法務部に必要な税務に関する基礎知識

第2回 契約審査における税務上の検討ポイント

税務

税務の視点を踏まえた契約審査の重要性

 法務部の主な業務の一つとして契約書の審査・作成(以下「契約審査」といいます)があります。契約審査では、権利義務関係が明確にされているか、不測の事態のリスク分配に問題はないか、コンプライアンス上の問題を惹起することはないかという点など、法務の知見から検討することが一般的であると思われます。

 他方で、課税関係は私法上の法律行為の効果に即して生じるものです。そこで、契約審査で税務上の影響についても意識することで、財務部・経理部と適時、適切に連携することが可能となり、結果として課税上のリスクを低減することが可能になります。この点、近時の税務行政では、税務調査における的確な事実認定とこれに基づく適切な法令解釈を行うことを重点施策の一つとしており、企業においても法務部が財務部・経理部と協働することの重要性は高まっているといえます。

 本稿では、税務上の問題点の端緒を発見するために、主要な税目別にいかなる点を意識して契約審査を行うことが効果的であるかを解説します。なお、印紙税については次回に取り上げる予定ですので本稿では扱いません。

 主要税目の基礎的な事項については「第1回 法務部の役割と税務の基礎」の3を参照ください。

契約審査における主要税目の検討ポイント

法人税からの視点

 法人税は、公正処理基準に基づく収益および費用の額を基礎とし、これに一定の調整を加えて算定される所得に課税されます。税務調査では、この一定の調整として、取引対価が適正であるか(時価から乖離していないか)という観点から、損金不算入となる寄附金の該当性や独立当事者間の取引価格で取引したものとみなされる移転価格税制の適用が問題となることが多く見受けられます

 法務の視点からは、企業グループ内の取引は契約当事者の利害が実質的に一致しており、リスクは低いと考えられます。ただし、企業グループ内に属する企業同士は特別な関係にあることから、その取引の対価が、経営支援の目的などによって時価と乖離した価格に設定されることや、そもそも取引対価が設定されない(結果的に無償となる)ということが行われやすいことがあります。そこで、以下のとおり、法人税の観点からは、取引対価の適正性に特に留意する必要があります。

寄附金の損金不算入

 法人税法の寄附金は、その名義の如何を問わず、金銭その他の資産または経済的な利益の贈与または無償の供与をいいます(法人税法37条7項)。このように、一般的な用語としての寄附金よりも広範であり、対価の授受はあるが、それが時価に満たないという場合も含まれるとされています(同条8項)。

 寄附金は損金算入できる限度額があるため、これを超える部分が損金不算入となりますが(同条1項)、国外関連者(その法人との間に50%以上の株式の保有関係等の特殊の関係のある外国法人をいいます)に対する寄附金は、その全額が損金不算入となります(租税特別措置法66条の4第3項)。もっとも、子会社再建のために無利息融資を行うなど経済的な利益を供与することについて合理的な理由が認められる場合には寄附金には該当しないと解されています(法人税基本通達9-4-2など)。

 したがって、契約審査の場面では、特に企業グループ内の取引についてその対価の合理性に気を配る必要があり、時価と比べて一方当事者に有利である場合には、それを首肯できる合理的な理由が存在するか否かを確認することになります。

移転価格税制

 移転価格税制とは、国外関連者との間の取引(以下「国外関連取引」といいます)が、独立企業間価格と異なる価格で行われたことにより、当該法人の所得が減少する場合、すなわち、当該法人がその国外関連者から支払いを受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、または、当該法人がその国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときには、その国外関連取引は独立企業間価格で行われたとみなして法人税の所得を計算する制度をいいます(租税特別措置法66条の4第1項)。

移転価格税制の仕組み

出典:国税庁「移転価格ガイドブック ~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」(2017年6月)をもとに筆者作成

 税務調査では国外関連者との販売・仕入取引といった営業取引のほかに、総務、経理、法務といった管理部からの役務提供取引や工業所有権などの無形資産の使用許諾取引の対価が適切であるか問題視されることが少なくありません。したがって、寄附金と同様に、国外関連取引の対価の合理性は慎重に判断しなければなりません。

源泉所得税からの視点

 源泉徴収は、従業員に対する給与や税理士、弁護士などへ報酬を支払う場合などに、その支払金額に応じた所得税を差し引く制度です。一般的に源泉徴収の漏れが生じやすいのは、源泉徴収が必要な取引であるか否かの検討が十分に行われないことが散見される、外国法人に対して使用料、配当、利子等の支払いがなされる場合です(なお、租税条約が適用されるなど一定の場合には源泉徴収が免除されます)。

 この場合、所得税の納税者義務者は一定の支払いを受ける外国法人ですが、源泉徴収の納付は源泉徴収義務者が行わなければなりません。もっとも、支払時に源泉徴収を懈怠していても本来の源泉徴収額を納付することにより、当該源泉徴収額を納税義務者に求償することができます。しかしながら、外国法人は源泉徴収が漏れていたことの責任はないなどとして求償を拒むことが想定され得るうえに、国内に拠点がない外国法人からいかに回収するかという問題もあります。

 そのため、契約審査では、まず外国法人に対する支払いが源泉徴収を要する種類のものに該当するか確認する必要があります。そして、その判断に疑義が残る場合には、源泉徴収義務に関する紛争を避けるために、追加的に源泉徴収の納付を行うこととなった場合には、外国法人に求償できる旨の条項を明記しておくことが考えられます。

消費税からの視点

 消費税の課税対象は、輸入取引などのほか、事業者が、国内において、事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供であると定められています。
 そして、消費税額は、課税対象となる売上(課税売上げ)に税率を乗じた額から、課税対象となる仕入(課税仕入れ)に税率を乗じた額(仕入控除税額)を控除して計算されます。もっとも、仕入控除税額は課税仕入れの全額ではなく、大企業が多く採用する個別対応方式では、課税売上対応分と共通売上対応分に課税売上割合(課税売上高 / 総売上高≒(課税売上高+非課税売上高))を乗じたものの合計となります。

控除税額の計算方法 課税仕入れ等
課税売上対応分 非課税売上対応分 共通対応分
一括比例配分方式 課税仕入れ等の税額に課税売上割合を乗じた金額を控除する
個別対応方式 課税売上対応分の税額はすべて控除する 非課税売上対応分の税額は控除しない 共通対応分の税額に課税売上割合を乗じた金額を控除する

 これらの消費税額の算定方法に照らしますと、契約審査時に以下の3つの視点を意識することで消費税に関する問題点を識別できると思われます。

  1. 売上取引が課税売上げに該当するか否か
    例:国外での役務の提供として申告したが、役務提供地は国内外に亘るなどとし課税売上げと認定された。
  2. 仕入取引が課税仕入れに該当するか否か
    例:個人事業主に支払う外注費が給与(課税対象外)と認定された。
  3. 個別対応方式の区分は適切か
    例:有償で貸し付ける社宅の維持費用を共通売上対応分としていたが非課税売上対応分であると認定された。

 消費税に関しては、法人税や源泉所得税ほど法務部にとって馴染みがないと思われますが、消費税率の引き上げがなされるなどその重要性は増しています。契約審査においても上記の観点からみて疑義が生じる場合には財務部・経理部と連携して対応の必要性を検討することが望まれます。


 次回は、契約書などの文章作成時に問題となる印紙税法の解説を行う予定です。

第3回 印紙税法の基本と課否判定が問題となる事例

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