なぜ弁理士業からリーガルテックのスタートアップを起業したのか? - cotobox 代表取締役 五味和泰氏に聞く

ベンチャー

目次

  1. エンジニアから弁理士へのキャリアチェンジ
  2. 技術者のコミュニティに入り実現した「Cotobox」リリース
  3. 日本のリーガルテックの先頭へ立つために選んだ、「グレーゾーン解消制度」の活用
  4. 知的財産の総合的なサポートができるサービスを目指す

そのネーミング、商標登録しておきます——AI技術を活用し、短期間・低コストで商標登録出願の準備ができるサービス「Cotobox」をご存知だろうか。商標登録出願書類の作成サポートだけでなく、無料の検索機能を利用することで、ビジネスのネーミングを思いついた瞬間に商標登録できるかどうかをチェックすることも可能となっている。

同サービスを提供する cotobox株式会社 代表取締役 五味和泰氏は、弁理士としてYKI国際特許事務所で10年間勤務した後、2015年に独立しはつな知財事務所を設立。さらに2016年2月にリーガルテックスタートアップとしてcotobox社を立ち上げた。同社の事業内容については、経済産業省のグレーゾーン解消制度を利用し、弁理士法に抵触しないとの回答を得ている。

なぜ五味氏は、弁理士業からスタートアップを起業するに至ったのだろうか? cotobox社創業の経緯や、グレーゾーン解消制度活用のきっかけについてもお話を伺った。

エンジニアから弁理士へのキャリアチェンジ

cotobox社を起業するまでは、どんなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

五味氏
理工学部卒業後に新卒で建築会社にエンジニアとして入社しました。30歳ぐらいのときに「知的財産立国」という国家戦略が打ち出された際、弁理士という資格があることを知り、試験にチャレンジすることを決めました。当時、特許に関する仕事はまったくしていませんでしたし、会社の人たちには「弁理士って何ですか?」と言われてしまうような状況でした。

特許事務所で修行を積み、弁理士資格取得後は、まず1か月の短期研修として米国ワシントン大学へ留学しました。各国から留学中の弁護士と出会い、その自由な雰囲気は、私のイメージしていた普段の業務とは別世界だったので、とても興味を持ちました。そのときに、LL.M.プログラムという米国ロースクールの留学生向け課程があることを知り、2014年に米国南カリフォルニア大学へ1年間再度留学することになりました。cotobox社の起業には、留学時にリーガルテックのピッチコンテストに出場したことが大きく影響しています。

ピッチコンテストでは、パラリーガルの学生を中心に、マーケターやデザイナー、エンジニアたちとチームを組んで2位に入賞したんです。開発したプロダクトは、パラリーガルのアナログな業務をデジタル化してクラウド管理することで効率化するというものでした。3日という短期間でプロダクトをつくるというのは、新鮮な経験でした。

留学中にピッチコンテストで作成した初のプロダクトを作成

留学中にピッチコンテストで作成した初のプロダクト

ピッチコンテストでスタートアップの文化に触れられたのですね。

五味氏
私も専門である知的財産分野で定型業務が多いことに疑問を感じていたので、日本でも似たようなサービスができないかと考えていました。留学先で米国のLegal Zoomというリーガルテック企業の法務担当役員にお会いしたことで、「Cotobox」の着想を得ました。Legal Zoomは弁護士を雇うことなく一連の法的文書を作成できるサービスです。知的財産に関する業務は旧態依然としたペーパーワークが多く、いずれこうしたサービスが普及すると、自分たちのような職種は無くなってしまうのではという危機感を抱いたんです。

以前から私が抱いていた課題感の1つとして、知的財産は一般の人やスモールビジネスまで行き届いていないというものがありました。知的財産や特許法は、大企業のビジネスを勝たせる制度だと思っていたんです。あらゆる人に知的財産権を利用してほしいという想いを持つ弁理士は多く、無料相談を行っているケースもありますが、それらは非常に効率が悪いのも課題でした。このような背景から、誰もが垣根なく簡単にアクセスできる知的財産のサービスを実現できたら、と思うようになりました。

cotobox 株式会社 代表取締役 五味 和泰氏

cotobox株式会社 代表取締役 五味 和泰氏

技術者のコミュニティに入り実現した「Cotobox」リリース

実際のcotobox社立ち上げにあたっては、どのように進めていったのでしょうか。

五味氏
帰国後に参加した早稲田大学のスタートアッププログラムの一環で、同大学の研究室へヒアリングに行きました。その際にAIを研究している学生チームから、「特許庁のデータを活用したサービスにするならば、テキスト検索を行う際にAIを活用すると面白いのでは」と提案を受け、彼らを巻き込んでシステムを開発していくことになりました。現在もそのチームは当社で活躍しています。

あとは、米国では会社を設立する前に「ドメインと商標を必ずチェックするように」と口を酸っぱくして言われる文化があることを知っていたので、起業準備中の人やスタートアップの人たちへのヒアリングも進めていきました。そこで見えてきたのは、ドメインとSNSと商標を一気に取りたいというニーズでした。ただ、ドメイン取得は既存のサービスがありますので、まずは商標登録に絞り、それを簡単にできるサービスとして開発を進めていくことにしました。

開発において特に苦労した部分はどこでしたか。

五味氏
会社設立からサービスをリリースするまでに思いのほか時間がかかってしまったことです。当初手伝ってくれていたエンジニアにとって、システムをつくったり特定のデータを抽出したりすることが技術的に難しかったようです。
そこで、新たなエンジニアの確保をしなければならないと考え、自ら技術者向けの勉強会に行くようになりました。もともとそのようなコミュニティに入っていなかったので、その辺りは苦労しましたね。
想定より時間がかかるとなると、当然資金繰りの問題も出てきますので、弁理士としての仕事もしながら、エンジェル投資家などに支えていただき、何とかベータ版を公開することができました。

「Cotobox」の商標サーチ

シンプルな画面で感覚的に商標検索を試すことができる

日本のリーガルテックの先頭へ立つために選んだ、「グレーゾーン解消制度」の活用

「Cotobox」はグレーゾーン解消制度を活用し、事業内容が弁理士法75条に該当しないという回答を2018年10月に経済産業省から得たと聞きました。そもそも同制度を利用するに至った経緯を教えてください。

五味氏
弁理士法75条では、弁理士または特許業務法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、商標等に関する特許庁における手続等についての代理や、これらの事項に関する書類等の作成を業とすることができない、と定められています。
商標のオンライン出願サービスとなると、基本的にはこういった弁理士の専権業務に非常に近いところに位置します。当然そういったことは重々承知のうえで、米国のリーガルテック企業のビジネスモデルも参考にしながらサービスを立ち上げました。利用規約の中でも弁理士法等に抵触しないことをきちんと説明しています。
ただやはりそうはいっても、一般の民間企業があたかも弁理士の業務領域で仕事を請け負っているように見えてしまうようで、グレーゾーン解消制度を利用する前は問い合わせに対して1つ1つ説明をしているような状況でした。

大きな問題となる点は、cotobox社は出願代理をしているのかどうかということです。また「Cotobox」には書類を作成する機能もあるので、書類作成代理をしていることにならないかという指摘もありました。

「Cotobox」の商標サーチ

ユーザーが商標登録に必要な情報を入力し書類を作成する際に、区分と指定商品・役務については、AIアシストによる検索結果が表示される

五味氏
まず、出願代理については提携弁理士が特許庁に提出している形なのでクリアしています。見せ方としてもう少しわかりやすくなるよう、ユーザーインターフェースを工夫し、確実に代理を選んでいるというユーザーの意思を確認するようにしています。
「Cotobox」が書類を作成するサービスかどうかという点については、前提としてcotobox社のスタッフが「Cotobox」の書類を代行して作成しているという事実はありません。

ただ1つ気になるのが、「AIが書類作成をサポートします」と謳っていることです。「では、書類は一体誰が作っているのか?」という疑問につながるわけです。これは非常にグレーな領域で、実際、顧問弁護士以外の弁護士から、もしかしたら弁理士法等に抵触するものではないかという指摘や批判的な意見をいただくことがありました。
しかし当社としては、一般的なテキスト検索より高度なアルゴリズムを利用しているだけであり、出願書類を作成することに対して金銭を受け取っていることにはならないと考えていました。こうした議論を解決するため、グレーゾーン解消制度を利用したという経緯があります。

cotobox社の事業内容は弁理士法に抵触しないと証明できれば、ユーザーに安心して利用してもらえますよね。

五味氏
そうですね。あとは、これから日本のリーガルテックを盛り上げていくために、私たちが先頭に立って白黒をはっきりさせておいたほうが良いだろうと考えたのも制度を利用した理由の1つです。「Cotobox」のような領域でAIの活用ができないということになってしまうと、リーガルテックの広い領域でAIを使うことが許されない状況になってしまう可能性があると思ったんです。

cotobox 株式会社 代表取締役 五味 和泰氏

知的財産の総合的なサポートができるサービスを目指す

「Cotobox」についてユーザーからの反響はいかがですか。

五味氏
「Cotobox」にはまったくマーケティング費用を掛けていませんので、口コミで広まっているような状況です。まずはこうした小さな反響をもとにサービス改善に取り組んでいければと思っています。
特に、特許に興味のある弁護士の方から、「Cotobox」で何かできないか、とお問い合わせをいただくことが多いです。
あとは外国関係での要望があるところが知的財産の分野ならではで、その点は他のリーガルテック領域とは違うかもしれません。

五味さんが弁理士業からリーガルスタートアップを起業されたという点に関心をもたれている方も多いのではないでしょうか。

五味氏
それもあると思います。やはり士業が起業をするというキャリアには、ギャップがあるように見えるのではないでしょうか。独立をして事務所を構えることは普通ですが、リーガルテックのスタートアップとなると、なぜサポートする側がプレイヤーになっているのかという疑問は湧きますよね。

もともと弁理士を志したのは、資格を取れば一生安泰だから、今頑張れば大丈夫だという保守的な思いもありましたが、「動けば道が開けるから試してみよう」というような情熱や行動力が、起業に繋がっているかもしれないです。責任は伴いますが、自由な意思決定ができることに関しては、非常にやりがいがあると感じています。

一方で、スタートアップだといつ資金がショートするか分からず、リスキーなところもあります。それでも続けていこうと思えるのは、時間的にも人的にも余裕がないユーザーへ向けて、定型業務を削減・効率化するツールを提供することで、より創造的な働き方ができるような環境を提供できるかもしれないからです。法務・知的財産部門の担当者が、たとえば他部門との共同プロジェクトにもっと注力できるよう、貢献できればと考えています。

まずは検索機能に注力されているところだと思いますが、今後どのようにサービスを拡充されていく予定ですか。

五味氏
クリエイティブや、新規に考えたアイデア、デザイン、ブランドなどは、基本的にすべて知的財産であり、ビジネスをするうえで不可欠なものです。こうした知的財産に関わるような物事を新しくはじめる人たちに対して、気軽にサポートできるような仕組みをつくっていきたいです。

新しく何かを始める際にまず最初に取り掛かるのはネーミングです。cotobox社では、ネーミングを確実に登録するというサービスを提供していますが、将来的には国際的なブランド構築や保護育成、クリエイティブのデザイン、特許などに対してもサポートできる体制を整えたいですね。総合的に知的財産のサポートができるサービスを目指し、開発を進めていきたいと思っています。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS 編集部)

プロフィール

五味 和泰(ごみ・かずやす)
cotobox株式会社 代表取締役
早稲田大学理工学部卒業。建設会社を得て、2005年 YKI国際特許事務所に入所。2014年 米国南カリフォルニア大学ロースクールに留学。留学中にスタートアップのイベントやプログラムに参加し、知財 x テクノロジーの将来性に気づく。卒業後、中南米の旅行中にCotoboxというネーミングを思いつき、すぐにドメイン名を取得。帰国後、2016年にcotobox株式会社を設立。

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