公益通報者保護法改正に向けて企業がとるべき対応方法とはPR 適切な内部通報対応とリスクマネジメント策を考える

危機管理・内部統制

目次

  1. 公益通報者保護法の改正に向けたポイント
  2. 「悩み相談」と「不正の告発」を切り分けた制度設計を

公益のために内部通報を行った労働者に対する、解雇などの不利益な取扱いを禁止する「公益通報者保護法」。その規律のあり方や行政の果たすべき役割について、社会経済状況の変化へ対応するための方向性を取りまとめた報告書が2018年12月、内閣府消費者委員会の公益通報者保護専門調査会から公表された。

一部の通報者が組織から不利益な取扱いを受けたケースが見られるなど現行法の不備を指摘する声があったことから、報告書では、従業員300人超の企業に内部通報制度の整備を義務づけるほか、内部通報を理由に報復的な人事をした会社には行政処分や企業名公開を行うなど、通報者がより手厚く守られるよう新たに措置すべき内容等の方向性について取りまとめている。

本稿では、公益通報者保護法改正に向けて企業がとるべき対応方法などを、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社のシニアマネジャー 亀井 将博氏と、同シニアコンサルタント 和田 皇輝氏に聞いた。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアコンサルタント 和田 皇輝氏、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、内閣府消費者委員会 公益通報者保護専門調査会委員、経済産業省ISO/TC309国内対策委員会委員(WG3 Whistleblowing担当) 亀井 将博氏

(左から)デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアコンサルタント 和田 皇輝氏、
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、
経済産業省ISO/TC309国内対策委員会委員(WG3 Whistleblowing担当) 亀井 将博氏

公益通報者保護法の改正に向けたポイント

公益通報者保護法改正に向けた動きの背景についてお聞かせください。

亀井氏
公益通報者保護法は、その名のとおり公益に資する通報をした人を保護するための法律として2006年に施行されました。しかしその後、通報者が所属組織から不利益な扱いを受けてしまったという事例が複数発生しており、公益通報者保護法の内容の不備を指摘する声が社会のさまざまなところから上がってきていました。そこで公益通報者保護法の改正に向けて各専門家の意見を取りまとめるべく、内閣府消費者委員会において公益通報者保護専門調査会が設置され、様々な分野の専門家で構成された委員の方々が議論を重ね、2018年12月24日に報告書が開示されました。

報告書の中で企業が注意しておくべきポイントについて教えてください。

亀井氏
報告書には「常時雇用する労働者の数が300名超規模の民間事業者に内部通報制度の体制整備を義務付けるべきである」という案が記載されており、この対策として少なくとも、今後開示されるであろう「指針」を満たす体制が必要と考えます。また、公益通報者保護法の見直しと同時に導入に向けた動きが進んでいる「内部通報制度に関する認証制度」などの基準も参考にしながら、内部通報制度の体制を見直すことが重要になると思っています。

報告書のなかで、そのほかに注目すべき点はありますか。

亀井氏
「通報対象事実の範囲を、刑事罰から行政罰・行政処分の対象となる事案にも広げるべきではないか」という案です。現行法では400超の法律違反が通報対象となっていますが、逆に言えば、たとえ社会に被害をもたらすような事案であったとしても、対象外の法律に関する通報をした場合には保護の対象にならないという解釈も可能になってしまいます。それを是正するための動きがあるということです。

仮にその案が実現した場合、どういうことが起こりえるとお考えですか。

亀井氏
通報者保護の観点で基本的には対象範囲の拡大を歓迎します。しかし、日本企業の内部通報制度の多くは現在、公益通報ではなく不満や悩みを受け付けてしまっているという課題があります。この不満や悩みは、自組織が社会に対して害をもたらしているために発生しているものではなく、ほとんどが通報者自身の処遇に関するものです。

したがって、通報対象の範囲が広がるということを誤解してしまった従業員が、さらに多くの不満や悩みを内部通報制度に通報するようになってしまう「通報爆発」を発生させる可能性があるのではないかと心配しています。

企業としては具体的にどのような対策をしていけばよいでしょうか。

亀井氏
不満や悩みを受け付ける制度と内部通報制度とを明確に分けるべきでしょう。

現在、日本企業が運営している内部通報制度は、従業員が抱える多くの不満や悩みのなかに不正の予兆があるだろうという発想で、不満や悩みまでを含めた報告をすべて受けることが主流になっているように感じます。その場合、通報件数はなるべく多いほうがよいという考え方になります。しかし私は、不満や悩みの相談件数と不正通報の件数に相関はないと考えています。不正の告発は本来少なくて当然であり、0件を理想とすべきなのです。

公益通報が発生した場合は、握りつぶしを防ぐために監査役や外部取締役など会社からある程度客観的な立場の人に全件共有すべきですが、不満と不正を分けていない状態で全件共有しようとすると、件数が大量になり生産的ではありませんし、職責とはあまり関係のない人間関係のもつれなどを共有してしまうことになります。不正の告発の対応プロセスが特別なものであることがしっかりと告知されていれば、共有すべき件数はぐっと少なくなるので、たとえその通報が空振りであったとしても「空振りで良かった」とはなっても「調査が無駄になった」「余計な通報だった」とはならないでしょう。従業員にとってもわかりやすく利用しやすい仕組みになると考えます。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、内閣府消費者委員会 公益通報者保護専門調査会委員、経済産業省ISO/TC309国内対策委員会委員(WG3 Whistleblowing担当) 亀井 将博氏

「悩み相談」と「不正の告発」を切り分けた制度設計を

悩み相談と不正の告発とを完全に切り分けて考えられるような制度設計にすべきということですね。

和田氏
はい。そうすることで、当社が提供する多言語対応の内部通報の受付窓口である「グローバルホットライン」も使いやすくなります。このサービスは、従業員などからの内部通報を適切にお客さま企業の担当部門へ中継し、担当部門からの回答を通報者へ伝達するというもので、特に「グローバル不正プラン GF」というプランでは、悩み相談ではなく不正告発に的を絞ってサポートしています。実際にお客さまにも、グローバルホットラインを利用するのであれば、悩み相談と不正告発の窓口を完全に分けていただくことをおすすめしています。

貴社のサービスを導入して運用する際に、効果を発揮させるためのポイントはありますか。

和田氏
従業員へ告知する内容が非常に重要となります。被害者は自分自身なのか、組織や社会なのかをはっきりさせるべきであること、そして自分が被害者となる場合には、匿名の通報はできないということ、自分が受けた被害を匿名で解決できる魔法のような解決策はないということをはっきりと従業員の方に伝えていただきたいです。

そういう運用をするのであれば、不満や悩みを受け付ける窓口と内部通報の窓口に求められる機能は自ずと変わってきますね。

和田氏
そうですね。不満や悩みの相談窓口は人事・労務部門、内部通報は法務・コンプライアンス部門で受け付けるなど、まずは窓口を分けていただきたいです。通報者に「不満を匿名で解決してくれる」という過度な期待を与えないようにする。仮に、結局どちらの対応部門も総務部になるという場合であったとしても、入り口である窓口だけは分けるという方法をおすすめしています。特に不満を受け付ける窓口の場合は、自分の思いを聞いてもらいたいだけというケースが少なからずあります。この場合、受付チャネルとしては電話もあったほうがよいでしょう。一方で、不正の告発は、通報者への質問経路と記録が確実に確保できるEメールのほうが圧倒的に対応しやすいです。したがって、当社のサービスでは、基本的に受付チャネルをEメールのみとしています。

内部通報の窓口と不満に対応する窓口を区別する運用例

内部通報の窓口と不満に対応する窓口を区別する運用例

グローバルホットラインでは外国語などにも対応しているのですか。

和田氏
合計14言語に対応しています。デロイト内で翻訳できたとしても多くの時間を要する一部の言語については、セキュリティ面で信頼がおける事業者に限って翻訳を外部委託しています。一方で、高いセキュリティが担保できる事業者に限定しているため対応できる言語もその事業者に依拠せざるをえず、対応できるのは14の言語となっています。

これは、窓口を分けたほうが良いという話につながります。不正に関する情報は、基本的に日本語・英語の話者にしか関係しないようなことが多い一方で、不満や苦情は各地の工場などからあがってくるため、多くの言語への対応が必要になります。実際にグローバル不正プラン GFの導入実績としては、日本語のほか英語、中国語の3言語の採用にとどまる企業が多数派です。

法改正が報告書に沿ってなされた場合、行政処分や会社名公表に至るリスクもあると思います。そうした事態を防ぐために気をつけるべき点をお聞かせください。

亀井氏
通報者に不利益な取り扱いをしたことが明らかになって行政処分されたとなれば、企業としては大きなダメージを負います。通報者に不利益取扱いをしないようにするために、内部通報制度を運営する側と通報者の双方に対して、公益通報とは何か、何が不利益取扱いにあたるのか、不満を解消するための人事異動とは何が違うのか、という定義を明確にし、教育の機会を設けることが重要になりそうです。

和田氏
報告書には、通報したことによって不利益取扱いを受けた、とする通報者の主張を否定する立証責任を、事業者側に転換すべきという意見も示されています。内部通報を受け付ける際の記録を残していることが一層重要となりますが、内部通報対応の情報および通報者の人事考課をタイムリーに結び付け、かつ記録を残していくことは大変です。そういった観点からも本当に公益通報である可能性の高いものに的を絞り、不満や相談については、内部通報制度とは異なるプロセスで対応すべきでしょう。現在申請が受け付けられている認証制度の自己適合宣言に関しても、不満や相談対応の制度は対象外として申請しておく方が、負担も少なく合理的ではないでしょうか。

不正に関する情報を的確に受け付け、対応できる制度設計を考えていくことは会社のリスクマネジメントだけでなく、通報者をきちんと保護するという、社会的な意義を考えるうえでも非常に大切なことだと思っています。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアコンサルタント 和田 皇輝氏

【お問い合わせ先】
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビルディング

電話 03-6213-1300

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