民法改正(債権法改正)と不動産取引への影響

第10回 賃貸借契約に関する民法改正の概要と留意点(その4) 修繕義務・修繕権、賃料減額等

取引・契約・債権回収

目次

  1. はじめに
  2. 不動産賃貸契約に関する民法改正の概要(前回の続き)
    1. 賃貸人の修繕義務、賃借人による修繕権(改正民法606条~608条)
    2. 賃借不動産の一部滅失等による賃料の減額等(改正民法611条)
    3. 減収による賃料の減額請求権等の適用対象の限定(改正民法609条)
    4. 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了(改正民法616条の2)
  3. おわりに

はじめに

 2017年5月26日に、民法(債権法)の改正法案(以下「改正民法」といいます)が成立し、2020年4月に施行されることになりました。
 不動産賃貸借契約やその他の不動産取引において用いられている契約書は、現行の民法を前提に作成されていますが、改正民法には、現行民法とは大きく異なる規定が多数存在しています。そのため、今後は、現在使用している契約書の各条項について、改正民法でどのように変わるのかを確認したうえで適切に見直すことが必要不可欠となります。

不動産賃貸借における主な改正事項
(順不同)
本連載での解説
賃貸借の存続期間の伸長 第7回「賃貸借契約に関する民法改正の概要と留意点(その1)
不動産賃貸借の対抗力
賃借人による妨害停止等の請求権
敷金・権利金(敷金等の承継を含む) 第8回「賃貸借契約に関する民法改正の概要と留意点(その2)
転貸借・サブリース(賃借人による民泊経営も含む)
損害賠償請求権・費用償還請求権の行使期間制限
賃貸人たる地位の移転 第9回「賃貸借契約に関する民法改正の概要と留意点(その3)
賃貸人の修繕義務、賃借人による修繕権 本稿
賃借不動産の一部滅失等による賃料の減額
賃借人の減収による賃料減額請求権
賃借不動産の全部滅失等による賃貸借の終了
賃貸借終了後の原状回復義務・収去義務 第11回 予定
貸借保証(極度額の設定、情報提供義務等) 第12回以降 予定
不動産投資ローン保証(公正証書作成義務等) 第13回以降 予定

 これまで3回にわたり、不動産賃貸借契約に関する民法改正の概要および実務への影響・留意点について解説しています。

 本稿においても、引き続き、不動産賃貸契約に関する民法改正の概要および実務への影響・留意点について解説いたします。
 なお、本稿においては、改正の概要および実務上の問題点について網羅的に詳細を解説するものではなく、その概要とポイントについて述べることといたします。

不動産賃貸契約に関する民法改正の概要(前回の続き)

賃貸人の修繕義務、賃借人による修繕権(改正民法606条~608条)

(1)賃貸人の修繕義務(改正民法606条1項)

改正民法606条(賃貸人による修繕等)
1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない
2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

 改正民法606条1項は、現行民法下でも規定されていた賃貸人の修繕義務を維持するとともに、ただし書の規定を追加し、賃借人の責めに帰すべき事由」によって修繕が必要になったときは賃貸人に修繕義務はないこととしました。
 この改正は、現行民法下の通説を明文化したものです。

 なお、法務省民事局参事官室『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』では、賃借人に帰責事由が「ある場合」と「ない場合」における、

  1. 賃貸人の修繕義務
  2. 目的物一部滅失の場合の賃料減額
  3. 賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権
  4. 修繕が必要な損傷部分に係る賃借人の原状回復義務

について、下記表のとおりまとめられています(法務省民事局参事官室『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』458頁、潮見佳男「民法(債権関係)改正法の概要」(きんざい、2017年8月)299頁)。

①賃貸人の修繕義務(606条1項) ②一部滅失等による賃料の減額(611条) ③賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権(608条1項) ④賃借人の原状回復義務(621条)
賃借人の帰責事由
なし
あり 減額される 発生する 負わない
賃借人の帰責事由
あり
なし
(修繕権限はあり)
減額されない 発生しない 負う
法務省民事局参事官室『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』458頁(一部加工)
賃借人の帰責事由による要修繕状態又は損傷であるかどうかによって結論に差異を生ずる論点を横断的に整理すると、まず、①賃借人の帰責事由によらない場合には、ⅰ 賃料は減額される、ⅱ 賃貸人の修繕義務は発生する、ⅲ 賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権は発生する、ⅳ 賃借人の原状回復義務は発生しない。他方、②賃借人の帰責事由による場合には、ⅰ 賃料は減額されない、ⅱ 賃貸人の修繕義務は発生しない(修繕権限はある)、ⅲ 賃借人が修繕した場合の必要費償還請求権は発生しない、ⅳ 賃借人の原状回復義務は発生する。以上のように整理することが考えられるが、特に②ⅱ の修繕義務に関しては異論があるところである。

 本条は任意規定であり、賃貸借契約の当事者間で本条と異なる特約をすることは可能です。

 「どのような特約とすべきか」「どのような特約であれば有効となるか」について十分に検討したうえで規定することが必要となります。

(2)賃借人の修繕権(改正民法607条の2)

改正民法607条の2(賃借人による修繕)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき

二 急迫の事情があるとき。

 改正民法607条の2(新設)は、下記の場合には、賃借人は自ら当該不動産の修繕をすることができることとしました。

  1. 賃借人が賃貸人に対して賃貸不動産の修繕が必要であることを伝え、または、賃貸人が修繕の必要性を知ったにもかかわらず、相当期間内に必要な修繕をしないとき
  2. 急迫の事情があるとき

 修繕を要することについては賃借人に通知義務があり、賃貸人が必要な修繕をしないことについては、賃借人に立証責任があるとされています。

 賃借人の修繕権が認められたことで、賃貸人側からすれば、賃借人による恣意的な修繕権の行使(不必要・過剰な修繕権の行使)がなされ、当該修繕について費用償還請求を受けるリスクを負うことになったともいえます。そのため、そのような不測の事態を避けるために、修繕権の行使条件・範囲、費用負担、手続き等についてあらかじめ適切に手当てしておくことを検討することが必要となります。
 たとえば、賃貸借契約において、「賃借人は、賃貸人に対して、修繕箇所、修繕の必要性及び修繕見積金額を明示した書面の交付をもって事前に通知したうえで、賃貸人から当該修繕について承諾を得たとき、(中略)本物件の修繕をすることができる。」などの規定を設けることが考えられます。
 この点の実務対応については、猿倉健司『不動産業・建築業の債権法改正対応 第5回 不動産賃貸(その1)』(ビジネス法務2018年6月号)101~102頁等をご参照ください。

賃借不動産の一部滅失等による賃料の減額等(改正民法611条)

(1)賃借不動産の一部滅失等による賃料の当然減額(改正民法611条1項)

改正民法611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
1.賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

 現行民法611条1項では、賃貸不動産を一部使用収益することができなくなった場合に、その理由が賃貸不動産の「滅失」による場合には、「賃借人の請求」によって賃料の減額を請求することができるとしています。
 これに対して、改正民法611条1項は、適用対象を「滅失」による場合のほか「その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合」にまで拡張したうえで、「賃借人による請求がなされなくても当然に」賃料が「その使用および収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額」されることとしました。
 もっとも、以下のような点については、実務上の対応について検討が必要となります。

① 具体的な適用場面は明らかではない

 改正民法611条1項に規定される「滅失」以外の「その他の事由」にどのような事由が含まれるかは、必ずしも明らかではありません。

② 減額割合の具体的な判断は容易ではない

 減額される具体的な金額を決める際に基準となる「使用収益をすることができなくなった部分の割合」の判断は容易ではありません。
 単純に使用収益できなくなった面積に比例して減額すればよい訳ではなく、滅失部分の価値の判断には漏水によりテナントの重要な一部が使用できないケースなど様々な要素を考慮しなければならない場合もありえます。

 これらの点について、当事者間において紛争が生じる可能性があることから、実務的にどのように対応するのかを十分に検討しておくことが必要となります。
 実務対応の詳細については、猿倉健司『不動産業・建築業の債権法改正対応 第5回 不動産賃貸(その1)』(ビジネス法務2018年6月号)102頁等をご参照ください。

(2)賃借不動産の一部滅失等による賃貸借契約の解除(改正民法611条2項)

改正民法611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
2. 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 現行民法611条2項では、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失した」場合のみ賃借人による解除を認める(滅失について賃借人に帰責事由がある場合には、賃借人は解除することができない)とされていました。
 これに対し、改正民法611条2項では、同条1項と同様に、その適用対象を「滅失」以外に「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」に拡大するとともに、(同条1項とは異なり、賃借人の帰責事由による場合であっても)「残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないとき」には、賃借人に解除権を認めることとしました。
 改正民法611条2項に基づく契約解除によって、賃貸人が損害を受けることも考えられますが、賃借人の帰責事由によって損害を被った場合には、賃貸人から賃借人に対する損害賠償請求によって、対処することになるとされています(法制審議会民法(債権関係)部会 部会資料69A・56頁、57頁)。

法制審議会民法(債権関係)部会 部会資料69A・56頁、57頁
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
(略)
民法第611条第2項の規定を一部改め、一部滅失等により賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合に、賃借人に帰責事由があるときであっても賃借人の解除権を認めるものである。賃借人が賃借の目的を達することができない以上、「賃借人の過失によらない」場合(同条第1項参照)かどうかを問わず、賃借人による解除を認めるのが相当であると考えられるからである。賃貸人としては、賃借人に対する損害賠償請求等によって対処することになる。

減収による賃料の減額請求権等の適用対象の限定(改正民法609条)

改正民法609条(減収による賃料の減額請求)
耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

(1)適用対象の限定

 現行民法609条においては、「収益を目的とする土地」全般について賃借人の減収による賃料の減額請求権が認められています。
 これに対し、改正民法609条は、その適用対象を「収益を目的とする土地」から「耕作又は牧畜を目的とする土地」に限定したうえで、現行民法609条、610条の規律を維持することとしました(法制審議会民法(債権関係)部会 部会資料84-3・16頁)。

法制審議会民法(債権関係)部会 部会資料84-3・16頁
要綱仮案第33の9では、民法第609条及び第610条を削除することとされていたが、関係省庁から、農地法第2条第1項に規定する農地及び採草放牧地の賃借人を保護する観点から、これらの土地については民法第609条等の規律は存置する必要があるとの指摘があったことを踏まえ、この規律の適用対象を必要な範囲に狭め、その限度で存続させることしている。

(2)収益連動型・歩合賃料特約

 もっとも、「耕作又は牧畜を目的とする土地」以外についても、当事者間で収益を保証することを合意することは妨げられません。
 たとえば、ショッピングセンター用の賃貸借契約においては、「テナントの月間の売上高の数パーセント」というように、テナントの売上に連動する形で定められることも多く見受けられます(歩合賃料ないし変動賃料などと呼ばれます)。歩合賃料にも、①テナントの売上高に完全に比例して連動する「完全歩合賃料型」(つまり極端な場合テナントの売上高がゼロの場合、月額賃料もゼロになる)と、②毎月の最低保証賃料が定まっており(固定賃料)、歩合賃料がこれを上回った場合には売上連動型の歩合賃料が適用されるという「併用型」(この場合、出店者の売上高がゼロであってもテナントは最低保証額を賃料として支払わなければならない)があります。
 以上の詳細については、黒木資浩ショッピングセンターにおける不動産賃貸借の注意点 第1回 賃貸借の特徴と賃貸借契約が締結されるまで』をご参照ください。

賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了(改正民法616条の2)

改正民法616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

 賃貸不動産が全部滅失した場合など、使用収益することができなくなった場合の取扱いについては、現行民法では規定されていません。
 もっとも、判例(最高裁昭和32年12月3日判決・民集11巻13号2018頁、最高裁昭和42年6月22日判決・民集21巻6号1468頁)においては、そのような場合には賃貸借契約は当然に終了するとしています。
 改正民法616条の2(新設)は、このような判例も踏まえて、賃借不動産の全部滅失その他の事由で使用収益できなくなった場合に、賃貸借契約が終了することとしました。
 なお、賃貸不動産の修繕に著しく過大な費用を要するようなケースも「使用収益できなくなった場合」にあたるのかどうか、どの程度の損壊であれば「使用収益できなくなった場合」といえるかという点については、今後の判例の動向を注視する必要があると思われます。

おわりに

 次回以降も、引き続き、不動産賃貸契約に関する民法改正の概要および実務への影響・留意点について解説いたします。
 平成30年3月30日に、国土交通省から、民法改正等を踏まえた『賃貸住宅標準契約書』の改定が公表されていますので、その内容についても確認しておくことが必要となります。

 参照:国土交通省「民法改正等を踏まえ「賃貸住宅標準契約書」等を改定しました!

 なお、本連載では、不動産売買契約・建築請負契約に関する民法改正の概要および実務への影響・留意点についても解説していますので、ご参照ください。

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