東芝は上場廃止となるか 上場廃止基準の概要と株主への責任

コーポレート・M&A
松下 知輝弁護士

(testing / Shutterstock.com)


 5月15日、東芝は2016年度通期業績見通しを公表した。アメリカの原子力事業を巡り監査法人と意見が対立しているため、「決算短信」ではなく独自概算値として示したものだ。
 4月11日には、監査法人が「結論不表明」としているにも関わらず、2016年度の第3四半期報告書が提出されている。
 このような状況を受けて、東芝が上場廃止になる可能性はあるか、また上場廃止となった場合に、株主にはどのような影響があるか、コーポレート分野の実務に詳しい三宅坂総合法律事務所の野間 昭男弁護士、松下 知輝弁護士に聞いた。

上場廃止の基準について

上場廃止となるにはどのような基準があるのでしょうか。

 上場廃止基準とは、東京証券取引所などの金融市場に設けられた内部基準であり、上場市場での売買に適さない銘柄を市場から廃する基準です。

 その基準は、金融市場ごとに定められるものですが、ここでは東京証券取引所(以下、「東証」といいます)1部の基準を例にとって説明します。

 東証1部の上場廃止基準は、有価証券上場規程(以下、「規程」といいます)に定められており(規程601条)、大きくは以下の4つに分類することができます 1

①株式の円滑な流通と公正な株価形成を確保するための基準

 公正な価格が形成されるためには、市場において十分な株式が取引されている状態が必要であるとの考慮に基づく基準です。具体的には、(ⅰ)株主数に関する基準(株主数が400人未満となり1年以内に400人以上にならない場合)、(ⅱ)売買高に関する基準(最近1年間の上場株券等の月平均売買高が10単位未満または3か月間売買不成立である場合)などが定められています。

②企業の継続性、財政状態、収益力等の面からの上場適格性を保持するための基準

 継続的事業遂行の可能性が低い会社や安定的な収益基盤を有していない会社の株式については、投資の適格性を欠くものとして上場市場から排除する趣旨の基準です。具体的には、債務超過に関する基準(債務超過に陥り原則1年以内に債務超過を解消しなかった場合)や、倒産に関連する基準(破産手続・再生手続、事業活動の停止等)等が定められています。

③適正な企業内容の開示を確保するための基準

 投資家に対して適切な会社内容の開示が行われることを担保するための基準です。

 まず、有価証券報告書等の提出遅延がある場合には上場廃止になります。また、有価証券報告書等に虚偽記載がある場合、監査報告書について公認会計士による不適正意見または意見の表明をしない旨の記載がある場合、四半期レビュー報告書において公認会計士による否定的結論または結論の表明をしない旨の記載がある場合でただちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかである場合にも上場廃止になります。

④株式の流通に係る事故防止、円滑な流通を形式面から担保するための基準

 売買が繰り返され株式が転々流通するという上場市場の前提を担保するために設けられている基準です。上場契約違反に関する基準、株式の譲渡制限が設けられた場合等が該当します。


 また、これらに加えて上場規則の実効性を確保するための制度として平成19年11月の制度改正により「特設注意市場」が新設されています。虚偽記載等の場合で、内部管理体制等の改善が必要である場合には特設注意市場銘柄に指定され、指定されて1年以内(延長時は1年半以内)に内部管理体制等が改善されなかった場合等も上場廃止基準として規定されています。

上場廃止に至るまでの流れ

上場廃止に至るまではどのような流れになるのでしょうか。

 上場廃止の検討は、報道や会社による自己申告等により、上場廃止基準に抵触するおそれを証券取引所が認識した時から始まります。一般的にどのような流れになるかは、以下のとおりですが、抵触するおそれのある基準によって異なります。

①形式的に明らかではない上場廃止基準が問題とされている場合

 虚偽記載や上場契約違反等の形式的に明らかではない上場廃止基準に抵触するおそれがあると認められた場合、その程度が問題となるので上場廃止の判断は簡単ではありません。

 これらの条項に抵触するおそれがある場合、一般的には当該会社の株式は監理銘柄(審査中)に指定されます(有価証券上場規程施行規則605条)。監理銘柄とは、上場廃止のおそれがある銘柄を割り当てることで、市場に注意を促す制度です。

 監理銘柄に指定された後、虚偽記載等が重大かどうかの判断がなされ、重大性があると判断された場合には上場廃止が決定され、整理銘柄に指定されます。

 整理銘柄に指定されてからは、原則1か月後に上場廃止となります。逆に重大性がないと判断された場合には上場維持となります。ただし、内部管理体制等について改善の必要があると認められた場合には、特設注意市場銘柄に指定されます(虚偽記載や意見不表明等の場合は監理銘柄指定を経ずに特設注意市場銘柄に指定されることもあります)。特設注意市場銘柄に指定されてから1年経過後(延長される場合は1年6か月)に内部管理体制確認書を会社が提出し、内部管理体制が改善されない場合等には、上場廃止となります。

②形式的に明らかな上場廃止基準に抵触するおそれがある場合

 債務超過基準や株主数基準など形式的に明らかな上場廃止基準に抵触しているおそれがある場合、監理銘柄(確認中)に指定されます(有価証券上場規程施行規則605条)。基準との抵触が確認され、抵触が無い場合は上場継続となり、抵触が認められる場合には整理銘柄を経て上場廃止となります。

東芝はどのような観点から問題があるか

東芝が上場廃止になる可能性があるとすると、どのようなケースが考えられるのでしょうか。

 特設注意市場銘柄に指定されていること、監査法人が結論を表明していないこと、債務超過の可能性があることから、上場廃止となるケースが考えられます。

特設注意市場銘柄に指定された背景について教えてください。

 東芝は、損失発生が見込まれる工事等について引当金を計上しない等の不適切な会計処理をしていたことが2015年に明らかになりました。経営陣から達成困難と考えられる損益改善要求が行われており、事業部門がそれに経理上虚偽の対応をしようとしたこと等が不正会計に至った理由とされています 2 。なお、この問題は、昨今繰り返しメディアで報道されているウェスチングハウス社に係る減損問題とは別のものです。

 この2015年の会計処理については、上場廃止に該当するような虚偽記載であるとは判断されませんでした。もっとも、社内で業務実態の把握ができておらず、全社的に適正な会計処理をする意識が希薄であるとされ、内部管理体制等について改善の必要性が高いものとして、原則1年を期限として2015年9月15日に特設注意市場銘柄に指定されました。

 東証は、指定から1年間が経過した後も、なお同社についてコンプライアンスの徹底等を要する状況があると判断し、特設注意市場銘柄の指定を更に半年間継続することとしました。

 東芝は、指定から1年6か月が経過した日、すなわち2017年3月15日に内部管理体制確認書を提出しており、現在内部管理体制等の改善につき審査されている途中です。審査の結果、内部管理体制等の改善が認められなければ上場廃止となります。

監査法人が結論を表明していない点はどう考えればよいでしょうか。

 東芝の2016年第3四半期の四半期連結財務諸表について、レビューを担当したPwCあらた有限責任監査法人(以下、「PwCあらた」といいます)は結論を表明しないこととしました。ウェスチングハウス社の幹部が部下等に不適切な圧力を加えたとされる問題に係る東芝の監査委員会の調査につき、評価が継続中であること等を理由に、結論を出すための情報不足により判断できないとしています。

 意見や結論の不表明の場合であって、ただちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると認められる場合には、上場廃止となります(前記1の③参照)。したがって、東芝はこの点から上場廃止となる可能性があります。なお、東芝はPwCあらたから別の監査法人への変更を検討していましたが、2017年3月決算の監査については引き続きPwCあらたが担当することになったと報道されています。東芝とPwCあらたの見解の溝が埋まらない場合は、2017年6月末提出予定の有価証券報告書についても提出遅延等の問題が生じる可能性があるので今後注目していく必要があります。

債務超過の可能性についてはいかがでしょうか。

 東芝の2016年第3四半期の四半期報告書には、継続企業の前提に関する注記が付されています。企業の継続を当然の前提とできないという趣旨の注記です。具体的には、①東芝の格付け引き下げによる借入金の期限の利益の喪失、②米国原子力発電所建設プロジェクトに関する負担の増加、③財産的基礎を失うことによる特定建設業の許可の不更新、といった事情により継続企業の前提に重要な疑義があるとされています。

 今後の対応にもよりますが、以上の事情を考慮すれば、今後東芝が債務超過に陥る危険性や支払不能等により倒産手続(破産、民事再生、会社更生など)に移行する可能性も考えられます。

 債務超過が原則1年以内に解消されない場合は上場廃止となり(規程601条1項5号)、倒産手続に移行する場合も、原則として上場廃止となります(規程601条1項7号)。

 なお、債務超過は東証一部から二部への指定替え基準にも該当します(規程311条1項5号)。 したがって、債務超過が認定された場合には原則として東証二部に降格した上で、1年以内の債務超過解消を目指すことになります。

最近の事例で不祥事により上場廃止となったケース

最近の事例で不祥事によって上場廃止となったケースがあれば教えてください。

 東証一部上場企業で、虚偽記載や会計上の問題等で上場廃止が問題とされた主な事例は、下記のとおりです。

①西武鉄道

 西武鉄道は、元従業員等の名義を用いて名義株を作出し、大株主の持ち株比率を意図的に低く有価証券報告書に記載していたことが虚偽記載として問題とされました。実際は大株主の持ち株を合計すると全体の80%を超える状態であり、これが判明して上場廃止となりました。

 なお、大株主の持ち株比率は、基本的に本業の好不調と関係がなかったため、上場廃止後も西武鉄道は事業を継続でき、更にその後西武ホールディングスとして再上場を果たしています。

②日興コーディアルグループ

 日興コーディアルグループは、2005年3月期有価証券報告書等において、他社株償還特約付社債の評価益の計上が不適正であったことおよび子会社である日興プリンシパル・インベストメンツ株式会社が傘下に入れていたNPIホールディングス株式会社について連結していなかったことが問題とされ、有価証券報告書に虚偽記載があるものとして監理ポスト(現在の監理銘柄に相当)に割り当てられました。

 もっとも、①虚偽記載の内容は、上場廃止が相当であると認められる程度には至っていないこと、②訂正後の有価証券報告書等について監査法人の無限定適正意見が付されていること、③複数の当事者が不適正な行為に関与していることは否定できないものの日興コーディアルグループとして、当該行為が組織的・意図的に行われたとまでは認定できないことを考慮して、上場維持となりました。

③オリンパス

 オリンパスは、バブル期の金融資産の運用により生じた含み損について、本来財務諸表に計上するべきであったにもかかわらず、連結対象外の複数のファンドを利用する「飛ばし」と呼ばれる方法で評価損が表面化しないように隠蔽していました。判明した連結純資産の訂正は、1,235億円に上るものでした。

 一連の行為は、会社組織としての関与が認められるものではあるものの、オリンパス本来の主たる事業部門とは直接的な関係がなく、事業の経営状況には影響が及ばない形で進められたものであり、不適切な会計処理は、売上高や営業利益には影響がないものとして、上場は維持となりました。また、上場維持の判断と同時に特設注意市場銘柄に指定されましたが、その後解除されています。

上場廃止となった場合の株主への影響

上場廃止となった場合、株主にはどのような影響があるのでしょうか。

 上場廃止になった場合、株主には以下のような影響がありえます。

①価値把握の困難性

 上場市場においては、日々の売買により株式に価格がつけられ、かつその価格動向が公開されていますので、市場価格を随時把握することができます。上場廃止となれば、株式の市場価格は不明確となり、売却する際には自身で株式を評価するリスク・負担が生じます。

②流動性の低下(売却機会の減少)

 上場している間は、上場市場を通して不特定多数の買主に対して売却する機会がありますが、上場廃止後は買主を探すことから始めなければならないこととなります。相当な金額の株式を保有している場合は、買主を探索する費用をかける意味もあるでしょうが、それほどの株式を保有していない場合は探索費用を考慮して事実上売却を断念せざるをえない場合も考えられます。

③事業価値の毀損(信用・知名度の低下、従業員の士気の低下)

 一般的に上場企業は上場審査をクリアした企業として信用や知名度を得ており、借入や商取引においても有利な条件を得られている場合が多いです。上場廃止された場合は、そのような信用・知名度を失うので、従前のような条件で事業ができなくなる可能性もあります。

 加えて、上場企業であることは従業員の士気や優秀な人材の確保にも有利に働いていると考えられ、上場廃止となった場合には従業員の士気が低下し、優秀な人材を採用することも難しくなる可能性があります。

<追記>
2017年6月30日:「3 東芝はどのような観点から問題があるか」の記載内容に、債務超過は東証一部から二部への指定替え基準にも該当する旨の一文を加筆いたしました。

  1. 有限責任監査法人トーマツIPO支援室「株式上場ハンドブック(第6版)」98頁(中央経済社、2017) ↩︎

  2. 日本取引所グループホームページ上のマーケットニュース「特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違反金の徴求―(株)東芝―」 ↩︎

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