裁判例から見る従業員株主による株主総会の運営支援等 株主総会決議取消請求事件(東京地裁平成28年12月15日判決)

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※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.140」の「特集」の内容を転載したものです。

事案の概要

 本件は、上場会社(以下、A社といいます)の定時株主総会において、決議方法が著しく不公正でかつ法令違反に該当するとして株主総会決議の取消請求がなされた事案です。

 具体的な理由として、①A社の従業員株主にヤラセの質問をさせたことにより、一般株主が質問する機会を奪い、株主の質問権等を侵害したこと、②修正動議、議長不信任動議の処理方法が不公正だったこと、③事前質問に対し虚偽の説明を行ったこと等を挙げています。

争点

従業員株主によるヤラセ質問等

事実関係

  • A社の総務部長であり、株主総会の現場の責任者の地位にあったBは、リハーサルに参加して質問をする株主役を務める従業員株主に対し、あらかじめ質問事項を記載した書面を交付した。
  • Bはリハーサル終了後に、出席していた従業員株主に対し株主総会への出席を依頼し、リハーサル時における質問と同様のもので差し支えないので、できれば質問をするよう依頼した。
  • 株主総会における質疑応答の際に、8人の従業員株主が質問した(全体では16人の株主が質問)。
  • 原告らは質疑応答の際に挙手をしていたものの、質問の機会を与えられることなく質疑が打ち切られた。

裁判所の判断

 まず、一般論として、従業員株主が、会社が準備した質問をするように促されて質問をしたことにより、一般株主が質問をする機会がなかった場合に対する考え方を示しました。

  • 上場会社の株主総会において、会社が従業員株主に対し、会社が自ら準備した質問をするよう促し、実際に従業員株主が自らの意思と無関係に当該質問をして会社が応答した場合には、相応の時間を費やすことになり、その分、一般株主の質疑応答に充てられる時間が減少し、質問や意見を述べることができなくなるおそれがある。
  • このような事態が生じることは、従業員株主も株主であることを考慮しても、多数の一般株主を有する上場会社における適切な株主総会の議事運営とは言い難く、株主総会の議事運営の在り方として疑義がないとはいえない

 また、本事案について以下の事実認定を行いました。

  • 本件株主総会では、実質的な質疑応答のために約1時間16分の時間が充てられており、一般株主の質疑応答のためにも約53分間の時間が充てられている。
  • 質疑応答に充てられた時間自体を見る限り、一般株主の質疑応答の時間が短時間に過ぎるということはできない。
  • 株主総会で質問した株主は全部で16人であり、そのうち一般株主は8人であるが、質疑応答の後半部分において一般株主がした質問事項は、株主総会の報告事項・決議事項と関連するとはいえない事項が続いていた。
  • 最後の質問者が、議長に指名される直前に挙手していた株主の数は5人程度であった。
  • Bは、従業員株主の質問が一般株主による議論の呼び水となることを企図した旨証言しているが、実際に従業員株主は決議事項・報告事項と関係のある質問をしており、従業員株主の質問が一般株主が決議事項・報告事項に関する質問をする誘引となっていることを否定できない

結論

  • 以上の事情を総合すると、A社において、質疑の打切りに際し、一般株主の質問権や株主権を不当に制限したものとまでいえず、決議の方法が著しく不公正であると断ずることはできない。

動議への対応

事実関係

  • 原告は、修正動議・議長不信任動議について、議長が株主の賛否の数を数えず従業員株主の拍手のみをもって否決されたものとしたことは、「決議の方法が著しく不公正なとき」にあたると主張。
  • 修正動議が提出された際、修正案を原案と一括して審議した後に原案とともに採決する旨の提案をして過半数の賛同を得た。
  • 議長不信任動議については、これに反対する旨を述べ過半数の反対を得た。
  • 株主総会にはA社の大株主らの代理人が出席し、その保有議決権総数は出席株主の総議決権数の過半数を優に超えるものであり、また代理人は議長の議事進行に係る提案・意見に賛成の意思を示していた。

結論

  • 議長は、修正動議の処理の提案につき過半数の賛成を得たものと取り扱うこと、議長不信任動議を否決されたものと取り扱うことについて、出席株主の総議決権数の過半数の賛成を確認していたものといえ、「議長が出席株主の総議決権数の過半数の賛成を確認していない」という原告の主張は採用できない。

事前質問に対する虚偽回答等

事実関係

  • 原告らは、株主総会に先立ち、「招集通知を6月2日に発しており、株主総会は6月下旬ではなく6月17日には開催可能ではないか」、「総会で1億円以上の報酬等を得ている役員の実名、額を開示されたい」、「役員賞与支給議案について、個人別支給額を明らかにされたい」等の事前質問を行った。
  • 会社は、事前質問について一括回答を実施。株主総会の開催日については、「①株主総会は基準日から3か月以内に開催することと法で定められているほか、法定の監査日程などの関係により6月末となること、②最終営業日を避ける必要があるため、最終営業の前営業日に開催している」等と回答した。
  • また、役員賞与については、「①支給額は昨年と比較して約15%減額していること、②支給額の開示は法令に基づいて行っており、個別支給額を開示しないことは株主の利益を損なうものではないと考えている」等と回答した。
  • 原告は、一括回答の内容がいずれも虚偽である旨を主張。

裁判所の判断

  • 役員賞与支給議案の審議に際し、対象者を限定した連結役員報酬(賞与)支給額について言及していることを明示しないまま、A 社単体ではなく子会社を加えた連結ベースで支給される賞与の合計額の前年度比の水準を説明しており、株主に対する説明としては甚だ分かりにくい。
  • 個々の支給額を前年度と比べ減額したという説明は、賞与支給対象の役員全員に対する個々の支給額を減額したと株主に誤解させる可能性がある。
  • 決議の方法には不公正な点があったというべき。

 しかし、裁判所は上記のほかに以下の事実についても言及しています。

  • A社の役員賞与支給額の総額、支給の対象となる取締役・監査役の数は招集通知のほか、議長が議案を上程する際にも明らかにされており、株主はそのこと自体は認識した上で同議案を承認可決している。
  • 議決権の事前行使における賛成票の数に鑑みれば、一括回答の内容は決議の成否に影響を与えなかった。

結論

  • 以上の事情を勘案すると、決議を取り消さなければならないほどの重大な瑕疵であるということはできない。

過去の類似の裁判例

 従業員株主による株主総会の運営支援については、過去にも裁判例があります。

「株主総会のリハーサルと従業員株主に命じて議事進行などの発声をさせた事例」
(大阪高裁平成10年11月10日判決、大阪地裁平成10年3月18日判決)
〔要旨〕
  • リハーサルにおいて、従業員株主ら会社側の株主を出席させ、その株主に議長の報告や付議に対し、「異議なし」、「了解」、「議事進行」などと発言することを準備させ、これを株主総会において実行して一方的に議事を進行させた場合は、一般株主から質問する機会を奪うことになりかねない
  • 株主総会招集権者が、自ら意図する決議を成立させるために、従業員株主に命じて、役員の発言に呼応して賛成の大声を上げたり、速やかな議事進行を促し、他の一般株主の株主権を不当に阻害する行為を行なわせた場合は、法令に違反し又は決議の方法が著しく不公正な場合に該当する

 上記 3記載の裁判例(以下、過去の事案といいます)は、従業員株主が株主総会運営に協力した点については、上記1の裁判例(以下、本事案といいます)と類似しています。

 一方で、過去の事案では、従業員株主の発声が一般株主から質問する機会を奪うことになりかねないと指摘していますが、本事案においては、裁判所が従業員株主の質問が一般株主の質問を誘引している面があると判断している点に違いがあります。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-6250-4354
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