神戸製鋼データ改ざん、日本企業にはびこる「カビ型行為」のメカニズム 内部通報では発見できない日本企業の悪しき慣習

コーポレート・M&A

 神戸製鋼所は10月8日、アルミ・銅製品の一部について、顧客企業との間で取り交わした製品仕様に適合していないにもかかわらず、データの書き換え等を行うことにより、仕様に適合するものとして出荷していたと公表1。データの改ざんは数十年以上も前から組織ぐるみで行われていたという。その後の調査によって複数の部材、JIS規格の検査証明書の書き換えなどの不正も行われていたことが公表された。

 昨年も神戸製鋼所のグループ会社でJIS規格に違反する改ざんが発覚した中で、今回明るみになった不祥事は、日本企業の品質への信頼を揺るがす事態となった。企業不祥事が相次いで起こる中、神戸製鋼の不祥事にはどのような特徴があり、今後どのような影響を及ぼすのか。コーポレートガバナンスの第一人者である郷原 信郎弁護士に聞いた。

典型的な“カビ型行為”としての不祥事

今回の神戸製鋼の不祥事が、今までに他社で発生した不祥事と共通する点、異なる点があれば教えてください。

 長期間にわたって継続しているという「時間的な拡がり」と、組織内の多数の人間が関わっているという「人的な拡がり」を有する不正を、違法行為は継続的・恒常的に行われる場合が多く、一定の分野全体、業界全体に、ベタッとまとわりつくように生えていることも珍しくないことから、私はかねてから“カビ型行為”と称している。一方で、個人の利益のために、個人の意思で行われる単発的な不正を、ハエや蚊のような害虫が、小さくても、その意思で行動することから“ムシ型行為”と称してきた。

 今回の神戸製鋼の不祥事は、“カビ型”の典型だ。このような行為は、法令と実態の乖離や取引慣行、業界の体質などの構造的な要因を背景に行われるもので、日本の企業不祥事の特徴といえる。
 同種の“カビ型”の問題は、まだ多くの日本企業の組織内で潜在化していると考えられる。そういう意味では、2015年に明るみになった東洋ゴムの免振ゴムをめぐる性能データ改ざん、旭化成建材の杭打ちデータ改ざんなどと共通する。

 本件について留意すべきは、法令違反の問題ではなく、取引先との契約上の仕様に対する適合性に関してデータが改ざんされていた問題であるが、それが企業内の広範囲の製品に及んでいるところがこれまでの不祥事と異なる点だ。しかも、神戸製鋼は過去にも様々な不祥事を繰り返している。それが今回、特に厳しい社会的批判を受けることにつながっている。

長期間にわたって、組織ぐるみで不祥事が行われてきた悪質性についてはどう考えますか。

 “カビ型行為”は、不正が始まった時点においては何らかの構造的な要因がある場合が多い。法令の内容が実態に反していて、形式的には不正であっても、実質的には大きな問題はないと当事者が認識していることが背景にある。

 神戸製鋼は、特採(特別採用)2と呼ばれる製造業の慣行を悪用し、仕様に適合しない製品を適合していると偽って出荷していたとされているが、当初、客先の仕様・要求が過剰だという認識が、問題を正当化する要因になっていた可能性がある。そのような行為が長期間にわたって継続していると、不正であることがわかっていても、それをあえて表に出すことはできず、隠ぺいに走ってしまうというのが、これまで同種の不祥事で繰り返されてきた構図だ。
 問題は、このような構造的な要因によって、データを正確に記録しなければならないという意識が稀薄化し、最終的には、実質的に問題がある不正まで生じたかどうかだ。

公表のタイミングは非常にまずい

事態発覚から経済産業省への届出まで1か月かかり、最初の公表は連休の最中に行われています。対応の問題点はどこにありますか。

 経営陣が事態を把握してから、全容を把握するための社内調査や取引先への説明に、一定の時間を要したと考えられる。B to Bの業態においては取引先の意向を無視することはできず、その面で危機対応には一定の制約が生じる。不正の対象が広範囲にわたり、取引先の数も多いことから、慎重に対応せざるを得なかったものと思われる。

 三連休の中日である10月8日、日曜日の午後に、突如記者会見を開いたのは、マスコミ側に、「ただちに対応が必要な緊急事態」との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては非常にまずかった。平日の公表であれば、マスコミの反応ももう少し冷静なものになっていた可能性がある。しかも、その場で自動車や新幹線、旅客機など、日常生活になじみのある製品の多くに仕様に適合していない部材が使用されていることが判明し、その安全性について明言できなかったことにより、問題への関心が一気に高まり、マスコミの取り上げ方も大きくなった。
 その後、主要製品については安全性が確認されつつあるが、神戸製鋼という企業の信頼性そのものが大きく傷ついてしまい、製品の安全性が確認されても、それによって事態を収束させることが困難な状況になっている。

内部監査、内部通報では把握できない問題

組織内で行われている問題行為やコンプライアンスリスクを把握するための仕組みとして、内部監査や内部通報制度がありますが、どうすれば不正の発見に役立てることができるのでしょうか。

 内部監査と内部通報制度は、“カビ型行為”を把握する機能を十分に果たしているとはいえない。“カビ型行為”は、長期間にわたって行われている間に、隠ぺいを伴い、しかも、その隠ぺいが巧妙になる。企業内の一部門に過ぎない内部監査担当部門が組織内で意図的に隠ぺいされた問題を発見し、指摘することは容易ではない。

 内部通報制度は、社員個人の自発的なアクションに委ねられており、上司への不満などの個人的な動機による申告が大部分だ。組織的な問題である“カビ型行為”を認識している社員は、自らも不正に関わっており、秘密が守られるか否かの不安もあり、内部通報を躊躇することが多い。不正行為に堪えられない社員は、多くの場合、告発者の秘匿が保証されるマスコミや監督官庁など社外への内部告発を選択する。

このような不正がまだ多くの日本企業で潜在化しているとすると、どのような対策が有効なのでしょうか。

 「コンプライアンス上問題がある行為」に関わらざるを得ない社員から自発的な情報を引き出す方法としては、“問題発掘型アンケート”が有効だ。

 会社から切り離され、独立性・中立性が確保された主体が、アンケートの実施から結果の分析までを行い、会社には分析結果のみを報告することで、信頼性を確保する。1次調査では、十分な事前ヒアリングで会社の現状を把握し、現場の実情と想定されるリスクに即した質問項目に回答してもらう。それに関連づける形で、自由記述式の質問を行い、社員からの自発的に問題の指摘をしてもらう。1次調査で何らかの問題があることを示唆した社員を対象に、2次調査で、さらに具体的な回答を求める。
 このような方法によるアンケート調査を、会社から独立した主体と社員との間で行うことによって、経営陣が把握していなかった検査データの改ざんが見つかり、解決につながった事例がある。

今後の経営、日本企業への影響

今後の経営へはどのような影響を与えますか。

 データ改ざんの対象製品は売上ベースで約4%だが、製品交換や損害賠償請求などにどの程度の費用を要することになるかは、現時点では見通せない。特に、海外のメーカーとの関係では注意が必要だろう。また、神戸製鋼に対する信用力低下の影響は非常に大きい。問題の公表直後、時価総額は約4割減少した3

 一部製品のJIS認証の取り消しを受けて、他メーカーへの契約切り替えの動きが進む可能性もある。10月30日の中間決算発表では、黒字に転じるとしていた2018年3月期の業績予想を「未定」に修正した4。信頼回復にあたっては、まずは今回の不祥事について、特採という慣行が正式に使われなかった理由、「改ざん」「偽装」行為が社内で“カビ化”した背景にある構造的要因など、実態を踏まえた原因究明を、外部調査委員会を中心に徹底的に行なっていくことが必要だろう。

神戸製鋼の米国子会社(Kobe Steel USA, Inc.)が、米国司法当局から、神戸製鋼グループが米国顧客に対して販売した製品の仕様不適合に関する書類を提出するよう求められました。

 外国企業との間では、実質的な安全性に問題がないという理由で、仕様に適合しない製品を納入するという「暗黙の了解」が入る余地はない。米司法省の調査によっては、法令違反が指摘される可能性もある。集団訴訟の懸念もあり、国内以上に注意が必要ともいえる。

今回の不祥事は日本企業全体に対する海外の不信感にもつながるのでしょうか。

 今回の神戸製鋼の不祥事が、「日本企業のガバナンス」に対する不信感につながるのは当然だろう。しかし、実際には、組織内で潜在化している“カビ型行為”は、関わっている社員が不正を自発的にやめることも、組織の上層部が把握することも難しく、単なる「ガバナンス」によっては解決が困難だ。そこが、東芝のような経営者主導の不正とは本質的に異なる。両者が混同されてガバナンス問題として論じられると、日本企業全体に対する不信感につながりかねない。“カビ型行為”をいかに把握し、解決していくかが、日本の企業社会全体にとって、極めて深刻かつ重大な問題だ。


  1. 神戸製鋼所「当社が製造したアルミ・銅製品の一部に関する不適切な行為について」(2017年10月8日) ↩︎

  2. 工場では顧客と契約した品質・規格に満たない製品は一定割合発生してしまうが、あらかじめ両社で定めた規格を下回っていても、強度や耐久性に問題がなければ、不適合品でも顧客の了承を得たうえで購入してもらう制度。JISにも定められている。 ↩︎

  3. 日本経済新聞「神戸鋼株、4日間で時価総額4割消失 鉄鋼に広がる不正」(2017年10月13日) ↩︎

  4. 神戸製鋼所「第2四半期業績予想と実績との差異及び通期業績予想の修正、並びに配当予想の修正に関するお知らせ」(2017年10月30日) ↩︎

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集