平成30年改正消費者契約法のポイントと企業が求められる対策

第1回 改正の経緯と不利益事実の不告知、困惑類型の追加

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 吉村 幸祐弁護士

はじめに

 平成13年4月1日に施行された消費者契約法は、平成28年5月25日に改正され(以下「平成28年改正」といいます)、平成29年6月3日から施行されています(以下「現行法」といいます。当該改正の詳細につきましては、「平成28年6月公布! 改正消費者契約法のポイントと対策(第1回)」および「平成28年6月公布! 改正消費者契約法のポイントと対策(第2回)」をご参照ください)。

 平成28年改正に先立ち取りまとめられた平成27年12月「消費者契約法専門調査会報告書」(消費者委員会 消費者契約法専門調査会)においては、「勧誘」要件の在り方、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、「平均的な損害の額」の立証責任、条項使用者不利の原則、不当条項の類型の追加等、「現時点で法改正を行うことについてコンセンサスが得られていないものについては、今後の検討課題として引き続き検討を行う」とされていました。

 このような中、平成28年9月から消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」といいます)が再開され、平成30年6月8日に「消費者契約法の一部を改正する法律」が成立しました(以下、当該改正法を「本改正法」といい、本改正法による改正を「本改正」といい、本改正後の消費者契約法を「本改正後法」といいます)。改正経緯は下表のとおりです。
 当該改正法は、翌年(2019年)の6月15日から施行されます(本改正法附則1条)。

平成28年9月〜 専門調査会での議論が再開される
平成29年8月 消費者委員会による答申
平成30年3月2日 「消費者契約法の一部を改正する法律案」が国会に提出される
平成30年6月8日 「消費者契約法の一部を改正する法律案」成立
平成30年6月15日 「消費者契約法の一部を改正する法律案」公布

 本改正は、上記「検討課題」とされていたもののうち、不利益事実の不告知困惑類型の追加不当条項の類型の追加等を内容とするものです。本稿では、本改正の要点を、実務に与える影響や当該影響を踏まえた対策等を交え、概説します。

目次
第1回
1 はじめに
2 不利益事実の不告知の要件の緩和
3 取り消し得る困惑類型の追加
第2回
1 無効となる不当条項の追加
2 条項の作成に関する努力義務
3 情報提供に関する努力義務
4 本改正の対象外とされた事項
5 おわりに

不利益事実の不告知の要件の緩和

「重大な過失」の追加

 消費者は、事業者の一定の行為(①不実告知(現行法4条1項1号)、②断定的判断の提供(同2号)および③不利益事実の不告知(同2項))により誤認をし、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした時は、これを取り消すことができます。

 平成28年改正においては、このうち、①不実告知による取消しの要件が緩和されました(詳細は「平成28年6月公布! 改正消費者契約法のポイントと対策(第1回)」の2をご参照ください)。これに対し、本改正後法では、③不利益事実の不告知による取消しの要件が緩和されました。

 具体的には、③不利益事実の不告知の主観的要件として、現行法では事業者の「故意」が要求されているところ、これに「重大な過失」が追加されました。当該改正後の規定は、本改正法施行日(2019年6月15日)以後にされる消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示について適用されます(本改正法附則2条1項)。

 具体的な条文は以下のとおりです(下線部が改正箇所です。以下同じ)。

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第4条
1(略)

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

「重大な過失」の意味

 追加された主観的要件である「重大な過失」の具体的な定義は、本改正後法上は明らかではありません。

 もっとも、専門調査会においては少なくとも従前の裁判例における「重大な過失」または「重過失」の解釈を変えるものではないと考えられており第39回専門調査会議事録)、消費者庁は、消費者委員会本会議において、「ほとんど故意に近い著しい注意欠如」であると解説しています(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁)。

 これは、失火責任法の「重大ナル過失」について「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す」と示した最高裁判決(最高裁昭和32年7月9日判決・民集11巻7号1203頁)を念頭に置いたものと解されます。なお、たとえば現行法8条の「重大な過失」については、「相当の注意をすれば容易に有害な結果を予見することができるのに、漫然看過したというような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態をいう」と解されています(消費者庁消費者制度課 編『逐条解説 消費者契約法』〔第3版〕(商事法務、2018年5月)199頁)。

 イメージは下図のとおりです(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁を基に作成したもの)。

第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁 イメージ図

具体的事例と本改正の影響

 本改正に先立って開催された専門調査会では、以下のような事例を念頭に議論がなされました(平成29年専門調査会報告書・参考資料5、第39回専門調査会・資料1)。

事例
 集合墓地から自宅の庭先に墓を移転する契約を石材店と締結した後に、役場に相談したところ、役場から墓の移転を却下されてしまった。自分は、墓の建立に行政の許可が必要であることや、行政は自宅の庭への建立を認めない方針であることなど全く知らなかった。石材店が正しい情報を伝えてくれさえしていれば契約していない。石材店はあくまで契約の履行を迫ってくる。

 墓石を扱う石材店であれば、通常は墓の建立に関する規定や手続等を知っているものと考えられます。そのため、当該石材店には、顧客の自宅の敷地の墓に建立するための許可が認められるのは極めて例外的な場合である事を告げなかったことについて、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態があったと判断される可能性が高いです。

事例
 中古自動車を購入する際に、「多少の傷がバンパーにあるが、安心して買ってください。」と説明されたので購入を決めた。半年後、板金塗装業者へ車体の色を変える依頼をしたところ、当該業者から「車体の中が何かにぶつかったようにグシャグシャになっている。事故車ではないか。」と指摘された。中を見ると緩衝部品が潰れていた。

 中古車自動車販売店であれば、通常は取り扱う中古自動車の部品等に異常がないか外見のみならず内部を含めて確認するものと考えられます。そのため、当該販売店には、当該中古自動車内部の緩衝部品が潰れていることを告げなかったことについて、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態があったと判断される可能性が高いです。

 上記の各事案において、現行法上の不利益事実の不告知の要件である「故意」が認められる余地はあると考えられます。また、前述のとおり、「重大な過失」とは「故意に近い著しい注意欠如の状態」と解されています。そのため、本改正後法により取消しが認められる場面は、「故意」が認められる場合またはそれに匹敵する場合であり、本改正に伴い、不利益事実の不告知による取消しが認められる範囲が大きく拡大されるとはいえないように思われます

 もっとも、消費者庁が2017年1・2月に消費者生活相談員を対象として実施したアンケートによると、現行法上、不利益事実の不告知を理由とする取消しを利用しにくいと思うと回答した消費者生活相談員の多数が、その理由として「『故意』の要件の認定判断が困難であること」をあげていました。そのため、本改正に伴い、消費者生活相談等の現場において、不利益事実の不告知を理由とする取消し規定が活用される機会が増えることが見込まれます

 したがって、企業の方々としては、消費者と契約を締結するに際し通常認識し得る情報を整理し、当該情報の確認に見落としがないか、消費者に適切に情報提供できているか等を改めて検討することが肝要であると考えられます。

取り消し得る困惑類型の追加

6つの困惑類型の追加

 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘するに際し、「事業者の一定の行為」により困惑し、それによって当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした時は、これを取り消すことができます(現行法4条3項)。

 現行法では、「事業者の一定の行為」として、不退去(現行法4条3項1号)または退去妨害(同2号)が規定されていましたが、本改正に伴い、この「事業者の一定の行為」として新たに6つの困惑類型が追加されました。当該改正後の規定は、本改正法施行日(2019年6月15日)以後にされる消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示について適用されます(本改正法附則2条2項)。

 困惑類型では、救済されるべき不当な取引態様に対応しつつ、正当な取引実務は阻害しないように要件が規定されています。そのため、普段からコンプライアンス経営を意識されている読者の方々は、困惑類型に該当し得る事業活動を行われることはあまり無いように思われます。もっとも、要件に該当した場合にはその契約は取り消し得るものとなるところ、今般どのような困惑類型が追加されたのかをご確認いただくことは重要ですので、以下でその6つの類型を簡単にご紹介します。

社会生活上の経験不足を利用した不安をあおる告知

 本改正により、①消費者が社会生活上の経験が乏しいことから、②社会生活上の重要な事項または身体の特徴または状況に関する重要な事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを、③当該事業者が知りながら、④その不安をあおって、正当な理由なく、当該消費者契約が当該願望を実現するために必要であると告げる行為が、困惑類型として追加されました(本改正後法4条3項3号)。

 イメージは下図のとおりです(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の4頁を基に作成したもの)。

第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の4頁 イメージ図

 具体的な条文は以下のとおりです。

第4条
1〜2 (略)

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一〜二 (略)

三 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。

イ 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項

ロ 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項

 これは、社会生活上の経験が乏しい消費者の不安をあおる行為について、不当性の高い類型的な行為の1つであるとして、消費者に取消権を認めたものです。

 本類型に関し、専門調査会では、以下のような事例を念頭に議論がなされました(平成29年専門調査会報告書・参考資料5)。

事例
 大学や就職セミナーの会場周辺で、「就活生の意識調査」「学生生活のアンケート」などと学生に声をかけて連絡先を聞き出し、無料の説明会や就活セミナーに参加するように誘って事務所に来訪させた学生に対して、「あんたは一生成功しない」などと不安をあおり、就職活動支援や人材育成をかかげる有料講座の受講契約について勧誘を行った。

 個別事情が明らかではないため具体的な結論は述べにくいのですが、当該消費者が未就職者の学生であれば、社会生活上の経験が乏しい可能性があり、無料の説明会や就職セミナーに参加している事実等から、就職という社会生活上の重要な事項の実現について過大な不安を抱いている可能性があります。また、当該事業者は、大学や就職セミナーの会場周辺にいた学生を対象に就職活動支援や人材育成をかかげる有料講座の受講契約について勧誘していることからすれば、上記の事情を知っている可能性があります。

 そのため、当該事例においては、当該事業者が、当該消費者に対し「あんたは一生成功しない」などと伝えて不安をあおり、就職活動支援や人材育成をかかげる有料講座の受講契約が就職に必要であると告げ、当該消費者がこれにより困惑し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたとして、取消しが認められる可能性があります。

社会生活上の経験不足を利用した人間関係の濫用

 本改正により、①消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、②勧誘者に恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も同様の感情を抱いている者と誤信していることを、③当該事業者がこれを知りながら、④これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げる行為が、取消し得る行為の類型として追加されました(本改正後法4条3項4号)。

 イメージは下図のとおりです(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の4頁を基に作成したもの)。

第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の4頁 イメージ図

 具体的な条文は以下のとおりです。

第4条
1〜3(略)

一〜三(略)

四 当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。

 これは、いわゆるデート商法に代表されるような、人間関係を濫用する行為について、不当性の高い類型的な行為の1つであるとして、消費者に取消権を認めたものです。

 本類型に関し、本改正後法の提案資料では、次のような例があげられています(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2)。

事例
 男性から電話があり、何度か電話するうちに好きになり、思いを伝えた。男性に誘われ宝石展示場に行ったところ、「買ってくれないと関係を続けられない」と言われ契約した。

 結論は個別事情によるところではありますが、いわゆるデート商法のような場面であり、当該消費者の社会生活上の経験が乏しいゆえに、当該消費者が当該勧誘者を好きになり、当該勧誘者も当該消費者の事が好きであると誤信したと判断される可能性があると考えられます。また、当該勧誘者は、当該消費者の誤信を知りながら、「(宝石を買わなければ)関係を続けられない」と伝え、売買契約を締結しなければ当該勧誘者との関係が破綻することを告げています。

 そのため、当該事例においては、当該消費者がこれにより困惑し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたとして、取消しが認められる可能性があります。  

判断力が著しく低下していることを利用した不安をあおる告知

 本改正により、①消費者が、加齢または心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、②現在の生活維持に過大な不安を抱いていることを、③当該事業者がこれを知りながら、④その不安をあおり、当該消費者契約を締結しなければ現在の生活の維持が困難となる旨を告げる行為が、困惑類型として追加されました(本改正後法4条3項5号)。
 具体的な条文は以下のとおりです。

第4条
1〜3(略)

一〜四(略)

五 当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること。

 本類型は、衆議院に提出された法案には記載されておらず、衆議院の消費者問題に関する特別委員会での議論を経た後に法案が修正され、具体化されたものです。当該類型が法案として具体化された経緯は、現時点では必ずしも明らかではありません。

 しかし、前述のとおり、法案に記載されていた前記2類型(前記3-2および3-3)は、消費者の「社会生活上の経験が乏しいこと」を要件としています。同法案の審議中、福井照消費者担当大臣は、「年齢によることはないわけでございまして、高齢者も含まれている」(平成30年5月17日会議録)と答弁したものの、個別事情に応じ「社会生活上の経験が乏しい」と認められない消費者については、同類型の取消しを行えないと考えられます。

 そのため、「社会生活上の経験が乏しい」か否かにかかわらず、「加齢または心身の故障により判断力が著しく低下している」消費者が、現在の生活維持に過大な不安を抱いていることを事業者が知っていた場合において、告知を正当化する要素がないのに、当該消費者契約を締結しなければ現在の生活の維持が困難である旨を告げる行為についても、不当性の高い類型的な行為の1つであるとして、消費者に取消権を認めたものだと考えられます。

合理的に実証することが困難な特別な能力による知見を利用した不安をあおる告知

 本改正により、①消費者に対し、合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、②そのままでは当該消費者に重大な不利益が生じる旨を示してその不安をあおり、③当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げる行為が、困惑類型として追加されました(本改正後法4条3項6号)。
 具体的な条文は以下のとおりです。

第4条
1〜3(略)

一〜五(略)

六 当該消費者に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること。

 本類型もまた、衆議院の消費者問題に関する特別委員会での議論を経た後に修正されて具体化されたものです。
 そのため推測ではありますが、前述のとおり、法案に記載されていた前記2類型(前記3-2および3-3)は消費者の「社会生活上の経験が乏しいこと」を要件としているところ、霊感商法のような合理的に実証することが困難な特別の能力による知見を利用し、重大な不利益が生じると消費者の不安をあおり、重大な不利益を回避できるとして消費者に告げる行為は、「社会生活上の経験が乏しい」か否かに関係なく、消費者は保護されるべきとの考えの下、消費者に取消権を認めたものだと考えられます。

契約締結前に義務の内容を実施する行為

 本改正により、①消費者が消費者契約の申込みまたはその承諾の意思を表示する前に、②当該消費貸借契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の一部または全部を実施し、③その実施前の原状の回復を著しく困難にする事業者の行為が、困惑類型として追加されました(本改後法4条3項7号)。

 イメージは下図のとおりです(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁を基に作成したもの)。

第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁 イメージ図

 具体的な条文は以下のとおりです。

第4条
1〜3(略)

一〜六(略)

七 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部又は一部を実施し、その実施前の原状の回復を著しく困難にすること。

 当該規定は、事業者が消費者に心理的な負担を抱かせ、契約を締結せざるを得ない状況を作出する行為を不当な類型として定めるものです。

 本類型に関し、本改正後法の提案資料では、次のような事例があげられています(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2)。

事例
 事業者が、注文を受ける前に、自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し、代金を請求した。

 当該消費者は、さお竹の購入契約について、申込みまたは承諾の意思表示をしていませんが、それに先立ち、当該事業者は、さお竹購入契約を締結したならば負担することとなるさお竹の切断義務を実施しています。加えて、切断を終えたさお竹を原状に回復することは著しく困難です。そのため、当該事例においては、当該消費者がこれにより困惑し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたとして、取消しが認められる可能性があります。

 また、専門調査会では、以下のような事例を念頭に議論がなされました(平成29年専門調査会報告書・参考資料5)

事例
 ガソリンを入れようとガソリンスタンドに立ち寄ったところ、「ワイパーのゴムが外れていますね。」と言いながらワイパーを外し、頼みもしていないのに前も後ろもワイパーを交換し始めた。また、ボンネットを開け「エンジンオイルが少ないと・・・。」などと言いながら勝手にエンジンオイルを入れ始めたので、時間がないからと断ったが、強引にオイル交換され、代金を請求された。納得いかなかったが怖かったので支払った。

 当該消費者は、ワイパーの交換契約およびオイル交換契約について、申込みまたは承諾の意思表示をしていませんが、それに先立ち、当該事業者は、ワイパー交換契約およびオイル交換契約を締結したならば負担することとなるワイパー交換義務およびオイル交換義務を実施しています。加えて、前後のワイパーの交換が完了し、また、オイル交換も完了していますので、交換前の原状に回復することは著しく困難であると認められる場合はあると考えられます。そのため、当該事例においては、当該消費者がこれにより困惑し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたとして、取消しが認められる可能性があります。

消費者契約の締結を目指した事業活動を実施する行為

 本改正により、①消費者が消費者契約の申込みまたはその承諾の意思を表示する前に、②事業者が当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、③正当な理由がある場合でないのに、④当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨、および、当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げる事業者の行為が、困惑類型として追加されました(本改正後法4条3項8号)。

 イメージは下図のとおりです(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁を基に作成したもの)。

第269回 消費者委員会本会議の資料4-2の5頁 イメージ図

具体的な条文は以下のとおりです。

第4条
1〜3(略)

一〜七(略)

八 前号に掲げるもののほか、当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合において、当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに、当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げること。

 当該規定もまた、事業者が消費者に心理的な負担を抱かせ、契約を締結せざるを得ない状況を作出する行為を不当な類型として定めるものです。

 本類型に関し、本改正後法の提案資料では、次のような例があげられています(第269回 消費者委員会本会議の資料4-2)。

事例
 マンション投資の勧誘で会って欲しいと言われ会ったが、事業者は他都市の者で、「あなたのためにここまで来た、断るなら交通費を払え」と告げ勧誘した。

 当該消費者は、マンション投資契約について、申込みまたは承諾の意思表示をしていませんが、それに先立ち、当該事業者は契約締結に向けた勧誘行為を実施しています。また、正当な理由がないにもかかわらず、当該事業者は、「あなたのためにここまで来た」と当該勧誘活動が当該消費者のために特に実施したものである旨を告げるとともに、「断るなら交通費を払え」と当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げています。そのため、当該事例においては、当該消費者がこれにより困惑し、それによって消費者契約の申込みの意思表示をしたとして、取消しが認められる可能性があります。

 次回は、無効となる不当条項の追加とその他の改正事項、本改正の対象外とされた事項について解説いたします。

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