三井住友銀行が日本初のカバードボンドを欧州で発行、法制上の課題をどのように克服したか

ファイナンス

目次

  1. 世界の金融機関が発行するカバードボンド
  2. 日本の金融機関はカバードボンドを発行できなかった
  3. カバードボンドを発行できた仕組み
    1. 信託受託者としての発行とデュアルリコース
    2. トータル・リターン・スワップ(TRS)取引と一括清算法
    3. 海外トラスティによるカバープールの保全
  4. 応用と法制化について

 三井住友銀行(SMBC)は2018年11月6日付で、発行総額10億ユーロ、5年固定利付0.55%のカバードボンドを欧州市場で発行した(以下「本件カバードボンド」という)。本件カバードボンドは、日本の金融機関として初めて発行されたカバードボンドである。本件カバードボンドは、日本国債や親会社SMFGより高い最高位格付け「Aaa」を格付機関Moody'sから取得している。

世界の金融機関が発行するカバードボンド

 カバードボンドとは、金融機関により発行されている担保付の社債であり、(1) 不動産担保付住宅ローン等の信用力の高い資産のプール(カバープール)を担保とし、かつ(2) 投資家が、金融機関が破たんした場合であっても、金融機関とカバープールの双方にリコース(償還請求)することができる(デュアルリコース)という特徴を持つ
 カバードボンドには、特別の法制度に基づき発行されるもの(法制カバードボンド)と、特別の法制度によらずストラクチャードファイナンスの手法により設計されるもの(契約型カバードボンド)がある。欧州市場においては、世界各国の大手金融機関がカバードボンド(主として法制カバードボンド)を多く発行している。これらのカバードボンドはデュアルリコースにより、おおむね各国国債より高い最上位格付けを得ており、世界の金融機関にとって重要な低利の資金調達方法となっている。

 デュアルリコースの達成方法として代表的な方法は、以下に示すカバープール隔離型とSPC(特別目的会社)発行/金融機関保証型である。

カバードボンドのイメージ

カバードボンドのイメージ

日本の金融機関はカバードボンドを発行できなかった

 日本ではカバードボンド法制化は実現しておらず、本件カバードボンドが発行されるまで日本の金融機関によるカバードボンド発行実績もなかった。一方で近年では、日本の大手金融機関は貸付の利ざやの大きい海外向け貸付業務を成長性のある事業と位置付けており、そのために必要となる外貨を低コストで安定的に調達することが重要な経営課題となっている。前述のとおり、多くの海外金融機関がカバードボンドにより低利の資金調達を行っているため、日本の金融機関は競争上不利な状況である。

 日本の倒産法制(特に会社更生法)と、倒産隔離には真正売買が必須であるとするストラクチャードファイナンス法の理論が、契約型カバードボンドを発行できない理由であった。つまり、どのようにストラクチャーを工夫しても、カバープールが倒産法に服するリスクが残るとされ、特に会社更生法が適用されカバードボンド債権者が更生担保権者として扱われると、カバープールの意味はほとんどなくなる。

カバードボンドを発行できた仕組み

 以下では、本件カバードボンドが契約型カバードボンドとしてこの問題を克服した法律上のポイントを解説する。

信託受託者としての発行とデュアルリコース

 まず、カバードボンドを組成するには、デュアルリコースを達成する必要がある。前述のとおり、デュアルリコースの達成方法として保証型カバープール隔離型がある。信託を利用して、カバープール資産の信託受託者として銀行が社債を発行したうえ、社債債務の引当を責任財産に限定する特約を付さなければ、発行体である信託受託者の固有資産も社債債務の引当てとなり、カバープール隔離型によるデュアルリコースが実現する。

 SMBCは金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(「兼営法」)に基づく信託業を営む認可を取得している。本件カバードボンドにおいては、SMBCを受託者、証券会社を委託者兼受益者とする特定金銭信託が締結され、SMBCは特定金銭信託の受託者として、責任財産を信託財産に限定する特約を付さずに本件カバードボンドを発行した。これにより、社債権者による信託財産のカバープールと銀行(固有勘定)に対するデュアルリコースが実現した。

受託者発行によるデュアルリコースのイメージ

受託者発行によるデュアルリコースのイメージ

トータル・リターン・スワップ(TRS)取引と一括清算法

 信託法に定める信託財産の独立性により、信託受託者の倒産の場合も信託財産は受託者の倒産手続に服さない。しかしながら、オリジネータとしての銀行から信託へのカバープール資産の移転が倒産手続においても否定されないことがその前提となる。前述のとおり、従来のストラクチャードファイナンスの考え方では、カバープール資産の(信託)譲渡がオリジネータの倒産手続に服するリスクを除去できないとされてきた。そこで、カバープール資産の譲渡(売買)を伴わない移転として、参照資産とされる資産の経済的利益(損失)を交換するデリバティブ取引であるトータル・リターン・スワップ(TRS)契約により、信託勘定へのカバープール資産の移転を行う取引を、以下のとおり行う内容とした。銀行(固有勘定)がTRSカウンターパーティーであることから、信託業法に従い有効な取引とするために、信託勘定側は受益者の指図に基づきTRS取引を行う。信託勘定と銀行勘定の取引については、信託法上の議論があるが、金融実務においては広く行われており、金融庁も実務を前提に信託業者の監督を行っている。

(i) TRS取引のInitial Exchange(当初交換)として、銀行(固有勘定)は住宅ローンを原資産とするRMBS(Residential Mortgage Backed Securities)資産を信託勘定に引渡し、信託勘定はカバードボンド発行代り金(ユーロ)を銀行勘定に引き渡す。
(ii) TRS契約の期間中、銀行(固有勘定)はカバードボンドの元利金相当額(ユーロ)を支払い、信託勘定は参照債務であるRMBS資産からの収益配当(円)を支払うという交換を行う。
(iii) TRS契約終了時にFinal Exchangeとして信託勘定は参照債務であるRMBS資産のFinal Price(円)を支払い、銀行(固有勘定)はカバードボンド元本相当額(ユーロ)を支払う。
(iv) TRS取引を一括清算(後述)の対象となるデリバティブ取引として行うために、あらかじめ住宅ローン資産を信託銀行に信託して受益権化し、有価証券としてのRMBS資産(貸付債権信託優先受益権)を組成している。

 元本交換としての有価証券のデリバリーを伴うTRS取引は金融商品取引法2条22項5号で定義されている「店頭デリバティブ取引」に該当し、金融機関が行う特定金融取引の一括清算に関する法律(以下「一括清算法」という)の特定金融取引に該当する(同法2条1項)。一括清算法の適用があることにより、同法の定める金融機関等である銀行について一括清算事由(倒産手続開始の申立て)が生じた場合には、ISDAマスター契約(自動的期限前終了(Automatic Early Termination)条項を含む。)に基づき行われている各TRS取引は一括清算される。各RMBS資産を参照するTRS取引は一括清算事由の発生時点で時価評価されたうえ一括清算の対象となり一の債権となるが、RMBS資産そのものは信託勘定に残り社債権者の引当財産にとどまる。

RMBS組成とTRS取引のイメージ

RMBS組成とTRS取引のイメージ

一括清算のイメージ

一括清算のイメージ

海外トラスティによるカバープールの保全

 本件カバードボンドは、受託者としての銀行が海外トラスティと英国法準拠の発行関連契約を締結することにより発行されるいわゆるユーロボンドである。そして、TRS取引により信託勘定に移転したRMBS資産に対し、海外トラスティのための担保設定(いわゆるセキュリティトラスト)がなされ、日本法上有効な対抗要件が具備される。担保物に対する権利については、カバードボンド社債権者が優先し、TRSカウンターパーティーは劣後するとされる。
 したがって本件カバードボンドにつき債務不履行事由が発生した場合は、海外トラスティはRMBS資産に対する担保権を実行し、TRSカウンターパーティーへの支払に先立ち、本件カバードボンドの弁済に充てる。一方で、銀行の倒産手続が発生し、管財人等がRMBS資産に対する取戻権を主張しようとしても、対抗要件を具備した担保権者である海外トラスティからRMBS資産を取戻すためには海外の金融機関であるトラスティに対する訴訟提起等の措置が必要であり、これは法的(前述の一括清算を否定する必要がある)のみならず実務的(海外での訴訟が必要になると思われる)にも非常に困難である。

海外トラスティによる担保取得のイメージ

海外トラスティによる担保取得のイメージ

応用と法制化について

 本件カバードボンドは、発行体銀行が兼営法に基づく信託業の認可を得ていることにより、金銭信託の受託者となるストラクチャーを採用している。兼営法の認可を得ていない金融機関がカバードボンドの発行を検討する場合には、特別目的会社、自己信託または信託銀行を利用したうえで、TRS取引と必要に応じて保証型を採用したストラクチャーが実現可能であると思われる。今後は発行体金融機関のニーズに合致したさまざまな応用スキームの法的検討が進み、日本の金融機関による契約型カバードボンドの発行が広く行われるようになることを期待したい。

 本件カバードボンドによって契約型カバードボンドの発行は実現したが、日本においてもカバードボンド法制化が望ましい。理由は2点あり、1点は金融機関の監督として、優良資産のカバープールの総量(多すぎると、一般債権者、特に無担保社債権者の利益を損ねる可能性がある)と内容に対する規律が必要であることと、もう1点はカバープールについて一括清算法に依拠する必要がない法律上の保護が与えられれば、有利な発行条件が実現できることである。法制カバードボンドを求める投資家は少なくない。グローバル金融市場で日本の金融機関が不利な状況に置かれている現状を改善するために、早期のカバードボンド法制化が望まれる。

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