「答えのない難しい問題」に向き合った「中小企業買収の法務」、発刊後の反響を著者に聞く

コーポレート・M&A

目次

  1. 沢山の方が本書を「面白い」と言ってくれて、素直に嬉しかった
    1. 発刊後、1週間で増刷となり、多くの反響が寄せられています。どのように受け止めましたか。
    2. 執筆時に意識していた点と、出版後に評価された点にギャップはありますか。読者はこういう読み方、受け止め方をするのかと思った点があれば教えてください。
  2. 若い法律実務家の方々に読んでほしい。中小規模の案件であっても、エクイティを取引することのダイナミズムを感じてもらえたら
    1. これから本書を手に取ろうと考えている方も多いと思いますが、どういう方に読んでほしいですか。
    2. 法務デュー・ディリジェンスの報告書を読む事業サイドの方々にもお勧めしたいというコメントも見られました。事業サイドの方が本書を手に取る場合、どのように活用するとよいでしょうか。
    3. 本書の出版をきっかけに、事業承継型M&A、ベンチャー企業のM&Aの実務がどのように変わってほしいと思いますか。

近年、中小オーナー企業の事業承継手段としてのM&A(事業承継型M&A)と、ベンチャー企業のエグジット手段としてのM&A(ベンチャー企業M&A)は、ともに増加しているという報道を目にすることも多い。後継者不足の加速、事業会社によるベンチャー投資の活性化に伴い、いずれのM&Aも、今後ますますの増加が予想されるが、その問題点や具体的な事例が表に出てくることは少ない。そのような状況を受け、事業承継型M&Aとベンチャー企業M&Aの取引の問題点を解説した書籍「中小企業買収の法務」が発刊された。

9月5日の発刊からわずか1週間で増刷が決定、AmazonのM&Aカテゴリでも1位を獲得し、インターネット上でも高い評価が多数寄せられている。

本書の著者、柴田・鈴木・中田法律事務所の柴田 堅太郎弁護士に、発刊後の反響、これからどのような方に本書を手に取ってほしいのか伺った。

沢山の方が本書を「面白い」と言ってくれて、素直に嬉しかった

発刊後、1週間で増刷となり、多くの反響が寄せられています。どのように受け止めましたか。

ストーリー形式にすることによって「読んで面白い実務書」を目指してはいましたが、正直ここまでのたくさんの感想を頂けるとは思っていませんでした。法務の分野の中では、本書のようなコーポレート・M&A関連のトピックは、ITや知的財産権といった分野に比較するとネット上ではあまり目立たないですし、それに本書はM&A法務について基本的な説明はあまりせずにかなりマニアックな論点ばかりを書いたものですから。それでも、沢山の方が本書を「面白い」と言ってくれて、これは素直に嬉しかったですね。現在注目されている事業承継を検討している中小オーナー企業とベンチャー企業の社会的実態とそれが法的に意味するところを設例をつけて具体的に描いたことに関心を持ってもらえたのではないかと思います。

執筆時に意識していた点と、出版後に評価された点にギャップはありますか。読者はこういう読み方、受け止め方をするのかと思った点があれば教えてください。

ねらったところにうまくはまってくれたのでギャップはあまりないのですが、強いて言うなら2点あります。1点目は本書に頻繁に登場する「答えのない難しい問題であるが」という言い回しが印象的だったと何人かの方に言われたこと。実は執筆時には殆ど意識していなかったのですが、たしかに見直してみるとこの表現を結構使っていますね(笑)。M&Aの実務を進めていく中では、「セオリー(定石)」と呼べる解決策がなく、どう対応すればよいかかなり悩む場面には必ず直面します。それでも、当事者とその法務アドバイザーとしては一応の決断をして、決着を図らないといけない。そのあたりの考えるプロセスのようなものを伝えたかったという気持ちがあったのかもしれません。

答えのない難しい問題であるが

本書には「答えのない難しい問題であるが」という表現がよく用いられている。

2点目として、蓄積したノウハウをここまで開示してしまって良いのかということもよく言われました。たしかに、約5年前に独立開業して以降に得た知見をかなり公開しているのでそのように言われることも理解できますが、本を書いた方が自分にとってよりメリットが大きいと思っています。実務家による情報発信はプロモーションという側面が強いですが、それだけではなく、自分が関与する分野の本をひととおり書いてみることで自分の弁護士としてのスキルに確実にフィードバックされるだろうと判断したのです。実務で得た経験というのは「点」の集積であって、自分の実務領域の執筆をするということは、この「点」を「線」でつなぎ合わせて点と点の間の隙間を埋めるという作業です。これによって、自分が得た経験を鳥瞰して、位置づけや意味付けを見直して、再構成することの威力は無視できません。実際に、本書を書いてから、依頼者への説明のときなど、言葉の使い方がより印象的、より説得的な方向に変わってきたように感じています。

若い法律実務家の方々に読んでほしい。中小規模の案件であっても、エクイティを取引することのダイナミズムを感じてもらえたら

これから本書を手に取ろうと考えている方も多いと思いますが、どういう方に読んでほしいですか。

法律実務家に限らず広くM&A関係者に読んでほしいですが、はしがきにも書いたとおり若い法律実務家の方々に読んでほしいですね。本書のような中小企業の案件に限らず、M&Aや資本業務提携、あとはジョイントベンチャーといったエクイティがからむ取引では、テンプレートでの通り一遍の「作業」では、十分役目を果たしたとは言えないところが面白いとあらためて思います。最初はストレートな案件だなと思って進めていても必ず何らかの固有の問題点に出会うものです。たとえ中小規模の案件であっても、エクイティを取引することのダイナミズムみたいなものを感じてもらえたらと思います。

あと、本書はバイサイド(買い手)に向けて書いたものですが、セルサイド(売り手)である中小オーナー企業、ベンチャー企業側も来るべきM&A取引に向けて読んだ方が良いのでは、というご感想もいただきました。たしかに、これから交渉するにあたってバイサイドの考え方を知る意味では本書は有益ではないかと思います。

法務デュー・ディリジェンスの報告書を読む事業サイドの方々にもお勧めしたいというコメントも見られました。事業サイドの方が本書を手に取る場合、どのように活用するとよいでしょうか。

経営企画部門や担当事業部門、それから最近ではCVC部門またはCVC子会社といった事業サイドのご担当者にとって、投資の意思決定に際しては、それに伴うリスクをとる、という判断をすることも大きな仕事となっています。他方で、相手方となる中小オーナー企業やベンチャー企業は、自社とは規模も文化も大きく異なるし、自社に取り込むリスクも相応に高いので、大企業の担当者としてはリスクテイクの判断に悩むことも多くあります。本書では中小オーナー企業、ベンチャー企業特有のリスクについて、出会う頻度も含めて解説しているので、個別案件の法務デュー・ディリジェンスの結果とあわせて、その判断材料として役立つのではないかと思います。

柴田 堅太郎弁護士

本書の出版をきっかけに、事業承継型M&A、ベンチャー企業のM&Aの実務がどのように変わってほしいと思いますか。

事業承継型M&Aについては本書のコラムにも書きましたが(本書129頁)、売主であるオーナー経営者にも適切な法務アドバイザーがつく実務が定着することが望まれます。あと、これは極めて難しい課題だとは思いますが、特にIPOを目指していない中小オーナー企業であっても、自社にとって望ましい株主構成を考えるという意味での資本政策を中長期で検討してほしいです。長い歴史の中で安易に株主を分散させていると、事業承継型M&Aというそのオーナー経営者にとっての出口の場面でまさにその点がディールキラーポイントになるためです。

ベンチャー企業のM&A案件については日本だとまだ件数が少ないので、これからの実務の積み重ねが当面の課題だと思います。そのためには、ベンチャー企業と投資をする大企業との相互理解が必要で、特に伝統的な大企業は、背後に投資家がいて、イノベーションを起こそうとしているベンチャー企業と付き合っていくには、自社内部での従来からの組織の論理が通用しないことがあることを認識しておく必要があります。このことは、現在経済産業省で開催されているコーポレート・ガバナンス・システム研究会(第2期)も検討されているグループガバナンスの議論にも通じる問題といえます。

中小企業買収の法務―事業承継型M&A・ベンチャー企業M&A

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