弁護士・投資家・企業の目から見た「建設的な対話」の価値

コーポレート・M&A
服部 英明 春尾 卓哉 水谷 光太 板橋 正幸

 スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの適用がそれぞれ2014年および2015年から開始され、機関投資家および企業の対応も進んでいる。ところが、2017年5月に改訂されたスチュワードシップ・コードの中で、「両コードの下で、コーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られるものの、いまだに形式的な対応にとどまっているのではないかとの指摘もなされている」と有識者検討会が提起しているように、コードへの対応が「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」に資するにはまだ道半ばという印象も受ける。

 コーポレートガバナンスをめぐる議論の最新動向を踏まえたうえで、弁護士・投資家・企業それぞれの視点から、「企業と株主の対話」がもたらす価値と、実効性のある対話を行うために必要なことについて考えてみたい。

株主と企業、お互いに柔軟な対応が求められる

 コーポレートガバナンス・コードの適用以後、実務上での問題を踏まえ制度の整備が進んでいる。この動きの中で、あるべき「企業と株主の対話」の姿について、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の塚本 英巨弁護士に聞いた。

コーポレートガバナンスを巡る制度整備の動向について教えてください。

塚本氏
 2015年6月、上場会社に対するコーポレートガバナンス・コードの適用が開始されました。同コードには73の原則が定められ、上場会社は、各原則を実施するか、または実施しない理由を説明する必要があります。コードは、独立社外取締役を2名以上選任することのほか、株主との間で建設的な対話を行うことなどを求めています。

 2017年5月には、コーポレートガバナンス・コードと「車の両輪」を成すとされるスチュワードシップ・コードの改訂版が公表されました。スチュワードシップ・コードは、機関投資家に対し、投資先企業との建設的な目的を持った対話(エンゲージメント)を行うことを求めるものです。改訂版では、機関投資家が、議決権の行使結果について、個別の投資先企業および議案ごとに公表することを求められている点が特に注目されています
 また、同じく2017年5月、経済産業省は、「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」を公表しました。ガイダンスでは、企業と投資家との間の対話や情報開示の質を高めるための基本的な枠組みが提示されています。

 このように、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、企業側と株主側の双方に働き掛けるための制度の整備が進んでいます。

こういった動きの中で、企業と株主との対話は企業価値を向上させるために、どのような役割を果たすと位置づけられているのでしょうか。

塚本氏
 企業としては、株主との対話を行うにあたり、現状のガバナンス体制を選択している理由、事業戦略をとっている理由を点検・整理しておく必要があります。そのような営みの中で、企業側において、自社の改善すべき点や課題、強みに気付くことができます。その結果、改善すべき点や課題を解決し、強みをさらに伸ばしていくことになります。

 また、株主が、企業に対し、第三者的な視点から情報を求めたり提案を行ったりすることにより、企業にとってそのような気付きのチャンスとなることが考えられます。さらに、企業としては、結果的に株主の提案をそのまま受け入れることがないとしても、受入れの可否を真摯に検討することによって新たな気付きの機会を得られるかもしれませんし、また、漸進的にでも提案を受け入れるために社内を動かすきっかけになる可能性もあります。
 このような企業と株主との間の建設的な対話を継続して行うことにより、企業が中長期的に企業価値を向上させていくことが期待されます。

コーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの趣旨から、企業と株主はそれぞれどのような点を重視して対話をするべきでしょうか。

塚本氏
 企業にとっての株主との対話の目的および株主にとっての企業との対話の目的は、いずれも、企業の持続的な成長を促し、また、企業の中長期的な企業価値を向上させる点にあります。そのような観点から、企業としては、中長期的な経営計画を達成するための手段として、具体的な戦略の計画と実行状況や、経営計画と個別の戦略・戦術がどのように結びついているのか、さらに現状のガバナンス体制がどのようにして企業価値向上のための規律付けとなっているのかということについて、株主に対して丁寧に説明することが求められます。そのような説明が、経営トップの言葉でわかりやすく語られると、より効果的でしょう。

 これに対し、株主としては、企業側による情報開示をただ待つのではなく、第三者的かつ中長期的な視点から、たとえば、企業の意図を市場に対して適切に伝えるための情報発信のあり方や、ガバナンス機能をより効かせるための方策等について、企業にとっての「気付き」となるような形で、前向きな対話をすることが求められるでしょう。

今後、企業と株主との関係はどうあるべきと考えますか。

塚本氏
 スチュワードシップ・コードが改訂され、投資先企業および議案ごとの議決権行使結果について、機関投資家による開示が進むことにより、機関投資家の反対票が増加することが見込まれます。他方で、企業側からは、機関投資家や議決権行使助言会社がその議決権行使方針を形式的・機械的に適用して反対の議決権行使(または反対推奨)を行うことに対する不満も聞かれます。

 株主側において、議決権行使方針を形式的に適用し、または議決権行使助言会社の推奨をそのまま受け入れるだけなのであれば、企業と株主との間で対話をする意義に乏しいともいえます。「建設的な対話」という観点からは、株主としては、各企業がそれぞれ置かれた具体的な状況・環境を踏まえ、柔軟な対応をとることも、時には必要かつ適切な場合もあると考えられます。
 また、企業側としても、現状がベストであるという硬直的な姿勢ではなく、内容次第では株主の提案も採り入れる余地があるという柔軟な姿勢も示しつつ、株主の理解・納得を得られるような説明をする努力を粘り強く続けることが求められるといえます。

 企業と株主との間には、適度な緊張関係が必要ですが、株主が過度に批判的・攻撃的になり、また、企業がそれに対して防御的な対応一辺倒になることがないように、双方留意する必要があるでしょう。

投資家は建設的な対話にどう取り組んでいるか

 企業が持続的に成長し、企業の中長期的な企業価値を向上させることが「建設的な対話」の目的であり、企業・投資家双方による柔軟な対応の重要性が塚本 英巨弁護士の解説から見えてきた。
 では、具体的に投資家は建設的な対話を実践するためにどのように取り組んでいるのだろうか。スパークス・アセット・マネジメント株式会社でエンゲージメント・ファンドの運用に携わる執行役員ファンドマネージャーの服部 英明氏、ファンドマネージャーの春尾 卓哉氏、シニアアナリストの水谷 光太氏に聞いた。

スパークス・アセット・マネジメントについてご紹介いただけますか。

服部氏
 スパークス・グループは、1989年創業の独立系の資産運用会社です。2001年に、独立系としては初めて、JASDAQ市場に株式を公開し、現在、JASDAQスタンダード市場に上場しています。
 スパークス・アセット・マネジメントは、グループ会社のひとつで投資運用業を手がけています。真にお客様の資産形成に資する商品を組成し、ご案内することを通じ、「世界で最も信頼、尊敬されるインベストメント・カンパニー」になることを目指しています。スパークス・グループの2017年7月末時点の預かり資産残高は約1兆円で、約60%は海外投資家からの資金です。投資対象は、日本株、アジア株、再生可能エネルギー発電施設、不動産、未公開株と分かれていますが、資産の約67%は日本株に投資しています。

スパークス・アセット・マネジメントではスチュワードシップ責任について、どのように捉えられていますか。

服部氏
 スパークスでは創業時から海外投資家の資金を預かってきたこともあり、日本語では「財産管理人」と訳されるスチュワードの責任について、早い段階から自覚し取り組みを進めてきました。
 創業期の1990年代、投資家向け広報(IR)体制は今とは比べ物にならないほど未整備でしたが、当社は経営者との面談を通じ企業価値向上策を提案してきました。2003年には、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)からも資金を預かり、エンゲージメント型の投資を本格化しました。その後、リーマンショックに端を発した金融危機もありカルパースとの契約は終わりましたが、投資で高いリターンを記録した事例も、生まれました。

 2000年代の日本には、株主への配慮を増すことを求めるアクティビズム活動は、敬遠されるムードがありました。こうした中、私たちは日本企業の1社1社に文化や流儀があることを心得、時間をかけて対話する方針をもっています。このスタンスは、他社のエンゲージメント活動のスタイルとは異なる日本的アプローチとご評価いただくこともあります。たとえ話ですが、土足で企業に近づき株主の権利だけを一方的に主張するアクティビストとは異なる「靴を脱ぐ投資家」として、メディアでご紹介いただいたこともあります。

 金融庁のスチュワードシップ・コードの方針や市場におけるコーポレートガバナンス強化の流れを支援するため、2017年3月期決算企業から、議決権行使結果を個別企業ごとに開示しています。議決権行使にあたっては、「社外取締役は●人以上」や「ROEは●%以上」といった一律の基準を設けるのでなく、投資先企業とじっくり対話して経営の実情を把握したうえで、議決権を行使しています。

コーポレートガバナンス・コードが適用された事によって、企業の姿勢に変化は見られますか。

水谷氏
 2015年にコーポレートガバナンス・コードが導入されて以降、明らかに企業は変わりつつあります。たとえば、社外取締役の活用については、すでに東証一部上場企業の8割が2人以上の社外取締役を選任するなど、コードを遵守した形でガバナンス体制が整備されてきています。ガバナンスに対して意識の高かった大企業はもちろんのこと、これまでそうしたことに注意を払っていなかった中小企業についても、社外取締役の選任など体制が整備され、投資家との対話も活性化していると思います。

外形的にはコーポレートガバナンス・コードに対応する体制が整備されていても、対話が進んでいない企業もまだ多い印象もあります。

水谷氏
 確かに、外形的な体制が整ったとはいえ、肝心なコードの精神が未だ理解されていないと感じることもあります。
 コーポレートガバナンス・コードの導入が「仏作って魂入れず」の状況にならないよう、企業・投資家双方がコードの精神を理解し、建設的な対話を進める努力を継続すべきだと考えます。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社 シニアアナリスト 水谷 光太氏、執行役員ファンドマネージャー 服部 英明氏、ファンドマネージャー春尾 卓哉氏

左から、スパークス・アセット・マネジメント株式会社 シニアアナリスト 水谷 光太氏、執行役員ファンドマネージャー 服部 英明氏、ファンドマネージャー春尾 卓哉氏

では、実際に投資先の企業と対話をされた事例についてご紹介ください。

春尾氏
 第一稀元素化学工業株式会社様との対話の事例をご紹介します。同社はジルコニウム化合物に特化した化学会社であり、特定の領域で世界シェアトップを築いています。ジルコニウム化合物の将来性と他社が模倣できない技術に着目し、当社は長期に亘り投資をしています。

 株主還元の目安として、配当性向を30-40%に設定する企業が多い中、過去数年の同社は10%以下で推移しています。積極的な成長投資を計画していること、業績が悪化した際でも極力減配を避けたいとの思いが、現在の資本配分の背景にあると理解しています。着実に進めようとされる姿勢は同社らしい一方で、現在の財務基盤や投資に必要な資金から、適切なバランスであるかご再考頂きたいと面談の度に申し上げています。

そのような提案によって変化は見られるでしょうか。

春尾氏
 コーポレートガバナンス・コードが定められたこと、そしておそらくは当社を含む株主からの要請が強くなりつつあることを契機として、資本政策のあり方に関する同社内の議論は活発化している模様であり、すでに具体的な行動がいくつか取られています。当社との対話が、第一稀元素化学工業の経営陣にとって「気付き」の手がかりになれば、株主としての喜びです。当社は、同社の発展と株式市場からの適正な評価を目標として、今後も中長期的な視点で対話を重ねていきたいと考えています。

帝国繊維株式会社には大量保有報告書提出に関する参考資料として、要望を出されています。こちらはどのような対話を進められているのでしょうか。

服部氏
 同社は防災製品を取り扱う企業です。消防ホースの生産では国内の最大手で、それに加えて現在では、海外から先端的な防災特殊車両、救助資機材、テロ対策機材などを輸入し、自治体や企業に対して販売しています。同社の祖業は麻製品の生産でしたが、日本における繊維業の衰退に伴い、同社の経営も長く不振が続き、一時は倒産の危機に瀕しました。しかし現在の経営陣が防災事業を成長させることで見事に再建を果たし、今では高収益企業として復活を遂げています。
 素晴らしい本業を有する一方、株主の視点からは、同社の資本政策には問題があります。

具体的にはどのような問題があるのでしょうか。

服部氏
 投資にも株主還元にも使われない現金と、コア事業とのシナジーが薄いと考えられる投資有価証券(持合い株式)が同社のバランスシートに積み上がっています。金額で示しますと、2017年6月末時点では、同社の時価総額は約508億円であるのに対し、金融資産は約459億円(内訳は、約235億円の現金同等物と、約224億円の投資有価証券)にものぼります。企業規模に比していかに巨額か、おわかりいただけると思います。同時にこれは、帝国繊維の優良な事業がごく僅かな価値しか有さないと株式市場に評価されていることを意味します。

どうすればこの問題を解決できると考えますか。

服部氏
 この状態から脱却するためには、帝国繊維の経営陣が非効率な資本配分を是正し、ROEを高めることが必要です。当社は2014年4月に同社に投資を始めて以降、同社の経営陣と対話の努力を続けています。最初の1年間は、3か月ごとに電話をして面談をお願いしましたが、「株主とは会わないのが会社の方針」とのことで、訪問して対話をすることがかないませんでした。しかしその後は、当社との対話に応じていただいています。
 残念ながら、これまでのところ、同社の経営陣は資本効率の改善に向けて具体的な行動を起こしていませんが、当社は株主として今後も粘り強く対話を続けていく考えです。

企業と株主との関係は今後、どうあるべきだと考えますか。

服部氏
 企業には多様なステークホルダー(利害関係者)が存在します。経営者や従業員、顧客や取引先、債権者などがそれにあたります。もちろん株主もステークホルダーの一人です。企業とこれらステークホルダーの関係のあり方は、国によって、また個別の企業によって様々ですが、理想的には企業と各ステークホルダー間にバランスの取れた関係が成立していることが望ましいと思います。

 しかし現実に目を向けると、あくまでもおおまかに類型化した議論ですが、たとえばアメリカでは、近年、「経営者が高い報酬を得すぎている」「株主が企業の生み出す経済的利益を過大に受け取っている」という批判が強まっていたことは、「ウォール街を占拠せよ」のような社会運動に見られるとおりです。

 一方、日本では、歴史的に従業員や顧客、経営者などはおおむね適切に遇されて来たものの、株主は軽視をされる傾向にあったことは否めないと思います。このような傾向が、日本版スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードによって是正されようとしています。具体的には、より株主に配慮した企業経営が求められつつあります。これは、決して「株主をすべてに優先させる」といった変革ではありません。株主にも適切な配慮を与え、ステークホルダー間の関係を理想的なバランスに近づけようという取り組みにほかなりません

 日本では株主の立場が相対的に弱い時期が長く続いたため、この変革に違和感を抱く上場企業が依然として多いことはやむを得ないところでしょう。企業と株主の望ましい関係について、両者の間に認識の溝があります。この溝を埋めていくためには、両者間での活発な議論、意見交換の積み重ねが必要です。株主提案も、企業と株主が特定の問題について主張をぶつけ合い、議論を深めるための契機の一つになりうると思います。このような議論の積み重ねが、日本のコーポレートガバナンスをより良い方向に導いていくのではないかと考えます。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社 シニアアナリスト 水谷 光太氏、執行役員ファンドマネージャー 服部 英明氏、ファンドマネージャー春尾 卓哉氏

対話を通じて企業にはどのような変化が生じたか

 対話を通じた企業価値向上を求める株主の声を企業側はどう受け止め、成長に役立てようとしているのだろうか。第一稀元素化学工業株式会社の企画部長、板橋 正幸氏に聞いた。

スパークス・アセット・マネジメントからの提案をどう捉えていますか。

板橋氏
 スパークス・アセット・マネジメント株式会社様とは、阿部社長をはじめ、面談させていただいている皆様が、当社の事業内容や業績、今後の事業展開などご認識いただいており、非常に有意義な対話につながっていると考えています。その中で、時には厳しいご意見を頂戴することもございますが、当社が外部、特に投資家の皆様からどのように見られているか、新たな気付きを得る貴重な機会であると感じています。

対話を通じ、経営の方針に変化は生じましたか。

板橋氏
 対話を継続し、その内容をボードメンバーにフィードバックすることで役員会等における業績や成長戦略等に関する議論、外部への発信内容などが、以前よりも投資家目線を強く意識するようになったと感じています。
 その結果、決算説明会等においては経営状況をより正しく認識して頂く事に主眼を置いた説明をするようになり、当社を幅広く一般株主に知って頂くための個人投資家向けセミナーへの参加や、配当政策等の株式に関する議論が活発に行われる等の変化が生じています。

対話に際して、株主に求めることはありますか。

板橋氏
 成熟企業では株主還元の一環で自己株買いや高配当性向による還元が活発に検討されていますが、当社は研究開発型の企業であり、研究開発投資と需要拡大に応えるための増産投資に積極的に資金を投入したいと考えています。一方で、適正な株価形成や業績に応じた配当などにより、株主の皆様のご支援にお応えしていく必要があるとも考えています。
 当社は社外から取締役2名を招へいし、監督機能を強化すると共に、社内の慣習にとらわれない発想で新陳代謝を図ろうとしており、株主、特に機関投資家との対話も変革の機会と捉えています。
 今後の成長戦略や財務規律などについて、当社から内容をご説明するとともに、建設的な対話を通じて、当社の成長を応援していただきたいと考えています。


 3者の視点を通じて、「建設的な対話」には様々な価値があることがわかった。「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」という目的に資するのは当然のこと、そのための第一歩である「気付き」や将来的には「ステークホルダー間の関係を理想的なバランスにする」ことにもつながる。
 コーポレートガバナンスの強化が求められていく中で、真に価値のある「建設的な対話」をするためにも、企業・株主の双方が柔軟な姿勢を取ることはこれから一層重要となるだろう。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

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