2018年株主総会の留意点(上) 法改正と機関投資家の動向

コーポレート・M&A

2017年株主総会の概括

 2017年の株主総会は、平成26年会社法改正への対応やコーポレートガバナンス・コードへの対応がひと段落し、比較的平穏な状況の中で開催されたものが多かったものと考えられます。

 そのような中で、2017年5月29日に金融庁から公表されたスチュワードシップ・コードの改訂において、機関投資家は議決権の行使結果を個別の投資先企業および議案ごとに公表すべきとされたことが注目されました。

 一部においては、個別の議決権行使結果の開示を行う機関投資家が、より形式的な判断により反対票を投じるのではないかとの懸念があったようですが、全体としては顕著な変化は見られなかったようです。機関投資家の状況については、後記において触れることとしますが、一般には、会社提案への反対の議決権行使は機関投資家の比率が高い上場会社ほど高まる傾向にあることから、本年の総会においても、各上場会社の状況に応じて、一定の対応が必要となる場合があるものと考えられます。

 本稿では、まず法制度等の改正の動向を概観し、機関投資家の動向について説明します。

法制度等の改正動向

情報開示関係

 本年の株主総会に向けては、大きな法改正は存在しないものの、情報開示関係ではいくつかの進展が見られました。

(1)相談役・顧問制度の開示

 まず、相談役・顧問制度の開示があげられます。東証は、2017年8月2日、経済産業省が策定した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」や政府の「未来投資戦略2017」の内容を踏まえ、上場会社による提出が義務付けられている「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂しました。

 これにより、上場会社に対して、「代表取締役社長等を退任した者の状況」という項目において、相談役・顧問等の名称や勤務条件等についての任意の開示制度が設けられました。なお、当該項目を含む様式は、2018年1月1日以降に提出される報告書から適用されることとなります。

(2)事業報告等と有価証券報告書における開示内容の合理化

 また、事業報告等と有価証券報告書の一体化をはじめとする開示内容の合理化についても、一定の進捗が見られました。金融庁は、2017年10月24日、株主との対話に資する非財務情報の開示の充実(経営成績等に重要な影響を与えた要因についての経営者による認識および分析の記載等を追加)に関する企業内容等開示府令の改正案を公表し、2018年1月26日に公布しました。

 参照:金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

 本改正は、2018年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。さらに、内閣官房・金融庁・法務省・経済産業省は連名で、2017年12月28日、「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」と題する文書を公表しています。同文書では、平成29年度中を目処として事業報告等と有価証券報告書に共通する15の細目について解釈の明確化等が図られるとされたほか、2018年夏までに関係省庁が投資家と企業の間の建設的な対話を促進するための検討を行い、結論を得ることなどが述べられています。

(3)フェア・ディスクロージャー・ルール

 最後に、平成29年金融商品取引法改正において導入されたフェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」といいます)が2018年4月1日より施行されます。FDルールとは、上場会社による情報開示の公平性を確保するためのルールであり、上場会社が未公表の重要な情報をその業務に関して証券会社、投資家等に伝達する場合には、当該上場会社に対してホームページ等での公表を義務付けるものです。従前より、株主総会においてインサイダー取引規制上の重要事実に触れることがないように想定問答の作成等の準備が行われてきたものですが、FDルールに照らし適切なものとなっているか、再度確認を要するものと考えられます。

フェア・ディスクロージャー・ルール

株主総会の開催日の柔軟化

 株主総会議案の検討期間を十分に確保するため、3月期決算会社の株主総会開催日を7月にすることを可能とするための法整備として、上記の企業内容開示府令において、大株主の状況の記載時点を、事業年度末から、原則として議決権行使基準日に変更する措置が実施されました。また、法務省も、2017年12月14日、事業報告に記載する大株主につき基準日時点の上位株主とすることができる旨の会社法施行規則の改正をパブリックコメントに付しています。

 参照:「「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集

 すでに、平成29年度税制改正において、法人税の申告期限を事業年度終了から最大6か月まで延長可能とし、申告を7月の株主総会後に行うことができるような措置が行われています。また、全国株懇連合会は、2017年2月にこれを実現するための「定款・株式取扱規程」モデルの変更案を公表済みです。上場会社の今後の動向が注目されます。
 

 参照:全国株懇連合会「企業と投資家の建設的な対話促進のための適切な基準日の設定に係る「定款・株式取扱規程」変更案について

会社法改正中間試案の公表

 法務省に設けられた法制審議会会社法制部会は、2018年2月28日に会社法改正中間試案を公表し、パブリックコメントに付しています(本稿執筆時)。まだ中間試案の段階であり、本年の株主総会に直ちに影響があるものではありませんが、今後の動向について注意を要します。

 参照:「「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」に関する意見募集

 株主総会に関する規律の見直しとしては、株主総会資料の電子提供制度および株主提案権に関する規律の見直しがあげられます。

(1)株主総会資料の電子提供制度

 株主総会資料の電子提供制度とは、現在、株主の個別の承諾を得た場合を除き、紙媒体での提供が原則とされている株主総会資料について、定款に必要な定めを置くことにより、株主の個別の承諾を得ないときであっても、会社が適法に株主総会資料を提供したものとする制度です。

(2)株主提案権

 株主提案権に関しては、一人の株主により膨大な数の議案が提案されることや、株式会社を困惑させる目的で議案が提案されるなどといった濫用的な権利行使に対処するため、株主が提案できる議案の数や不適切な内容の提案の制限を可能とする法改正が提案されています。  

その他の動向

 金融庁においては、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議が昨年10月に再開され、継続的に開催されていましたが、2018年3月28日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂と投資家と企業の対話ガイドラインの策定について」を公表しました。今後、これに沿って東京証券取引所におけるコーポレートガバナンス・コードの改訂および金融庁において投資家と企業の対話ガイドラインが策定される見込みです。とりわけ、同会議が公表した「投資家と企業の対話ガイドライン(案)」では、経営判断の質やガバナンスの問題に加え、政策保有株式が5つの論点の一つとして取り上げられていることが目を引きます。

 また、経済産業省は、上場会社関連に限ってもいくつかの研究会を運営していますが、株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会が継続しており、2018年2月に会合が開かれています。また、同省は、2017年12月より、第二期のCGS研究会を発足させました。2017年3月に公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」のフォローアップや、企業グループのガバナンス、海外M&Aに関する検討などが行われるものと見られます。

 最後に、日本取引所自主規制法人は、2018年2月21日、「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(案)を公表し、パブリックコメントに付しました(注:2018年3月30日に正式決定をリリース)。同案は、2016年2月に策定された「不祥事対応のプリンシプル」とともに上場会社の信頼性確保のための車の両輪と位置づけられ、上場会社における実効性の高い取組の推進を期待するとのコメントが付されています。

機関投資家の動向

スチュワードシップ・コードに基づく個別開示を踏まえた実務

 スチュワードシップ・コード(以下「SSコード」といいます)の受け入れを表明している機関投資家は、原則として議決権行使の方針を公表しており、議決権行使結果についても公表しています。先に述べましたように、2017年5月にSSコードが改訂され、議決権行使結果については、個別の投資先企業および議案ごとに公表すること(個別開示)が指針として明記され、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となりました。また、賛否の理由を説明することも可視性を高めるものとして推奨されています。

 金融庁によると、議決権行使結果の個別開示を行っている機関投資家は2017年12月の時点で、国内大手運用機関を含む70を超える機関とされています(金融庁「スチュワードシップ・コード改訂への対応状況について」2017年12月21日)。また、個別議案につき賛否の理由まで開示した機関投資家は、2017年9月までの時点で27社中5社であるとの分析結果があります(依馬直義「議決権行使結果の個別開示状況」(ビジネス法務2018年3月号))。

 多くの上場会社が提出する役員選任議案について、個別開示を行っている機関投資家の反対理由を確認すると、社外役員の独立性基準を満たさないという理由が目立ちます。コーポレートガバナンス・コードでは、上場会社は独立性判断基準を策定・開示すべきとされています(原則4-9)が、機関投資家は各社の議決権行使基準の中で独自の独立性基準を策定してこれを適用し、賛否を判断しています。

 したがって、もし機関投資家の定めた独立性基準が、当該上場会社の定めた独立性判断基準より厳格なものである場合、単に「当社の独立性判断基準を満たしている」旨の説明のみでは、そのような機関投資家は当該社外役員の選任議案に反対せざるを得ません。上場会社としては、独立性に関わる事実について、事実の詳細を開示すれば、当該機関投資家の定める独立性基準を充足していると見られる場合には、積極的に詳細な事実を開示・説明していくことを検討する価値があると考えられます。

海外機関投資家・議決権行使助言会社

 東京証券取引所等による株式分布状況調査(2017年3月末現在)によれば、外国法人等の株式保有比率は30.1%とされています。海外機関投資家の議決権行使の状況に留意する必要があるか否かは個社の株主の分布状況により様々ですが、海外機関投資家は議決権行使助言会社の助言に基づいて議決権を行使することが通例と考えられますので、留意を要する上場会社では、まずは議決権行使助言会社の動向を参照すべきこととなります。

 主な議決権行使助言会社としては、ISSおよびグラス・ルイスが存在し、それぞれ2018年議決権行使助言方針を公表しています。2018年2月から適用される議決権行使助言方針については、一般に大きな影響があると予想されるような改定事項は、特に存在しません。改訂項目は、買収防衛策に関する細目的な要件、グループ会社内での役員兼務者数のカウント方法、剰余金配当等の決定機関に関する定款変更となっています。改定の具体的な内容は、「ISS、グラス・ルイスの議決権行使助言方針の改定について」を参照ください。

 なお、両社は、2019年2月より適用される議決権行使助言方針において、取締役会の構成員に関する厳格化方向での改定(ISSは3分の1以上の社外取締役の選任、グラス・ルイスは最低1人の女性役員の登用)を予定していることを公表しており、実務的にはこちらの重要性が高いと考えられます。先行して公表されている趣旨は、上場会社に対して必要な対応を促すことにありますので、各社において必要に応じ、その影響について検討を進めておくべきでしょう。

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