伊藤レポート2.0が日本の"対話先進国"を後押しする

コーポレート・M&A
片桐 さつき

 2017年10月26日、(株)ディスクロージャー&IR総合研究所は、企業の開示担当者に向けたIR・ESGセミナー「対話・エンゲージメントで変わる企業の情報開示」を開催し、200名を超す参加者が集まった。

 一橋大学大学院商学研究科の特任教授である伊藤 邦雄氏の基調報告では「ガバナンス改革による対話・開示先進国に向けて」として、企業が膨大なESG情報を企業価値と結び付け、対話・エンゲージメント・開示に取り込んでいく事の重要性とその意義について語られた。
 ROEは短期主義に陥る可能性があり、ESGには資本生産性が低い事の隠れ蓑になる可能性もある、つまりROE、ESG双方に一種の毒があると伊藤氏は述べる。そうした上で「ROEとESGは二項対立で考えるのではなく、良質なROEと良質なESGで幸せなマリアージュをすべき」と言い、ROEとESGがどちらも重要であることを示す「ROESG」という新たな考え方について語られた。

 次の基調講演では、経済産業省 産業資金課長兼新規産業室長の福本 拓也氏が登壇し、今年5月にリリースされている「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス - ESG・非財務情報と無形資産投資 - (価値協創ガイダンス)」の意義と活用方法等が語られた。併せて福本氏は新たに重要なレポートが同日にリリースされたことも公表した。それが「伊藤レポート2.0「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」報告書)」(以下、伊藤レポート2.0)だ。

 2014年8月に公表された「伊藤レポート」では、「企業が投資家との対話を通じて持続的成長に向けた資金を獲得し、企業価値を高めていくための課題」を分析し、提言を行っている。後に具体的な政策対応が行われ、その結果として東証一部上場企業のROEは、当時の2.5〜5%から2016年時点では5〜7.5%まで上昇したという1
 経済産業省では、昨年8月に立ち上げた「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」において企業の情報開示や投資家との対話のあり方等について検討を行ってきた、としている。「伊藤レポート2.0」は、この研究会の提言とその議論の過程をまとめた報告書である。

 「伊藤レポート2.0」では8項目の提言が行われており、まず1つ目に「企業と投資家の共通言語としての「価値協創ガイダンス」策定」を掲げている。このガイダンスに期待される機能として「企業経営者が企業価値創造に向けた自社の経営のあり方を整理し、振り返り、さらなる行動に結びつけられるようなものとすべき」としている。
 さらに「投資家やアナリストは、企業側からガイダンスの項目が一方的に開示・説明されることを待つのではなく、自らガイダンスを参照して企業と対話を行い、自らの投資判断に必要な情報を把握することが期待される」としている。このガイダンスを企業だけではなく投資家も用いることで、持続的な価値協創に向けた行動が促されることを期待しているものだ。企業と投資家の「言語」に対する認識には、くい違いが生じる事が多々ある。企業も投資家も、この認識のギャップを埋める事が可能なガイダンスを使わない手はないだろう。共通言語として価値協創ガイダンスが使われれば、お互いの誤解が解け、良い方向で対話・エンゲージメントが促進する。

 この他にも、4つ目の「開示・対話環境の整備」では、企業・投資家それぞれの自発的な取り組みと共に前提条件となる制度環境を整えることも必要だとしている。未来投資戦略2017では「関係省庁等が共同して制度・省庁を超えた横断的な検討を行い、2019年前半を目途として国際的に見ても効果的且つ効率的な開示の実現に向けて検討及び取り組みを進める」とされており、制度開示も含めた開示環境の見直しを図ることが示されている。

 「日本を対話先進国にしよう」前述のセミナーで伊藤氏は語る。「先進国の後を追うのではなく、先進国の先を行こう」と。我が国は、ガバナンス改革でインベストメント・チェーンの全体最適化を図り、日本経済の好循環及び持続的成長を確保しようと、本気で長年の悪しき潮流を変えようとしているのだ。この潮流を一時のブームだと見るかどうか・・・その判断を見誤らないでほしい。なぜなら、その判断は企業として存続できるか否かの判断になるかもしれないからだ。

本記事は、株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所が発行している「研究員コラム」の内容を転載したものです。
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