尽くさなければならない義務を負うものとされています。SECガイダンスは、それを前提として、ロボアドバイザー業者において、その事業の特殊性を踏まえ、たとえば以下に掲げるような事項に留意しつつ、情報開示の内容・方法のあり方を検討することを推奨しています。

  • アルゴリズムの利用に起因するリスク(たとえば、市況にかかわらずポートフォリオをリバランスすることがある、利用者の想定以上の頻度でリバランスを行うことがある、アルゴリズムが市況の変動に対応しきれないことがある等)
  • 業者がアルゴリズムの動作を無効化することがあれば、どのような場合にそうするのか(たとえば、市況の急変時に業者がアルゴリズムによる取引を停止することがある等)
  • 利用するアルゴリズムが外部業者の開発等によるものである場合、当該外部業者との関係で利益相反が生じることがないか(たとえば、外部ベンダーが割安でアルゴリズムを提供する場合、当該ベンダーに報酬等が支払われることとなる金融商品を優先的にポートフォリオに組み入れるようなことがないか等)
  • 利用者が直接または間接的に負担する報酬・手数料等
  • 投資助言・資産運用サービスの過程でどの程度「人の関与」があるか(たとえば、人はアルゴリズムを監視するに止まるのか、各利用者の資産運用状況まで監視するのか等)
  • ポートフォリオ提案の際に利用者から収集する情報の収集方法(たとえば、オンライン上の質問事項から収集した情報のみを利用するのか、それ以外の情報源を利用することもあるのか等)

また、SECガイダンスは、ロボアドバイザー業者が提供するサービスの範囲について利用者を誤認させないよう合理的な注意を払うべきであるとしています。たとえば、利用者の財務状況や将来の生活設計といった詳細な事実関係を確認、考慮することなく、「総合的なフィナンシャルプランニング・サービスを提供します」などと表示することは、利用者を誤認させるものと解釈される可能性が高いと思われます。

さらに、SECガイダンスは、ロボアドバイザー業者の特殊性を踏まえて、平易な文章によるわかりやすい情報開示に努めるべきであるとしています。たとえば、スマートフォンやタブレット端末上で情報を開示する場合には、これらの端末から見やすく、重要な情報が埋もれてしまうことがないように画面上の表示を構成するなどの工夫を加えることが推奨されています。また、重要な情報はポップアップ表示する、利用者にとってわかりにくい用語を使用する際にはその意味を解説する画面(ツールチップ、FAQ等)を用意するなど、ユーザーインターフェースに工夫を加えることも推奨されています。

適合性の原則

  ロボアドバイザー業者も、伝統的な投資顧問業者と同様に、顧客の最善の利益のために行動する義務、顧客に適した投資助言・資産運用サービスを提供する義務を負うものとされています。ロボアドバイザー業者は、各利用者に適した投資助言・資産運用サービスを提供すべく、主にオンライン上の質問事項を利用しますが、その過程で十分な情報を収集できるようにするため、たとえば以下のような事項に留意することが推奨されています。

  • 質問事項は各利用者の財務状況や投資目的に照らして適した投資助言・資産運用サービスを提供するために十分な情報を抽出できるものとなっているか
  • 質問事項は明確であるか、また必要に応じて補足説明がなされているか
  • 利用者が相矛盾する回答をした場合、警告画面を表示するなどして利用者に再考を求めるような工夫がなされているか

ロボアドバイザー業者によっては、利用者にある特定のポートフォリオを勧めるに止まらず、利用者にポートフォリオを選択する機会を提供するものもあります。このような業者においては、利用者の投資目的やリスクプロファイルに照らし、業者が勧めるポートフォリオの方が当該利用者により適したものである理由を説明するなどの工夫を加えることが推奨されています。

実効性のあるコンプライアンス・プログラムの採用・実施

ロボアドバイザー業者も、伝統的な投資顧問業者と同様に、1940年投資顧問法上の義務違反を未然に防ぐため、各業者の業務実態やそれに伴うリスクを踏まえたコンプライアンスの基本方針と手続を文書化して制定、実施するとともに、毎年これをレビューすることが義務づけられています。またロボアドバイザー業者には、コンプライアンスの統括責任者であるコンプライアンス最高責任者を選任することが義務づけられています。
ロボアドバイザー業者においては、その事業の特殊性から、特に以下のような点に配慮したコンプライアンスの基本方針と手続を制定することが推奨されています。

  • アルゴリズムの実装前にそれが適切に検証されているか、また実装後にも定期的にパフォーマンスの検証がなされているか
  • 質問事項は利用者に適した投資助言・資産運用サービスを提供するために十分な情報を抽出することができるものとなっているか
  • ポートフォリオに重大な影響を与えるアルゴリズムのコード変更が利用者に開示されているか
  • 利用するアルゴリズムやソフトウェアが外部業者の開発等によるものである場合、当該外部業者に対して適切な監督がなされているか
  • サイバーセキュリティの脅威を未然に防止するための措置やこれを検出するための措置が講じられているか、またサイバーセキュリティの脅威への対応策が用意されているか
  • 投資助言・資産運用サービスの宣伝のためにソーシャルメディアその他の電子メディアを使用する場合、これらが適切に使用されているか
  • 利用者の口座や業者の主要なシステムが適切に保護されているか

投資者向け告知

米国証券取引委員会(SEC)の投資者教育・支援室(Office of Investor Education and Advocacy)は、SECガイダンスと同日付で、ロボアドバイザーに関する投資者向け告知(Investor Bulletin)を公表しました。同告知は、ロボアドバイザー・サービスの利用者に対し、当該サービスを利用するにあたっては、以下のような点を検討すべきであるとしています。

  • 利用者にとって「人の関与」がどの程度重要か
  • 業者がポートフォリオを提案するためにどのような情報を利用するか
  • 業者の投資に対する取組方法
  • サービスの利用に伴う報酬・手数料等

EUでの規制動向

2017年7月、欧州証券市場監督局(ESMA)は、第2次金融商品市場指令(Market in Financial Instruments Directive、以下「MiFID II」という)下における適合性要件に関するガイドライン草案(以下「ESMAガイドライン草案」という)を公表しました。

ESMAガイドライン草案は、MiFID IIの下で金融商品・サービスを提供する業者が、その相手とする顧客およびその取り扱う金融商品・サービスの適合性を確認する上で留意すべき点をまとめたガイドラインの草案です。ESMAガイドライン草案は、第1次金融商品市場指令(MiFID I)下で制定された適合性要件に関するガイドラインの大枠をおおむね維持しつつ、ロボアドバイザー・サービスの興隆や行動経済学上の知見の蓄積といった近時の動向を踏まえてこれを補充するものとなっています。ESMAは、2017年10月13日までESMAガイドライン草案に対する意見募集を行い、それらの意見も踏まえた上で、2018年上半期中を目処に最終版の報告書およびガイドラインを公表するものと見込まれています。

ESMAガイドライン草案は、ロボアドバイザー業者においては、特に、①利用者に対する情報提供の内容・方法、②適合性評価、③社内体制整備について留意すべきであるとしています。ESMAガイドライン草案も、SECガイダンスと同様に、ロボアドバイザー業者に対して新たな義務を課すものではなく、MiFID IIの下でこれらの業者に求められる義務を遵守するために検討することが推奨される事項をまとめたものと解されます。

利用者に対する情報提供の内容・方法

ロボアドバイザー業者には、もっぱらオンライン上で利用者に関する情報を収集し、それに基づき利用者に投資助言・資産運用サービスを提供するものであって、その過程に人がほとんど(またはまったく)関与しないという特殊性が見られます。ESMAガイドライン草案は、そのような特殊性を踏まえ、利用者には特に以下のような情報を提供すべきであるとしています。

  • 投資助言・資産運用サービスを提供するために、アルゴリズムを利用して利用者に関する情報を収集する旨の説明
  • サービスの過程でどの程度人の関与があるかについての説明(たとえば、人に相談できるか否か、できる場合にはその方法等)
  • 投資助言・資産運用サービスを提供するために利用者から収集した情報を業者においてどのように利用するかについての説明(たとえば、もっぱらオンライン上の質問事項に対する回答のみに基づいてサービスが提供するのか否か等)
  • 利用者に関する情報のアップデートの方法および時期

また、ESMAガイドライン草案は、ロボアドバイザー業者の特殊性を踏まえ、情報開示の方法についても特に以下のような点に留意すべきであるとしています。

  • 重要な情報を強調すること(ポップアップ画面の利用等)
  • 利用者にとってわかりにくい情報については、ツールチップやFAQを用意すること
  • モバイル端末経由でサービスを提供する場合には、利用者のモバイル端末画面上で見やすいように情報を表示すること

さらに、ESMAガイドライン草案は、一般論として適合性評価に関する業者の責任を限定するようなディスクレイマー(免責事項)を使用すべきではないとした上で、これは特に利用者との意思疎通が限定的または皆無であるロボアドバイザー業者において重要であると指摘している点が注目されます。

適合性評価

ESMAガイドライン草案は、人の関与が限定的であるというロボアドバイザー業者の特殊性を踏まえ、オンライン上での質問事項を作成する際には、利用者の適合性を正しく評価するために十分な情報を収集できるよう、特に以下のような点に留意すべきであるとしています。

  • オンライン上の質問事項を通じて入手した情報から、業者が利用者の投資知識・経験、財務状態、投資目的・ニーズに適したサービスを提供することができるか
  • 質問内容は十分に明確なものであるか、必要に応じて利用者に対する補足説明を提供しているか
  • オンライン上の質問事項に回答する際に利用者が利用できる人的サポート(メールや電話での意思疎通を含む)が用意されているか
  • 利用者が一貫性のない回答をする事態に対応する仕組みが用意されているか(たとえば、警告画面を表示して再考を促す等)
  • 利用者が自己の投資知識・経験を過大評価するリスクに対応する仕組みが用意されているか(たとえば、異なるタイプの金融商品の特性・リスクに関する質問を用意しておく等)

また、ESMAガイドライン草案は、ロボアドバイザー業者が一貫した利用者の適合性評価を行うためには、その利用するアルゴリズムを定期的に監視、検証すべきであるとしています。そのために、ロボアドバイザー業者においては、少なくとも、(i)適切なシステム設計書を作成する、(ii)アルゴリズムの検証プロセスを文書化する、(iii)アルゴリズムの変更を管理するための基本方針と手続を制定する、(iv)アルゴリズムのレビューや更新を行う、(v)アルゴリズムの不具合を検出するための基本方針と手続を制定する、(vi)アルゴリズムのパフォーマンスを監視するための人的資源・技術的資源を手配する、(vii)これらの手続に関する社内決裁手続を整備する等の対応が期待されています。

さらに、ESMAガイドライン草案は、ロボアドバイザー業者が、少なくとも、(i)利用者に適したサービスを提供するために十分な情報を抽出できる質問事項、(ii)サイバーセキュリティの脅威に対する予防、検出および対応、(iii)利用者口座の保護、(iv)マーケティングのためのソーシャルメディアその他の電子メディアの利用といった事項について、これらに関する基本方針と手続を制定し、実施することも期待しています。

社内体制の整備

ESMAガイドライン草案は、ロボアドバイザー業者が、技術とアルゴリズムに関する適切な理解を有する従業員を確保することと、アルゴリズムにより生成された投資助言や資産運用サービスの内容を理解し、レビューすることのできる資質を有する従業員を確保することを期待しています。また、ESMAガイドラインは、適合性評価に関する記録の管理、事業継続計画(BCP)の文書化といった記録管理義務および文書化義務が、ロボアドバイザー業者においては特に重要であるとも指摘しています。

日本のロボアドバイザー業者への示唆

海外規制動向からの示唆

以上に概観したとおり、米国およびEUいずれにおいても、規制当局からロボアドバイザー業者に対し、①情報開示の内容・方法、②適合性の原則、③社内体制整備に留意せよというメッセージが発信されていることが注目されます。これは、日本のロボアドバイザー業者にとっても参考になる部分が多いと思われます。

投資運用業の登録を受けて一任運用型サービスを提供する会社もまた、契約締結前交付書面(金融商品取引法37条の3)や運用報告書(同法42条の7)といった形で利用者に対する情報開示義務を負い、適合性の原則を遵守する義務を負うとともに(同法40条1号)、その業務を適確に遂行するための必要な社内体制を整備することが求められています(同法29条の4第1項1号ヘ)。

投資助言業の登録を受けずに投資助言型サービスを提供する会社であっても、利用者に対して信義則等に基づく説明義務違反や適合性原則違反の責任を問われる可能性が皆無であるとはいえません。日本のロボアドバイザー業者においても、SECガイダンスやESMAガイドライン草案で具体的に指摘されている事項を踏まえ、利用者のためにより良いサービスを提供していく流れがでてくることが期待されます。

日本における近時の取組み

2017年8月、日本のロボアドバイザー業者7社は、自主的に「最低限の開示基準」を満たす形で各社の運用実績等をウェブサイトで開示していく旨の共同宣言を公表しました(参考:「ロボアドバイザーの運用方針・運用実績等に係る情報開示の向上への取組み開始について」)。

この共同宣言において、ロボアドバイザー業者7社は、ロボアドバイザーが個人の資産運用における真のパートナーとなるために顧客にとって重要な情報をわかりやすく届けることの大切さ、情報開示の水準を向上させることが金融事業者に求められる顧客本位の業務運営を実現していくために欠かせないものであることを表明しています。ロボアドバイザー業者各社がそれぞれ独自のサービスを展開する中、顧客がそのニーズに応じて最適なサービスを選ぶことができるよう、いわば「物差し」となる情報開示の水準向上を業者の自主的な努力で推進していく姿勢は高く評価されるところです。

AIファンドへの示唆

AIファンド(参照:「ロボアドバイザーとAIファンド 現状と今後の展望」)においては、SECガイダンスやESMAガイドライン草案が指摘する「アルゴリズムへの依存度が高い」ことについてどのような対応を講じていくべきか、さらに検討を深めていく必要がでてくるのではないかと予想されます。

この点、ロボアドバイザー業者が利用するアルゴリズムは、主として利用者の適合性評価のためのツールであることが多い反面、AIファンドが利用する資産運用アルゴリズムは、もっぱら資産運用のためのツールであるという相違があります。しかし、このような資産運用アルゴリズムは、良くも悪くも、人知ではおよそ予想も付かない運用戦略を採用し、人知ではその是非すら検証できない運用成果を残すといった事態が発生することも想定されるのではないでしょうか。

SECガイダンスやESMAガイドライン草案は、現状ではそのような事態まで想定しているものとは解されません。したがって、このようなAIファンドを開発・運用・販売する業者においては、資産運用アルゴリズムとどのように向き合っていくのか、投資者に対してその運用成果を適切に説明できるのかといった問題意識を持ちつつ、①情報開示のあるべき姿、②適合性の原則を意識した商品開発と顧客のスクリーニング、③資産運用アルゴリズムを適切に管理・運用できる社内体制の整備といった課題に取り組んでいくことが今後必要になっていくのではないかと予想されます。

おわりに

日本、米国およびEUのいずれにおいても、ロボアドバイザー業者は、基本的には既存の投資助言・運用業者という規制枠組みの範疇に整理できるという意味で、その存在が既存の規制枠組みを破壊する(disruptiveな)ものであるとまではいえなさそうです。他方で、ロボアドバイザー業者には、伝統的な投資助言・運用業者にはなかった事業の特殊性が見られますから、利用者保護の観点からこれらの特殊性に対応していくことは、今後も引き続き必要になっていくであろうと予想されます。これらの対応が、規制当局のイニシアチブによって推進される流れとなるのか、業者の自主規制によって醸成される流れとなるのかについては、いまだ将来が見通せないところであり、今後の動向が注目されます。

また、ロボアドバイザー・サービス自体も、現状でよく見られるような投資信託やETFの最適ポートフォリオの提案に止まらず、たとえば、各利用者に適した個別銘柄の株式を推奨したり、AI(人工知能)を活用したアルゴリズム運用サービスを提供したり、さらには利用者の長期的な人生設計まで見据えた総合的なフィナンシャルプランニング・サービスも併せて提供したりといった業態がでてくるかもしれません。海外ではすでに、ロボアドバイザー・サービスに人的なサポートを加え、総合的なフィナンシャルプランニング・サービスの提供を目指す業者も出現し始めているようです。このようなロボアドバイザー・サービス自体の発展やそれに伴い新たに発生する論点についても、今後の進展が注目されます。

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