抽選でAmazonギフト券が当たる! 2018年の企業法務を振り返るアンケート実施中

ポリゴン・ピクチュアズ塩田社長と現役アニメーターが激論 - アニメ業界再興に向け絡まりあう論点

知的財産権・エンタメ

オンライン受付の無料相談やセミナーを通じてクリエイターやベンチャー企業、アーティストを支援するボランティア法律家集団「Arts and Law」によって11月2日、団体として初の試みである「アニメ」をテーマとしたトーク&交流のイベント「Animation & Law!! vol.1」が東京都渋谷区のHoops Link Tokyoで開催された。

イベント開催の意図について、主催者の1人であるWATARI特許事務所代表弁理士の石渡 広一郎氏は「世界に誇れる文化として日本のアニメが存続するために、多様な立場の当事者が集い議論することで、業界の課題を共有したい」と語った。

パネルディスカッションでは、ポリゴン・ピクチュアズ代表取締役の塩田 周三氏とアニメーターの内藤 伊之介氏をパネラーに、ドリームインキュベータのビジネスプロデューサーで弁護士の下平 将人氏と石渡氏がファシリテーターを務め、ディスカッションが行われた。

アニメ業界の再興に向けた4つの論点

冒頭、下平氏から「アニメ業界の再興に向けた4つの論点」が紹介され、それぞれの立場から考えが述べられた。

アニメ業界の再興に向けた4つの論点

パネルディスカッションによる「アニメ業界の再興に向けた4つの論点」
アニメのビジネスモデル
出資者:制作会社や事業会社が中心となり製作委員会方式(民法上の組合)と1社単独出資のケースが多い。
制作会社:製作委員会から発注を受けアニメの制作を行う。
アニメーター:制作会社の二次請け、三次請けとして業務委託の形で仕事を受ける。制作会社と雇用契約を結ぶ正社員のケースも。

論点
  1. 制作会社の収益性:制作会社のビジネスモデルは労働集約的なモデルで収益を上げにくい。制作会社の収益性が高くならなければアニメーターに還元されないが、制作会社のビジネスモデルはどのように変革していくべきか。
  2. アニメーターの働き方改革:アニメーターは激務であり、人材の定着が進まず3年で退職してしまうとも言われる。給与条件の改善・働き方の改革はできるのか。
  3. アニメーターの育成・キャリア:ノウハウが個人に溜まってしまい会社に蓄積されない一方、スキルが高くなると独立してしまいキャリアのロードマップが引きづらい。アニメーターをどのように育成し、キャリア設計はどのように考えていくのが良いか
  4. ファイナンス:製作委員会方式の限界が指摘される中、Post製作委員会方式とも言える新しいファイナンススキームとしてどのような手段がありえるか。

制作会社が抱える構造的な問題 ― 論点①

制作会社の収益構造について、塩田氏が「ポリゴン・ピクチュアズの場合、費用構造としては、費用全体のうち人件費が6割、コンピューターを中心とした設備費が4割を占めており、労働集約的かつ設備産業という費用構造になっている。この費用構造に加えて、エンターテイメント業界の製品・サービスはコモディティ化するので、利幅が狭くなる」と問題点を述べたうえで、「当社ではゲームのプロモーション映像やVR映像など、コンテンツとストーリーテリングを伴う映像制作の多面化を行なっている。アメリカ市場に出て分単位の制作単価を上げる取り組みもしているが、労働対価以外の収益源を確保するにはライツからの展開が必要」と説明した。

塩田氏の説明を受けて、下平氏が「制作会社のビジネスモデルは労働集約的な映像制作とライツで稼ぐモデルの2階建てになっている。ライツで稼ぐモデルを持っていない場合、映像制作の単価を上げることが重要なはずだが、高い技術力を持つ日本のアニメーターの単価がアメリカと比べて安い理由はなぜか。受注単価を上げる余地はないか」と疑問を投げかけた。

この疑問に対し、塩田氏は日本とアメリカのアニメを取り巻く環境について、次のように答えた。

「ターゲットとする顧客のリーチが広ければ広いほどリスクが高い投資をしやすいので、制作会社の受注単価は上がる。ハリウッドは全世界の家族に向けてアニメを作っているので、リスクが高い投資を受け入れやすい資金調達環境が整っているが、日本のアニメはそもそも国内市場向けに作っているものが殆どなのでリーチできる市場が小さく、大きな投資も受けづらい状態。海外で日本のアニメが見られたのはファンサブ1によるものが大きかった。最近はNetflixをはじめとする動画配信サービスの普及によって海外にも流通されるようになり、少し単価は上がってきている」

その一方で「とはいえ、どの業界でもコンテンツメーカーは労働集約的なモデルになってしまうので儲からない。やはり収益を上げやすいのは、流通とコンテンツを配信するハコを握るVOD等のプレイヤーであり、アニメの制作だけで収益を上げるには限界がある」と塩田氏は課題も明らかにした。

アニメーターの内藤 伊之介氏、株式会社ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役 塩田 周三氏、WATARI特許事務所代表弁理士 石渡 広一郎氏

左から:アニメーターの内藤 伊之介氏、株式会社ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役 塩田 周三氏、WATARI特許事務所代表弁理士 石渡 広一郎氏

アニメーターの労働環境は変わるのか - 論点②

では、動画配信サービスの普及などの変化によってアニメーターを取り巻く環境は変わったのだろうか。

内藤氏は「動画配信サービスの参入によってアニメ制作の予算が増えたとしても、アニメーター側からすると、結局は時間がないからいつもと同じような仕事のやり方になってしまうし、作画のクオリティも変わらないかもしれない。たまにやるちょっと高い仕事がきた、くらいの感覚しかない。単価が上がったからクオリティの高い仕事をするかというとあまり変わらないのでは」と述べた。

アニメーターの過酷な労働環境が話題となることも多いが、内藤氏は「やはり制作会社自体のビジネスモデル・オペレーションルールが変わらないと労働環境自体の改善は難しい。アニメーターはフリーランスとして、制作会社と業務委託契約を結ぶことが多く、出来高で給料が支払われるので、数をこなせば給与は高くなる。その一方で数をこなしてもクオリティが高くなければ次の仕事にはつながらないので、常に数と質の両面を追い続けなければならない状況にある」と改善が困難な状況を明かした。

アニメーターの内藤 伊之介氏

労働環境の他にも気になるのは人材の定着だ。ポリゴン・ピクチュアズのアニメーターの多くは正社員であるが、塩田氏は「作品のためにも、作り手であるアニメーターの感情を健全に保つこと、モチベーションを保つことに一番気を使っている」という。感情を健全に保つための具体的な取り組みについて同氏は次のように語った。

「やりたいと思える作品にどうやって出来るか。職人としての技が伸びているかどうか、自分の成長感やキャリアパスを見せるようにしている。また、人手が足りない中で女性のクリエイターが働き続けられるように、産休・育休の制度も導入して育ってきた人が離職しない努力もした。他にも、残業時間もちゃんと記録して一定時間に来て帰るという場を作っている。それでも文句は出てくるけれど(笑)」

アニメーターの育成・キャリアにおける課題 - 論点③

アニメーターの育成は再現性を持って実現できるのか。ポリゴン・ピクチュアズの事例について塩田氏は「当社は分業制を取り入れ、入社希望者の得意な分野に応じて採用を行っているので、入社の段階で基礎的な仕事は出来ている。このことを前提として、我々のツールやワークフロー、コンテンツに対する考え方をOJTで教育している。技量に応じた仕事を割り振りしていき、次の仕事、次の仕事と任せて成長するかどうか見ている」と説明した。

中国で作画指導を行った経験がある内藤氏は「中国での作画は動画の基礎的な仕上げを行うが、育成という意味で何かを教えるのではなく、仕事を渡してチェック・指示を出すことでしか指導ができない。アニメのイロハを覚える前に仕事に突っ込んでしまうので技術が身につかない。基本的なスキルを覚えさせるためのマニュアルを作る必要があるのでは」と課題を述べた。

ドリームインキュベータ所属で弁護士の下平 将人氏

ドリームインキュベータ所属で弁護士の下平 将人氏

製作委員会方式の問題点と新たなファイナンス手法 - 論点④

製作委員会方式には多くのメリットがある一方で、限界が指摘されることもある。塩田氏は「製作委員会はコンテンツを用いて、自分の得意な商売をしたい人たちの集まり。ビデオやアパレル、おもちゃなどの関連グッズを売りたい人たちが、いわばコマーシャルとしてのアニメを作り、一斉に販売を開始するので、極めて機敏であり、全方位にマーケティングできるシステムという利点があった」と述べたうえで「今まで売り上げを支えていたブルーレイディスクの売上減少など、ビジネススキームの変化が起きると対応が難しくなる。製作委員会に関わる人たちは自分たちが持っている商材を売りたいと考えているので、新しいビジネススキームを考えることには適していない。関係者が多いので合意形成には時間がかかってしまう」と問題点を指摘した。

状況の変化に対応した手法の1つとして、塩田氏が実践したのがプロジェクトファイナンスだ。
「動画配信サービスから受注した大規模な案件があったが、ライセンスフィーが入るまでにキャッシュフローが回らなくなる事を回避したいと思い、LLP(有限責任事業組合)を作って当該案件に関する債権を担保に銀行から資金を調達した。」
これはポリゴン・ピクチュアズが長年経営を続けてきた会社の信用と動画配信サービスとの契約があったために実現できたことではあるが、Post製作委員会方式の可能性を示すものと言える。

アニメ業界の未来はどうなるか

会場からの質疑では、5年後、10年後のアニメ業界の変化について質問があがった。内藤氏は「以前は3Dアニメに違和感を覚えていたが、技術の進歩を感じている。2D、3Dで出来る事、出来ない事をすり合わせて作品として良いものを作り上げたい。3Dで再現される事を2Dで表現出来るような技術を作れるアニメーターを育てないといけない」と意欲を見せた。

下平氏から近年話題となっている、AIによる作画について見解を求められると内藤氏は「アニメーターは1本の線で表現するものも多い。作り手の個性なども加味してAIが理解するのは難しいかもしれない」と答えた。

ユーザーがコンテンツにお金を払う概念が薄くなっている、という現状を危惧した塩田氏は「コンテンツを作るだけではダメで、コンテンツを届けるハコ・メディアの再定義を考えないといけない。自分たちだけでなく、ハコを一緒に作る人たちと組む事が必要だと思う。自分たちはストック作品を作っているけれども、360度、24時間接する事が出来るようにしないといけない。1つはシングルソース・マルチユースを本気で実践し、もっとカジュアルにコンテンツが利用できるようにすること。もう1つは音楽業界がライブやフェスによって収益を上げるモデルへ変化したように、体験を提供することだ」と提言、「自分たちのコアコンピテンシーはビジュアルで人々の感情を揺さぶることであり、この適用の場はアニメに限らない。モノがインテリジェンスを身につけていく中、ビジネスのマネタイズには感情の要素が不可欠となる。物凄いポテンシャルを持つ、クリエイターのエネルギーをアニメ業界以外の人たちにも活用してほしい」と会場に向けて力強く語りかけた。

「アニメ」をテーマとしたトーク&交流のイベント「Animation & Law!! vol.1」

会場では白熱した議論が行われた
プロフィール
塩田 周三(しおた・しゅうぞう)
株式会社ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役。上智大学法学部国際関係法学科卒業。1991 年 新日本製鐡株式會社入社。1997 年 株式会社ドリーム・ピクチュアズ・スタジオ立ち上げに参画後、 1999 年 当社入社。2003 年 代表取締役に就任し、 海外マーケット開拓に注力。TV シリーズ制作や海外市場をターゲットにしたコンテンツ企画開発を実現する。一方で、Prix Ars Electronica(オーストリア)、SIGGRAPH(米) などの国内外映像祭の審査員を歴任し、2008 年には、米国アニメーション専門誌 Animation Magazineが選ぶ「 25 Toon Titans of Asia( アジア・アニメーション業界の25 傑)」の一人に選定された。2016年のアヌシー国際アニメーション映画祭では審査員を務める。米国育ち、趣味はバンド活動。

内藤 伊之介(ないとう・よしのすけ)
アニメーター。1996年CGの専門学校(アミューズメントメディア総合学院)に在学中アニメの撮影会社(㈲レアトリック)で、業界には当時珍しかったレタスでのデジタル撮影に触れる。卒業後に㈱ディジメーション(現GDH)に所属、アニモでのデジタル撮影を経験するが、アニメーターの手書きの技術に憬れ、1998年頃同会社内で制作部に所属しながら作画部に転向。1999年㈲ティー・エヌ・ケイ(現㈱ティー・エヌ・ケイ)で作画(原画)を始めるが挫折。2000年からフリーになり、作監、演出の基礎を学ぶ。
2002年海外動仕の関係のFAIインターナショナルに所属。中国(上海)に作画指導という形で滞在。2004年FAIから㈱スタジオディーンへ所属を変え、中国(蘇州)で作画指導、2008年帰国後、同社で原画に従事。2011年フリーになりTVシリーズ、遊技機の作画、制作管理等に携わり、現在に至る。

石渡 広一郎(いしわた・ ひろいちろう)
弁理士、法政大学法学部法律学科卒。WATARI特許事務所代表弁理士。音楽CD流通会社、芸能事務所での勤務を経て弁理士へ。特許事務所に所属後、WATARI特許事務所を開設。いかにしてエンタメ産業の発展に貢献できるか日々模索している。

下平 将人(しもだいら まさと)
ドリームインキュベータにてベンチャー投資・投資先の経営支援や社外取締役を担当。弁護士。法律事務所、LINE社内弁護士、新規事業開発を経てドリームインキュベータに参画。

  1. ファンサブタイトルの略。 その作品のファンによって字幕(サブタイトル)をつけられた映像作品のこと。 ↩︎

関連する特集

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する