平成30年5月成立、不正競争防止法の改正によってデータの保護はどう強化されるのか

知的財産権・エンタメ
服部 誠弁護士

目次

  1. はじめに
  2. 法改正の経緯
  3. 法改正の内容
    1. データ保護に関する新たな「不正競争行為」の導入
    2. 禁止される行為類型
    3. 救済措置
    4. ガイドラインの策定
    5. 国会の付帯決議
  4. 技術的な制限手段による保護について
    1. 概要
    2. 技術的制限手段による保護対象
    3. 技術的制限手段の対象の明確化
    4. 技術的制限手段を無効化するサービスの提供行為
    5. 技術的制限手段を無効化する情報の提供行為

はじめに

 IoTやAIの普及に伴い、ビッグデータを始めとする「データ」の利活用の活性化が期待されています。そこで、安心してデータの利活用ができる環境を整備するために、データの保護強化を目的とした不正競争防止法の改正法が平成30年5月23日に成立し、同月30日に公布されました。
 本稿ではこの改正に至る経緯を説明したうえで、改正の内容について解説します。

法改正の経緯

 多種多様なデータが繋がることにより新たな付加価値を創出していく産業社会の実現には、データを囲い込ませず積極的に市場に流通させ、そのデータの適切な利活用を促すことが重要です。そのためには、データ提供者が安心してデータを提供でき、データ利用者が安心してデータを利活用できる、適切な流通環境の整備が不可欠です。

 かかる認識のもと、「未来投資戦略2017」(平成29年6月閣議決定)および「知的財産推進計画2017」(平成29年5月知的財産戦略本部決定)において、不正競争防止法改正を視野に入れた検討を進めるべきとの提言がなされました。

 そして、平成30年1月、産業構造審議会知的財産分科会「不正競争防止小委員会」は、「データ利活用促進に向けた検討中間報告」(以下「中間報告」といいます)をとりまとめ、改正法案が国会で審議されるに至りました。

 法改正は、①データ保護に関する新たな「不正競争行為」の導入と、②技術的な制限手段の保護の強化に分かれ、いずれも、公布から1年半以内の施行が予定されています。

法改正の内容

データ保護に関する新たな「不正競争行為」の導入

(1)概要

 価値のあるデータであっても、①特許法や著作権法の保護対象とはならない、または、②他者との共有を前提とするため不正競争防止法の「営業秘密」に該当しない場合、その不正な流通をくい止めることは困難です。そこで、不正競争防止法の改正法に、一定の価値あるデータの不正取得行為や不正使用行為等、悪質性の高い行為に対する民事措置(差止請求権、損害賠償額の推定等)が規定されました

(2)保護の対象となる一定の価値あるデータ

 改正法では、保護の対象となる一定の価値あるデータとして、「限定提供データ」という概念が導入されることとなりました。「限定提供データ」とは、「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法)により相当量蓄積され、管理されている技術上又は営業上の情報であって、秘密として管理されているものを除くもの」を指します(改正不正競争防止法2条7項)。

 中間報告は、(ⅰ)技術的管理性、(ⅱ)限定的な外部提供性および (ⅲ)有用性という3つの要件に該当する有用な電子データを保護対象とすべきものとしていました。上述した改正法の条文の要件のうち、「電磁的方法により相当量蓄積され、管理されている」との要件が(ⅰ)の技術的管理性、「業として特定の者に提供する」および「秘密として管理されているものを除く。」との要件が(ⅱ)の限定的な外部提供性、「技術上又は営業上の情報」との要件が(ⅲ)の有用性に、それぞれ対応していると考えられます。

法改正の内容

 それぞれの要件の内容は以下のとおりとなります。

要件 概要
技術的管理性 データを取得しようとする者が、データ提供者との契約で想定される者以外の第三者による使用・提供を制限する旨の管理意思を明確に認識できる、特定の者に限定して提供するための適切な電磁的アクセス制御手段(ID・パスワード管理、専用回線の使用、データ暗号化、スクランブル化等)により管理されているデータであること。
限定的な外部提供性 秘密として管理され、保有者内での利用または例外的に秘密保持契約を結んだ限定的な者に開示される「営業秘密」とは異なり、データ提供者が、外部の者からの求めに応じて、特定の者に対し選択的に提供することを予定しているデータであること。
有用性 違法または公序良俗に反する内容のデータを保護客体から除外したうえで、集合することにより商業的価値が認められること(ただし、提供する相手を特定・限定することなく広く提供されているデータと「同一」のデータは、保護の対象外とすべき)。

 たとえば、自動動向車両向けに提供される新次元地図データや、PSOシステムで収集された商品ごとの売上げデータ、あるいは、化学物質などの素材の技術情報を要約したデータなどで、暗号化処理などがされて特定の第三者(契約の相手方)に提供されるデータは、「限定提供データ」に該当しうることとなります。

禁止される行為類型

 価値の高いデータであっても、特許法や著作権法の対象とはならず、不正競争防止法上の営業秘密にも該当しない場合には、不正な流通を差し止めることは困難です。しかも、データは複製・提供が容易であり、いったん不正な流通が生じると、被害は急速かつ広範囲に広がってしまいます。そこで、悪質性の高いデータの不正取引を不正競争防止法上の「不正競争行為」と位置づけて、民事措置(差止請求権、損害賠償請求)の対象とすることが必要です。

 悪質性の高い行為として規制の対象となるのは、以下の4つの行為類型です(改正法2条1項11号~16号)。

  • 権原のない外部者が、不正アクセス・詐欺等の管理侵害行為により不正にデータを「取得」「使用」「第三者提供」する行為
  • データを正当に取得した者が、不正の利益を得る目的またはデータ提供者に損害を加える目的で、「横領・背任に相当すると評価される行為態様で使用」「第三者提供」する行為
  • 取得するデータについて不正行為が介在したことを知っている者が、当該不正行為にかかるデータを「取得」「使用」「第三者提供」する行為
  • 取得時に不正行為が介在したことを知らずに取得した者が、その後、不正行為の介在を知った場合に、データ提供者との契約の範囲を超えて「第三者提供」する行為

不正競争防止法等の一部を改正する法律案の概要

(出典:経済産業省「不正競争防止法等の一部を改正する法律案の概要」より抜粋)

 規制対象となる、上記図の①から⑧’の行為を例示すると下記のとおりとなります。なお、データの不正使用により生じた成果物(AI学習済みのプログラムなど)は、規制の対象とはなりません。

上記図の番号 該当例
正規会員のID・パスワードを当該会員の許諾なく用いてデータ提供事業者のサーバに侵入し、正規会員のみに提供されているデータを自分のパソコンにコピーする行為
特定の者のみに提供されているデータを、それ以外の者が、データ提供事業者の従業員を強迫して、パスワードとともに、メールで送付させたうえ、当該データを自社のプログラム開発に使用する行為
不正アクセス行為によりデータ提供事業者のサーバから取得したデータを、データブローカーに販売する行為
データ提供者が商品として提供しているデータについて、専ら提供者のための分析を委託されてデータ提供を受けていたにもかかわらず、その委託契約において目的外の使用が禁じられていることを認識しながら、無断で当該データを目的外に使用して、他社向けのソフトウェアを開発し、不正の利益を得る行為
コンソーシアムやプラットフォーマー等のデータ提供者が会員にデータを提供する場合において、第三者への提供が禁止されているデータであることが書面による契約で明確にされていることを認識しながら、当該会員が金銭を得る目的で、当該データをデータブローカーに横流し販売し、不正の利益を得る行為
不正アクセス行為によって取得されたデータであることを知りながら、当該行為を行ったハッカーからそのデータを受け取る行為
⑥の後、自社のプログラム開発に当該データを使用する行為
転売禁止のデータを、料金を払って購入した者に対し、当該者に別途便宜を図ることを提案し、その見返りとして、無償で当該データの提供を受けた後、当該データをデータブローカーに転売する行為
⑧’ データ流通事業者が、データを仕入れた後において、そのデータの提供元が、不正取得行為を行ったという事実を知ったにもかかわらず、その後も、自社の事業として、当該データの転売を継続する行為(ただし、悪意に転じる前に、その提供元と結んだ契約において、×年間の提供が認められていた場合、悪意に転じた後も、契約期間×年間の終了までの間は、その提供行為は「不正競争行為」には該当しない)

救済措置

 上述したデータに係る「不正競争行為」により営業上の不利益を被った者は、不正競争防止法上の民事救済(差止請求、損害賠償請求、信用回復措置)が得られることになります。

 なお、刑事措置については、今後の状況を踏まえて、引き続き検討すべきこととされ、今回の導入は見送られました。

ガイドラインの策定

 新たに導入する制度の施行に先立ち、各規定の内容の明確化を図るため、保護客体の要件の考え方やその具体例、著しい信義則違反類型における図利加害目的に該当する行為・該当しない行為の例などを示す、ガイドラインが策定される見込みです。

国会の付帯決議

 改正法については、参議院経済産業委員会の審議において附帯決議がなされ、施行後3年を目途として見直しを行うこと、我が国企業が不利益を被らないよう諸外国におけるデータ保護制度との整合性の確保に努めること、データ取引の萎縮を避けるため、ガイドラインにおいて限定提供データに係る不正競争行為の明確化を図ること、特に中小企業者に対して丁寧な説明に努めること等が指摘されています。

技術的な制限手段による保護について

概要

 現行の不正競争防止法における技術的制限手段の保護に関する規律は、平成11年改正により導入されたものです。「技術的制限手段」とは、音楽、映像、ゲームソフト等のデジタルコンテンツについて、無断視聴や無断コピーを制限するための技術的手段のことであり、不正競争防止法は、かかる技術的制限手段を妨害する装置やプログラムの提供行為を不正競争行為と位置付け、技術的制限手段の保護を図っています。

 しかしながら、技術的制限手段に関し、現状では、コンテンツ以外の情報についても、当該手段を用いて保護し、事業を行っている実態があること、また、現行法で「不正競争行為」として規定されている装置やプログラムの提供行為以外にも規制すべき行為が存在すること等の課題があり、こうした課題に適切に対応するため、今般、法改正が行われることとなりました。

技術的制限手段による保護対象

 現行の保護対象は、影像、音、プログラムに限られているところ、それに加えて、電子計算機による処理(プログラムの実行の用に供するものに限定)に供するためのデータが追加されました(改正法第2条第8項)。

 また、「技術的制限手段」として、電子計算機による処理を制限するために施される技術的な手段の追加を行い、当該技術的制限手段を無効化する装置等の提供行為を「不正競争行為」と位置付けました(改正法2条1項17号、同18号)。

 そこで、たとえば、機器の制御や不具合の解析などのために用いられるデータ(暗号化されたもの)につき、当該データの暗号を無効化するツールの提供行為などが新たに規制の対象となりました。

技術的制限手段の対象の明確化

 技術的制限手段の定義について、アクティベーション方式(ユーザーが体験版ソフトウェア等をダウンロードする際に、当該ソフトウェアが未認証の状態であれば、使用期間や機能にロックがかかるところ、その後、ユーザーが課金の支払い等を行い、正規のユーザーとして認証された後に、電子メール等で送信されてくるシリアル番号等を決まった方式で入力することで、製品版として認証がなされ、ソフトウェアの使用が可能となる方式)による技術的制限手段が含まれることが明確化されました(改正法2条1項17号、同18号、2条8項)。

技術的制限手段を無効化するサービスの提供行為

 技術的制限手段を無効化するサービスを提供する行為につき、無効化装置等の提供と同等とみなされるサービス提供行為が「不正競争行為」と位置付けられました(改正法2条1項17号、同18号)

 具体的には、以下のサービスが規制の対象になり得ます(中間報告)。 なお、試験・研究目的で行われる無効化サービス等の提供については「不正競争行為」から除外されています(改正法19条9号)。

類型 該当例
(ⅰ)改造サービス ユーザーからゲーム機(装置)を預かり、海賊版ゲームの実行を可能とする装置(技術的制限手段の無効化を可能とする装置)に改造し、返還するサービス
(ⅱ)訪問型サービス (ⅰ)の装置の改造について、ユーザーの元へ訪問して行う装置の改造や、インターネットのリモートアクセスによるプログラムの実装等、装置自体の引き渡しを伴わない形態のサービス
(ⅲ)店舗型サービス 店舗等において、技術的制限手段を無効化した機器を利用し、客に影像等のコンテンツの視聴等を可能とするサービス
(ⅳ)無効化代行サービス ユーザーの代わりに、試用版ソフトウェアに施された技術的制限手段を装置等を用いて無効化し、正規版と同等のソフトウェアとして使用できる状態にするサービス

技術的制限手段を無効化する情報の提供行為

 無効化装置等の提供等と同様に、技術的制限手段の無効化に直接寄与するような技術的制限手段を無効化するための符号(不正に生成または入手されたシリアルコード等)を提供する行為が新たに「不正競争行為」と位置付けられました(改正法2条1項17号、同18号)

 たとえば、正規のソフトウェアライセンスを有することの認証プロセスにおいて用いられるシリアルコードにつき、正規のソフトウェア利用許諾者となりすますための不正なシリアルコードを、ネットオークションで販売する行為が、新たに規制の対象となります。

 なお、試験・研究目的で符号を譲渡する行為や、中古プログラム等と共に符号を譲渡する行為(自分が正規に購入したプログラム等を、自分の機器からそのプログラムを消去したうえで、正規のプログラム等の購入時に付与された符号と一緒に譲渡する行為)等は、不正競争行為の対象外とされています(改正法19条9号)。

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