法務キャリアの登り方

第8回 大手メーカー・官庁を経てベンチャーへ、「人」という原点に向き合ったキャリア選択 スタメン 執行役員 CFO 喜多 亮介氏

法務部

昨今、企業法務におけるキャリアは多岐にわたります。企業内弁護士も年々増加し、法務部門での採用は新卒採用、中途採用、弁護士採用、修習生採用など、募集する対象は様々です。そうした環境下、以前に比べて自身のキャリアを考える人が増えているのではないでしょうか。

今回は、株式会社スタメンで執行役員CFOを務める喜多 亮介氏に取材しました。喜多氏は、2009年に新卒で入社したトヨタ自動車株式会社で人事部に配属された後、経済産業省経済産業政策局に出向。その後トヨタへの帰任を経て、2017年2月にスタメンに入社。現在は経理・法務・人事等、管理業務全般を担当しています。

2016年に設立した株式会社スタメンは、「一人でも多くの人に、感動を届け、幸せを広める。」を経営理念に掲げ、組織のエンゲージメント1を高めるためのコンサルティングサービス「TUNAG(ツナグ)」を運営しています。

トヨタ・経産省での経験を経て、名古屋のベンチャー企業であるスタメンというキャリアを選択した理由は何か。「エンゲージメントをもっと世に広めたい」という想いについて、喜多氏に語っていただきました。

原点となったトヨタへの就職

トヨタ自動車に新卒入社されたということですが、学生時代は自分のキャリアについてどのような考えを持っていましたか。

大学は経済学部でしたが、ゼミも入らず、卒論も書かず。所属していたアメフト部でのトレーナーが中心の生活でした。もともと自分は選手をやろうと思っていたもののケガをしてしまい、それでもアメフトを続けたくて、支える側に回りました。この経験は人事部やコーポレート部門というキャリアを選んできた自分の根底にあると思います。

トヨタを選んだ理由の1つは、一人暮らしをしたかったからです。学生時代は実家暮らしだったんですが、アメフト部は一人暮らしの人間がたくさんいました。彼らがたくましく自力で生活しながら、部活もストイックにやっている姿を見て、自分も一人暮らしをしたくなって愛知に行きました(笑)。

あとは、モチベーションを持ちやすいのがメーカーだったんですよね。当時はまだ、商社や金融の面白さを理解しきれていなくて。モノをつくるメーカーはわかりやすいし、興味を持てそうだなと思いました。大人になったら自動車に興味を持つだろうと、そんな勢いで決めていました。自分は車好きでもなかったし、クラウンがトヨタ車だとも知らずに受けていたレベルで、雑な就活でしたね(笑)。

トヨタでは人事部に配属されたという事ですが、希望されていたのですか。

配属面談はありましたが、できるだけ「どこでもいい」と言わせたい雰囲気の面談でした(笑)。でも、色々な仕事があったので、「入社したばかりだし、希望する役職や部署はこの先変わるだろう」「最初は自分のことをよく見てくれている人事から、適した部署を提示された方がいいだろう」と思って、「キャリアを積む中で、進みたい部署が決まったら宣言します。今はお任せします」と言いました。

人事部への配属が決まった時、どう思いましたか。

配属が決まるまで人事部の名前は一度も聞いたことがなく、「人事部っていう部署があるんだ」というところから始まりました。採用や入社教育は別の名前の部署でしたし。全く志望せず、イメージもつかず、というのが正直なところでしたが、イヤだと思うこともありませんでした。

当時の職場はどういう雰囲気だったのでしょう。

トヨタに入社したのはリーマンショック後の2009年で、業績が落ち込み大変な時期ではありました。ただ、人事部はアットホームな雰囲気で、すごく居心地がよかったですね。今やっているエンゲージメントに関する仕事にもつながる、僕の社会人生活の原点ともいえる経験です。
人事部は全体で約100~150人の規模で、自分が所属するグループは10人でした。忘年会などの出し物も盛んで、みんなで率先して取り組むような職場でした。社内最大のイベントである駅伝大会では、速く走れる人だけが出場するのではなく、練習して、速くなっていく人をみんなで見守りながら、たくさんのメンバーが応援していました。もちろん仕事への意識が高いからこそ、そういう雰囲気ができていて、すごく居心地のいい職場でした。

経産省へ出向されたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。

人事部では、年金や健康保険など社会保障の担当もしていました。社会保障は国の財政とつながっているので、国家の動きに少しずつ興味を持ち始め、さらに出向している先輩がいることを聞いて、より興味を持つようになりました。

経産省ではどんな仕事を経験しましたか。

経済界に与える社会保障の影響という観点から、政策立案のお手伝いをしていました。規制改革や地域の医療提供体制の整備など、なかなか触れることない分野の仕事も経験しましたね。大変な時もありましたが、僕の周りは出向者揃いだったこともあり、少人数でワイワイガヤガヤやる面白さがあって刺激的でした。

株式会社スタメン 執行役員CFO 喜多 亮介氏

株式会社スタメン 執行役員CFO の喜多 亮介氏

好きなことを仕事にしてみたい、結婚直後に決めた転職

充実したキャリアを築いて、やりがいも感じていたと思います。そうした中、スタメンに転職しようと思ったのはなぜですか。

経産省への出向後はトヨタに戻り、官公庁の窓口となる部署に配属されて2年間、労働法制やエネルギーなどを担当していたのですが、実際に物事が動いている感覚がどうしても持てないと感じていました。
常に視点を高くもつよう育ててもらっているという感覚はあるものの、自分で考えたことを世の中に伝え、世の中を動かすという経験をしていなかったことが、すごくもどかしくなっていて、30歳になるくらいの時に転職することを決めました。あとは結婚したことも1つの転機でしたね。

夫の転職を妻が反対する「嫁ブロック」という言葉もありますが、喜多さんの場合はどうでしたか。

愛知であれば、どこでもよかったみたいです(笑)。妻はもともと僕よりハードワーカーなので、お互いに好きなことをやるという考え方でした。妻よりも上司や同僚から「家族は大丈夫なのか?」と心配してもらうことが多くて、ビックリしましたね。

実際に転職を決断してみていかがでしたか。

自分の意志でやりたいことを選択できたのが、1番良かったなと思います。安定性や給料等、理屈で考えるとトヨタに残った方が良いに決まっているんですけど、そうではなく、「自分がやりたいことを理由に動くことが大事」だと、結婚も転職も経験してみて、そういうものだと思いました。転職したことは、すごく良い経験だったなと思いますね。転職すると決めたら、自分の決断を正解にするしかありませんし。

結婚をすると、転職の決断に勇気もいると思うのですが、踏み切れた理由はどこにあったのでしょうか。

結婚して、仕事をする時間がすごく長い、重たいと感じて。それまでは好きなことは仕事にしないスタンスだったんですけど、まずは1回好きなことを仕事にしてみたいと思いました。
振り返ってみると、人事部の仕事が本当に性に合っていて、そこで仕事の原点は人だと叩き込まれたんですよね。そのあとの部署でも、人の部分で仕事のスピード感が変わったり、うまくいかなかったりすることをすごく感じました。そこで、人にフォーカスした仕事をやってみたいな、という思いが強くなっていきました。

スタメンのどんなところが、ご自身にフィットしましたか。

スタメンは社内のエンゲージメントを高めるためのコンサルティングサービス「TUNAG」を提供していて、組織の中にいる人たちの内面に関われる点を魅力に感じました。世の中にある、人に関するサービスは教育やコンサル、採用支援などのように外から関わるイメージがすごく強かったので。

原点である人に対して内側からアプローチするために、スタメンを選んだのですね。今はどんな事に携わっていますか。

今は執行役員の立場で、経理・法務・人事など管理業務の全般を担当しています。今年の3月までは自分1人だけで汗をかきながらやっていました。スタメンの社員は30人ほどになりますが、去年から倍増したので、色々なものが回らなくなってきて。4月からは3人体制になり、少し余裕ができました。1人だとさすがに限界でしたね。

株式会社スタメン 執行役員CFO 喜多 亮介氏

人となりを知ることが、仕事をスムーズに運ぶカギ

もともと人事をやられていて、未経験の仕事が多いと思いますが、苦労したこと、面白かったことは何ですか。

それまでニッチな分野で働いてきたこともあり、幅広い業務をやりたいと思って転職したので、未経験であることに怖さはありませんでした。社長が未経験でも採用してくれたことはありがたかったですね。
人事の仕事はトヨタの経験を踏まえて感覚もわかりましたが、経理面は特に悩みました。専門家や知り合いの管理部門の方に聞きながら進めつつ、気になったことがあればとりあえず1冊本を買って読むと。あえて深い本は買わず、入口のものを各分野揃えていきましたね。

法務の仕事の割合はどのぐらいですか。

経理や採用に比べて割合は多くないですが、入社時から一定の割合を占めています。入社時から取り組んでいるのはサービスの利用規定の改善です。事業の立ち上がりとともに、様々なお客様と接していきます。その中で出てくる新しいケースやご意見も踏まえつつ、規定の改善を続けています。中でも個人情報の取り扱いには特に気をつけています。あとは、だんだん他社とのアライアンスみたいな話も出たりするので、その際の契約書を作ったりもしています。

去年御社で発表された資金調達にはどのように関わられたのでしょうか。

入社時にはほぼ話が決まっていたので、僕は主に事務的な部分を担当しました。資金調達みたいな案件は前職では近くで経験していなかったので、新鮮でしたね。お金の話って、すごくドライに感じていたんですけど、出資することの意味合いや、会社に期待をかけてくれることの重みが、すごくよくわかりました。皆様の期待と信頼の証として、出資というスタイルがあるんだなと。
そうすると、これまでドライに見えていたお金の話にすごく意味を持つように感じられました。これから会社が大きくなるうえで資金の話は切っても切り離せないので、早い段階で経験できてよかったです。

参照:プレスリリース「第三者割当増資で総額2.8億円を資金調達し、「TUNAG | ツナグ」の本格展開を開始

スタメンの中に入ってみて、外から見ていた時とギャップはありませんでしたか。

スタメンでやりたいと思っていたことは入社前後で変わらなかったです。エンゲージメントはもともとビジネスにするのが難しい領域だと、転職活動中から思っていたのですが、考えれば考えるほど難しい世界だというのは、今も感じています。でもだからこそやる意味があるし、面白いですね。

今までトヨタ、経産省と複数の組織を見てきましたが、仕事をする人の顔が浮かぶかどうかで、仕事のスムーズさは全然違います。

人に関する悩みの打開策として、遠回りに見えるかもしれませんが、一番近道だと思うのが、ソフトなコミュニケーションなんですよね。みんな自分の仕事には思いを持っているのですが、その伝え方や表現が違う場合があります。その時にそれぞれの人となりを知る、背景を知ることの重要さを、どの職場にいてもすごく感じてきました。

どのようにソフトなコミュニケーションを取られているのでしょうか。

仕事で関係なくても話すようにしています。そしてなぜそう考えるのかを自分なりに掘り下げています。たとえば、子育て中の母親と独身の若手社員のように、会社内で使える時間が違えば、それぞれ違う頼み方を考えないといけません。昔はひたすらマンパワーをかけて、アナログで人となりを知る時間を作っていましたが、今はやることが多く時間が限られる中で、色々な人と適切な距離感を保つ必要があります。このような課題に対して、「TUNAG」は有効なサービスです。

当社は採用が増えていて、毎月2~3人が入ってくる状況なんですが、「TUNAG」によって、その人を知るきっかけができ、それによって入ってきた人が最初から立ち上がりやすくなります。入社から最初の3か月でその人がうまくいくか・いかないかが決まるという話もありますが、人間関係の構築と業務がしやすい環境管理は実現できると思います。

株式会社スタメン 執行役員CFO 喜多 亮介氏

スタメンの成長を牽引し、名古屋から発信したい

スタメンでこれからしていきたいことは何ですか。

まずは、スタメンという会社を大きくすることを一番に考えています。 エンゲージメントの価値観をもっと伝えていきたいという事も当然なんですが、名古屋から新しいものが生まれていくことも示したい。僕は東京一極集中があまり好きじゃないんですよ(笑)。

また僕自身、大企業からベンチャー企業に転職したわけですが、スタメンが大きくなっていく事で、挑戦する自分の姿を示したい。未経験の世界でもこんなことができるんだぞ、と。

大企業の経験はベンチャーでも活きるんですね。

ベンチャー界隈でコーポレート部門の人は見つかりにくいという話をよく聞きます。採用する側もコーポレート業務になじみがなくて、なんでも経験している人を探しがちというのもあるとは思いますが、残念ながらそんな人、たくさんはいません(笑)。
そう考えると大企業出身者の出来上がった組織に触れたことのある経験はコーポレート業務に活きると思います。自分自身もそうでしたが、社内の仕組みをつくる過程で、前の会社だとそういえばこういうのあったな、って思えることがよくあったので。

喜多さんのように未経験の分野があってもチャンスはあると。

組織づくりを考えると、経験者も大事ですが、未経験から経験してもらうこともとても大事です。

僕と一緒にコーポレート部門を担当している2名のうち、採用担当は前職でも採用をやっていましたが、もう1人の経理担当はコーポレート業務未経験です。でも、すごい成長力で活躍してくれています。彼女は大きい会社で企画業務を担当していましたが、その経験が構造的な理解の速さや数字を扱う素養につながっていたのかもしれません。本人の努力があることはもちろんですが、大企業という組織の中で動いていたから、イメージがわきやすいのかなと思います。

この先のビジョンはどのように描かれているのでしょうか。

スタメンで何かをやりきったと感じるには、10年はかかると思います。その先には、パブリックな場で個人としてもエンゲージメントの価値観を広める立場になったりするのかなとか、色々考えたりします。

ただ、今考えていることは突拍子もなさ過ぎる気がして、スタメンがもっと大きくなっていくと、現実味を帯びた選択肢が出てくると思っています。そこはまだ見えていないところですね。ちゃんとCFOをやって、名古屋界隈では名の知れた状態になって、子どもは3人いて、仕事と家庭を両立して、妻もガッツリ働いて。そんな漠然としたイメージはあります(笑)。

楽しみですね(笑)。ありがとうございました。

TUNAG
国内唯一の「エンゲージメント経営専門」のコンサルティングサービス。独自クラウドツールとコンサルティングを活用することで、エンゲージメント向上を多面的に支援し、明るく強い組織づくりを促すサービス。2017年4月の正式リリース以降、大手企業で導入されている他、事業成長期の企業から、働き方改革に関心を持つ企業まで、幅広い業種・規模の企業から関心を集めている。

TUNAG

  1. 「会社と従業員」および「従業員同士」に相互信頼関係がある状態のこと。 ↩︎

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