海賊版サイトのブロッキングが見せた司法制度の限界、議論は解決の一歩となるか

IT・情報セキュリティ

漫画村など3サイトのブロッキングをISP(インターネットサービスプロバイダ)に求める「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」を政府が4月13日に発表し、同月23日にはNTTグループ3社によるブロッキング実施の方針が公表された。
ブロッキングには各方面から賛否様々な見解が出され、4月25日には全国地域婦人団体連絡協議会と主婦連合会がNTTグループの公表を受け、「強く抗議するとともに、ブロッキングを行わないことを求める」と意見書を発表、4月26日には中澤 佑一弁護士がNTTコミュニケーションズを提訴するなど問題点を指摘する声も多い。

出典:「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策(概要)」

NTTがブロッキングの方針を公表する前日の4月22日、「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム」が一般財団法人 情報法制研究所(JILIS)、一般社団法人 インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)の共催によって開催され、学者、弁護士、専門家が議論を展開した。JILISは4月27日にNTTグループの方針に対する意見も公表している。

参照:「インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について」に対する意見の発表

また、当日の資料の一部については下記リンク先から公開されている。

参照:著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム

様々な立場による議論が求められる

JILISの鈴木 正朝理事長は開催にあたって、「総務省の従来見解を異にする、または法に基づかずブロッキングという緊急手段を構じるという方針が見えてきた、これは法的に無理筋である」とJILISが緊急提言を発表するに至った経緯を説明したうえで、「海賊サイトへの対策は不十分であり出版社が困難に直面していることは皆一致しているところ。その目的は揺るぎないが、手段として従来の法制度の秩序の中に立って議論を進めるべきであり、オープンな場で様々な立場から率直に議論をすることが大切。より良い手段のヒントを得るべく、その手段のオプションを示しながら長所、短所について活発な議論を期待したい」と開催の趣旨を語った。

来賓として挨拶をした村井 純教授(慶應義塾大学)は、インターネット上でサイトをブロックしてきた歴史を振り返り、技術的な困難さとその有効性について疑問を投げかけ「解決に向けては技術だけではなく、違う言葉を話す人たちが力を合わせて議論を尽くす必要がある。地球全体で自由にデジタルデータが流通するインターネットが動くこと、様々なステークホルダーが知を集結して有効な議論をし、できるだけ早く正しい共通のゴールに向かって今日の議論が結実することを期待している」と述べた。

政府による緊急対策の問題点

論点の整理

パネルディスカッションの中で、司会の宍戸 常寿教授(東京大学)から政府の対策への問題点について、次のような整理が行われた。

「緊急避難の要件を満たす場合には」遮断が許されるというだけで、3サイトの遮断が緊急避難に当たるとは明言していない

法益権衡の要件を本当に満たしているか、補充性の要件が満たされているか。漫画村に対して他に取りうる対策が取られたのかという認定を必ずしも行っていない。

要請こそしないものの、ISPに「自主的」に遮断するよう「忖度」を求めていないか(コンプライアンス、訴訟リスク)

ISPとしては遮断をすると法令遵守の問題や、ユーザーからの訴訟リスクに晒される。その時に「政府が言っていたから」という点は頼りにならない。

例外である緊急避難が、違法有害情報一般に対する遮断にまで広がることの歯止めがなくなる懸念がある

緊急避難かどうかは個別の事例によって判断する以上、名誉毀損サイト、プライバシー侵害サイトでも遮断してよい、という事になるのではないか。

政府の下で独立性のない協議体が基準を策定することは検閲に当たるおそれあり

たとえば個人情報保護委員会や、ある種の審議会のような独立性のない団体が3サイト以外を遮断の対象となるという判断をする、基準を策定する、あるいは当てはめをする、ということは検閲に当たるおそれがあるのではないか。

漫画村など3サイトの遮断は緊急避難にあたるか

政府が公表した「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」では、ブロッキングは「通信の秘密」(憲法21条2項、電気通信事業法4条1項)を形式的に侵害する可能性があるが、緊急避難(刑法37条)の要件を満たす場合には違法性が阻却されると考えられる、としている。

刑法37条の緊急避難は、原則として、①現在の危難、②補充性(やむを得ずにした行為であること)、③法益権衡の三要件全てを満たす場合に認められる。

亀井源太郎教授(慶應義塾大学)は、刑事手続において政府が法解釈を示す意味について、「政府の法解釈が裁判所を拘束するとダイレクトには言えないので、おそらく緊急避難に当たるかどうかは裁判所が自由に考える。電気通信事業法違反でISPが訴えられた時に、政府がいいと言ったことは直接正当化する理由にならない可能性も高く、政府が言っていたからいいと思った、と故意がない、違法性がない、という主張が通ることは従来の刑事実務を踏まえると難しいのではないか」とISPに生じるリスクを説明した。

そのうえで、補充性の要件については他に取る手段がありえること、法益権衡については著作権と通信の秘密という種類の違う法益を比較衡量することの難しさを語り、緊急避難に当たらない可能性について言及した。

ISPはどう受け止めたか

今回の政府方針をISP側はどう受け止めたのだろうか。社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)は、4月12日に「海賊版サイトへの対策として政府がブロッキング(接続遮断)を要請することについて」と題した声明を発表し、ブロッキングについて反対する立場を示していた。

シンポジウムに登壇した同協会の副会長・専務理事の立石 聡明氏は、「ほとんどのISP事業者はブロッキングについて4月に入ってから聞いており、寝耳に水。オープンかつ十分な議論はされていない」と決定に至るまでのプロセスを説明し、「政府は法的リスクを負っておらず、訴えられるのはISPだけだ」と事業者に課せられる負担について問題点を指摘した。

シンポジウムの翌23日、NTTグループがブロッキングを実施する声明を公表したことに対し、JAIPAはブロッキングについて反対する立場を見直すことはないと公表している。

参照:一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会「NTTグループのブロッキング実施の報道について

出版社の対応は

一方、出版社側は政府の緊急対策に対して評価する姿勢を示した。4月13日の政府発表直後、大手出版社からは相次いで声明が公表され、ISPや流通業者に対して協力を求めるものもあった。では、ブロッキングに至るまでに出版社は海賊版サイトについてどのような対応をしていたのか。

シンポジウムではブロッキングの他に取りうる手段があるのではないか、と出版社側の対応不足を指摘する声が相次いだが、出版広報センターで活動をしている村瀬 拓男弁護士は、「海賊版対策について出版業界全体では月に40,000件程度の削除要請、Googleにも1社あたり月60,000件程度の検索削除要請を出しており、海外のサーバー、CDNサイトに対しても削除要請、解除請求は行なっている」と説明。そのうえで、削除要請などの対策が効果に繋がりにくい点、中小零細企業が多い出版業界の中で情報共有や対策のコストをかける難しさを語った。

サイトブロッキングの法制化に向けた課題

立法に向けた課題

立法においてブロッキングが認められれば、緊急避難には当たらなくなるが、実現に向けた課題も多い。森 亮二弁護士は「皆さんの権利(通信の秘密)を広く侵害するが、一部の人の著作権は守られるという構造になり、バランスに関する問題は残る。また、海賊版サイトによる被害がクローズアップされているが、インターネットにはもともと名誉毀損、プライバシー侵害など権利侵害の情報はたくさんあり、その都度、削除要請も出されているし、場合によっては被害者は裁判所に訴えている。名誉棄損やプライバシー侵害で問題にならず、著作権だけがブロッキングされるのか」と立法に向けて越えなければならないハードルを示した。

コスト面の課題

すでに国内で実施されている児童ポルノのブロッキングについて、丸橋 透教授(明治大学)は、「児童ポルノへの対策にはブロッキング対象のリストの作成・運用に年間2,000数百万円のコストがかかっている。諸外国の話でいうと、実際ISPのシステムに対して権利侵害者が持てという議論もあるが、法制したものは今のところなく難しい」とブロッキングを行う場合に発生するコスト面の問題について説明した。

丸橋教授が説明したブロックまでの全体的な流れ

ブロッキングには技術的な側面からも課題がある。上原 哲太郎教授(立命館大学)はURLベースのブロッキングが技術的に困難であり、運用負荷の高さ、実現するにしても高価な機器が多数必要という問題点を挙げ、費用負担についての疑問を投げかけた。また、ISPにとっては比較的運用コストが低いと見られる、IPアドレス/ホスト名ブロッキングをした場合も、オーバーブロッキング、ブロッキング漏れの問題が生じ、実際の運用は簡単ではないと解説した。

参照:「技術に詳しくない方でもわかる?!ブロッキングの技術的課題

さらに、上沼 紫野弁護士はイギリスでブロッキングのコストをISPが補償することについて訴訟が起きている例を紹介した。仮に法制度が整備されたとしてもブロッキングを実施するにあたってISPに求められる負担は大きいと言える。

ブロッキング以外の解決方法

ブロッキング以外の手段による海賊版サイト対策についても意見が交わされた。壇 俊光弁護士は海賊版サイトに関して著作権者がとりうる法的措置を整理し、匿名人相手に対する訴訟を認めることや、発信者情報開示請求をより充実したものにするなど、ブロッキングとは異なる側面での立法の必要性を提言した。

その他、考えられる対応策として、フィルタリングの導入、資金源対策などについてもコメントがあった。

曽我部 真裕教授(京都大学)はこの問題の背景には司法制度の限界があると指摘。被告を特定しないと訴訟が認められない、海外への送達に時間がかかるなどの問題は著作権に限らない。インターネット社会における司法制度のあり方を考えるきっかけにしていければと所感を述べた。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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