金融機関を中心とした反社会的勢力への対応

第1回 個人情報保護法における開示

危機管理・コンプライアンス

はじめに

 いわゆる反社会的勢力に属する者に対しては、反社会的活動につながるおそれのある取引が制限されたり、すでにある取引を解消したりすることが求められている。

 これは、各都道府県で定められた暴力団排除条例、監督官庁からの指導、契約書にいわゆる「暴排条項」を入れる企業が増えていることからも明らかであり、反社会的活動を助長するおそれのある経済活動を制限しようとすることは、基本的な方向性としては異論のないところだと思われる(この点については「なぜ反社会的勢力を排除しなければならないのか」もあわせてご覧ください)。

 しかし、具体的な局面では議論を掘り下げるべき場合が出てきているように思われる。

 本連載では、金融機関を中心とした反社会的勢力への対応について、「反社会的勢力と個人情報保護法における開示」、「反社会的勢力との和解」、「反社会的勢力との契約解消」という3つの場面を想定してリレー形式でそれぞれ論じていきたい。なお、いずれも筆者の個人的見解であることをお断りする。

個人情報保護法との関係での問題意識

個人情報保護法に基づく開示

 まずは、反社会的勢力との関係で、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」と略記する)に基づく情報開示についてどのように考えるかについて検討してみたい。

 個人情報保護法25条1項(および個人情報の保護に関する法律施行令6条)では、概要、個人情報取扱事業者が、本人から当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、書面の交付の(または本人の同意した)方法で、遅滞なく当該保有個人データを開示しなければならないと規定されている。
 もっとも、ただし書では一定の例外事由が定められ、その全部または一部を開示しないことができるとしている。さらに、個人情報保護法25条2項では、開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならないと規定されている。

開示が問題となる場面

 実際に散見されるケースとして、例えば、金融機関(個人情報取扱事業者に該当することは前提にする)が、ある反社会的勢力に属すると考える者との融資取引を謝絶する際に、その者が、「自分が反社会的勢力に属することを理由にしているのではないか」と考えて、その金融機関が保有している自己に関する保有個人データを開示せよと求めてくる場合を想定してみたい。
 もし反社会的勢力に属することに関わる情報が保有個人データに該当し、例外事由に該当するのでなければ開示が必要になる。そこで、反社会的勢力に属することに関わる情報が保有個人データに該当するかどうかを検討する必要がある。

反社会的勢力に属することに関わる情報は保有個人データに該当するか

保有個人データとは

 保有個人データとは、個人情報保護法2条5項で以下のとおり定義されている。

 個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。

 ここでは「その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの」が除外されている。政令で定めるものとは、個人情報の保護に関する法律施行令3条2号で、「当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの」が挙げられている。
 したがって、反社会的勢力に属することに関する情報が、この除外事由に該当するかどうかを検討したい。

反社会的勢力に属することに関わる情報は保有個人データの除外事由に該当するか

判例の考え方

 ここで、この点が問題となった判例を見てみる。

 東京地裁平成24年2月3日判決の事例は、証券会社が口座開設を総合的判断で拒絶した事例に関するもので、原告は、自分が反社会的勢力であるから口座開設が拒否されたのではないかと考え、証券会社に自己に関する保有個人データの開示を求めたところ、証券会社がそれを拒んだことが不法行為であると主張した。認定事実では、反社会的勢力に関する情報が個人データベース上に記載されていたとは認められないとされており、原告の請求はしりぞけられている。

 このような訴訟では、審理の過程で、金融機関が保有するその者の反社会的勢力との関係に関する情報が証拠として明らかになるのかどうかが問題になるが、この事案で原告から文書提出命令の申立がなされたかどうかは不明である。
 しかし、仮に文書提出命令の申立がなされていたとしても、保有個人データベース上にその者の反社会的勢力に関する情報が記載されていたとすると、それは、対外的に開示されることが全く想定されていない、いわゆる自己使用文書ということで文書提出命令の例外事由に該当し、訴訟の場にその情報を提出させることはできない性質の文書になると解される。

 そうすると、仮に反社関連情報が個人データベースに記載されていたとしても、金融機関側がその情報を任意に提出するということがなければ、その情報が裁判所に書証として提出されることにはならない。
 したがって、反社関連情報が個人データベース上に記載されていてもいなくても、開示しないことが不法行為になるとの判断がなされることは実際上ないのではないかと考えられる。

 なお、仮に反社関連情報が個人データベースに記載されていることが証拠上明らかになったと仮定して、その場合に証券会社に開示義務があることになるのかどうかは、この判例によっても明らかではない。

ガイドラインの考え方

 さて、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」の2条6項2号では、保有個人データに該当しないものとして、「存否が明らかになることで、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの」が挙げられ、その例示として、暴力団等の反社会的勢力情報が挙げられている。
 そうすると、反社会的勢力に属することに関わる情報は、そもそも保有個人データに該当しないという整理になり、結局「反社会的勢力に属することに関する情報は、保有個人データに該当しないのであるから、開示義務はない」というのが一応の結論になるといえる。

保有個人データに該当しないと考える必要性

 もう少し掘り下げて、上記の解釈に違和感がないか、実質的なところを検討してみる。

 例えば反社会的勢力に属する者だという情報が明らかになると、反社会的活動を助長し、または誘発するおそれがあるといえるだろうか。

 この点、次のように考える。
 ある人を反社会的勢力に属する者と判断するかどうかは、その判断の前提となる情報、判断の過程、いずれも各金融機関が独自に行っているもので、当然金融機関ごとに判断が異なる可能性がある。
 そこで、ある金融機関が指定暴力団の構成員であると認識しているかどうかを明らかにできると、金融機関ごとの判断のばらつきが明らかになってしまうことになる。そうすると、反社会的勢力に属する者と判断した金融機関の判断に誤りがあると主張して、何らかの責任を追及する手段(あるいは口実)を与える結果となってしまう懸念がある。
 また、金融機関ごとの情報収集能力が比較され、相対的に情報が収集されていない特定の金融機関が、反社会的勢力から狙いうちされるという懸念もある。
 このような懸念が、まさに反社会的活動の助長または誘発のおそれということなり、金融機関が保有する個人データのうち、反社会的勢力に属することに関わる情報は、例外的に保有個人データに該当しないと考えるだけの必要性はあるといえる。

保有個人データに該当しないと考える相当性

 また、この必要性を前提にして、上述のとおり、金融期間ごとに判断のばらつきがあるということになると、ある金融機関との関係で融資を謝絶されたとしても、他の金融機関との関係で融資を得られる機会は十分確保されているといえるであろう。したがって、自己が反社会的勢力に属する者ではないと考える者が融資を得る手段がなくなっているわけでもない。
 このように、金融機関が保有する個人データのうち、反社会的勢力に属することに関わる情報を、例外的に保有個人データに該当しないと扱うことは、反社会的活動を助長するおそれのある取引を断絶させるという趣旨に照らせば、個人情報保護の過度な制約になっているわけでもなく、相当性も認められるといえる。

 したがって、必要性および相当性の両面で合理性を有する解釈であるということができる。

反社会的勢力に関する情報はすべて開示の例外となるか

 また、反社会的勢力に関連する情報といっても濃淡があって、どういう情報でも開示の例外に該当するといえるかということも問題になり得る。実際に情報の開示を求めたくなる場合というのは、反社会的勢力に属すると評価するには関連性が希薄だと思われる場合が多いであろう。 自分が反社会的勢力に属する者と評価され、取引を拒絶されたと思っている者にとっては、金融機関の評価の程度(濃淡)を争いたくなる場合は多いと思われるので、このような場合に照会がなされると考えられるのである。
 この点、濃淡の議論をしてしまうと、結局情報開示の例外とした趣旨が骨抜きになってしまうので、やはり濃淡に関わらず、例外事由に該当するというのが正当だと考える。

個人の側からの情報提供

 そうすると、次に、個人の側で、かつては反社会的勢力に属する者であったが、今は完全に関係が断絶していることを示す情報を金融機関に伝えた上で、改めて金融機関に融資についての判断を求めるという場面や、あるいは、自分は反社会的勢力に属さないが、金融機関が誤ってそのようにとらえているのではないかと考える者が、金融機関に対して積極的に情報を提供して、改めて融資についての判断を求めるという場面も想定される。

 このようなやりとりが取引の強要になるような結果になってはならないことや、このやり取りが連続することで、金融機関の反社会的勢力に対する目線や分析内容を探るような結果になってはならないことは当然だとしても、上述の理由で、自らが提供する情報も加味して検討を求めるということは考えられるところである。

 この点、もともと金融機関が、ある者との間で取引をするかどうかは自由であって、金融機関が取引を拒むのであれば合理的な理由が証明されなければならないということはない。このことは、反社会的勢力に属する者に関するものであろうと、属しない者に関する場合であろうと同じである。

 個人の側から情報を提供すること自体は、その態様に問題がなければ否定されることではないにしても、その情報も含めて融資の検討をするのかどうか、どのような判断になるにせよ、その経過を説明する義務があるかというと、そのような義務はなく、あくまで金融機関が、提供された情報も踏まえて、どのように判断するかという問題だというべきである。

おわりに

 反社会的勢力と個人情報保護法の問題については、特に開示の場面で問題となる事が多い。取引を断った場合に、執拗に開示を迫られる場合もあるかと思われるが、本稿で述べたとおり、反社会的勢力に関する情報は、開示の例外事由にあたるという事を社内でも周知しておく事や、適宜専門家の見解を踏まえて判断することが重要と思われる。

今後の連載予定

  • 第2回 反社会的勢力との和解
  • 第3回 反社会的勢力との契約関係の解消

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