2018年株主総会の留意点(下) 株主総会の実務対策

コーポレート・M&A

 前回(2018年株主総会の留意点(上))は法制度等の改正および機関投資家の動向について解説しました。本稿では、株主総会の準備の流れに沿って、開催日・招集通知の発送日程から想定問答・当日の運営等の問題を解説します。

開催日および招集通知の日程

集中日を避ける傾向は継続

 コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」といいます)補充原則1-2③は、株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきであるとしています。この点、総会日程において集中日を避ける傾向は継続しており、「株主総会白書2017年版」(商事法務)(以下「白書」といいます)によれば、2017年は初めて6月総会の集中日開催率が30%を下回ることとなりました。なお、株主総会議案の検討期間を十分に確保するため、3月期決算会社の株主総会開催日を7月にすることを可能とするための法整備が進められていることは前記事(2018年株主総会の留意点(上))のとおりです。

招集通知の早期発送とウェブサイトへの掲載

 また、コード補充原則1-2②は、株主総会招集通知の早期発送に努めるべきであるとしているところ、これは、機関投資家をはじめとする株主が総会議案を十分に検討する時間を確保し、ひいては、形式的な判断による反対投票を避けるためにも重要な意義があるものと考えられます。白書によれば、法定の日数である14日前の発送としている会社は回答全体の5.0%に過ぎず、21日以上前との回答が46.7%に及んでいます。

 さらに、同原則は、取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に自社のウェブサイト等による公表を推奨しています。白書によれば、発送前のウェブサイト掲載を実施している会社は回答全体の89.4%を占めており、とくに大きい上場会社ほど早期に掲載する傾向が強いようです。

 上場会社としては、招集通知の内容の正確性に配意しながら、これらの早期発送等の傾向を踏まえて対応を検討すべきこととなります。

事業報告・株主総会参考書類の内容

 コード補充原則1-2①は、株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報については、必要に応じ適確に提供すべきであるとしています。また、コード原則3-1は、法令に基づく開示を適切に行うことに加えて、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、次の5つの事項について、主体的な情報発信を行うことを要請しています。

【原則3-1.情報開示の充実】

  1. 会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
  2. 本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
  3. 取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続
  4. 取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
  5. 取締役会が上記④を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明

 これらを踏まえ、上場会社においては、事業報告・株主総会参考書類等の記載について、法令上要請される事項以外の任意的記載事項の取扱いをいかにすべきかが課題となっているところです。

 一つの判断基準としては、他の開示書類において記載すべき事項については、事業報告・株主総会参考書類においても積極的に記載し、上場会社として株主に説明を行っていくべきとする考え方があり得ます。取引所のコーポレートガバナンス報告書の記載要領では、上記コード原則3-1の5つを含め、特定の事項を開示すべきとする原則として11のコードの諸原則が示されています(記載要領別添1)ので、参考となるでしょう。また、有価証券報告書においては、上記のとおり企業内容開示府令の改正により、株主との対話に資する非財務情報の開示の充実が求められることとなりましたので、これも検討の対象となります。事業報告・株主総会参考書類での任意的な記載を行う場合には、これらの他の開示書類における開示内容との一貫性を確保する必要があることは言うまでもありません。

 現状、とくに役員選任議案において、社内候補者の個々の選任理由の記載(上記⑤)については、実務に相当定着しつつあるとの評価があります。また、比較的多くの上場会社で記載されている事項としては、経営理念・経営戦略・経営計画に関する事項(上記①)や、社外役員の独立性の判断基準に関する事項(原則4-9)があげられます。

当日の運営

 当日の株主総会運営に関しては、フジ・メディア・ホールディングス事件(東京地裁平成28年12月15日判決・金判1517号38頁)が話題となりました。

 同判決は、①有給休暇を取得して参加した従業員株主に、リハーサル時と同旨ないし類似の質問をすることを依頼したことについて、「多数の一般株主を有する上場会社における適切な株主総会の議事運営とは言い難いもの」と指摘しました。

 また、②役員賞与の支給に関する議案の審議において、役員への個別支給額の開示を求める事前質問に対する回答として、「役員2名の連結役員報酬」に限定した支給額について言及していることを明示しないままに、前年度比で15%の減額である旨の説明を行った点について、「役員全員」に対する個々の支給額が15%減額されていると誤解される可能性があり、「適切なものであったとは言い難い」としています。同判決は、結論としては株主総会決議の取消しを認めませんでした。

 上記①のやらせ質問は、少なくとも現時点においては広く普及している実務ではありませんが、もし採用している会社があるようであれば、再検討を要する事項といえます。また、上記②のような誤解を招く可能性のある回答は、比較的発生しがちな状況ともいえますので、総会事務局がしっかりと回答内容を注視し、必要な場合には回答した役員に補足説明を行わせる必要があるでしょう。

想定問答

経営成績や事業計画に関する回答とフェア・ディスクロージャー・ルールの関係

 本事業年度において特に目立った問題のなかった上場会社であれば、一般株主の関心はやはり経営成績や事業計画の内容にあり、実際に株主から出される質問も事業に関するものが多くなります。魅力的な経営者であればあるほど、これらの点を株主に問われれば熱のこもった回答となり、そのことが株主の満足度を高め、株式の長期保有にもつながるという好循環を生み出すものといえます。ただし、上記に記載したとおり、フェア・ディスクロージャー・ルールの導入によって、株価に影響を与えるような情報の取扱いには改めて注意が必要となりますので、総会事務局としては、社内の数字や事業計画等についてどこまで回答に含めることができるかという部分の管理をしっかりと行っておくべきです。

顧問・相談役に関する想定問答

 コーポレートガバナンス関連については、様々な論点があります。顧問・相談役に関する質問は、昨年同様に質問される可能性の高いテーマだといえます。コーポレートガバナンス・コードの公表などの一連の改革によって、株主の側の知識も増えてきていることから、次期社長の指名の仕組みに関する質問や、女性・外国人役員の登用に関する質問、社外役員の独立性に関わる質問、役員報酬の個別開示・算定根拠・インセンティブ報酬に関する問題などに関する質問への対応を準備しておくべきと考えられます。

企業不祥事やその予防に関する想定問答

 本年度も大小様々な企業不祥事が発生し、調査委員会が設けられ、報告書が公表されました。上記のとおり、日本取引所は「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(案)を公表しており、上場会社の内部管理体制の整備・点検が強く求められるという環境が継続しています。不祥事が発生した上場会社はもとより、そうでなかった会社においても、同種事案が発生する可能性をどのように低減しているか、自社の内部管理体制が的確に機能していることを株主に対してどのように説明できるか、確認しておく必要があります

最近の時流を踏まえた想定問答

 オリンピック、人工知能やIoT、フィンテック、ブロックチェーンといったキーワードが事業に関係する上場会社においては、それらについての質問を想定し、経営者がビジョンを語ることによって出席株主の満足度も高まることでしょう。働き方改革や裁量労働制、賃金引上げ、人手不足といった労務関連の話題は、政府・国会における論点となっていますので、引き続き自社の施策・考え方を整理しておく必要があります

不規則発言・動議対応

 いわゆる「総会屋」自体は減少しているとはいえ、一部の特殊株主の動向については、当日の総会運営に影響がありますので、直前まで情報収集に努めるべきです。また、問題行動をとる株主は、必ずしも総会屋や特殊株主に限られるわけではありません。個人投資家の質問には多少不明確な点があっても丁寧に応対すべきですが、一方で、議長が毅然とした対応をとらないことがかえって出席している他の一般株主を当惑させてしまう場合もあります。出席株主が不規則発言を行う、マイクを手放さない等の問題行動をとった場合、議長による退場命令やマイクのスイッチを切る等の対応が必要なこともあります。改めてリハーサルや想定シナリオにおける確認をするべきでしょう。

 さらに、株主総会当日に手続的動議や議案の修正動議がなされた場合の対応についても、本年の株主総会に特有の準備事項ではありませんが、再度確認しておくべきでしょう。必ず議場に諮るべき手続的動議についての詳細は、「株主総会議事録の記載例(動議が提出された場合)」をご覧ください。

 修正動議については、株主提案の形で事前に役員の選任・解任提案がなされた場合以外にも、会社提案による役員選任議案に対する修正動議の形で、総会当日に株主の議案提案権が行使される場合があります。取締役選任議案に対する修正動議への対応は、提案の内容によってかなり複雑ですので(詳細は「取締役選任議案に関する修正動議への対応方法」をご覧ください)、総会当日に議長が適切に対応できるように、対応方法を確認しておくことが望ましいと考えられます。

コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから
  • facebook
  • Twitter

関連する特集