英文契約スキルアップ講義

第1回 コンマ1つの違いが数百万ドルの損害に

取引・契約・債権回収

 国際的な企業活動が当たり前になった今、法務担当にとって英文契約書の作成、レビューは避けて通れない業務だが、言語の壁、商習慣の違いなどから頭を悩ませている方も多いのではないだろうか。

 本連載では、英文契約を巡る色々な問題点を紹介し、事例等を交えて解説した後、その改善案を示していく。ご自身の学習のために参考としていただくのはもちろん、事例の問題点はどこか、改善するならどうするか、など社内でのディスカッションにも活用でき、英文契約に関わる皆さまのスキルアップに繋がる事を目指していく。

 連載第1回はカナダで発生した、コンマに関わる契約書のトラブル事例を紹介したい。

ある紛争事案

コンマ1つの違いで数百万ドルの損害?

 英文に限らず、契約書の作成には十分な注意が必要であることは言うまでもない。以下に紹介する事例では文章のコンマ1つの違いで当事者に数百万ドルの損害が発生した事例であり、契約書の怖さを物語っている。

事案の概要

 事件はカナダで発生したものであり、契約の一方当事者であるケーブルテレビ会社は、家庭へのテレビ番組の配信用のケーブル線の架設に電力会社の電柱を利用していた。
 ケーブルテレビ会社は、契約の相手方である電柱管理会社との間で当初の期間を5年間とする電柱の利用契約を締結していたが、電力会社は契約開始日から3年経過したところで、電柱の利用料を値上げしようと考えたため、電柱管理会社からケーブルテレビ会社に対して契約解除の通知を送ったのである。

 この結果、電柱の管理会社は契約開始日から4年で利用契約は解除されたと主張したものである。

ケーブルテレビ会社と電柱管理会社の主張

問題となった契約文言

 問題となった契約条項は、次の通りである。

“This Agreement shall be effective from the date it is made and shall continue in force for a period of five (5) years from the date it is made , and thereafter for successive five (5) year terms , unless and until terminated by one year prior notice in writing by either party.”

電柱管理会社の主張

2つのコンマ

電柱管理会社の主張はこうである。この条項には、2つのコンマ(,)がある。すなわち、

“This Agreement shall be effective from the date it is made and shall continue in force for a period of five (5) years from the date it is made”

の後と、

“and thereafter for successive five (5) year terms”

の後である。

 問題となる“unless and until terminated by one year prior notice in writing by either party”という条件は、仮に、2つ目のコンマがない場合には、

“and thereafter for successive five (5) year terms”

だけにかかるものであり、最初の5年間には適用されない。

 しかし、この文章に2つ目のコンマがあることから、“unless and until terminated by one year prior notice in writing by either party”という条件は、

“This Agreement shall be effective from the date it is made and shall continue in force for a period of five (5) years from the date it is made”

 という契約書の最初の5年間の部分も、

“and thereafter for successive five (5) year terms”

 という当初5年経過後の契約期間の両方にかかることになる。

中途解約は可能

 すなわち、電柱管理会社の主張によると、2つめのコンマがない場合には、文章の意味は、

「本契約は、・・・締結日から5年間効力を有し、その後は、いずれかの当 事者により、1年の書面の事前通知により解約されない限り、5年間の期間ずつ効力を有する。」

 と解釈されることになり、当初の5年間は解約ができないことになる。

 しかし、2つめのコンマがあることにより、この条項は、

「本契約は、締結日から効力を発生し、また締結日から5年間効力を有し、その後は、5年間の期間ずつ効力を有する。但し、いずれかの当事者により、1年の書面の事前通知により解約される場合はこの限りではない。」

 と解釈され、「但し、いずれかの当事者により、1年の書面の事前通知により解約される場合はこの限りではない。」という部分は、「締結日から5年間効力を有し」という当初の5年の契約期間の条件にもなるため、当初5年間の期間であっても中途解約可能であるというものである。

電柱管理会社の主張に基づく契約文言の解釈
  • 当初契約期間は締結日から5年間
  • その後契約は5年ごとに更新される
  • 当初契約期間中であっても、更新後の契約期間中であっても、1年前の事前通知により、当事者は契約を途中解約することができる

ケーブル会社の主張

中途解約は認められない

 これに対して、ケーブルテレビ会社の主張はこうである。

 そもそも、“unless and until terminated by one year prior notice in writing by either party”という規定は、1年間の書面の事前通知は、当初5年間の期間またはその後の5年ずつの更新期間における期間の更新を拒絶するための規定であり、5年間ずつの契約期間の終期にだけ機能する規定である。

 すなわち、1年間の書面の事前通知は、5年間の期間の更新を拒絶するための規定であり、当初5年間の契約期間の中途で1年間の事前通知による解約を認めた規定ではない。もし、契約期間の途中にいつでも中途解約が認められるのであれば、わざわざ、5年間ずつの当初期間及び更新期間を定めた意味がない。

電柱の管理会社からの反論

 このような、ケーブルテレビ会社側の、本契約条項は、更新拒絶を定めた規定であるとの解釈に対しては、本規定が契約期間の満了時点でのみ解約を認める更新拒絶の規定であるとすれば、更新拒絶をいつの時点までに通知するかを定めるのが通常であるのに、かかる定めがないので更新拒絶の規定とは解釈できないとの反論が電柱の管理会社からなされている。

ケーブル会社の主張に基づく契約文言の解釈
  • 当初契約期間は締結日から5年間
  • その後契約は5年ごとに更新される
  • 5年ごとの契約更新については、1年前の事前通知により、当事者は契約の更新を拒絶することができる
  • 当初契約期間中に契約を途中解約することはできない
  • いったん契約が更新されたら、更新契約期間中は、契約を途中解約することはできない

事例の検証

行政機関の判断

 本条項の解釈は、カナダの行政機関であるラジオテレビ通信委員会(Radio, Television and Telecommunications Commission)で争われたが、委員会は、電柱管理会社の主張通りに、電柱の利用契約の中途解除と使用料の値上げを認めた

 同委員会によれば、“unless and until terminated by one year prior notice in writing by either party”という条件は、中途解約の条項として、契約当初の5年間にも、その後の期間にも適用があることは、文言として明確であるという。

行政機関の判断は妥当だったのか

 しかしながら、この条項が「本契約は、締結日から効力を発生し、また締結日から5年間効力を有し、その後は、5年間の期間ずつ効力を有する。但し、いずれかの当事者により、1年の書面の事前通知により解約される場合はこの限りではない。」と解釈されるとしても、「但し、いずれかの当事者により、1年の書面の事前通知により解約される場合はこの限りではない。」という部分が、論理必然的に当初の5年の契約期間の条件にもなるとまでは言えないのではなかろうか。

 また、この結論は、ケーブルテレビ会社の当初の意図にも反していると思われる。電柱の利用者としては、少なくとも当初期間を5年と設定したのは、この期間は利用料を固定し値上げのリスクを避けるためであることから、この契約書に期間中途での解約を認める条項が存在しているとはおそらく考えていなかったに違いない。

 しかし、契約文言の解釈としては、確かに委員会の判断する通り、契約期間の中途での任意解約を認める条項と解釈されてもやむをえないと思われる。

運命を決めた2つ目のコンマ

 この事件では2つめのコンマの存在により、電柱管理会社による当初5年の契約期間内での中途解約が認められることになった。仮に、本契約条項に2つめのコンマがなかった場合には、少なくとも、当初の5年間の期間中は中途解約が認められなかったことは文法上明らかであろうから、まさにコンマ1つの有無で、ケーブルテレビ会社は大きな損害を被ったことになる。その損害は、約200万ドルとのことである。

本条項の改善例

 ケーブルテレビ会社が主張したように、更新拒絶の条項とするためには、この条項はどのように規定されるべきであったであろうか。

 読者の皆様も少し考えてみてほしい。

 委員会のいうように、通知をいつの時点までにするのかを明らかにする必要があるというのであれば、たとえば次のような規定ではどうであろうか。

代替案A

“This Agreement shall be effective from the date it is made and shall continue in force for a period of five (5) years from the date it is made, and thereafter for successive five (5) year terms, unless and until terminated by notice in writing by either party served to the other party no later than one year prior to the end of the then effective term.”

(訳)
「本契約は、締結日から効力を発生し、また締結日から5年間効力を有し、その後は、5年間の期間ずつ効力を有する。但し、いずれかの当事者により、その時点での有効期間の満了の1年前までに相手方当事者に送達された書面の通知により解約される場合はこの限りではない。」

代替案Aの問題点

 一見よさそうに見えるが、実はこの文章でも紛争が生ずる懸念があると言わざるを得ない。問題は、この文章では、解約通知をいつの時点までにするのかは明記されているが、肝心の解約の効力の発生時点がいつになるのかが明記されていない。

 電柱管理会社としては、ケーブルテレビ会社が解約通知を受け取った時点で「直ちに」解約の効力が発生するという議論をすることが可能である。これを避けようとすれば、“unless and until terminated”の後に、“at the end of the then effective term”という文言を入れて、“unless and until terminated at the end of the then effective term”というようにし、「その時点での有効期間の満了の1年前までに相手方に送達された書面の通知により、その時点の有効期間の満了時点で解約される場合はこの限りではない。」というように解約の効力発生時点を明らかにする必要がある。

 または、このような中途解約の可能性があるような解釈を生ずるのは、“terminated(解約する)”という用語が使用されているためであることから、この言葉を避けて、更新拒絶通知を意味する“notice of non-renewal”というような用語を使用することにより、更新拒絶の意味であることがより明らかとなるであろう。

 こちらを用いた例が以下である。

代替案B

“This Agreement shall be effective from the date it is made and shall continue in force for a period of five (5) years from the date it is made, and thereafter for successive five (5) year terms, unless either party gives written notice of non-renewal to the other party no later than one year prior to the end of the then effective term.”

(訳)
「本契約は、締結日から効力を発生し、また締結日から5年間効力を有し、その後は、5年間の期間ずつ効力を有する。但し、いずれかの当事者が、その時点での有効期間の満了の1年前までに相手方当事者に送達された書面の更新拒絶の通知をする場合はこの限りではない。」

事例から得られる教訓

 ケーブルテレビ会社は、なぜ中途解約を認める条項を見過ごしたのであろうか。

 事案の内容を読めば単にコンマの有無に気付かなかったというケアレスミスの事案ではなく、中途解約の条項を更新拒絶の条項と誤解したところに真の問題があったようである。

 この事件では、同一の契約にはフランス語版が存在し、詳細は不明であるが、フランス語版はケーブルテレビ会社の主張を裏付けるものであったといわれているので、フランス語と英語の間の翻訳の過程で齟齬が生じた可能性もある。

 しかし、恐らくはケーブルテレビ会社の担当者、ないしは担当弁護士が期間に関する規定をよく読まなかったため、期間の規定に含まれていることから、単純にいつもの更新拒絶の規定であると速断して、中途解約の効果を有する規定であることを見過ごしたように思われる。

 いずれにしても、契約書は、コンマ1つに至るまで目を皿にして読まねばならないというのが教訓である。

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