個人投資家の消費・投資における倫理観に関する意識調査

コーポレート・M&A
片桐 さつき

 株主総会で環境対策や女性活躍推進に関する質問が出るなど、個人株主・個人投資家においても非財務情報の重要性について認識が高まっている兆候が見えます。そこで、ESG/統合報告研究室では、個人投資家の消費・投資において、どの程度倫理観が反映されているのか(倫理的投資・倫理的消費)について宝印刷(株)が発行する『ジャパニーズインベスター』誌の定期読者にアンケート調査を実施し、分析を行いました。

調査の背景

 昨今新聞や経済雑誌で「ESG投資」「責任投資」 「企業の社会的責任」などの言葉をよく目にするようになった。株主総会では個人株主から女性の活用についての質問や、環境対策に関する質問が出るなど、個人株主・個人投資家も非財務情報の重要性を認識し始めている兆候が見える。また、内閣府による「社会意識に関する世論調査(平成28年2月調査)」の中では、 社会のために何か役立ちたいと思っている人の割合が 65%となっており、年齢層では40歳代〜60歳代が最多と発表されている。この年齢層は個人投資家の半数を占める年齢層と同様であり、「業績が良い企業」だけ ではなく「社会に良いことを行い、社会とともに成長し長期的な視点で成長していく企業」に対して投資を行う個人投資家の存在が大きくなっていることが推察される。

 今、人々は大量消費社会に疑問を持ち始めている。 消費者庁では人や社会・環境に配慮した消費行動倫理的消費)に関して国民の理解を広め、日常生活での浸透を深めるために必要な取り組みを調査研究する「『倫理的消費』調査研究会」を立ち上げ、いわゆる「エシカル消費」を推奨していこうとしている。 児童労働や環境汚染などに加担している企業ではなく、倫理的に事業を営む企業を国民が消費によって応援していく社会を目指しているのだ。長期的に見れば、エシカル消費が浸透した社会において「社会に良いことを行い、社会とともに成長し長期的な視点で成長していく企業」でなければ「投資」も「消費」もしてもらえない、ということになる。

 企業はこうした社会の潮流に敏感になる必要がある。そして、法令遵守だけではなくステークホルダーとの信頼関係を構築していくための戦略的な情報開示が必要だ。そこで、今回の調査では、『ジャパニーズインベスター』誌の定期読者をターゲットとして、個人投資家が昨今の潮流を受け、投資以外の消費に対してどの程度倫理観を重視しているのか、 投資スタンスに倫理観がどの程度加味されているのか、を調査した。

回答者プロファイル

 『ジャパニーズインベスター』誌の読者を対象としてアンケート調査を実施し、690件の有効回答数を得られた。回答者のプロファイルとしては、年齢層では40代〜60代が69.4%、投資歴では20年以上が41.2%と最多で、次いで10年〜20年未満が30.1%となっている。投資総額では1,000万以上が65.7%、平均保有期間は3〜5年未満が22.3%、5 年以上が32.5%となった。投資経験が豊富であり、 資産形成のために株式投資を行うような、比較的長期投資スタンスの個人投資家が回答をしていると言えよう。

倫理的消費に関する意識

 商品やサービスの購買行動(投資以外)で社会貢献を意識しているかについては、「意識している」が9.6%、「やや意識している」が50.3%と、併せて59.9%が何かしら消費において倫理観を意識しているという結果となった。この59.9%の回答者に対し、主にどんな事を意識しているかと質問すると、「同じ品物を買うなら社会貢献をしている企業の品物を選択している」との回答が59.1%と最も高い結果となった。普段の生活の中で、自然に倫理的消費を実行している意識が高い個人投資家が比較的多いということが分かるだろう。

<商品やサービスの購買行動(投資以外)で社会貢献を意識しているか>


 企業が社会的責任(社会貢献など)を果たすことは重要だと思うかという問いには、83.6%もの人が「はい」という回答であった。また、社会的責任を果たすことに熱心な企業に対する印象については、 「世の中に必要な会社として存続していく」が 65.9%と最も高く、次いで「そういう企業がもっと増えればいいと思う」が46.7%、「中長期的な成長が期待できる」が41.2%と社会的責任を果たす企業への期待が大きいことが分かる。

<企業が社会的責任(社会貢献など)を果たすことは重要だと思うか>


<社会的責任を果たすことに熱心な企業に対する印象>


 こういった企業の社会的責任に関する情報をどこから得ているのかという問いには、「新聞記事・新聞広告」が56.5%、「株主通信」が51.2%、「企業のホームページ」が47.0%となっている。 また企業の社会的責任に関する情報発信で、希望する情報の伝達方法については「株主通信や招集通知への記載充実」が50.4%、「企業のホームページの充実」が46.8%、「雑誌や新聞などのメディアへの露出アップ」が43.9%となり、個人投資家の手元に届く媒体への情報開示が望まれている

<企業の社会的責任に関する情報をどこから得ているのか>


<希望する情報の伝達方法>


倫理的投資に関する意識

 倫理的な消費を行う傾向にある個人投資家に「投資」について質問した。社会貢献や社会的課題の解決に積極的に取り組む企業に今後投資をしたいと思うかという問いには、「思う」が27.0%、「少し思う」が56.2%と、83.2%の個人投資家が社会的責任を果たす企業への投資について比較的ポジティブなスタンスでいることが分かった。

<社会貢献や社会的課題の解決に積極的に取り組む企業に今後投資をしたいと思うか>


 また、この83.2%の個人投資家に対し投資したいと思う動機は何かと問うと「社会貢献等ができる企業は長期的に成長しそうだから」が48.1%、「社会貢献をしていない企業よりはしていた方が印象が良いから」が45.5%、「株式を購入することで自分も社会貢献したいから」が42.9%だった。 倫理的投資を前提に投資を考える段階ではないが、間接的に社会に良いことをしたいと考えている個人投資家が多いという事であろう。

<投資したいと思う動機は何か>


 また、どのような社会貢献活動を投資先の企業に期待するかについては、「自社の事業を通した社会貢献」が突出して72.6%と高く、「自然保護など特定のテーマに沿って行う活動」が43.0%となった。事業と社会貢献活動の結合性は機関投資家だけではなく個人投資家も重視しているということがこの結果で明確になっている。「なぜその社会貢献活動をするのか」「その活動を行って企業価値がどう向上するのか」という活動の意味やアウトカムが見 えないと個人投資家も納得がいかないということで あろう。

<どのような社会貢献活動を投資先の企業に期待するか>


 投資判断をする際に企業の社会的責任において重視するポイントはどこかという質問には、「公正な取引を遂行しているか、消費者の安全に対して真摯に取り組んでいるか」が58.4%、「法令遵守に留まらず倫理的な企業活動をしているか」が57.2% となった。この中では「社員を大切にしているかを見たい」「社会貢献が企業の持続的成長の要素の一部になること」などの意見があり、機関投資家と同様にリスクと機会の側面を自然と投資判断に活用している面もあると捉えられる。

<投資判断をする際に企業の社会的責任において重視するポイントはどこか>


 最後に社会貢献活動を考慮して投資をしたいと思う企業を聞いてみた。下記に上位10社を記載する。

順位 社名
1 トヨタ自動車
2 サントリー
3 イオン
4 キヤノン
5 キリンホールディングス
6 三菱商事
7 パナソニック
8 JT
9 花王
10 カゴメ
10 ソニー

最後に

 以上の結果を見ると、個人投資家の倫理観は消費動向・投資動向ともに高く、企業の社会的責任の遂行に期待しており、そして非財務情報の適切な開示を求めていることが分かった。また、投資においては事業と社会貢献活動の結合性について厳しい目を持っており、 社会貢献活動をいかに収益やブランド力などに繋げ、 持続的に成長していくかについて注目していることも分かった。
 こうした個人投資家に共感してもらえれば、いずれファン株主やロイヤルカスタマーとなり、長期的に自社を支援してくれる尊いパートナーとなるであろう。企業が100年先まで存続するためには「良い業績」だけでも「社会に良い活動をしている」だけでもなく、「なぜその活動を行い、どのような成長を社会とともに遂げていくのか」ということを機関投資家・個人投資家を隔てることなく伝えていく必要があるのではないだろうか。  

本記事は、株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所が発行している「個人投資家の消費・投資における倫理観に関する意識調査」の内容を転載したものです。
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