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新規分野への規制や、旧来の規制対応方法の改善について考える - 「FIN/SUM 2018×REG/SUM」講演レポート

IT・情報セキュリティ

ブロックチェーンやAIといった情報技術の発達により、これまで考えられなかったような新たな事業が、近年、盛んに生まれている。一方で、新たな技術やビジネスモデルを取り締まる規制や法律が定められてきているが、未だその方法について議論されている分野や、従来の慣習が通例となってしまっている分野もある。

日本経済新聞社と金融庁が9月25日から28日にかけて開催した「FIN/SUM 2018×REG/SUM:競争と協調」では、新規分野への規制の考え方や、事業者による規制への対応方法について、講演、議論された。本稿では、28日に行われたふたつのワークショップの模様を紹介する。

暗号資産(仮想通貨)と規制法の関係

「法的視点から見た暗号資産(仮想通貨)の活用可能性」では、西村あさひ法律事務所の有吉 尚哉弁護士がモデレーターを務め、同事務所の菅野 百合弁護士と谷澤 進弁護士、東京大学名誉教授、学習院大学教授である神田 秀樹氏、野村総合研究所に所属する大崎 貞和氏の5名が登壇。暗号資産(仮想通貨)に関する規制法、および仮想通貨を活用するために考えるべきことついて議論した。

「法的視点から見た暗号資産(仮想通貨)の活用可能性」の模様

「法的視点から見た暗号資産(仮想通貨)の活用可能性」の模様

ワークショップでは冒頭、谷澤弁護士が暗号資産や仮想通貨と規制法の関係について解説した。仮想通貨に対する国内の規制としては、2016年5月に改正資金決済法が成立し、翌年4月に施行。これにより「日本は仮想通貨の規制において先頭に」立ち、それ以降現在まで、日本は規制の面で世界から注目を集めていると説明した。また2018年にはコインチェックによるNEMの不正流出事件が発生。以降、現在まで規制強化が続いており、金融庁による既存の仮想通貨交換業者やみなし業者への立ち入り調査、行政処分が行われている。そのほか金融庁が3月に神田氏を座長とする仮想通貨交換業等に関する研究会を設置したり、4月に日本仮想通貨交換業協会が設立されるなど、暗号資産(仮想通貨)を取り巻く環境の変化について語った。

資金決済法に加えて、金融商品取引法(金商法)を仮想通貨取引やICOにどう適用していくかも検討対象になっていると谷澤弁護士は説明した。ふたつの法律の違いは目的にあり、資金決済法はあくまで資金決済を対象として決済システムの安全性や効率性、利便性の向上を考えているが、金商法は、国民経済の健全な発展および投資者の保護を目的の中心に据えている。規制の対象も異なり、資金決済法は仮想通貨交換業者をはじめとする事業者に対する規制が定められているのに対し、金商法はインサイダー規制をはじめ、開示規制や取引規制も定められている。

ICOを巡る諸外国の状況と日本における規制のあり方

諸外国で大きく態度が分かれているのがICOだ。谷澤弁護士によると全面的に禁止されている中国や韓国のほかにも、自主的に外国為替取引を厳しく禁止することによって事実上、ICOができない国や、セキュリティの証券規制を含めて、現行規制の枠組みの中でどう対応していくかを考えている国もあるという。

また特徴的な対応をしている国として、スイスは明確なガイダンスを出し、トークンを決済タイプ、ユーティリティタイプ、アセットタイプなどと分類して規制内容を整理。カナダではサンドボックスをICOに適用し、その枠組みの中ではICOを実施できるようにしているという。今後の諸外国のICO規制については「日本のように、個別の規制の要否を検討している国も多い」と現状を示した。

谷澤弁護士の話を受け、大崎氏は暗号資産への規制について、日本と対比しながらアメリカの状況を解説。アメリカと日本における業者規制や情報開示規制の違いを踏まえながら日本での規制の範囲や対象を整理していくべきだと述べた。

また仮想通貨の規制について神田氏は、イノベーションの分野は変化が激しいため、一つだけ規制を定めても空振りに終わってしまう可能性もあり、性急な規制はしない方がよいのではないかと指摘。最小限度の業者法や監督法がしっかりと定められていれば実務上の工夫でカバーできるため、法律による仮想通貨や暗号資産への規制は必要最低限でよいのではないかと述べ、イノベーションが起こる可能性を削いではいけない、と提言した。

このほか、モデレーターの有吉弁護士が「株式による資金調達とICOは並存すべきかどうか」と質問を投げかけると、谷澤弁護士は、ICOはブロックチェーンを使った分散型ネットワークを作ることという目的や、スタートアップの資金調達をブーストさせるという意義もあることから、株式による資金調達とICOが並存しうる方向での議論を進めるべきだと持論を述べた。

大崎氏は谷澤弁護士の話を継ぎ、近年、アメリカでのICOに対する出資状況を見ていると、事業者が実現しようとするエコシステムへ参加するために出資がなされているという印象を受けると語り、ICOが単なる安易な資金調達手段となり、トークンの投機的取引が広がれば、不要な開示規制や投資家保護規制を課すだけで終わってしまうのではないかとの懸念を示した。

暗号資産の私法上の性質

同ワークショップでは続いて菅野弁護士が、「仮想通貨の活用と私法上の論点」と題して講演した。菅野弁護士が仮想通貨に関わるようになったのは2014年に破産手続きを申請したマウントゴックス社の案件で、債権者の代理人として民事再生の申し立てをしたことによるという。

菅野弁護士は、仮想通貨の普及につれて、仮想通貨を巡る法的論点は私法の領域にも関わるようになってきていると指摘。担保の対象、信託の対象となることも想定され、債権回収の際に強制執行の対象となるのか、暗号資産を持つ会社が倒産手続に入った場合にどう扱うべきなのかも議論されるべきだと語った。

仮想通貨の私法上の性質について考えるうえでは、2015年8月5日のマウントゴックスの案件に関する東京地裁の判例が参考となる。ビットコインを預けていたユーザーが、マウントゴックスの保有するビットコインに対する所有権を主張し、破産手続きに参加する破産債権者としてではなく、ビットコインを返却するよう訴え、取り戻し権の有無が争われたものだ。所有権が認められるには、有体物であることと、排他的支配可能性の2点が観念されなければならないが、マウントゴックスの案件ではビットコインについてどちらも認められず、所有権は否定された。ここから、現行法上は仮想通貨を所有権の対象として捉えることは難しい、と菅野弁護士は説明した。

では仮想通貨は、資産としてどのように活用できるのだろうか。わかりやすい方法として担保権の設定が挙げられる、と菅野弁護士は語った。

仮想通貨に対して担保権を設定する3つの方法

菅野弁護士は仮想通貨に対して担保権を設定する方法について、仮定のシチュエーションを元に説明。仮想通貨ビジネスを行なっているA社が運転資金を調達するためにB金融機関に融資を申し入れたとして、A社の保有資産の中で担保となり得る資産が、A社が自社のアドレスに保有する仮想通貨のみであった場合、仮想通貨を担保として活用することは可能だろうか、と問いかけた。

菅野弁護士によれば、仮想通貨の私法上の性質が確立していない中、担保権の設定もしくは担保権と同等の担保化を行う方法として、「仮想通貨の消費寄託による担保化」「電子記録情報の記録物に対する担保権設定」「信託を用いたスキームの利用」があるという。

「仮想通貨の消費寄託による担保化」は、保証金の取引などと類似した考え方だ。まずB金融機関がA社に対して金銭貸借契約に基づいて金銭を貸付け、A社は自社のアドレスに持っている仮想通貨を消費寄託契約に基づきB金融機関のアドレスに移す。その際、A社が返済できなくなるためのトリガー事由が発生すると、B金融機関が寄託を受けている仮想通貨を換価できるような条件を定めておく。実際に返済不能事由が生じたときには、「その時点の時価で換価した仮想通貨の代金債権」と「B金融機関がA社に対して持っている代金債権」を相殺。相殺の担保的機能を使って担保化するのである。

「電子記録情報の記録物に対する担保権設定」は、もう少し物理的な方法だ。A社のアドレスにある暗号資産は、公開アドレスと秘密鍵があれば移転することができるため、秘密鍵をファイルもしくは紙に写し、その有体物に対して質権を設定する。A社が返済不能となった場合には、B金融機関は質権を実行し秘密鍵をつかって仮想通貨を処分することで、金銭消費貸借契約の貸付金の返済に充てるのだ。

「信託を用いたスキームの利用」については、A社を委託者兼受益者、信託銀行を受託者とする信託契約を締結し、その信託受託権に対してB金融機関が担保権を設定。A社が返済不能となった際にはB金融機関が担保権を実行して、信託受益権を取得するか信託受益権を換価し返済に充てられるのである。

このほか、菅野弁護士から仮想通貨に対する強制執行について、理論上の可能性を示しつつも、実務上は換価処分にあたって秘密鍵情報の開示などの課題が残る点について説明された。

講演の最後、菅野弁護士は「これから仮想通貨が普及していくと、一般的な財産としての扱いを議論していかなければなりません。司法上の議論が発展し、結論がつくのがもっとも望ましいですが、すでに仮想通貨は流通しているため、実務の運用を先行し、仮想通貨を利用できる入り口を増やしていくことが重要だと思います」と話を結んだ。

電子契約サービス「クラウドサイン」が普及するまでに乗り越えた3つのハードル

金融領域での活用が目立つRegTech(ITを用いた規制対応)だが、リーガル領域においても参考となる事例を紹介したい。

弁護士ドットコム株式会社の執行役員でクラウドサイン事業部長である橘 大地が登壇したワークショップでは電子契約サービス「クラウドサイン」の普及に際して、どのように規制に対応してきたかを語った。

弁護士ドットコム株式会社 執行役員、クラウドサイン事業部長 橘 大地

弁護士ドットコム株式会社 執行役員、クラウドサイン事業部長 橘 大地

クラウドサインは、これまで紙と判子で締結されてきたような契約をクラウド上で行える電子契約サービスだ。

紙の契約書に判子を押すよりもクラウド上で契約を結べたほうがよい、と考える人は多いだろう。しかし2015年10月にクラウドサインがリリースされた直後は、便利だと思うが本当にクラウド上での契約で問題ないのかと心配の声があがることが度々あったという。そもそもクラウドで契約締結が行えるサービスは10年以上前から20サービスほどあったが、なかなか普及してこなかった。その理由は大きく3つある。

ひとつ目が文化や慣習といった「広い意味での『Regulation』」だ。一部の書類を除き、判子で契約締結を行わなければならないという決まりはなく、民法では「契約方式の自由」という原則が定められている。実際、サインでの契約や検収書のメールでの取り交わしといった契約方法は日本でも普及しており、クラウド上で契約締結しても問題ないのだが、契約相手が紙と判子を使用しているために自社もそれに従うという、ビジネス上の不文律があったという。

ふたつ目は「ネットワーク・エフェクト」によるハードルである。「ネットワーク・エフェクト」とは、サービスの利用者が増えるほど、サービスの価値が上がり利便性が増すことを指す。Facebookがグローバルで普及したことに伴い、ほかのSNSユーザーが減少しFacebookへの移行がさらに進んだことが一例として挙げられる。クラウドサインに置き換えると、導入社数が少ない間は自社がクラウドサインを導入しても、相手が紙と判子による契約を求める場合、クラウドでの締結ができなくなってしまい、利用が難しいという問題があった。

また契約締結は二者によるものだけではない。大企業などでは関係者が1,000社を超えることもあるため、自社が導入していても全ての関係者にクラウドサインでの締結を促すのは困難であり、結果としてクラウドサインが活用されないケースもあったという。

3つ目は「狭い意味での『Regulation』」、つまり規制そのものだ。例えば、労働条件通知書は書面の交付が必要なように、一部の法律では紙での契約締結が定められている。これらは口頭契約を規制しエビデンスを残すことで、労働者などを守るために決められているものだ。ITが進歩した昨今では、紛失のおそれがある紙よりも検索性の高いデジタル情報の方が当事者のためになることもあるが、対応が後手となっておりいまだに紙での契約締結を求める法律は残っている。

3つのハードルを乗り越え、広く活用されるサービスに

こうした3つの課題がありながら、クラウドサインは導入社数が27,000社を突破するなど、広く普及。大手証券会社や人材企業といったペーパーワークが多かった企業や、ベンチャー企業での活用が進んでいる。またグローバルで契約が行われる際に、締結先にその利便性が伝わって導入が進むケースもあり、すでに34カ国で送信側として利用されている。ではクラウドサインはどのようにして3つの課題を乗り越え、広く活用されるようになったのだろうか。

まず「広い意味での『Regulation』」である、紙と判子で契約する文化については、クラウドによる契約がどれほど便利かを「契約のスピード化」「コスト削減」「情報のデジタル化による利便性向上」といったメリットを論理的正当性に基づいて伝えていったという。

ふたつ目のハードルである「ネットワーク・エフェクト」を克服するために、導入しない理由がなくなるような料金形態が構築された。クラウドサインは月額固定料金が1万円であり、契約締結件数ごとに100円がかかる料金設定となっている。また契約を結ぶ取引先には一切費用がかからず、取引先も印紙税がかからない。

料金体系に加え、スタートアップ業界の著名人に言及されたり、イベントを行ったりと発信を続けることで認知を広げていったことも「ネットワーク・エフェクト」の克服に寄与したという。スタートアップ業界では紙で契約締結する機会が減ってきており、紙での契約を求められると、クラウドサインで締結できないかと話にあがるなど、逆の「ネットワーク・エフェクト」も生じるようになってきていると説明した。

「狭い意味での『Regulation』」である規制そのものに対しては、経済産業省が実施しているプログラムで、事業に対する規制の適用の有無を事業者が照会できる「グレーゾーン解消制度」を活用。口頭契約を防止するために紙での契約が定められているのであれば、クラウド上での契約の方がより証跡が残り、契約当事者のためになるのではないか、などと訴え交渉してきたという。具体的な成果として、原則は紙での締結が定められていた建築請負契約について経済産業省経由で国土交通省と掛け合い、半年以上の折衝を経て、クラウドサインが規制の対象外となったケースが紹介された。

今後は指紋認証や契約書の自動作成、自動翻訳機能の実現へ向け検討

今後の実装機能についても説明があった。判子では貸し借りができてしまい本人認証が脆弱だという課題を改善するための指紋認証、AIによる契約書の自動作成エンジンや、クラウド上に契約書をアップロードすると英語をはじめとした言語への自動翻訳がなされる「マルチ翻訳機能」について、実現へ向け検討を進めているという。加えて、昨年から提供している契約締結と法人決済を組み合わせたサービス「クラウドサイン ペイメント」にも力を入れていくという方針を明らかにした。

橘は講演の最後に、会場に集まった事業者へ向け、「クラウドサインの普及に際し、規制をひとつひとつ乗り越えてきました。RegTechの事業に参入する方は、クラウドサインの普及までの経緯を思い出してもらえればと思います」と語り、セッションを締めくくった。

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