英文契約スキルアップ講義

第2回 “agree”や“will”、その英文で大丈夫?職務発明規定のポイント

取引・契約・債権回収

ある職務発明規定

 以下の英文の職務発明規定には問題があるのだが、何が問題かおわかりだろうか。

This Agreement concerns inventions and discoveries (whether or not patentable) (hereinafter called “Developments”) that are conceived or made by me alone or with others while I am employed by the Company and that relate to the research and development of the business of the Company, or result from work performed by me for the Company. I agree:

a. to disclose such Developments promptly to the Company:
b. to assign such Developments to the Company; and
c. to execute all documents and cooperate with the Company in all necessary activities to obtain patent, copyright, mask work, and/or trade secret protection in all countries.

(訳)
本契約は、会社での雇用中に私が単独または他の者と共に着想または行った発明および発見(特許可能性の有無を問いません)で、会社の事業の研究開発に関するものまたは私が会社のために行う作業から生じるもの(以下、「開発物」という)に関するものです。私は、以下のことに合意します。

a. 開発物を速やかに会社に開示すること。
b. 開発物を会社に譲渡すること。
c. あらゆる国において、特許権、著作権、マスクワークおよび/または営業秘密の保護を取得するために必要なあらゆる文書に署名し、また会社があらゆる行為を行うことに協力すること。

「譲渡の合意」は「譲渡そのもの」ではない

 特許を受ける権利は、一般に発明の完成により当該完成と同時に発生し、当該発明者に原始的に帰属すると解されている。発明について特許を受けることができるのは発明者または発明者から特許を受ける権利を承継した者である。従って、会社が、従業員等が行った発明について、特許を受けるためには、雇用契約書等により、かかる特許を受ける権利の移転を合意する必要がある。

 冒頭で引用した規定は、米国の裁判例(IpVenture, Inc. v. ProStar Computer, Inc., et al., CAFC, 9/28/07)によって、従業員の特許を受ける権利を雇用主会社に譲渡するには不十分であると判断された。規定の目的・内容が不合理とされたわけでも、職務発明の対価が不十分とされたわけでもない。単純に言葉使いがまずかったのである。

 問題は、「I agree to assign」の部分である。裁判所は、この規定は、”agreement to assign (将来の譲渡の約束)”であって、“immediate assignment(即時の譲渡)”を意味しないと判断した。すなわち、この規定では、発明が生じた将来の時点で従業員が会社に対して別途written assignment(譲渡証)を作成交付しない限り、発明について特許を受ける権利は会社に移転しないと判断したのである。

 譲渡の効力が発生するためには、雇用時の雇用契約中の規定では足りず、発明が生じた時点で、別途、譲渡証への署名など権利移転行為が必要であるとすると厄介である。従業員が退職し、所在が不明となった場合、また在職中であっても発明の対価として法外な金額を要求する場合などには、特許の出願もできず、競争会社が同一の技術を実施するのも止めようがないという事態にもなりかねない。

修正案

will、shall、mustで権利は自動に移転するのか

 このような厄介な事態を生ずるのを避けるために、職務発明に関する規定はどのように書けばよかったのだろうか。“agree”の部分を“will”、“shall”、 “must”に置き換えた場合はどうだろうか。

…I will;

a. disclose such Developments promptly to the Company:
b. assign such Developments to the Company; and
d. execute all documents and cooperate with the Company in all necessary activities to obtain patent, copyright, mask work, and or trade secret protection in all countries.

(訳)
…私は、

a. 開発物を速やかに会社に開示します。
b. 開発物を会社に譲渡します。
c. あらゆる国において、特許権、著作権、マスクワークおよび営業秘密の保護を取得するために必要なあらゆる文書に署名し、また会社があらゆる行為を行うことに協力します。

 恐らく、これでは事態は改善しないだろう。“will”、“shall”、“must”は、従業員に義務負担をさせる言葉ではあるが、当該義務に従って将来別の行為を行うことが予定されているからである。

willを使って受動態で書けば自動に権利は移転するか?

 発想を変えて、能動態ではなく受動態で書いた場合はどうであろうか。“I will assign such Developments to the Company.”と能動態で書くと従業員の積極的行為が別途必要であるような感じがするが、“Such Developments will be assigned by me to the Company.”と受動態で書くと、従業員の能動的行為は必要ではなく、自動的に権利が移転するような気がしないでもない。

 実は、“will”を使用した受動態の文章については、別の裁判例(Arachnid, Inc. v. Merit Industries, Inc. 939 F.2d 1574)が判断している。この事件は、あるゲーム機の開発のコンサルティングを行ったコンサルタントとそのクライアントに関するものであり、問題とされたのは両社間のコンサルティング契約に存在した以下の規定である。

Any invention conceived by the Consultant or its employee in the course of the project conceived by this agreement, shall be the property of the Client and all rights hereto will be assigned by the Consultant to the Client.

(訳)
本プロジェクトの過程で会社またはその従業員が着想した発明は、依頼者の財産となるものであり、またこれに関する全ての権利はコンサルタントからクライアントに譲渡される。

 この事件では、コンサルタントは、クライアントとの間のコンサルティング終了後、コンサルティング中に発明したゲーム機のある機能について自己の名義で特許を出願して特許権を取得したうえで、その特許権を第三者の会社にライセンスをした。そこで、コンサルタントからライセンスを受けた第三者の会社に対して、クライアントから当該特許権は、コンサルティング契約の規定に基づき自己の所有物であるとして、特許権侵害に基づく損害賠償請求をした。これに対して、ライセンスを受けた会社は、上記のコンサルティング契約の規定によっては、コンサルタントからクライアントに対する特許権の移転は生じないと主張して争った。

 どちらが勝訴したか。コンサルタントからライセンスを受けた第三者の会社である。裁判所は、上記のコンサルティング契約の規定も、将来の時点で生じた特許権を将来の時点で譲渡する約束に過ぎず、将来の特許権を契約の時点で譲渡する効力を有するものではないと判断した。

 上記のようなwillを使用した受動態の文章でも、権利移転の効力が自動的に生ずるものではなく、特許権の譲渡のためには、将来改めて別個の権利移転行為が必要ということになる。このため、裁判所は、コンサルタントからの別個の特許権の移転行為がなされない限り、クライアントは特許権者とならないのであって、その別個の移転行為前に特許商品を販売した第三者の会社の行為は、クライアントの特許権の侵害とはならないと判断した。この事件は、別個の権利移転行為が必要とされる場合の問題点を浮き彫りにしているといえよう。

hereby assigns

 実は、判例によると、将来発生する発明について、「即時の権利移転」の効果を生じさせ、将来に別個の権利移転行為を必要としないようにするためには、“agree”や“will“などの将来の行為を予定する文言を使用すべきでなく、端的に、“assigns (譲渡する)”と現在形で書く必要がある。通常は“hereby(本契約により)”という言葉を付加して“ hereby assigns ”と記載し、譲渡の効力が発生する時点が契約署名時であることを明確にする。

 以下のような規定は判例により即時の権利移転の効果を生じると判断されている(Speedplay, Inc. v. Bebop, Inc., 211 F.3d 1245)。

All inventions covered by the Agreement shall belong exclusively to the Company and the Employee hereby conveys, transfers and assigns to the Company all right, title and interest in and to inventions.

(訳)
本契約の対象となる発明のすべては本会社に排他的に帰属するものとし、また従業員は、発明に関するあらゆる権利、権原および利益を、本会社に対し、本契約により付与、移転および譲渡する。

「将来」発生する特許権を「現時点」で有効に譲渡できるか

 しかし、ここで一つ疑問が生ずる。「将来」発生する発明に関する特許権を、はたして「現時点」で有効に譲渡できるのであろうか。別の判例(Filmtec Corp. v. Allied-Signal Inc., 939 F.2d 1568)は、この点について判断している。

 この事件は、Midwest Research Institute(MRI)という研究機関に勤務していた従業員が米国政府から委託を受けた研究プロジェクト中に行った職務発明に関するものである。この従業員は、問題の職務発明を行った後、MRIを退職してFilmtec Corp.を設立し、この会社の名義で当該発明について特許権を取得した。その後、当該発明を実施していたAllied-Signal Inc.に対して特許権に基づき侵害品の製造行為の差止めを求めた。差止めを認める一審裁判所の仮処分命令に対してAllied-Signal Inc.は控訴し、本件特許権は既にMRIと米国政府との間の契約によって、米国政府に譲渡されているので、Filmtec Corp.は差止めの根拠となる特許権を有しないと主張した。

 問題のMRIと米国政府間の契約中の規定は以下の通りである。

MRI agrees to grant and does hereby grant to the Government the full and entire domestic right, title and interest in any invention, discovery, improvement or development (whether or not patentable) made in the course of or under this contract or any subcontract (of any tier) thereunder.

(訳)
MRIは、政府に対して、本契約またはこれに基づくあらゆる段階の下請契約の過程で、またはこれに基づき、行われた発明、発見、改善または開発(特許性の有無を問わない)に関する完全な国内の権利、権原および利益を政府に付与することを合意し、また、ここに付与する。

 裁判所は、当該規定について、次のように判断し、問題の発明は既にMRIと米国政府との間の契約によってMRIから米国政府への譲渡の効力が生じ、Filmtec Corp.は差止めの根拠となる特許権を有しない可能性があると判断した。

“… the contract between MRI and the Government did not merely obligate MRI to grant future rights, but expressly granted to the Government MRI's rights in any future invention. Ordinarily, no further act would be required once an invention came into being; the transfer of title would occur by operation of law.(MRIと政府の間の契約は、単にMRIに将来の権利を付与することを義務付けるだけではなく、将来の発明に関するMRIの権利を明示的に付与した。一旦発明が生じた場合には通常これ以上の行為は必要とならない。権原の譲渡は、法律上当然に生ずる)” 1

「譲渡することに合意し、かつ、ここに譲渡する」?

 Filmtec Corpに関する上記判例は、“agrees to grant and does hereby grant”という文言について、将来発生する権利を現時点で譲渡する効力があると判断している。しかし、筆者としては、“agree to grant”が「将来時点での」権利移転を意図する文言であるのに対し、“does hereby grant”の方は、「現時点での」権利移転を意図する文言であり、両者の文言を並列して使用することは互いに矛盾しているという感じは否めない。おそらく作成者は、現在存在する権利も、将来発生する権利も、両方カバーできるように、念を入れて規定したものと思われるが、両方の文言を使用することによってかえって混乱が生じているように思われる。

 そもそも、この種の職務発明の規定は、現在および将来発生する権利の双方が、「現時点」で譲渡されるのであり、この結果、将来発明が発生した場合には譲受人にその発明に関する権利が当然帰属し、かかる権利の帰属を主張するために、譲渡人による譲渡証の作成など別個の権利移転行為が必要とされないことを明確にすることが肝心である。また、万一、権利の移転のために別個の行為が必要とされる場合には、譲渡人にかかる別個の行為を行う義務を課することも必要である。

 このような目的を達成するためには、冒頭の職務発明規定は次のように改善することが考えられる。

This Agreement concerns inventions and discoveries (whether or not patentable) (hereinafter called “Developments”) that are conceived or made by me alone or with others while I am employed by the Company; that relate to the research and development of the business of the Company or result from work performed by me for the Company.

I agree to disclose such Developments promptly to the Company.

I hereby assign to the Company any Development both existing as of the date of this Agreement and to be made in the future, and understand that any right, title and interest to and in any Development to be made in the future will automatically vest in the Company when such Development is made.

I agree to execute all documents and cooperate with the Company in all necessary activities if such documents or activities are necessary or desirable to effect the assignment of any Development or obtain patent, copyright, mask work, and or trade secret protection therefor in any country.

(訳)
本契約は、会社での雇用中に私が単独若しくは他の者と共に着想若しくは行った発明および発見(特許可能性の有無を問いません)にのうち、会社の事業の研究開発に関するまたは私が会社のために行う作業から生じるもの(以下、「開発物」という)に関するものです。

私は、開発物を速やかに会社に開示することに合意します。

私は、本契約の時点に存在するおよび将来生じる開発物の両方をここに会社に譲渡し、また、将来行われる開発物の権利、権原および利益は、当該開発物が生じた時点で自動的に会社に帰属することを理解します。

私は、当該文書または行為が、いずれかの国で開発物の譲渡を有効にするために、または特許権、著作権、マスクワークおよび/または営業秘密を取得するために、必要または望ましい場合には、あらゆる文書を作成し、またあらゆる会社の行為に協力することを合意します。

日本における契約文言の曖昧さ

 日本では、民法上の物権変動の法理において、契約時点で物権変動が生じると解釈されているためか、契約書のドラフティングにおいて、将来の権利移転行為を行う義務と、権利移転行為そのものの区別を意識することは少ないと思われる。

 例えば、職務発明規定で「私は、発明およびこれに基づく特許権をここに譲渡する」と書いた場合(英文の“I hereby assign”に相当する)と、「発明およびこれに基づく特許権を譲渡するものとする」と書いた場合(英文の“I shall assign”ないし”I will assign”に相当する)と、「私は、発明およびこれに基づく特許権と譲渡することに合意する(ないしは約束する)」(英文の“I agree to assign”に相当する)と書いた場合で、日本の裁判所がはたしてこのような文言の差異から法的効力を別異に判断するかどうかは甚だ疑問である。

 しかし、少なくとも米国の裁判所は「将来の譲渡の約束」と「譲渡そのもの」を厳密に区別しており、その区別は、単純に契約文言の表現次第であり、当事者の意思・目的などは全く考慮されない。

 ここまでお読みになって、何らかの新しい発見があった法務担当者の方は、自社の英文の職務発明規定の文言をチェックしてみることをお奨めする。


  1. なお、問題の発明がMRIと米国政府との間の契約によってMRIから米国政府に移転するためには、発明者とMRIの間の雇用契約中の職務発明の規定によってまずMRIに発明に関する権利が移転していることが必要であるが、裁判所はこの点が不明であるとして原審に差し戻している。 ↩︎

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