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信託を用いた金融取引

第3回 信託スキームの新たな潮流 自己信託の制度・機能、活用例は

ファイナンス

はじめに

 信託とは、旧来、英米法において育まれてきた制度ですが、大陸法系に属する我が国でも明治時代以降に取り入れられ、社会・経済の発展と共に進化してきました。近時では、平成19年施行の新信託法によって信託の概念・制度が明確化され、その活用例も日々多様化しています。

 本連載では、信託の活用例のうち金融取引の分野にテーマを絞り、3回に分けて以下の内容を説明します。

第1回信託の基本的構造と機能
第2回信託の具体的活用法
第3回信託スキームの新たな潮流(自己信託)

 自己信託は、新信託法にて明文で認められて以降、実務主導でその研究が進められ、ようやく具体的活用の兆しが見えてきました。今回は、進みつつある議論の途中経過を示す意味で、自己信託の制度・機能および主要な活用例を解説いたします。

自己信託の制度・機能

自己信託とは何か

 自己信託とは、第1回「信託の基本的構造と機能」で述べた信託行為(信託を生み出す行為)の一類型であり、特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面または電磁的記録で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載しまたは記録したものによってする方法をいいます(信託法3条3号)。

 要は、「 同一人が委託者と受託者を兼ねる信託 」であり、「信託契約」では異なる当事者(委託者と受託者)間の合意が必要であるのに対し、「自己信託」では単一当事者(委託者)による意思表示(単独行為)で信託が成立する点に本質的特徴があります。
 単純な事例を示すと、ある資産を保有しているAが、当該資産を自己の固有財産から切り出してその収益をCに分配したい場合に、当該資産をB(信託銀行等)に移転せずに単独行為によって自らの中に信託財産を作り出し(委託者兼受託者となり)、A自らがCのために資産の管理・処分を行うようなケースです。

自己信託の設定方法

 自己信託を用いれば、委託者単独で信託を生み出せるため、「債権者詐害目的による濫用の懸念」(第1回「信託の基本的構造と機能」で述べた「信託財産の独立性」を濫用し、比較的容易に、債権者が強制執行できない財産を作り出せてしまうという懸念)が付きまといます。
 そこで、信託法上、詐害的な自己信託を識別しやすいように、①書面または電磁的記録(以下「書面等」といいます)によることが成立要件とされ、また、②(a)公正証書や公証人の認証を受けた書面等(以下「公正証書等」といいます)による場合は、当該公正証書等の作成時点、(b)それ以外の書面による場合は、受益者となるべき者に対し確定日付ある証書(信託がされた旨と信託の内容を記載)で通知した時点が、効力発生時とされています。実務上は、「自己信託設定書」と題する書面に委託者が押印し、当該書面に公証人の認証を得る方法が一般的です。

 自己信託においても、受益者は、原則として信託行為(自己信託設定書)の定めにより指定されます。委託者兼受託者が受益者も兼ねるのであれば「自益信託である自己信託」(委託者が固有財産として受益権を保有)となり、第三者が受益者として指定されるのであれば「他益信託である自己信託」となります。なお、委託者兼受託者が1年間継続して全受益権を保有すると信託が終了するため(信託法163条2号)、注意が必要です。

ライセンスの要否

 第1回「信託の基本的構造と機能」で述べたとおり、「信託の引受け」を業として行うには信託業法上の免許または登録(信託業のライセンス)が必要ですが(信託業法3条等)、自己信託の場合、委託者の単独行為により信託が成立し、受託者側の「信託の引受け」という行為が存在しないため、信託業のライセンスは不要と解されています。
 ただし、自己信託の受益権を50名以上の者が取得することができるような場合、原則として、自己信託の委託者に登録(信託業の登録ではなく、自己信託特有の登録)が必要とされているため(信託業法50条の2第1項、信託業法施行令15条の2)、受益者の数等に注意が必要です。

自己信託の機能

 自己信託も「信託」である以上、第1回「信託の基本的構造と機能」で述べた信託の基本的機能(①倒産隔離機能、②財産管理機能、③権利転換機能)を有しますが、さらに特徴的なのが以下の3点です。

( 1 ) 異なる当事者間の資産移転の有無

 自己信託では、対象資産が異なる当事者間を移転しません(同一人が委託者と受託者を兼ねるため、対象資産がその法人格内にとどまります)。したがって、例えば、第2回「信託の具体的活用法」で述べた「資産流動化」において、「異なる当事者間の資産移転」がスキーム組成の阻害要因になっている場合(例:対象資産の譲渡が禁止されている場合)、自己信託がその解決策になり得ます。
 また、異なる当事者間の資産移転が生じないため、資産の移転に関する対抗要件(不動産でいえば、所有権移転登記)が不要になります。ただし、第1回「信託の基本的構造と機能」で述べた「信託の公示」は必要です。

( 2 ) 財産管理機能の補完

 自己信託の利点の1つとして、当事者の限定(信託銀行や信託会社を受託者として起用する必要がないこと)によるコスト減が挙げられますが、その反面、必ずしも信託のプロではない委託者兼受託者が信託財産の管理・処分等を行うことで、信託の財産管理機能(特に、金銭の分別管理、信託計算事務、受益者への報告事務など)が低下するおそれがあります。これらの事務に関し、受益者が求める水準の確保が難しいようであれば、これを補完すべく、信託銀行・信託会社といった信託のプロに当該事務を委託(受託者としてではなく、受託者の外部委託先として起用)する方法も有用です。

 また、自己信託では、委託者兼受託者が倒産した場合の事案処理について実例が乏しく、倒産管財人等によって信託事務が適切に遂行されるか否かにつき、今後の研究・実務を注視する必要があります。このようなリスクが顕在化した場合に備え、有事の際の「バックアップ受託者」としてあらかじめ信託銀行・信託会社を準備しておく例も見られます。

( 3 ) 詐害信託に関する強制執行の特則

 自己信託に「債権者詐害目的による濫用の懸念」があることは既に述べましたが、かかる懸念に基づき、信託財産に対する強制執行の特則が設けられています。
 すなわち、自己信託以外の信託(自己信託と対比して、便宜上、以下「他人信託」といいます)の場合、詐害的な信託に対して、委託者の一般債権者は、まず詐害信託の取消訴訟(信託法11条)を提起して当該信託を取り消し、委託者の財産に戻してから強制執行を掛けていく必要がありますが、自己信託の場合、信託設定時から2年間に限り、委託者の一般債権者が、詐害信託の取消訴訟をすることなく、信託財産に対し強制執行を行うことができます(信託法23条2項。委託者兼受託者が詐害性を争う場合、別途、異議訴訟の提起が必要)。

 通常の金融取引では、委託者の信用力や取引目的が事前に調査されるため、「詐害的な信託」が問題となる場面は限られますが、自己信託スキームに取り組む際には、当該特則やその制度趣旨を十分理解しておくべきです。

自己信託の活用例

 自己信託の活用は、今後多岐にわたることが予想されますが、ここでは、金融取引における主要な活用例を2つ取り上げます。

譲渡禁止特約付債権の流動化

 我が国の民法は、債権譲渡自由の原則を採用していますが、その例外として、債権譲渡を禁ずる特約(以下「譲渡禁止特約」といいます)が認められており、これに違反する債権譲渡は原則無効とされます(民法466条2項)。実務上、債権者・債務者間の力関係などから売掛債権等に譲渡禁止特約が付される事例が少なくなく、資産流動化による資金調達の阻害要因とされてきました。この点を自己信託により解決できないか、というのがここでの問題です。

( 1 ) 自己信託の「譲渡」該当性

 まず、自己信託が譲渡禁止特約における「譲渡」に該当するかが問題となりますが、債権譲渡が「債権の移転」を前提とする概念である一方、自己信託は「異なる当事者間の資産移転」を伴わないものであるため、法形式上、「譲渡」には該当しないと考えられます。

( 2 ) 「譲渡禁止特約」の趣旨からの問題点

 次に、譲渡禁止特約が認められている趣旨の1つとして、「債務者の抗弁権保護」が挙げられるところ、自己信託がこの趣旨に抵触し無効とされないかという問題があります。ここでいう「債務者の抗弁権保護」とは、債権譲渡が行われ、それが債務者に通知された場合、債務者は通知後に取得する旧債権者に対する抗弁(相殺権など)を新債権者に対抗できなくなるため(いわゆる「抗弁遮断効」。民法468条2項)、債務者にこの不利益を回避する機会(抗弁を維持できる機会)を与えるべきという考え方です。
 この点、自己信託は「譲渡」に該当せず、債権譲渡の抗弁遮断効は適用されませんが、例えば、XがYに対して有するA債権を自己信託する場合で、Y(債務者)がX(委託者兼受託者)の固有財産に対しB債権(反対債権)を有しているときには、Yが「A債権が信託財産であること」を知らず、かつ知らないことにつき無過失である場合を除き、Yによる相殺は禁止されます(信託法22条1項1号)。

 このように、自己信託のケースでも債務者の相殺が禁止される余地があるのですが、自己信託設定書において「債務者から相殺の主張がなされた場合には受託者が当該相殺を承認する」旨の規定(信託法22条2項)を置けば、債務者からの相殺が認められるため(「債務者の抗弁権保護」が図られるため)譲渡禁止特約の趣旨には抵触しないと解釈するのが、近時の有力な考え方です1

( 3 ) 債務不履行(原契約への違反)リスク

 上記のような考え方により、譲渡禁止特約付債権の自己信託の有効性が認められるとしても、その行為が「委託者と債務者との間の契約」(売掛債権の例で言えば、売買契約)に違反してしまう(債務者に対し債務不履行責任を負う)のであれば、スキーム組成は困難です。例えば、譲渡禁止特約が「譲渡、担保提供その他の処分」といった形で「譲渡」よりも広く規定されている場合に、自己信託が「譲渡」には該当しないものの、「その他の処分」に該当し契約違反にならないかという問題です。

 これは、契約文言の解釈論であり、文言自体の法的意味、契約全体や個別条項の趣旨、契約締結交渉の経緯等を踏まえて総合的に判断していくことになります。なお、上記の「その他の処分」の事例であれば、「処分行為」という法律用語が一般的に①「財産の現状または性質を事実において変更する事実的処分行為」と②「財産権の法律上の変動を生じる法律的処分行為」という意味を有しており2、自己信託が①対象財産の現状、性質等を事実上変更するものではなく、②対象財産の帰属主体を変動させるものでもないという点が、契約違反を否定する解釈の有用な切り口になるものと思われます。

( 4 ) 信託終了時の留意点

 譲渡禁止特約付債権の自己信託を行う際には、信託終了時の仕組みにも工夫が必要です。通常、信託を用いた資産流動化取引では、信託終了時に信託財産として残存する資産を第三者に売却し、または受益者に交付する例が多いのですが、譲渡禁止特約付債権の場合、当該売却・交付が譲渡禁止特約に違反するため、代替案が必要になります。具体的には、①信託終了後も信託財産として保有し続けて管理する方法、または②債権を委託者の固有財産に戻す方法が挙げられます。

事業の信託

 第1回「信託の基本的構造と機能」で述べたとおり、信託法上、不動産・動産・債権等の積極財産の信託譲渡に伴い、委託者の債務を受託者に移転(債務引受)できるとされており、これにより「事業の信託」(例えば、製薬会社における特定の薬品製造・販売事業を信託し、その受益権を引当てに資金調達を図るスキーム)が可能となります。

 もっとも、実際の事業は、物理的・人的・法的な有機結合体であり、これを他人信託で取り扱う場合、当該事業に馴染みのない受託者(信託銀行・信託会社)が善管注意義務をもって当該事業をコントロールできるかという問題があります(仮に、主要な業務を事業者に外部委託したとしても、受託者の当該事業者に対する監督責任は免れません)。
 また、特殊な法規制(上記製薬会社の事例であれば薬事法など)のある事業の場合、兼業規制などの観点から、信託銀行・信託会社がこれを受託できない可能性もあります。他方、自己信託の手法であれば、事業がもともとの事業者の法人格内にとどまるため、これらの問題の解決が期待されるわけです。

 「事業の自己信託」につき、検証すべき論点は各事業によってさまざまですが、スキーム組成に際する一般的な注意点は以下のとおりです。

( 1 ) 信託設定方法

 自己信託設定書上、積極財産部分と消極財産部分を区別して記載する必要があります。すなわち、①事業のうち積極財産部分(上記の製薬会社の事例でいえば、薬品在庫、関連設備、販売先に対する将来売掛債権等)を信託設定の対象としつつ、②事業のうち消極財産部分(仕入先に対する買掛債務、販売先に対する納品義務等。以下「事業に属する債務」といいます)については、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定め」(信託法21条1項3号)を行い、信託財産を引当財産に加える必要があります。

( 2 ) 責任財産の限定

 上記( 1 )の手続をとるだけでは、「事業に属する債務」の引当財産は「信託財産と固有財産の両方」になりますが、これを「信託財産のみ」に限定したい場合、①債権者と個別に「引当財産を信託財産に限定する特約」(責任財産限定特約)を合意するか、または②限定責任信託(信託法第9章)を用いる必要があります。ただし、限定責任信託については、名称使用の制限、取引相手方への明示義務、受益者に対する給付額の制限など、債権者保護のための特殊な規制が多いため、実務上これに対応できるかを検討する必要があります。

( 3 ) 債権者の同意の要否

 事業の自己信託の場合、①債務の移転が生じないため、「事業に属する債務」の債権者に関し、民法上の債務引受の手続(債権者の同意)は不要と解され、また、②引当財産を信託財産に限定しないのであれば、債権者との間で責任財産限定特約を合意する必要もないため、「債権者の同意」を不要とすることが可能とも思えます。

 もっとも、対象事業の内容は各事案によってさまざまであるため、上記の議論に加え、個別事案の具体的事情をもとに「債権者に実質的に生じ得る不利益」を検証し、その結果を踏まえて「債権者の同意」の要否を決していく必要があるといえるでしょう。その際、①自己信託により、債権者に「信託財産の破産時のリスク」が生じないか(例えば、継続的な契約関係を自己信託するケースにおいて、信託財産の破産時に、当該契約が破産法53条に定める破産管財人による双方未履行双務契約の解除の対象とされないか)といった視点や、②当該事業に適用される法令上、債権者保護が特に重視されないか(例えば、労働関係を信託に移す場合の労働法上の問題)といった視点が重要と考えられます。

まとめ

 今回は、本連載の最終回として、第1回「信託の基本的構造と機能」・第2回「信託の具体的活用法」の内容を踏まえつつ、信託スキームの新たな潮流(自己信託)についてご説明いたしました。本連載が皆様による信託利用の一助となれば幸いです。


  1. 本稿では、議論を簡略化してご説明していますが、本論点については、能見善久・道垣内弘人編『信託法セミナー1 信託の設定・信託財産』(有斐閣、2013)73頁以下、福田政之・村治能宗「自己信託を利用した譲渡禁止特約付債権等の証券化・流動化の実務と法的諸問題」SFJジャーナル8号(2014)10頁以下で詳細に整理されています。 ↩︎

  2. 高橋和之ほか編『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣、2016)706頁。 ↩︎

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