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企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか

第8回 不正会計 - 親会社経営者不正(前編)

コーポレート・M&A
渡辺 樹一 市川 佐知子

第8回は不正会計のうち、親会社経営者不正についてお話しします。

本稿の末尾には、「不正発見や調査について監査法人および社外取締役の役割」について、田辺総合法律事務所の市川 佐知子弁護士との対談形式のコラムを掲載しています。

上場会社の不正会計 ‐ 行為者・動機による分類とコーポレートガバナンスの構図

不正会計は不正の行為者と動機から、下図の通り6つに分類できます。

上場会社の不正会計行為者の動機分類

コーポレートガバナンスの構図ですが、親会社の粉飾決算(①と②)、これらを監視・監督するのは、親会社の取締役会や監査役です。これに対して、子会社経営者不正や従業員不正(③~⑥)を監視・監督するのは一次的には親会社経営者の責務であり、親会社の取締役会や監査役は、その親会社経営者による子会社ガバナンス(子会社への経営統制や経営管理)の敷設状況や親会社、子会社に関する内部統制の構築・運用状況を監視・監督するという構図となります。

上場会社の不正会計行為者による分類とコーポレートガバナンス

親会社経営者による粉飾決算

上場企業の不正会計事例55件(2014年1月〜2018年6月)に関する発覚の端緒を見てみますと大変興味深い事実があります。
不正会計の7割が経理財務業務(決算業務、決算分析、債権管理等)あるいは三様監査で発見されており、不正会計の早期発見のカギは、経理財務部門と三様監査の連携にあるということが言える中、上記①と②の親会社経営者による粉飾決算については、内部監査や内部通報により発覚した事例は皆無であったということです。親会社経営者による粉飾決算では、経営者による内部統制の無効化が行われており、内部監査により発見できない、あるいは内部監査部門が仮に不正を発見しても適切なアクションを取らない、ないしは他の経営幹部の存在があるが故に適切なアクションを取れないということで、ここでも共同体的一体感(参照:「第7回 不正会計、その他コンプライアンス違反と共同体的一体感」)が影響しているという見方ができます。

また、親会社経営者による粉飾決算は、それを指示され、会計処理を行った従業員が必ずいることとなりますが、経営者が不正に関与しているがゆえに、「通報しても是正されない」と考え、内部通報はされないということです。親会社経営者による粉飾決算の発覚の端緒の4割以上が「監査法人からの指摘」となっており、従業員が監査法人に対して内部告発に至るようなケースも含めて、監査法人に期待するところは大きいという見方ができそうです。

不正会計発覚の端緒

親会社経営者による粉飾決算は、正にコーポレートガバナンスの問題です。「経営者は自己の名声や利益を重視し、株主利益とは一致しない行動をとることがありうる」というエージェンシー問題はコーポレートガバナンスの中核となる問題ですが、それについて考察するにあたり、具体的な事例から分析すると分かりやすいため、以下、不正の内容や背景等が十分に開示されている事例の中から5つを採りあげ、それらから学ぶ4つの教訓から、コーポレートガバナンスの強化策を論じてゆきたいと思います。

【不正の内容や背景等が十分に開示されている事例】
  1. ソフトクリーム、デザート店舗販売企業(2015年)(上場廃止)
    社長の指示のもと、上場廃止基準への抵触を回避するために、2年間にわたり、新規事業として開始した太陽光発電事業に関して実態のない取引による架空売上計上が行われた。

  2. 土木建設機械企業(2017年)(上場廃止)
    社長の指示のもと、2年連続営業赤字の回避と債務超過からの脱却のため、新規事業として開始した太陽光発電事業に関して実態のない取引による架空売上計上、および架空の不動産取引が行われた。

  3. 総合電機大手企業(2015年)(指名委員会設置会社)
    3代にわたる社長の指示のもと、見かけ上の当期利益の嵩上げのため、7年間にわたり、組織ぐるみで、工事損失引当金の過小計上や経費の繰延計上、パソコン部品の押込取引等の不正会計が行われた。

  4. 愛知の中堅スーパー(2018年)
    従業員が、専務取締役営業本部長からの指示のもと、不採算店舗の減損を回避するために、9年間にわたり、リベートの傾斜配賦や加工センターからの仕入原価の調整、本社の職員を店舗で稼働させた場合の人件費の本社負担等の不正会計を行った。

  5. 通信系システム開発A社(2013年)
    取締役と従業員が、6年間にわたり、業績予想達成のため、勤務表の改ざんによる売上や仕掛の過大計上、開発費の資産計上等の不正会計を行った。

不正の内容や背景等が十分に開示されている事例

会社法等で定められた経営者への規律付けと経営者意識との乖離

教訓の1つ目は、「新規事業という攻めのガバナンスの失敗から不正会計へと走った経営者の暴走(上記図の特徴のA)や赤字事業からの撤退等の痛みをともなうような抜本的な経営判断(攻めのガバナンス)の欠如から不正会計へと走った経営者の暴走(同特徴のB)が見られる」ということです。

事例の①と②は、従前事業が低迷する中、太陽光発電という新規事業に打って出たがうまくいかなかったために不正会計へ、事例③は、原子力発電等の赤字事業からの撤退等の経営抜本策を取らずに不正会計へ、事例④は、不採算店舗の統廃合等の経営抜本策の不作為から不正会計へ、事例⑤は、営業戦略や技術者確保のための人事戦略に力を尽くすことなく、不正会計へと逃げた例です。

ビジネス(利益)もコンプライアンス(倫理)も同時に追求するという経営を「コンプライアンス経営」と言うわけですが(参照:「第3回 企業不祥事事例の分類と分析、不正ではない不祥事とコンプライアンス経営の重要性」(3.コンプライアンス経営の目的))、「製品やサービスの提供を通じて社会に貢献する」というのが企業の存在意義であるならば、コンプライアンス経営は、「ステークホルダー全体を視野に入れてその場、その場で正しいことを行う経営」と置き換えることができます。
雇用をカットして配当を確保するか、それとも配当をカットして雇用を維持するかなど、経営者は、多くのステークホルダーがいる中で利害が対立する場合に直面します。すべてのステークホルダーを視野に入れて、その場その場で正しいことを行う経営者、その経営者を規律付けているのが、コーポレートガバナンスです。

コーポレートガバナンス・コードは、実は、すべてのステークホルダーと経営者との関係をよく整理しています。
株式売買を通じた規律付け(業績が悪ければ株式を売却され、株価が下がると買収の脅威が増し、増資による資金調達力が減じられる)や機関設計を通じた規律付け(株主総会で意見を述べる、株主の利益にそぐわない経営者を解任し、新たな経営者を選任する、株主代表訴訟を起こす)に代表される「株主による規律付け」については、基本原則1(株主の権利・平等性の確保)や基本原則5(株主との対話)が定められ、さらに、この「株主による規律付け」は会社法により明確にサポートされております。

加えて、取締役会・監査役(監査(等)委員)による規律付けについては、基本原則4(取締役会等の責務)で規律付けられ、ここに取締役会評価の重要性があります。また、従業員その他ステークホルダーによる規律付けについては原則2(株主以外のステークホルダーとの適切な協働)があるのです。

問題は、経営者自身がステークホルダーの一員であることで、違法行為を犯してまで自己の名声の獲得や維持、保身を最優先してしまったのが「経営者による粉飾決算」です。
株主の目から見て、「経営者へのガバナンス」が利いているかどうかは、わかりやすく言えば、「3つの経営者リスク」が取締役会や監査役の監視によって担保されているのかどうかということとなります。既述の5つの事例は、下記の②と③のリスクが実現してしまった例です。

【3つの経営者リスク】
  1. お手盛りで自分達の報酬を増やしてしまうというリスク

  2. 企業全体をリスクに晒してしまうというリスク
    • 「株主の利益にそぐわない経営者が続投を重ねる、あるいは、経営者が、株主の利益にそぐわない後継者を選出する」という経営者の後継者問題
    • 業績をあげるために採算のおぼつかないM&A等や新規事業等の適切でない投資を強行する、あるいは、粉飾決算等の経営者の暴走のリスク
  3. 経営者の逃走のリスク
    ②とは逆に、経営者がリスクを取らない。あるいは、赤字事業からの撤退をしないなど、会社に必要となる、戦略的意思決定を行わないリスク。

企業として何をなすべきか。以下のような結論となるものと思われます。

役員の意識改革。コーポレートガバナンス・コードへの対応スタンスを転換する。現状、制度対応のスタンスであるのであれば、「コードをコンプライアンス経営のツールとして活用する」という方向へ転換する。各コードへの自社の対応について「あるべき姿」を設定して、「あるべき姿」に向かって、年々、徐々に実務対応を行ってゆく。』

上場会社は、ステークホルダーから規律付けられている立場を前向きに捉えて、コーポレートガバナンス・コードへの対応スタンスを制度対応から本格対応へと転換することが肝要です。
コーポレートガバナンス・コード施行から4年目を迎え、「コードは投資家中心の欧米思想で日本の経営には馴染まない」という思考の企業はもはや少数派となっているものと思いますが、「他社に比べて恥ずかしくないレベルを充足できれば良い。開示項目以外は、開示しなくて良いのだから実務対応は不要であるし、コンプライしていると言っても誰もわからない」と考える企業は未だ多いでしょう。
「そもそも投資家から評価されず、企業価値を高められない企業は従業員や社会からの支持も得られない」という思考に転換し、コーポレートガバナンス・コードをコンプライアンス経営(ビジネス(利益)とコンプライアンス(倫理)の同時達成)のツールとして活用することこそが、企業価値向上と毀損防止の早道であることに気づいていただきたいのです。

第9回の「不正会計‐親会社経営者不正(後編)」では、引き続いて、親会社経営者による粉飾決算事例から得られた残りの3つの教訓である、「取締役会、監査役の機能不全」、「機関設計の不全」、「役員レベルでの会計リテラシーの欠如」について論じさせていただきます。


コラム「不正発見や調査について監査法人および社外取締役の役割」

従業員が監査法人に内部告発をする例は増えるか

渡辺
今回取り上げた5つの事例から得られた教訓の1つ目は、経営者による粉飾決算は、攻めのガバナンスの失敗や欠如によって、経営者が暴走したときに起きるということでした。経営者が不正に絡むと内部統制の無効化により発見は困難となります。だからこそ、発覚の端緒の4割を占める外部の監査法人からの指摘が重要になるわけですが、その監査法人に従業員が内部告発をするという例は、今後増えていくでしょうか。

市川
従業員が経営者の不正を通報する窓口として、監査法人がどれだけ頼りになるか、見方は分かれるのではないでしょうか。経営者のお抱え集団だと見れば、監査法人に言っても意味がない、直接証券取引等監視委員会(SESC)に通報した方が良い、ということになります。しかし、監査法人の守秘義務、アクセスできる情報の多さ、公認会計士の義務・倫理を考えれば、本来はとても頼りになる存在のはずです。

そして、監査法人にとって切り札となる条文もあるのです。金融商品取引法193条の3には、虚偽記載等を見つけた場合、監査法人による発行会社への通知、金融庁への申出等、徐々にエスカレーションしていく義務が定められています。義務違反には過料が定められていますし、公認会計士法に基づく処分の可能性もあります。監査法人はこの義務を軽視できませんし、していないでしょう。発行会社(企業)にとっても自ら是正する機会が与えられ、監査法人に言われた後とはいえ、自浄能力があると示すことができます。内部告発について会社に与えるダメージが大きいと考え躊躇を覚える従業員の、心理的な障害を小さくする効果もありそうですので、従業員がこの条項の存在を知ること自体にも価値があると思われます。経営者不正の情報を、是正できる権限を持つ人の手に、妨害されることなく迅速に伝えたいと思う人に、知っていただきたい条文です。

渡辺
監査法人や公認会計士が経営者不正を発見した場合、具体的にどのような対応が求められるのでしょうか。

市川
日本公認会計士協会では、「違法行為への対応に関する指針」を2018年4月に制定し、2018年7月には関連規則も改正しています。この指針の指す違法行為は、虚偽記載等に限られず、情報保護、税金支払、環境保護等が例示に含まれ、かなり広いものとなっています。公認会計士は、違法行為の発見までは要求されませんが、通報があれば「気付」くことになり、気付けばこの指針に則って対応する必要が出てきます。必要な対応を簡単にまとめると、経営者や(必要に応じ)監査役等と協議、彼らが対応するよう要請、彼らの対応を評価し、誠実さに疑義があるなら業務辞退・契約解除、とエスカレーションすることです。経営者自身が暴走している場合、経営者と協議・要請しても奏功しないでしょうから、監査役、監査委員会または監査等委員会とのコミュニケーションが重要になるでしょう。

ここで、監査役等と一口に言っても、経営者との関係にはそれぞれ違いがあることに着目すれば、社外の非常勤メンバーとのコミュニケーションが鍵になりそうです。近時発表されたスルガ銀行の第三者委員会報告書で言及されたように、社内出身の常勤監査役が経営者に遠慮して黙ってしまうことがありえます。監査法人は協議の相手として、常勤監査役をまず最初に据えるとしても、その対応に不安が残れば、非常勤監査役も交えて直接協議する形態をとる必要も出てくるでしょう。

この指針によって身を引き締めねばならないのは、公認会計士もさることながら、社外役員であると感じます。監査法人は、違法行為に気づけば、言わばホットポテトを誰かにお裾分けしなければならなくなったわけですが、お裾分けされた社外役員は、調査、結論出し、処分、開示等が、監査法人の納得の行くスピードとレベルで実施されることを、自分の責任として監視していかねばなりません。しかも、暴走する経営者と対峙しながら、となれば、一筋縄ではいかないでしょう。社外役員が不祥事の矢面に立たされ、対応策の陣頭指揮をとらざるを得ないようなケースも出てくるものと予想します。

ウェルズ・ファーゴの事例

市川
アメリカでは、2016年にウェルズ・ファーゴのスキャンダルが発覚しました。銀行が顧客に無断で勝手に新規口座を開いたり、クレジットカードを発行したりして、営業成績を上げているかのように仮装し、顧客に種々の余計な手数料を課金する等、多くの違法行為が蔓延していたとして、巨額の制裁金を支払うことになりました。
公的機関による調査とは別に、ウェルズ・ファーゴの独立取締役が特別委員会を設置し、法律事務所を起用して、調査が実施されました 1

渡辺
日本では、そのような場合、独立取締役が調査に関与する例は、さほど多くはありません。日弁連の第三者委員会ガイドラインでは、社外役員は「直ちに『利害関係を有する者』に該当するものではなく、 ケース・バイ・ケースで判断されることになろう」とあります。「独立」取締役ではあっても、会社と既に関係を持っている点で、調査の「独立」性を損ねるという見方が根底にあるように思えます。

市川
ウェルズ・ファーゴの当該調査報告書も、取締役会に甘すぎる、特に取締役会がコンプライアンス上の問題があることを経営陣から知らされていなかったことになっているが、果たしてそう整理して良いのか、と批判する人もいます 2
取締役会には執行側の業務を監視する役割があります。これほどまでの大規模で執行側が違法行為をしていた場合、それを止められなかった取締役会にも、責任の一端があるかもしれません。それを調査する弁護士チームを雇うのが、取締役会構成メンバーの一部である独立取締役では、執行側の責任の調査は厳しくできても、取締役会の責任の調査には、手心が加えられるのでは、という疑念が湧くのも当然です。責任を否定するなら、相当堅固な根拠付けが必要です。それが不足すれば、依頼者に遠慮して弁護士は厳しく責任追及できなかった、と見られます。この点は、近時、日本で「名ばかり第三者委員会」等と問題視されている現象と、同じだと思います。ただ、ウェルズ・ファーゴの場合、執行側の責任は厳しく追求されているのが、救いでしょうか。

渡辺
独立取締役の責任追求はなされなかったのですか。

市川
実は、大変不名誉な取扱いが待っていました。Federal Reserve Boardが当時の筆頭独立取締役を名宛人に公開書簡を出しました 3
この書簡は、ウェルズ・ファーゴのコーポレートガバナンス・ガイドラインを引用し、筆頭独立取締役がその役割を果たしていないと、次のように端的に断じています。

「筆頭独立取締役は、取締役会と経営陣との間の連絡を密にし、議長やCEOに取締役会がどのような情報を必要としているか助言し、取締役会に提供する情報の種類や形式を承認するものとする(ガイドラインより)。
ところが、貴殿は、営業実務やコンプライアンス上の問題を知った後でも、正式調査開始に踏み切らず、経営陣にさらなる情報を出すよう要求することすらしなかった。
貴殿の業務執行は、非効果的な監視の見本であり、FRBの期待に合致しない。」

これ以上端的に書きようがない、というくらい端的に責任追及がなされています。個人に刑事罰や課徴金が課せられるのとは異なりますが、名指しでここまで書かれると、銀行の独立取締役まで務めるような、おそらく高名な方にとっては、大変な不名誉のはずです。その後の同種職務就任にも大きな足かせとなるでしょう。
同種の公開書簡は、取締役会議長 4 や取締役会メンバー 5 にも出されました。

日本でも、コーポレートガバナンス・コードにコンプライする形で、社外取締役の役割や位置付けについて社内規程を整備し、その一部や概要を「基本方針」や「ガイドライン」として開示する例が増えてきています。整備・開示のときには、社外の視点を有効活用することをアピールしようと、積極的な規定がなされるのではないでしょうか。しかし不祥事の芽が吹いたときに、その規定が、またそれを読んだ株主が、社外取締役に何を期待するだろうか、よく考えてみる必要があると思います。

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