欧州委員会、グーグルに巨額の制裁金 「抱き合わせ」をめぐる問題と日本企業への影響

競争法・独占禁止法
山田 香織弁護士 ジョエル・ルーベン(Joel Rheuben)弁護士

欧州連合(EU)の欧州委員会は、7月18日米アルファベット傘下のグーグルに43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金を払うよう命じた。グーグルが、基本ソフト(OS)「Android」を使う携帯端末に、自社の検索、閲覧、およびアプリストアのソフトの「抱き合わせ」搭載を求めるなどEU競争法(独占禁止法)における支配的地位を濫用していると判断した。

欧州委員会による独占禁止法違反をめぐる単独企業への制裁金では過去最高額だ。

グーグルのどのような行為が問題視され、日本企業にはどのような影響があるのだろうか。各国の競争法の実務に詳しい、フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所の山田香織弁護士、ジョエル・ルーベン英国弁護士に聞いた。

EU競争法の枠組みと日本の独占禁止法との違い

EU競争法の枠組みや仕組み、日本の独占禁止法との違いについて教えてください。

立法のレベルでは、建付けは若干違いますが、EUと日本の規制内容は基本的には極めて近いと言えます。例外として、優越的地位の濫用など、日本特有のものもありますが、競争法は世界的に収斂しつつあります。日本も、もともとは70年前に米国型で始まった法律ですが、最近は、どちらかと言えばEUルールに近い形で改正が進んでいる傾向があります。

以前は、「欧州委員会の調査対象の選び方は政治的判断が反映されているが日本の公正取引委員会はニュートラルである」というようなコメントも聞かれましたが、最近は、欧州委員会も公正取引委員会も、たとえばIT関連の案件が多いように、明らかに一定の重点分野が存在する点など、それほど違いはないように思います。

違いがあるとすれば、欧州委員会が、調査の進め方や制裁金の算定などにつきかなり大きな裁量を持っているのに対して、現行制度では日本の当局は、課徴金の決定に際してほとんど裁量がありません。EUのプロセスは、企業側が協力すればするほど、制裁金が下がるという仕組みになっているので、企業も最大限のコストと時間を使って不利な証拠を集めて当局に自ら提出し、できるだけ制裁金を下げようと努力します。逆に日本の現行制度のもとでは、課徴金減免制度を使って課徴金が減免される場合は別として、いくら協力したとしても、公正取引委員会自体にそもそも課徴金を下げる権限がないので、企業側にとっても、自ら不利な証拠を進んで提出するインセンティブがあまりないと言えます。

公正取引委員会が導入しようとしている確約制度1は、EUの制度に比べれば範囲がかなり限定的ではありますが、まさにEUの制度により近づけようとする例とも言えるでしょう。

欧州委員会がグーグルを問題視したポイント

今回の事例のポイントはどこにあるのでしょうか。欧州委員会はなぜこのような判断に至ったのでしょうか。

欧州委員会は、グーグルが、スマートフォンやタブレット向けの基本ソフト(OS)「Android」に関して支配的地位を濫用していると判断しました。アップルのiOSのような「閉じた」オペレーティングシステムとは異なり、グーグルのAndroidオペレーティングシステムは、メーカーがスマートフォンやタブレットに、無料で開発しインストールすることができます。欧州委員会の決定は、グーグルが当該フリーライセンスの使用について課した条件を問題視するものです。
EU競争法における独占的地位の濫用(Abuse of dominant position)が認定されるためには、(i)ある企業が特定の市場で支配的であること、および(ii)その企業が競争を制限するためにその独占を濫用していることの両方が必要です。委員会は、グーグルが以下3つの市場で支配的であるとしています。

  1. インターネット検索サービス
  2. 「ライセンス可能な」スマートモバイルオペレーティングシステム
  3. Androidモバイルオペレーティングシステムのアプリストア(グーグルの「Play Store」アプリ)

グーグルは、これに対して反論しており、特に②について支配的地位があるという認定に関して、実際にはライセンス可能なシステムという意味ではAndroidフォンがiOSフォンと競争しているという事実を無視する人為的な線引きだと主張しています。
欧州委員会は、グーグルが上記の3つの市場における支配力を使って、以下の濫用行為をしているとしました。

  1. Androidオペレーティングシステムを使用しているメーカーに、グーグルの「検索」アプリとChrome Webブラウザアプリをプリ・インストールするよう求めており、これを「必須」アプリとみなすPlay Storeアプリに対するライセンスを受け取る条件とする行為。
  2. Google Search Appを携帯電話に排他的にインストールする見返りとして、メーカーやモバイルネットワーク事業者に代金を支払っていた行為(ただしグーグルはこの制度をすでに廃止)。
  3. Androidの承認済みバージョンを携帯電話で使用するメーカーが、Androidの代替バージョン(いわゆる「フォーク」)を同じモデルで使用することを禁止する行為。

上記②について、グーグルは、Androidへの投資を回収するため、この「抱き合わせ」が必要だったと主張しています。

また、③に対してグーグルは、これはAndroidの載せる2万4000種類のデバイスの互換性の問題を避けるために必要だと主張していますが、一方の欧州委員会は、これらの条件がむしろ、代替検索アプリ、ブラウザ、およびオペレーティングシステムの開発を妨げる効力を持つとしています。

グーグルは反論の中で、Androidは製造業者やユーザーにとって、より多くの選択肢を生み出すと主張しています。2000年代初頭に欧州委員会がマイクロソフトを調査した時よりも、ユーザーは、はるかに迅速で簡単なスマートフォン向けの代替検索アプリやブラウザをダウンロードできるし、実際にダウンロードしていること、また、メーカーはAndroidの承認済みバージョンを使用する義務はないこと(例として、Androidをベースにし、かつGoogleアプリは使用していないAmazon Fireオペレーティングシステムを使うアプローチ)をあげています。グーグルはまた、欧州委員会の決定が今後オープンソース・プラットフォームの開発を阻害する可能性があると警告しています。

過去にはマイクロソフトも、欧州委員会はどのような制裁金を課してきたのか

これまでに欧州委員会が制裁金を課した事例で、今回の事例と類似のケースはありますか。

今回の決定は、支配的地位の濫用につき、欧州委員会によるグーグルに対する2度目の決定です。2017年同委員会は、グーグルが自らのショッピング比較サービスを強化するため、自社が有しているインターネット検索サービスにおける支配的地位を濫用したとし、24億ユーロの制裁金を科しました。欧州委員会はまた、オンライン広告サービスに関して同様の濫用の可能性についても調査を継続しています。

また、グーグルがAndroidオペレーティングシステムに関して支配権を濫用したと認定されたのは初めてではありません。2015年、ロシア連邦独占禁止局は、同様の理由でグーグルに4億3800万ルーブル(約7億1400万円)の罰金を科しました。また、韓国やトルコなど他の国の競争当局も調査を開始しており、オーストラリア、ブラジル、台湾の当局も調査を検討していると伝えられています。

さまざまな調査は、マイクロソフトがMedia PlayerやInternet ExplorerなどのプログラムをWindows PC OSと「抱き合わせ販売」する行為をめぐる欧州委員会の以前の調査に似ています。マイクロソフトは、グーグルと同様、欧州委員会の結論を不服として、Media Playerの判決を欧州司法裁判所に控訴し、その結果、判決のコンプライアンスを遅らせたとされてしまい、10億ユーロ以上の制裁金を科されました。マイクロソフトは、当初はプログラムをOSに統合することが「市場規範」であり、欧州委員会の決定がイノベーションを妨げると主張しましたが、Internet Explorerの調査の際には、Windowsのインストールやアップグレード時に、ユーザーがダウンロードするブラウザの選択肢を有するようにシステムを変更するというコミットメントを出しています。

グーグルが2010年にChromeをリリースする前提として、このマイクロソフトによるコミットメントがあったことは注目に値し、グーグルはまさにマイクロソフトに対する欧州委員会の調査結果の直接の受益者だったと言えるでしょう。Chromeは現在、ヨーロッパで最も人気のあるブラウザであることは皆様ご存知のとおりです。

欧州委員会は今後どのような判断を下すのか、日本企業への影響は

これからの欧州委員会の動向について、どのように考えますか。

欧州委員会は、Vestagerコミッショナーの下で、ハイテク大手(特に、「GAFA」と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonの4社)の行為に焦点を当てており、この分野の案件の多さは、枚挙に暇がありません。グーグルに対する支配的地位の濫用の調査に加え、たとえば、同委員会およびメンバー国が、以下の調査をしています。

  • 出版社との電子書籍本契約に基づくMNF(最恵国待遇)条項に関してアマゾンを調査。
  • アップルとアマゾンに対して、国家補助金規制(State Aid、これもEUの競争総局の管轄マター)のルールに基づき、数十億ユーロの税還付を要求。
  • ドイツの連邦カルテル局もまた、Facebookのデータ収集行為に関連して、支配の濫用について調査。

欧州委員会がテクノロジー企業に焦点を当てている背景には、「欧州デジタル統一市場」への取り組みがあります。欧州委員会は2015年から2017年にかけて、電子商取引分野について包括的なセクター調査を実施し、それ以降、デジタル・コンテンツの「ジオブロッキング」や、競争法の観点から、工業製品に対するオンライン・地域販売制限の調査に多大な労力を投入してきました。

欧州委員会が、今後もハイテク・電子商取引に焦点を当てることが予想される一方で、最近の決定の多くは、これまで例がないような斬新な法律構成を駆使しているものも多く、かなりの批判を浴びており、今後この分野の執行がどう推移していくか、興味深いところです。

今回の事案を契機として、日本企業にはどのような影響があるのでしょうか。

Androidシステムを使用している日本の製造業者やアプリ開発者が、欧州委員会の決定によりどのような影響を受けるのかは、依然として様子見の状態です。グーグルは、一部「改善措置」を取り始めましたが、実際にどのような措置を取ることになるのかの詳細は、まだ公開されていません。グーグルは、事業モデルの変更に伴い失う利益を補うために、AndroidOSのライセンス料を徴収したり、自社のピクセル・スマートフォンの売り上げを伸ばすためにライセンス供与を全面的に中止したりする可能性もあり、これは業界図を大きく塗り替えるリスクすらあります。

グーグルや一部の専門家は、今回の決定により、AndroidOSの第三者の使用が難しくなり、他のメーカーの事業モデルを大きく左右するのみならず、最終的に価格を引き上げ、消費者が利用できる選択肢を制限すると主張しています。ハイテク大手に依存する日本企業としても、業界図を塗り替えるほどの強力な権限を競争当局が持っている以上、彼らの有する懸念や、措置が取られた場合に現状のビジネスモデルにどう影響するか等、可能な限り予測し、リスク対策を練っておく必要があると言えるでしょう。

公正取引委員会が、欧州委員会によるこの分野での各執行行為を日本にも持ち込もうとするかは、興味深いところです。公正取引委員会は、外国企業やテクノロジー分野における事例に対する取締りを強化する意向に繰り返し言及しています。経済産業省も、グーグルの事業慣行に懸念を示しており 2、今後日本における各当局の反応を、注視していきたいと思います。

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