サイトブロッキングの問題点と法制化に向けて考えるべきこと

第1回 海賊版サイト対策をめぐる議論と問題の所在

知的財産権・エンタメ
関 真也弁護士

はじめに

 2016年、2017年の知的財産推進計画に施策として盛り込まれるなど1、数年前から議論はされていた海賊版サイト対策としてのサイトブロッキングですが、2018年に入ってからというもの、にわかに導入への動きと議論を加速させています。この背景には、閉鎖までの1か月間で被害額が100億円に上ったとも報道される海賊版サイト「FreeBooks」2、そしてそれをも大きく上回る被害をもたらしたとされる「漫画村」3の相次ぐ出現により、コンテンツ業界の危機とそれに対する意識が急速に高まったことが挙げられます。

 とりわけ、漫画は、それだけで1つの主要なコンテンツの形であるばかりでなく、漫画を題材とした映画、TVドラマ、ゲームなどの二次的なコンテンツを生み出す源泉ともなっています。漫画は、ビジネス上の重要性が増してきている「コンテンツのマルチ展開」の基盤となり、コンテンツ業界全体を支える非常に大事な役割を担っており、漫画の危機は我が国コンテンツ産業全体の危機だということもできるのです。

 2018年4月13日、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議が、サイトブロッキングの根拠となる法制度を整備するとともに、それまでの間、緊急避難という整理のもと、インターネットサービスプロバイダ(ISP)による自主的取組みとしてのサイトブロッキングを実施し得る環境を整備するという考え方を発表しました4。これを機に、サイトブロッキング導入の是非、導入の仕方、制度のあり方などについて、大いに議論が活発化しています。

 しかし、業界団体など各方面の考え方が入り乱れて突然議論が沸き起こったために、多くの方にとって、問題の全体像を把握することが困難な状況にあると思われます。そこで、サイトブロッキングを巡る法的問題点とそれについての基本的な考え方を整理することが、筆者と本稿に与えられた課題です。

 なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者が過去または現在所属する組織、団体、企業等の見解とは一切関係ございません。

サイトブロッキングへの期待と問題点

サイトブロッキングとは?

 サイトブロッキングとは、インターネットユーザがインターネット上のサイトやコンテンツにアクセスしようとする際、ISP等が閲覧を強制的に遮断する措置のことをいいます5。サイトブロッキングの手法にはいくつかありますが、児童ポルノに関するサイトブロッキングの枠組みですでに用いられているのは、DNSブロッキングと呼ばれる手法です6

【DNSブロッキングのイメージ】

サイトブロッキングの概要

出典:内閣府 知的財産戦略推進事務局「インターネット上の海賊版対策に係る現状と論点等整理
6頁(知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会(第3回)

 ユーザがあるコンテンツにアクセスするためにURLを入力したり、リンクをクリックしたりすると、そのユーザが契約しているISPのDNSサーバに対してブラウザが問い合わせをします。DNSサーバは、ユーザにわかりやすい文字列であるドメイン名(アクセス先情報)と、機械で処理するのに用いるIPアドレス(数字の列であり、ユーザには通常覚えにくく使いにくい)とを対応させたデータを持っています。DNSサーバは、ユーザから問い合わせられたドメイン名をヘッダー情報の中から検知してそのデータと照合し、対応するIPアドレスをユーザのブラウザに返答します。このIPアドレスを使って、ISPのルーターを通じ、閲覧したいコンテンツを持っているウェブサーバーにアクセスし、閲覧することができます。

 DNSブロッキングは、DNSサーバが、あらかじめ設定されたブロッキングリストに載っている海賊版サイトのドメイン名の問い合わせを受けた時に、これに回答せず、あるいはそれに対応するIPアドレスではなく警告画面を表示するサーバのIPアドレスを回答することで、海賊版サイトへのアクセス、閲覧を遮るという手法です。ドメイン単位でのブロッキングとなるため、同じドメインを持つ正規なコンテンツまでブロッキングしてしまうおそれがある一方、ISPの既存機器で対応可能なため追加投資を比較的必要としないというメリットがあり、児童ポルノのブロッキングでは多くのISPが採用しているとされています。

なぜ海賊版サイト対策にサイトブロッキング制度の導入が求められているのか?

 従来、海賊版サイトや侵害コンテンツをアップロードする者に対する直接的な法的措置としては、次のような措置を検討するのが一般的でした。

  • 海賊版サイト運営者に対する差止め・損害賠償を求める民事訴訟等を提起する
  • 発信者情報開示請求によって侵害コンテンツのアップロード者を特定したうえで、損害賠償等を求める民事訴訟等を提起する
  • プロバイダ責任制限法等に基づく削除要請を行う
  • 刑事訴追

 しかし、悪質な海賊版サイトへの対策としては、とりわけその運営者やサーバが日本国外に所在する場合や所在が不明である場合には、いずれの措置も功を奏しないことが多いのが現状です。

(1)民事訴訟等を提起すること自体が困難

 運営者やサーバが海外または所在不明の場合は、そもそも民事訴訟等を提起すること自体が困難です。また、仮に日本の裁判所で勝訴判決を得ることができたとしても、その日本の判決に基づいて海外の海賊版サイト運営者に対して強制執行をすることが、その国の司法制度上困難な場合があります。そして、悪質な海賊版サイトの運営者は、往々にして、そのような国のサーバを利用したり、運営者の情報を明かそうとしないホスティング業者を利用したりするなどして、権利者の追及を巧妙に免れようとしています。

(2)発信者情報開示請求も困難

 また、発信者情報開示請求によってアップロード者を追及する場合、概ね以下の手順を踏むことになりますが、アクセスログの保存期間という難関が立ちはだかります。

  1. 海賊版サイト運営者に対し、発信者情報開示請求(仮処分)を行い、アップロード者のIPアドレスなどの開示を受けたうえで、
  2. アップロードに利用されたISPに対し、発信者情報を消去しないよう求める(仮処分)とともに、
  3. 同ISPに対し、開示されたIPアドレスに対応するアップロード者の契約者情報(氏名・住所)の開示を求める発信者情報開示請求(本訴)を行う。

 ISPにおける発信者情報(アクセスログ)の保存期間は数か月程度(ISPによって異なります)であり、その期間経過後は消去されてしまうため、その期間内に少なくとも上記②の仮処分決定までは得ておく必要があります。

 ところが、日本の裁判所で上記①の仮処分決定を得たとしても、その決定に海賊版サイト運営者が任意に応じてくれない場合には、その海賊版サイト運営者がいる国の裁判所に対して、その国において日本の仮処分決定に基づく強制執行を行ってもよいという承認を求める手続を経る必要があります(日本の司法権は他国に及ばないため)。

 そして、その送達その他の手続をしている間に、アクセスログの保存期間が経過し、アップロード者を突き止めることができなくなってしまうケースがあります。海賊版サイト運営者とアップロード者は実は同じ人物だということもあるようなので、アップロード者を突き止めることで海賊版サイト自体の壊滅に結び付けられるとの期待もあったのですが、なかなか功を奏しないことが多いようです。

(3)海賊版サイトに対して有効な手立てを打てない権利者

 その他、権利者は海賊版サイトへの削除要請を日常的に行っていますが7、任意に応じない悪質な海賊版サイトもあるうえ、違法にアップロードされたコンテンツの膨大な数を前に、対応を求められる権利者側は疲弊してしまいます。そして刑事対応を行おうにも、その国の刑事当局が協力してくれない限り、逮捕はおろか、海賊版サイト運営者に行き着くことすら困難です。

 このように、海賊版サイト運営者は、自らの情報を巧みに隠したり、日本の権利者や刑事当局の手が及びづらい国を選んで身を置くなどして、法執行の網をかいくぐって違法な事業を続けています。このため、権利者は海賊版サイトに対して有効な手立てを打つことができないでいるというわけです8

【海賊版サイト対策の問題点】

海賊版サイト対策の問題点

 こうした状況の中で、有効な海賊版サイト対策になるのではと期待されるようになったのが、サイトブロッキングです。サイトブロッキングは、日本のISPの協力を得ることによって日本国内だけで完結させることができる措置であるため、海賊版サイト運営者やサーバがどの国にあろうと、所在不明であろうと、関係なく実施することができます。
 また、すべてのインターネットユーザはISPのサービスを利用してインターネットにアクセスしているので、侵害コンテンツの利用を広く防止することができる可能性があります。これが、前述した海賊版サイトによる被害の拡大とあいまって、サイトブロッキングの導入に対して権利者の期待が寄せられるようになった理由です。

サイトブロッキングの何が問題なのか?

 さて、著作権保護の新たな手法としては、一定の効果を発揮してくれそうなサイトブロッキングですが、反面、課題もあります9。本来的に規制の対象とすべき海賊版サイト運営者自身ではなく、中立的な立場が期待されるISPを通じた措置であるがゆえに、権利者と海賊版サイト運営者に限らない様々な関係者の利害が問題となり、これらを適切に調整する必要が生じてくるのです。

当事者 当事者自身の利害 公益
著作権者等 経済的利益
生活の安定・向上
文化の発展
ISP 営業の自由・財産権 安全な通信サービスへの国民の信頼
表現の自由
サイト運営者 表現の自由
裁判を受ける権利(適正手続)
文化の発展
民主主義
ネットユーザ 通信の秘密(プライバシー)
表現の自由・知る権利
文化の発展
民主主義
安全な通信サービスへの国民の信頼

 我が国において最も大きな問題として議論の対象となっているのが、サイトブロッキングと通信の秘密の関係です。非常に重要な論点となるため、詳細については次回、この点に絞って解説します。また、サイトブロッキングは、ISPに対し、その設備に一定の設定を施すことにより、自らの顧客であるインターネットユーザへのサービスの一部を提供しないことを強制するものであるため、ISPの営業の自由や財産権を侵害するおそれのある措置と捉えることができます。この点も十分な検討が必要です。

 加えて、上記の表では、海賊版サイト運営者の表現の自由も、サイトブロッキングの導入・実施によって影響を受ける利害に挙げています。もっとも、これは誤解されていることもあるようなのですが、サイトブロッキングに反対する論者の多くも、著作権者等の不利益のもとに、海賊版サイト運営者の表現の自由という利益を優先すべきだと考えているわけではないと思われます。

 一般に、権利者に無断でコンテンツを利用する行為が、権利者の利益よりも優先して、表現の自由による保護に値するものだと考えられているわけではなく、海賊版サイト運営者の表現の自由は、違法にアップロードされたコンテンツだけでなく、それ以外の正規コンテンツまでもが同時にブロッキングされてしまう事態(これを「オーバーブロッキング」と呼びます)を念頭に、正規コンテンツに関する限りで、サイト運営者やアップロード者の表現の自由、ユーザの知る権利との関係で問題視されるにすぎず、(ほぼ)違法アップロードコンテンツのみの海賊版サイトなど、適切にブロッキングの対象を限定している限り、海賊版サイト運営者の表現の自由を問題にする必要はないというように整理できます。

 反対論者がサイトブロッキングに異を唱える大きな理由は、海賊版サイトの利益を重要視しているのではなく、ISPがその顧客であるユーザから預かる通信の秘密を守るべきであり、安易にサイトブロッキングを導入した場合の副作用を警戒すべきだと考えているからであるということは、理解しておくべきだと思います。

あるべき立法に向けた考え方の指針

基本的な考え方 ― “Proportionality”

 政府が立法によらない一時的、緊急的な措置として、特定の海賊版サイトを名指しして、ISPの自主的取組みとしてのサイトブロッキングの実施を促す方針を示したことにより、サイトブロッキングの導入そのものについての是非や、導入するとしても立法によるべきだという考え方、そして立法の内容(たとえば、行政的ブロッキングや司法的ブロッキングの是非)についてまで踏み込んだ議論が沸き起こっています。立法によるサイトブロッキング制度の導入について真剣に考えようという気運が一定程度高まってきているといってよいでしょう。

 では、立法するとして、どのようなことを考えなければならないのでしょうか。

 前述のとおり、サイトブロッキングを導入・実施した場合には、実に多くの関係者の利害が問題になります。したがって、サイトブロッキング導入の是非や制度の具体的内容を検討するにあたっては、著作権の保護という正当な目的のために、大勢の利害関係者の間でバランスのとれた制度を構築する必要があります。
 すでにサイトブロッキングを導入し、裁判上問題となった事例を積み重ねつつある欧州などでは、
Proportionality”(比例性)という観点から整理が進められています。バランスのとれた制度であるといえるためには、たとえば、以下のような事項を検討しなければならないでしょう。

  1. 他の有効な海賊版対策手法の存否、サイト運営者やネットユーザによる迂回の可能性なども踏まえて、サイトブロッキングの導入を良しとするには、著作権保護のためにどれだけ効果が見込める必要があるのか?(通信の秘密その他すべての権利・利益とのバランス)
  2. ISPの費用、手間、訴訟リスクなどの負担が過大にならないか?(ISPの営業の自由・財産権とのバランス)
  3. ブロッキングの対象となるウェブサイト(ドメイン名)の範囲が適当かつ明確に限定されているか?(オーバーブロッキングによる表現の自由の過度な制約とのバランス)
  4. ブロックされるコンテンツに正規にアクセスする代替手段があるか?(一般消費者の知る権利とのバランス)
  5. 不服申立ての機会を適切に確保しているか?(サイト運営者の裁判を受ける権利とのバランス)

各当事者の利害の正確な定量化

 各利害について適切なバランスのとれた制度を構築するためには、その前提として、それぞれの利害が、どのような場合に、どの程度問題となるのかを正確に把握する必要があります。

 たとえば、サイトブロッキングは通信の秘密を侵害するというのが従来からの理解とされていますが、著作権者等の利害との適切なバランスを実現するためには、サイトブロッキングの実施によって、通信のどのような要素が、どの程度、誰によって侵害されているのか、そしてそれはインターネットユーザにとってどれほど許容しがたいものなのかについて、具体的に検討し、理解する必要があります。

 また、インターネットユーザの表現の自由と知る権利との関係では、ブロッキング対象となるサイト上のコンテンツの何%くらいが侵害コンテンツであれば、ブロッキングが正当化されるのかも検討する必要があります。

 さらに、サイトブロッキングについては、インターネットユーザや海賊版サイトによる迂回の可能性などから、著作権保護にどれだけ役立つのかという点に疑問の目が向けられています。それでは、サイトブロッキングの導入が正当化されるとすれば、著作権侵害コンテンツの排除に向けてどれくらいの効果があればよいのでしょうか?ある海賊版サイト上の著作権侵害コンテンツを完全に撲滅できなければ、サイトブロッキングは許されないと考えるべきでしょうか?それとも、撲滅はできずとも、インターネットユーザによる著作権侵害コンテンツへのアクセスを一定程度思いとどまらせることができれば、サイトブロッキングは許容される可能性があると考えるべきでしょうか?

 これらの問題は非常に難しく、調整されるべき各利害の内容・程度を把握した上で検討しなければなりません。そこで、引き続き、日本と諸外国の裁判例や議論を参考にしつつ、あるべき法制度の枠組みについて考えてみたいと思います。


  1. 知的財産戦略本部「 知的財産推進計画2016」(2016年5月)、同「知的財産推進計画2017」(2017年5月)。 ↩︎

  2. SankeiBiz「漫画無料公開、被害100億円 大手出版社、再開を警戒 法的手段検討」(2017年5月17日) ↩︎

  3. 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構 (CODA) の推計によれば、「漫画村」への訪問者数は約1億6000万人(96%が日本からのアクセス)であり、流通額ベースの被害額は約3000億円に上るとされています(知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」(平成30年4月)4頁脚注1)。なお、CODAの後藤代表理事のインタビューによれば、ここでいう「訪問者数」は「合計訪問者数」であり、被害額の算出方法は正規版コンテンツの平均単価に合計訪問者数を掛けたものとされています(日経XTECH「海賊版サイト対策へ本当に手を尽くしていたのか、権利者団体に聞く」(2018年4月21日))。 ↩︎

  4. 知的財産戦略本部会合・犯罪対策閣僚会議 議事次第(2018年4月13日) ↩︎

  5. 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2017」65頁脚注35(2017年5月)参照。 ↩︎

  6. 児童ポルノのサイトブロッキングに関する法律問題については、安心ネットづくり促進協議会「法的問題検討サブワーキング 報告書」参照 。 ↩︎

  7. 2018年4月22日に開催された「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム」(一般財団法人情報法制研究所主催)における発言によれば、「大きな出版社では月に4万件の削除要請を実施している。Googleなど検索サイト削除要請は多いところで出版社1つあたり6万件、海外についても削除もしくは開示請求を実施している。CDNサイトに対しても削除または開示請求を行っている。必ずしも漫画ではなく、専門書や雑誌も含んでいる。」と報告されています。 ↩︎

  8. これらのほか、最近では、海賊版サイト上のコンテンツの流通のために海賊版サイト運営者に利用されるコンテンツ・デリバリー・ネットワーク (CDN) を提供する業者への対応や、広告主、広告ネットワーク等から海賊版サイトへ資金が供給されるルートを断つという対応についても、有効性が期待できるのではないかと注目されるようになりました。これらについては、業者や設備が所在する場所その他の実態を把握する必要があるといわれています。 ↩︎

  9. サイトブロッキングの実効性そのものに対する疑問も強く指摘されています。これに関しては、サイトブロッキングが侵害コンテンツのアクセスを抑止する効果が実際にどの程度あるのかという問題とともに、どの程度の抑止効果があればサイトブロッキングを導入することが正当といえるかという観点からも検討が必要であると思われます。 ↩︎

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