誰にでも起こりうる「中だるみ社員」の危険性

第1回 仕事、キャリアの停滞感からの脱し方

人事労務

「なぜか最近、仕事でワクワクすることがない」「会社に大きな不満はないけれど、ずっと同じ仕事の繰り返し。この先も大きく変わることはなさそうだ」、そう感じることはないでしょうか。きっと、多くの方がそう感じた経験があるのではないかと思います。一方で、部署の異動や転職などをきっかけに、また意欲的に仕事と向き合い、自分の中で感じる閉塞感を脱していくことも、多くの方が経験してきていることでしょう。しかし、きっかけがないまま、ずっと倦怠感を引きずっていくと、気づいた時には会社の中で「中だるみ社員」と、レッテルを貼られた社員になっているかもしれません。

今回は、青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科の山本寛教授に取材しました。昨年5月に『「中だるみ社員」の罠』(日本経済新聞出版社)を上梓した山本教授。山本教授によると、「仕事にワクワクしない」「同じ仕事を続けていて、入社当時のように仕事に燃えない」「目の前の仕事に振り回され、充実感がない」「ここ数年、ポジションも上がらないし、部署も変わらない」など、30~40代にかけて停滞感を感じる「中だるみ社員」が続出していると言います。

では、「中だるみ社員」が生まれる原因は何なのか、また、「中だるみ社員」を生まないために、もしくはすでに「中だるみ社員」になってしまっている場合に、本人、上司、会社、それぞれにできることは何なのか。決して他人事ではないキャリアの停滞について、具体的な打開策をお聞きしました。

増える「中だるみ社員」とは

「中だるみ」とはどういう状態のことをいうのでしょうか。

「中だるみ状態」と「中だるみ社員」は分けて考えます。人は皆、がんばり続けているとどこかで倒れてしまいます。疲れて「中だるみ状態」になることはおそらく誰にでもあり、でもそこから何らかのきっかけで元に戻って、リフレッシュします。

一方で「中だるみ社員」は、「フリーライダー」や「ぶら下がり社員」と同じレッテルです。自分で「中だるみ社員」と言う人もいるかもしれませんが、実際に怖いのは、上司や同僚から「あいつは中だるみ社員」と思われる、または直接言われることです。それは当人にとって、非常にマイナスとなります。そのうえでの「中だるみ」とはどういう状態かというと、今までと比べてパフォーマンスや意欲が平行状態、もしくは下がっている状態のことを指します。

会社の他の人の働き具合に完全に依存する「フリーライダー」「ぶら下がり社員」は、たとえると、お神輿で他の人ががんばって担いでいるのに、自分だけぶら下がっているようなイメージで、会社の仕事や組織に対する関係性で貼られるレッテルです。「中だるみ社員」はそこにプラスして、その人自身が新入社員の時はすごくがんばっていたのに、ここ数年は仕事がうまくいっていないなど、その人の過去との比較でこの先を悲観視されることでもあります。一度レッテルを貼られてしまうと、はがすのはかなり大変です。

「中だるみ社員」の自覚がない人は多いのでしょうか。

多いと思います。だから恐ろしい。2-6-2の法則から考えると、下の2割の人はパフォーマンスが低いグループとされていますから、2割は「中だるみ社員」と考えることができます。

「中だるみ」は伝染する

「中だるみ社員」が増えている背景には何があるのでしょうか。

人手不足が関係しています。具体的には、同じ仕事の繰り返しが増えたこと、部署が変わりにくくなったこと、業務量が増えていることが背景として考えられます。たとえば、人手不足によって、2、3年目の社員が新入社員の頃と同じ仕事をしないといけなかったり、ジョブローテーションで計画的に部署や仕事を変える予定が大幅に遅れたり。

また、民間企業では、働き方改革によって定時で帰らせる日が増えましたが、誰もがいっぱいいっぱいで仕事をしているので、仕事量は減らないのに早く帰れと言われる新しいタイプの「中だるみ状態」になります。能力を超える仕事を与えられ続けると、工夫して速くしようと考える余裕すらなくなって、今までと同じやり方でひたすら繰り返します。そこからは、働きがい・やりがいは生まれないのではないかと思います。

「中だるみ社員」が増えると、会社と社員はこの先どうなっていってしまうのでしょうか。

まず、会社の中では新しい発想がなかなか生まれなくなってきます。社員が仕事に追われている状態だと、今までのやり方に固執してしまい、イノベーションが起こりにくくなります。それから、もっとチャンスを与えたら本当は色々できる可能性があるかもしれないのに、いつまでも初歩的な仕事を繰り返させているような状態だと、結局その人は能力を発揮できません。ハイパフォーマーの社員の働き方にすがる「フリーライダー」になってしまいます。

そうなると本人は、会社にいることが大変で、つまらなく感じてくるでしょう。それでも人間関係はよいからと働き続けていたとしても、最終的には退職することを考え始めるはずです。辞める決断をする手前の段階になると、組織への帰属意識が低下します。そうなると、パフォーマンスが低下し、それと同時に、本人と所属組織との距離はどんどん広がっていきます。

本人のパフォーマンスが伸びないと、会社のパフォーマンスも伸びません。また、新入社員からすると、イキイキしていない先輩の姿を見て、数年先の自分の姿を重ね合せるわけですから、会社全体が沈滞ムードで雰囲気も落ち込んでしまうという構図が予測できます。

「中だるみ社員」が増えたことにより問題化した企業の事例があれば教えてください。

連鎖退職によって、社員が一気に抜けてしまったという会社がありました。ただ、最初の退職者が出た時点では、これが連鎖退職なのかどうかはわかりませんよね。できるだけ円満に退職するために、退職する社員は退職理由をはっきりとは言わないものです。ところがその後、その退職者が同業他社に転職したという情報が伝わってきます。後から聞くと、「前の会社は問題がいっぱいあって、自分も『中だるみ状態』だったから辞めた」と。さらに、辞める時にSNSに会社の悪口をばらまいたうえに、同僚にも不満を直接漏らしていたと。そこからズルズルと連鎖的に社員が退職していったことが発覚したといった事例です。

青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科 山本寛教授

青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科 山本寛教授

どこにでも潜む「中だるみ」、その原因と予防策

「中だるみ状態」になるきっかけとして、何が考えられますか。

どこにでも「中だるみ」の原因は潜んでいます。異動は「中だるみ」を防ぐ大きな要因になりますが、長く続くと人は刺激を感じなくなります。たとえば、最初は異動したり研修を受けたりすることによって、新たな刺激を受け、やる気が戻り、パフォーマンスが戻って、「中だるみ状態」が解消されていきます。この繰り返しです。ただ、10年、15年と繰り返していくと、「この会社で異動しても、同じような上司がいて、同じことしかない」とか、「この研修はたいして役に立たない。研修を受けても、それを活かせる仕事がない」などと思うようになります。人は、最初の頃は新しい刺激でモチベーションが大きく上がっても、それが繰り返されていくとだんだん慣れ、先が読めてしまうことでモチベーションはあまり上がらなくなるものです。このように、会社全体で異動や研修をしていても、「中だるみ状態」になってしまうのは仕方ない部分があります。また、会社によって違いますが、仕事は1年単位で同じことを繰り返す部分が多い傾向があります。そのため、翌年も翌々年も同じような仕事を繰り返しがちになります。ですから、「中だるみ」になる可能性はどこにいても生じるのです。

重要なことは、「中だるみ」になる可能性を自分で意識して、周りの人のちょっとしたサインを見逃さないことです。「お前大丈夫か?」と真剣に言われなくても、「あれ?周りの雰囲気が何か違う」「自分は大丈夫だろうか?」と、意識することです。

法務部の場合、ジョブローテーションをすると知識が蓄積できないため、あまり異動はさせないという企業もあります。その状況だと、「中だるみ」を助長しがちということでしょうか。

法務部門に勤めている人は、おそらく専門性志向が強く、専門性を評価されて入ってきて、自分もそのための勉強をしている人が多いのではないでしょうか。そうした人の「中だるみ状態」を考えると、仕事の深さと広さという視点で考える必要があるかと思います。

いわゆる研究開発部門では、専門性を深めていくにも色々なやり方があります。たとえば、学会に参加して発表したり、自分が所属する部門で求められる専門性を察知して、それを高めるための勉強をしたり。本人にとって、それはキャリア発達に結びつきますから、その場合は「中だるみ状態」を強くは感じないと思います。

ただ、企業の一員という観点だと、そういった活動が組織のパフォーマンスに寄与しているかどうかはわかりません。電機メーカーの基礎研究所がなくなっていったのは、企業に余裕がなくなったこともあると思いますが、10年後のノーベル賞受賞を目指すことよりも、短期的な製品開発に結びつかないことを抱えられなくなったからです。そこで重要なのは、どうやって自分の専門性を使って、その仕事をしていくかということになります。

解決する方法はあるのでしょうか。

エンプロイアビリティを高めることです。もし会社でリストラが行われるとしたら、専門的ではあっても「自分はこれしかできない」という人が、切られやすいかもしれません。その時に自分が残っていけるかどうかは、自分が蓄えてきた知識や深めてきた分野を会社が評価しているかどうかということだと思います。会社が認めてくれていて、さらに当人が仕事をパフォーマンスと結びつけることができていれば、それでいいのではないかと思います。

専門性を深めたい人は深めていくことで、「中だるみ社員」のレッテルは貼られないのではないかと思います。ただ、先々そこでやっていくのか、やっていけるのかは、会社によって違いますし、会社が法務部門に何を求めているのかによって違ってくるでしょう。

弁護士資格を持たない法務部員にとって、最近は法律事務所から転職してくる弁護士が増え、専門性では敵わないという話を聞くことがあります。また、AIに仕事を奪われるかもしれないと危惧する方もいて、スペシャリティに自信を持てない要因が増えているようです。

それはまさに「脱専門化」といわれることです。専門性を評価されて入ってきても、「自分自身のキャリアを考えると、それだけでこの先30年はやっていけない」と思った時に、どこかの時点で自分のそれまでの専門分野から「脱専門化」する必要があります。それは、もう1本別の専門性として寄って立つべき軸足を持つということです。たとえば、法務以外の仕事をする他部署に異動して、そこでも生きる術を持っておく、ということも1案だと思います。

規模が大きくない会社の場合、法務担当が1人という例もあります。そうすると、目指す方向がわからず、目の前の仕事に忙殺されるという人も多いようです。

それは法務だからというより、仕事の分量が多いことによる「停滞」です。これは「中だるみ」の危険性が高いと思います。場合によっては後継者も必要でしょうし、広がりを考えると1人でやっていても限りがあります。人を増やすなりして、少し大きめの組織単位にすることが経営に求められるでしょう。

青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科の山本寛教授

感度を上げて、自分の状態に敏感になる

自分が「中だるみ状態」であることに気づくには、どうすればよいのでしょうか。

「中だるみ」といわれてもピンとこないかもしれませんが、たとえば、以前は仕事がそれなりに楽しかったのが、最近は全然楽しくないと感じたり、毎週日曜の夜が来ると憂鬱になったり、土日の片方は完全に寝てしまっていたりすると、危険信号です。また、忙しいと仕事がどうだったかを考えることなく、帰宅するとすぐ寝てしまうと思います。ですから、毎日会社に行く朝の自分の状態で考えた方がよいでしょう。

あとは、普段会えない友だちと意識的に会って自分のことを話してみることも効果的です。この時、ざっくばらんに自分について指摘してくれるような人と話すのがよいでしょう。過去の自分を知っていて、深めに付き合ってきた友だちであれば、正直に思ったことを言ってくれると思うので。家族や配偶者でもよいかもしれません。

また、これは血圧のように、常に「中だるみ状態」かどうかをチェックして意識しろというわけではありません。自分では以前との違いを意識できなくても、周りに対して少し感度を上げておくと、きっと色々なきっかけがわかると思います。

プライベートの時間も重要ということですね。

働きがいを感じるのは、働いている時にだけ感じるわけではおそらくありません。すごく充実していて、上司から期待されて、バリバリ業績を上げるような仕事をしている時も、働きがいを感じると思います。それと同時に、仕事が終わって、家に帰ってホッとしてビールを飲んでいる時にも働きがいを感じることがあるでしょう。

つまり、オンとオフの切り替えがうまくできないと、働きがいはおそらく感じられません。走り続けると、どこかでガソリン切れになってしまいます。勤務間インターバル制度が話題になっていますが、そういうことを意識的に導入した方がいいと思います。

会社に行くのがつまらない、面白くないという感情は、異動がない場合は、簡単に拭えないと思います。そこで変えられるとしたら、プライベートや家庭、趣味です。たまたま今は働き方改革によって、ノー残業や定時で帰る取り組みがあるので、そこで何か違うことをやってみるのも手です。

転職も「中だるみ」の解消になりそうですが、転職することが果たして最良の決断なのでしょうか。転職すべき人・そうではない人の違いはどこでしょうか。

まず、若い方に多い衝動的な転職はお勧めしません。損得を考えた方が絶対によいです。次の会社に行ってうまくいくとは限りませんが、それでも自分で考えて判断すること。感情的になって辞表を出すのは危険です。

そして、転職を考えるのであれば、やはり仕事の内容で考えないといけません。たとえば、「仕事の範囲を広げて、今までしてこなかったことをしたい」とか、「もっと専門性を深めていきたい」など、まずは仕事志向であることが重要です。最近はミドルの方が転職しても管理職になれない場合が多いので、転職で昇進の停滞を脱することは難しいでしょう。

転職で評価されるのは、前の会社でのキャリア、仕事、資格、その会社に入って何ができるのかということです。今後の計画・目標として、「どんな仕事をしたいのか」「今自分がどんな状態にいて、何を打開したいのか」を持っている人は、転職はよい選択だと思います。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

関連する特集

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する