平成30年度税制改正がM&A・組織再編の実務に与える影響

コーポレート・M&A

はじめに

 平成29年12月22日、政府により平成30年度税制改正大綱が公表され、その後、財務省により改正法案が公表されました。

 参照:平成30年度税制改正の大綱
 参照:所得税法等の一部を改正する法律案(財務省)

 平成30年度税制改正では、多くの税目に関する改正が行われますが、本稿では、M&A実務に影響を与える改正事項について、その概要および実務上の影響を中心に解説します。

 なお、平成30年度税制改正のうちM&A実務との関係では、株式対価M&Aと、スピンオフの活用拡大策が主要な改正事項ですが、産業競争力強化法および関連法令の改正とも関係しており、ポイントとなります。産業競争力強化法は、組織再編等を通じた事業構造の変更の促進・円滑化を目的とするものであり、会社法等の特例措置を認めていますが、本稿では、産業競争力強化法の改正の方向性についても必要な範囲で触れるようにいたします。

 

参照:「生産性向上特別措置法案」及び「産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。(経済産業省)


 なお、本稿は、平成30年3月1日時点で得られる改正の情報をまとめたものであり、最終的に成立する法律の内容およびその後に改正される政省令や告示等の内容により変更の可能性がある点にご留意ください。

株式対価M&Aの可能性を拡げる改正

株式対価M&Aを巡るこれまでの法整備の状況

 自社株式を対価とする買収は、手元資金の確保や外部からの資金調達を要しない買収手法として、特に大規模なM&Aにおいて、欧米等では広く用いられています。この点、日本の株式会社が自社株式を用いてM&Aを行う場合、会社法上は、以下の方法が考えられます。

  1. 対象会社の株式と引換えに、新株発行(自己株処分も同様)を行う方法
  2. 株式交換などの会社法上の組織再編を行う方法

 もっとも、①については、現物出資規制(検査役の調査および取締役の価額填補責任等)や有利発行規制を遵守する必要があるため活用が難しく、②の組織再編については、対象会社が日本の会社に限定されるためクロスボーダーのM&Aでは活用ができず、また全部買収に限定されるとの難点がありました。

 これに対し、平成23年、当時の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(いわゆる「産活法」)が改正され(平成26年に産活法は廃止され、産業競争力強化法において同種の定め)、一定の場合には、現物出資規制および有利発行規制等は適用されないこととされ、自社株式を対価とする公開買付けが可能となりました。

 自社株公開買付けは、日本企業が自社株式を対価として他の企業(海外企業を含む)を買収する際などに利用されることが期待されましたが、対象会社株式の代わりに、買収会社の株式の交付を受ける対象会社の株主において課税繰延べ措置が設けられていなかったことなどの理由により、実際の利用は進んでいませんでした(なお、対象会社株主が日本以外の居住者・法人である場合には、日本ではなく現地の税法の適用関係を考慮する必要があります)。

平成30年度税制改正による、株式対価M&Aでの課税繰延べ

 今般の平成30年度税制改正により、買収会社が本改正後の産業競争力強化法に基づく特別事業再編計画の認定を受けることにより、買収に応じた対象会社株主(個人・法人)について、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べることができることになりました(租税特別措置法66条の2の2、37条の13の3)。これにより、株式対価M&Aの活用が進むことが期待されています。

平成30年度経済産業関係 税制改正について

出典:平成30年度経済産業関係 税制改正について(経済産業省)

日本の株主が課税繰延べを受けるための要件

 本制度の適用を受けるためには特別事業再編計画(改正後産業競争力強化法25条1項、2条12項)の認定を受ける必要があり、認定の対象とする予定の事業類型は、特に政策的意義が高い3つの類型の事業活動のいずれかを行うことによって新需要を相当程度開拓するとともに、著しい生産性向上を達成する取組とされています。

 経済産業省によれば、政策的意義が高い3つの類型とは、具体的には、以下の3つの類型とされています。

 参照:平成30年度経済産業関係 税制改正について(経済産業省)など

類型 内容 具体例
新市場開拓事業活動 「未来投資戦略2017」で掲げられた戦略5分野等において、買収によって獲得する革新的な技術等を用いた新事業活動 戦略5分野である
  • 移動革命の実現
  • サプライチェーンの次世代化
  • FinTech
  • 健康寿命の延伸
  • 快適なインフラ・まちづくり
価値創出基盤構築事業活動 買収により獲得した経営資源を活用し、幅広い事業分野の事業者に必要不可欠なものとして利用される商品または役務を販売・提供する新事業活動 プラットフォーマー
中核的事業強化事業活動 買収により事業ポートフォリオの転換を図る新事業活動
  • 多角化している大企業
  • 大規模業界再編を行う企業

 なお、計画認定の対象とすることを想定している事業活動としては、買収対価が買収者における余剰資金を超えるようなM&Aであることが必要となります。また、買収者の株式のみを対価とすること、対象会社を子会社等とする場合に限られていることなどの要件も課されているので活用を検討する際には留意が必要です。

 さらに、今般の産業競争力強化法の改正により、現物出資規制と有利発行規制の特例の適用が、株式対価M&Aのうち公開買付けによる株式等の取得に限定されない、つまり、非上場の対象会社を対象とする取引にも適用対象が拡大されることとなります。証券実務等の対応を考慮すると、非上場のディールから活用が進むことが考えられます。

スピンオフ税制の吸収分割等への拡大

スピンオフに関する平成29年度税制改正

 スピンオフ(spin-off)とは、現物配当等の方法により、子会社の株式または会社の事業を切り出して設立した新設子会社の株式を、株主に対して交付することにより、子会社または事業を切り離すことをいいます。

 上場会社が複数の独立した事業を行っている場合に、シナジーの低い事業を分離させることによって、事業の「選択と集中」を進め、意思決定の迅速化や、場合によっては同業他社との統合などを図ることで、株主価値を向上させることを目的として行われます。

 また、他社と統合するに際して、独占禁止法上の問題解消措置として、シェアが高い事業を切り離すために行われることもあります。海外では広く行われている組織再編ですが、日本法上は、①会社から会社分割または現物出資(事業譲渡)を利用した事業の切り分け(会社分割等)と、②その切り分けた事業を承継した子会社の株式の株主に対する交付(現物配当)によって実現が可能です(すでにスピンオフ対象の事業が子会社において行われている場合①のステップは不要。また、①と②を同時に実施することも可能(税務上の分割型分割))。

 しかし、税務上は、スピンオフを実施する会社(下記図でいうA社)においてB事業(B社株式)に関する含み益に対する法人レベルの課税と、株主レベルでみなし配当課税等がなされるという問題がありました

新設分割型分割または株式分配を利用したスピンオフ税制

 これに対し、平成29年度税制改正において、新設分割型分割または株式分配を利用したスピンオフ税制が創設され、一定の要件(按分型要件、支配関係要件、従業者引継要件等)を満たす新設分割型分割および株式の現物配当について、法人・株主いずれのレベルでも課税が生じないこととされました。

新設分割のみしか活用できない問題点と平成30年度税制改正

 このように平成29年度税制改正により、税務上も可能となったスピンオフですが、親会社の事業の一部を会社分割で切り出したうえでスピンオフを実施する場合に、新設分割のみしか利用できないという問題点がありました

 つまり、平成29年度税制改正においては、新設分割型分割であっても、分社型分割を実施した後しばらくしてから株式分配を行う場合であっても、会社分割を新設分割で行うことが求められていました。これに対しては、スピンオフの対象となる事業が、許認可等を必要とするため、あらかじめ準備会社を設立しておくことが必要な場合において、実務上は活用が困難なのではないかという指摘がされていました。

 このような実務上のニーズを受けて、平成30年度税制改正により、完全支配関係がある法人間で行われる当初の組織再編成の後に適格株式分配を行うことが見込まれている場合、当初の組織再編成の適格要件のうち完全支配関係の継続要件について、その適格株式分配の直前の時までの関係により判定することとされることとなり、上記3-1の①の取引(会社分割・現物出資等)について、既存法人を分割承継法人とする吸収分割等の方法によることが可能となりました。

産業競争力強化法の改正による手続面の軽減

 なお、会社法上、スピンオフに用いられる株式の分配は、株主に金銭分配請求権を与えない場合には株主総会の特別決議が必要とされ、手続的負担があると考えられていました(しかも、税法上、課税繰延べとするためには金銭を交付することができません)。今般の産業競争力強化法の改正により、認定を受けた事業再編計画等に従ったスピンオフに用いられる子会社等の株式等の分配を、金銭による剰余金の配当と同様の手続で行うことができる旨が提案されています。

 すなわち、産業競争力強化法により認定を受けた場合(そのためにはスピンオフされた子会社等の株式等が、分配後遅滞なく金融商品取引所に上場されること等が予定されていることが必要)、原則として株主総会の普通決議、また、会社法459条1項に基づき取締役会決議により剰余金の配当が可能である旨の定款規定がある場合には、取締役会決議により可能とされることになり、手続的負担が軽減されることになります。

 新たに株主に交付することになる株式の発行会社の上場実務面等、まだまだ検討が必要な事項も多いと考えられるものの、スピンオフに関する制度整備はかなり進んできたように思われます。

その他(再編後のグル―プ内再編が見込まれる場合の適格要件の見直し等)

 現行法上、組織再編後にグループ内で更なる従業者または事業の移転が見込まれている場合、税制適格の組織再編か否かについては承継した法人単体で判断する仕組となっていることから、従業者従事要件および事業継続要件を満たすことができません。

 たとえば、A社のX事業をB社に承継させ、その後B社の100%グループ内で、X事業に従事する従業者(おおむね80%の従事の継続が要件とされているため、20%以上の移籍を伴う場合)やX事業自体が移転することが予定されているような場合、当初の組織再編が税制適格要件を満たさない、という問題点がありました。

 本改正により、当初の組織再編成の後に完全支配関係がある法人間で従業者または事業を移転することが見込まれている場合にも、当初の組織再編成の適格要件のうち従業者従事要件および事業継続要件を満たすこととされました。ただし、組織再編後の完全支配関係がある法人間での移転であれば、従業員の引継割合に関係なく適格要件を満たすわけではなく、完全支配関係のあるグループ内において従業員引継要件である「おおむね80%」という数値を満たす必要があること等には留意が必要です。

 本改正は、株式対価M&Aやスピンオフ税制と比べると目玉となるような改正ではありませんが、M&A・組織再編の実務上の障害の一つを取り除く効果が期待されます。

今後の実務の動向

 M&Aの実務においては、税制改正を契機として、取引の手法に関する実務のスタンダードが大きく変わることがあります。税務以外の実務上の対応も必要なため、実務動向がただちに変化するかは現時点では明らかではありませんが、平成30年度税制改正により実施が促進されることとなる株式対価M&Aやスピンオフの今後の実務動向が注目されます。

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