気候変動とESGリスク管理

コーポレート・M&A
大津 克彦

 2017年11月6日、地球温暖化対策について話し合う国連会議「COP23」がドイツのボンで開幕した。2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組みとした「パリ協定(地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑える)」のもとで、各国の温室効果ガスの削減目標をどう検証するか、また、どのような形で資金支援を行うかなど、190以上の国と地域が参加し協定の具体的なルール作りの交渉が始まった。今回の会議は、アメリカのトランプ政権が脱退表明後、初の協議となり今後の交渉が難しくなりそうだ。

 環境に関する企業の取り組みとその情報はESG情報として統合報告書やCSR報告書などでも開示されているが、自社のCO²排出を削減する努力など慣例的な記載に留まっているように見受けられる。しかし現実はもっと厳しい状況になっている。例えば、フランス政府は温室効果ガス削減に向け「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する」方針を明らかにしており、日本でも大手自動車メーカーが「2050年にはディーゼルやガソリンといったエンジン車の新車販売をほぼゼロにする」1などの方針を打ち出し、環境に対する考え方は大きな転換期を迎えている。企業は脱炭素社会を目指す世界の流れに危機感を持った対応が求められているのではないだろうか。

 日本の企業は、これまでESG投資の視点からもESG情報の「S」と「G」の情報が不足していると指摘されることが多々あった。日本企業は、今から20年以上も前から「環境報告書」などで積極的な情報開示に努めてきた経緯もあり、海外でも比較的評価されていた。しかしそれが「慣例」となってしまい自社の環境活動の報告に留まり、社会課題の側面から「環境」を捉え、自社の成長戦略や差別化戦略に組み込んで開示している企業はまだ少ないように思う。

 地球温暖化による「気候変動問題」は、ESG投資の視点においてもその重要性がますます高まってきている。2014年には国際的な研究者の組織であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第五次評価報告書によれば「CO²の累積総排出量とそれに対する世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある。気候システムの温暖化には疑う余地はない」と発表した。一方イギリスの非営利団体であるCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)による企業評価は、2016年スイスに本社を置くインデックス提供会社STOXXにより「STOXX Low Carbon Indices」として開発されるなど、気候変動(環境)問題は資本市場にも影響を及ぼしていると言える。よって投資家は「E」情報をESG投資の重要なファクターとして捉えているのだろう。GPIFは今年発表した3つの指標に加え「環境(E)テーマ型」のグローバル環境株式指数の公募を開始しており、以前にも増して企業の環境に対する意識レベルが投資家から測られるだろう。

 気候変動問題は、グローバル企業だけの問題ではない。市場経済の中で事業展開を行うすべての企業においても、投資家にとってもリスクになる可能性がある。この問題は、財務リターンを毀損し得るリスクとして、顕在化しつつある。その一端が、温室効果ガスの排出抑制のために、資産として保有している化石燃料が実際には使えない資産として扱われることを意味する「座礁資産」だ。エネルギーの希少性が高まれば、これまでの延長線上でビジネスすることは難しくなり、市場経済の中で事業展開を行うすべての企業に影響を与えることになる。ESG情報はリスク管理のための情報でもあり、リスクを回避することは、結果として長期的なパフォーマンスの改善や安定化にも貢献することになる。国際的な温暖化対策の枠組みとしたパリ協定「COP23」が作る地球温暖化対策としてのルールに対し、いかに応え環境にポジティブな実績を積んでいくのか。プレーヤーとしての企業の対応が注目される。

本記事は、株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所が発行している「研究員コラム」の内容を転載したものです。

  1. トヨタ自動車株式会社「トヨタ自動車、「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表」(2015年10月14日) ↩︎

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