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平成30年税制改正で抜本的に拡充された事業承継税制の特例の概要

第1回 改正の経緯と特例承継計画の提出、対象株数・納税猶予割合

税務

 事業承継税制はこれまで利用が低調でしたが、平成30年税制改正で下記の内容を含む特例措置の創設に伴い、抜本的に拡充されたことにより、その利用の拡大が見込まれています。

  1. 従前設けられていた、納税猶予の対象となる株式数の上限(発行済議決権株式総数の3分の2まで)が撤廃されたこと、相続税の納税猶予割合が80%から100%に引き上げられたことにより、この制度を利用する場合、事業承継する際の納税資金負担が実質的にゼロとなりました。

  2. 従前の制度では雇用確保要件が課され、承継後5年間の常時使用従業員の数の平均値が80%未満となったとき、猶予されていた贈与税・相続税の全額を利子税と併せて納付しなければなりませんでしたが、この要件が事実上撤廃されました。

 以上の2点が特に大きな改正点と思われますが、その他、多数の改正点があって、総合的にみて、その利用が抜本的に納税者に有利なものとなりました。今日、事業承継を考えるうえで、平成30年税制改正で導入された事業承継税制の特例措置の利用は、その中心に来るべき必須の検討事項となったと思われます。

 本稿では事業承継税制に関する従前の経緯を踏まえ、主要な改正点を紹介したうえで「特例承継計画の提出」、「対象株数・納税猶予割合」について解説します。

 参考:「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし
  (国税庁が平成30年改正後の制度のあらましにつきまとめたパンフレット)

従前の経緯

 いわゆる事業承継に際しての後継者の贈与税・相続税の負担の軽減を図る事業承継税制自体は、平成21年に創設され、その後、納税者による使い勝手の改善を図って、平成25年、同27年および同29年に、順次、改正されてきましたが、平成29年の改正を除いては小幅な改善にとどまり、これまでこの税制の利用実績は低調でした。

 利用実績が低調であった理由としては、将来の事情の変化により、納税猶予の期限が確定し(すなわち、猶予が打ち切られ)、猶予されていた贈与税・相続税の全額を納付しなくてはならなくなるリスクへの懸念があったと思われます。そのような事情の変化のうち、特に懸念されたのが、上述した常時使用従業員の数の5年間の平均値を80%以上とする雇用確保要件です。

 贈与の場合、特に高い累進税率による多額の贈与税の全額の納付義務が襲いかかってくるわけですから、猶予打ち切りのリスクは大変大きなものと言えます。この点、これは平成29年の改正で実現したものですが、事業承継税制の贈与に相続時精算課税の併用が認められたことは、大きな改正点であったと言えます。この点は次回「承継パターン、雇用確保要件の事実上の撤廃とその他の改正事項等」で解説します。

平成30年税制改正による特例措置の導入

 平成30年税制改正によって導入された事業承継税制の特例措置は、10年間の特例措置として、従前から存した事業承継税制の一般措置と並べて創設されたものです。条文としては、租税特別措置法「70条の7」から「70条の7の4」までの4箇条が従前からの一般措置であり、これと併存する形で、新たに平成30年税制改正により租税特別措置法「70条の7の5」から「70条の7の8」までの4箇条が10年間の特例措置として追加規定されています。

一般措置 租税特別措置法70条の7 非上場株式等についての贈与税の納税猶予および免除
租税特別措置法70条の7の2 非上場株式等についての相続税の納税猶予および免除
租税特別措置法70条の7の3 非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例
租税特別措置法70条の7の4 非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予および免除
特例措置 租税特別措置法70条の7の5 非上場株式等についての贈与税の納税猶予および免除の特例
租税特別措置法70条の7の6 非上場株式等についての相続税の納税猶予および免除の特例
租税特別措置法70条の7の7 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例
租税特別措置法70条の7の8 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予および免除の特例

 特例措置の方が納税者に有利であるため、10年間は誰もが特例措置を用いることになりますが、10年経過後は、特段の税制上の手当てのない限り、一般措置のみが利用可能なものとして残るという形になります。

 以下、主要な改正点(主として特例措置と一般措置との相違点)を見ていきます。

(参考)特例措置と一般措置の比較

特例措置 一般措置
事前の計画策定等 5年以内の特例承継計画の提出
(平成30年(2018年)4月1日から平成35年(2023年)3月31日まで)
不要
適用期限 10年以内の贈与・相続等
(平成30年(2018年)1月1日から平成39年(2027年)12月31日まで)
なし
対象株数 全株式 総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合 100% 贈与:100% 相続:80%
承継パターン 複数の株主から最大3人の後継者 複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件 弾力化 承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 あり なし
相続時精算課税の適用 60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 60歳以上の者から20歳以上の推定相続人・孫への贈与

出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし

(※一部加工)(平成30年4月)

特例承継計画の提出

 事業承継税制(特例措置)は、平成39年(2027年)12月31日までの贈与・相続等に適用される10年間の措置ですが、この適用を受けるためには、まず、会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した「特例承継計画」を策定し、認定経営革新等支援機関(商工会、商工会議所、税理士、弁護士、金融機関等)の所見を記載のうえ、平成35年(2023年)3月31日までに都道府県知事に提出し、その確認を受ける必要があることに注意が必要です(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則16条、17条)。

非上場株式等についての贈与税の納税猶予および免除

出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし
(平成30年4月)を参考に編集部作成

非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし

出典:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」(平成30年4月)を参考に編集部作成

 特例承継計画を提出しても、その後、平成39年12月31日までに実際に贈与を実行するか否かは自由ですから、事業承継税制(特例措置)の適用の可能性を確保しておくという意味でも、事業承継を考えている人は、まず、特例承継計画の提出を法定期限内に必ず行っておくのが賢明と思われます。

 特例承継計画には後継者の記載も必要ですが、これは何度でも変更が可能です。また、特例承継計画の提出時には後継者が代表権を有していること等の要件を満たしている必要はありません。

 事業承継税制の適用を受けて贈与がなされた後、贈与者が亡くなると、贈与税は免除される一方、株式は相続により取得されたものとみなされて相続税が課税されます(みなし相続課税)。しかし、平成35年3月31日までに特例承継計画を提出し、都道府県知事の確認を受けたうえで、平成39年12月31日までに事業承継税制(特例措置)による贈与が行われた場合には、贈与者の死亡が平成40年1月1日以降となった場合でも、当該相続への切替え時にも猶予制度適用の要件を満たしていれば、当該みなし相続につき、特例措置の事業承継税制の適用が可能です。

対象株数・納税猶予割合

 冒頭でも述べたとおり、特例措置においては、対象株数の上限が撤廃され、納税猶予割合も贈与・相続とも100%とされたため(贈与は一般措置でも100%)、事業承継税制(特例措置)による株式の承継は、承継時に納税負担がゼロとなりました(租税特別措置法70条の7の5、70条の7の6)。従前からの制度である一般措置においては、猶予・免除の対象は、最大で、贈与では発行済議決権株式の3分の2まで、相続では約53%(3分の2の80%)までです(租税特別措置法70条の7、70条の7の2)。これが特例措置では全面的に無税になるわけですから、非常に大きな効果です。

 要件を満たす後継者だけがこのような無税という大きな恩恵的効果を受けることができ、そうでない株式の相続人である少数株主の相続税負担は従前どおりです。平成30年改正では、先代経営者からの贈与等に限らず、複数の者からの後継者への贈与等も納税猶予制度の対象としています。これによって、少数株主(特に、その相続人が重い相続税負担がかかることとなる同族株主たる少数株主)から後継者への贈与等を促そうとでもしているようにも思われます。

 また、事業資産全般ではなく、株式という形をとった資産だけが無税の対象となるわけです。このため、あらゆる資産を無税で次世代に承継させようと、法律上許される範囲で出資などの方法により資産の株式化を図る動きが出てくることが予想され、現行の租税回避対抗制度とのせめぎ合いとなると思われます。現行の租税回避対抗制度としては、資産管理会社が会社の要件を満たさないとされていること (※1)現物出資等に係る租税回避防止規定(※2)などがあります。しかし、それらの要件を外す範囲で資産を株式化することは一定範囲で可能なように見えます。

※1 資産管理会社 資産管理会社とは、有価証券、自ら使用しない不動産、現金・預金等の特定の資産の総資産中の保有割合(帳簿価額で計算)が70%以上の会社(資産保有型会社)や、これらの特定の資産からの運用収入が総収入金額の75%以上の会社(資産運用型会社)をいいます(租税特別措置法70条の7の5第2項3号、4号、70条の7の6第2項3号、4号、70条の7第2項8号、9号)。ただし、①贈与等の日まで3年以上継続して事業を行っており、②常時使用の親族外従業員の数が5人以上であり、③事務所、店舗、工場等の固定施設を所有するか、賃借している場合には、事業実態があるものとして、例外的に、事業承継税制の適用を受けることができるものとされています(租税特別措置法70条の7の5第2項1号ロ、70条の7の6第2項1号ロ、租税特別措置法施行令40条の8の5第5項、40 条の8第6項、40条の8の6第6項、40条の8の2第7項、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則6条2項)。

※2 現物出資等に係る租税回避防止規定 贈与等前3年以内に後継者およびその同族関係者からの現物出資または贈与により取得した資産の合計額が総資産に占める割合(相続税評価額で計算)が70%以上である会社の株式については、納税猶予が受けられないことになっています(租税特別措置法70条の7の5第24項、70条の7第29項、70条の7の6第25項、70条の7の2第30項、租税特別措置法関係通達70の7-50、70の7の2-54)

 さらに、株式の100%を無税で承継させることができるようになったからといって、特例措置が10年で終わることに鑑みるとき、本当に株式の100%を後継者に承継させることでよいのかということの検討も必要です。仮に将来、特例措置の延長等の税制上の手当てが何らなされないまま、10年後に一般措置のみに戻った場合、後継者の次の世代の承継時には、100%の納税猶予は認められず、納税負担が生ずるからです。それを考えると、議決権の3分の2の承継でも会社の支配権の確保が図れる以上、特例措置の下でも最初から3分の2しか承継させないという選択肢も考えられます。

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