クックパッドに一体何が起きているのか? 創業者と経営陣の対立におけるコーポレート・ガバナンス上の注意点

コーポレート・M&A

 クックパッド社は、登録レシピ数日本一のレシピサイト「クックパッド」を運営する会社だ。同サイトは、月額280円の有料会員は160万人を超えていると言われており、日本一成功したユーザー課金型サービスとも言われている。
 しかし、超優良企業である同社の内部では、会社の経営方針をめぐって創業者株主と経営陣の間に争いが生じている。企業買収などで多角化を進める穐田誉輝氏(同社前代表執行役)らに対し、創業者であり大株主でもある佐野陽光氏は本業である料理レシピサイト運営への注力を求めていたと言われている。

事案の経緯

2015年秋ごろ 創業者である佐野氏から、経営陣が策定した経営計画とは異なり、「会員事業と海外事業に経営資源を集中すべきである」との事業戦略が提示される
2015年11月27日 経営陣が策定した経営計画に基づく事業戦略と佐野氏から提示された事業戦略の精査・検討等を目的とする、社外取締役のみによって構成される特別委員会が設置される
2015年12月18日 特別委員会から取締役会に対して、経営陣の策定した事業戦略を推し進めるべきとの勧告書が提出される
取締役会は、当該勧告を受けて、経営陣の策定した事業戦略を推し進めることを決議
2016年1月12日 佐野氏から、取締役を刷新するための取締役選任議案を2016年3月開催の株主総会の議案とすることを求める株主提案が送付される
2016年2月5日 佐野氏の株主提案にある6名と現任の取締役3名の合計9名の取締役選任議案とすることでクックパッド経営陣と佐野氏の協議が成立し、株主提案が取り下げられることを前提に、取締役選任議案を一本化することで合意
2016年2月12日 佐野氏とクックパッド経営陣の要請により指名委員会において上記合意に沿った取締役候補者の指名決議。取締役会において佐野氏・岩田氏(現クックパッド代表執行役)が執行役に選任される
2016年3月22日 社外取締役からの強い要請にもかかわらず、佐野氏が株主総会後の新体制を明らかにしなかったことを理由に、佐野氏が執行役を解任される
2016年3月24日 株主総会にて、一本化された取締役選任議案が承認されたものの、その後に開催された取締役会で、それまで代表執行役であった穐田氏が代表執行役を退任して執行役となり、岩田氏が新たに代表執行役に選定される。また、同取締役会にて、佐野氏も再び執行役に選任される

 結果的に、2016年3月24日に東京都内で開催された定時株主総会において、創業者の佐野氏を含む9人の取締役選任議案が可決され、その後、これまで代表執行役を務めた穐田社長は退任し、佐野氏に近いとされる岩田林平執行役が新社長に就任しており、現在に至っている。

 今回のように創業者株主と経営陣が、会社の経営方針をめぐって対立したとき法律上はどういった点が問題となるのだろうか。またこういった事態が発生した場合には、コーポレート・ガバナンスの見地からどのように対応すべきなのだろうか。

 コーポレート・ガバナンスに詳しい、弁護士法人大江橋法律事務所の山口拓郎弁護士に聞いてみた。

指名委員会等設置会社とは

クックパッド社は、指名委員会等設置会社とのことですが、この制度の概要について教えて下さい。

 指名委員会等設置会社とは、米国の制度を倣って、平成14年の商法改正で導入された制度です。導入当時は「委員会等設置会社」と呼ばれ、平成18年の会社法施行後は「委員会設置会社」と呼ばれていましたが、平成26年会社法改正で「 監査等委員会設置会社」が導入されたことから、これと区別するために「指名委員会等設置会社」という名称になりました。

 指名委員会等設置会社では、取締役会の中に、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会の3委員会が置かれ、各委員会は取締役3人以上の委員で組織され、社外取締役がその過半数を占めます。指名委員会は株主総会に提出する取締役の選任議案を決定し、報酬委員会は執行役・取締役が受ける個人別の報酬等の内容を決定します。また、監査委員会は、執行役等の職務執行を監査します。なお、指名委員会と報酬委員会の決定は、取締役会が覆すことはできません。

 このような点から、指名委員会等設置会社の制度は、少数の社外取締役しかいない場合であっても、社外取締役による監督機能をできるだけ働かせようとした制度であるといえます。

 また、指名委員会等設置会社において、会社の業務執行は執行役が行い、取締役会は業務執行の決定を大幅に執行役に委任することができます

 この点から、指名委員会等設置会社の制度は、機動的な意思決定が期待できる制度であるともいえます。

 取締役会の機能としてマネジメント(業務執行の決定)よりもモニタリング(職務執行の監督)を重視する形態として導入された指名委員会等設置会社の制度ですが、社外取締役が過半数を占める委員会で役員人事や役員報酬が決定されることに強い抵抗感があり、制度の導入以来、上場企業において指名委員会等設置会社を採用する会社は70社前後で推移していました。

 しかし、コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う東京証券取引所の有価証券上場規程の改正以後、モニタリング・モデルの機関形態に注目が集まるようになり、最近は指名委員会等設置会社に移行しようとする上場企業も増えているようです。

大株主である創業者は、過半数以上をもっているのだから、役員人事を自由にすることは法律上問題ないのではないでしょうか。指名委員会等設置会社では役員の選任はどういった手続で行われるのでしょうか?

 誰に経営を委ねるかという経営陣(取締役)の選解任は株主総会の専決事項であり、株主が決定できる事項です。特に指名委員会等設置会社の取締役の任期は1年とされており、毎年株主総会で株主からの信任を問われる制度となっています。
 指名委員会等設置会社では、まず株主総会に提出する取締役の選解任議案が、社外取締役が過半数を占める指名委員会で決定されます。そして、指名委員会が決定した取締役の選任議案が株主総会に提出され、株主総会で承認されれば、取締役として選任されることになります

 他方、執行役の選解任は、株主総会や指名委員会ではなく、取締役会で行われます。指名委員会等設置会社は、取締役会による執行役の監督(モニタリング)を重視する形態であるところ、取締役会が執行役の監督を実効的に行うためには、選解任権(人事権)による裏付けが不可欠だからです。

 このように、会社法の下では、執行役の選解任は取締役会の決議事項とされ、株主は、株主総会において取締役会を構成する取締役の選解任を決議できるだけですので、執行役の人事については、取締役の選解任を通じて間接的に影響を与えることしかできないといえます。 

 今回のケースにおいて、佐野氏は、このような株主としての権利行使を通じて取締役の選任を図り、執行役の選任に影響を与えただけですから、この点で、会社法上の問題はありません。

何が問題となっているのか

法律上問題ないとすれば、何が議論になっているのでしょうか?

 前述のとおり、会社法上の問題はありません。

 ただ、上場企業においては、経営陣の選任や解任に関して、公正かつ透明性の高い手続に従って適切になされることが求められています(コーポレートガバナンス・コード補充原則4-3①)。

 このような視点から本件の一連の経緯を見ますと、取締役候補者の実質的な指名が指名委員会ではなく佐野氏と経営陣の間の協議によって決定されている点や、株主総会後の新体制が明らかにされないままに株主総会で取締役の選任がなされていること等、必ずしも公正かつ透明性の高い手続に従った経営陣の選任がなされていないのではないかと疑われる点が本件の問題といえます。

創業者 vs. 経営陣 他社事例は?

創業者株主と経営陣が対立することはよくあることなのでしょうか?

 昨年には、雪国まいたけの創業者大株主と経営陣が対立しました。雪国まいたけの事例では、経営陣が米国投資ファンドの協力を得て、米国投資ファンドによる雪国まいたけ株式のTOBを行い、TOBに応募しなかった株主をキャッシュ・アウトすることで創業者による経営への関与を排除するという結末に至りました。

 また、古いところでは、フジテレビの事例やエイベックスの事例も、創業者と経営陣が対立した事例として有名です。

あるべきコーポレート・ガバナンスとは

その場合、事態解消のためには、コーポレート・ガバナンスの観点からはどういった点に注意が必要なのでしょうか?

 コーポレートガバナンス・コードでは、経営陣の選任や解任については、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきであるとしています(補充原則4-3①)。

 上場会社の経営陣は、企業価値の最大化を目的とする一方、少数株主の利益にも常に配慮しなければなりません。また、投資家からの信頼を得るためにも、公正かつ透明性の高い手続と、適切な情報開示が必要です。

 創業者と経営陣が事業戦略を巡って対立した場合、適切な情報が開示されなければ、少数株主は適切な判断ができませんし、また、公正かつ透明性の高い手続による経営陣の選任がなされなければ投資家からの信頼を失うことにもなりかねません。

 そのため、この補充原則は、創業者と経営陣が事業戦略を巡って対立した場合にも当てはまると考えられます。すなわち、経営陣の交代が予定された取締役の選任議案が株主総会に提出されるような場合には、少数株主の利益への配慮や投資家からの信頼を損なわないためにも、公正かつ透明性の高い手続によるべきだと考えられますし、経営陣の交代の理由と新たな経営陣による事業戦略も適切に開示されるべきであるといえます。

(聞き手:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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