今こそ知りたい、「株式等売渡請求」の実務で留意すべきポイント

コーポレート・M&A

はじめに

 本稿では、平成26年改正会社法施行(平成27年5月1日)後、完全子会社化の手法として主流となった株式等売渡請求株式併合のうち、株式等売渡請求を取り上げたいと思います。

 これらの新制度については、平成26年改正会社法施行前後に多数の書籍や論文が出ていますので、立法の経緯、既存の手法との比較検討、手続の全体像、必要な開示書類などについてはそれらの文献に委ねることとし、本稿では、実例が一定数集積した現時点において、実務上の留意点として認識されているいくつかの点に触れたいと思います。

完全子会社化手法の第1選択肢となった株式等売渡請求

株式等売渡請求とは

 株式等売渡請求とは、対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が、対象会社の承認を受けた上で、他の株主(少数株主)等が有する対象会社の株式等の全部を強制的に取得できる権利であり(会社法179条以下)、平成26年会社法改正により導入されました。その基本的な仕組みは図表1のとおりです。

<図表1>株式等売渡請求の基本的な仕組み(上場会社である対象会社が承認した場合)

株式等売渡請求の基本的な仕組み(上場会社である対象会社が承認した場合)

平成26年会社法改正前の実務

 平成26年会社法改正前、上場会社を完全子会社化するためには、公開買付けによって株主総会における特別決議を可決するに足りる数の株式を取得した上で、全部取得条項付種類株式または株式交換の手法を用いることが一般的でした。いわゆる二段階買収です。

 もちろん、すでに対象会社の株式を大量に取得しており、株主総会における特別決議の可決が見込まれる場合などには、公開買付けを先行させずに、全部取得条項付種類株式または株式交換の手法を用いて(いわば一段階で)完全子会社化を実施することもありました。

改正会社法施行後の実務

 平成26年会社法施行後は、公開買付け後の二段階目の手続としては、株式等売渡請求(会社法179条以下)または株式併合(会社法180条以下)を用いる実務が定着してきました。

 具体的には、( i ) 一段階目の公開買付けにより対象会社の総株主の議決権の90%以上を取得した場合には株式等売渡請求を用い、( ii ) 一段階目の公開買付けでは対象会社の総株主の議決権の90%以上を取得するに至らなかった場合には株式併合を用いることが一般的になってきています。

<図表2>平成26年会社法改正後主流となりつつある二段階買収のスキーム

平成26年会社法改正後主流となりつつある二段階買収のスキーム

 株式等売渡請求が用いられる理由は「 3.株式等売渡請求のメリット」で述べます。
 なお、本稿のメインテーマではありませんが、株式併合が用いられる主な理由は、次のとおりです。

<参考>株式併合が用いられる主な理由
  1. 平成26年会社法改正により、株式併合についても反対株主の買取請求制度(会社法182条の4、182条の5)等の少数株主保護の手続が整備され、キャッシュ・アウトの手法として株式併合を用いることが不適切ではなくなったこと
  2. 全部取得条項付種類株式の場合には、価格決定の申立てまたは株式買取請求の結果、端数合計が1株未満となり端数処理ができなくなるリスクがあるのに対して(会社法173条2項、171条2項、234条参照)、株式併合の場合には、株式買取請求権の行使により自己株式となる株式にも併合の効果が及ぶため(相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」別冊商事法務295号47頁)、上記リスクがなく手続が安定すること
  3. 税務上、株式買取請求権を行使した株主にみなし配当が生じないため、みなし配当が生じる全部取得条項付種類株式と異なり、益金不算入を活用するために公開買付けに応じずに株式買取請求権を行使する動機づけが株主に生じないこと

株式等売渡請求のメリット

期間短縮

 キャッシュ・アウト手法としての、 株式等売渡請求の最大のメリットは期間短縮です。期間短縮が可能なのは、全部取得条項付種類株式・株式交換・株式併合と異なり、対象会社における株主総会決議を要せず、取締役会決議で足り(会社法179条の3第3項)、また、全部取得条項付種類株式・株式併合と異なり、端数処理(裁判所の非訟手続)が不要だからです。

(1) 株式等売渡請求を用いた場合の所要期間

 それでは、株式等売渡請求を用いた二段階買収は、具体的にどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
 それぞれの案件のスケジュールの背後には第三者からは必ずしもうかがい知れない個別の事情がありますが、脱稿時点(平成28年2月12日)における公表事例のスケジュールは図表3のようになっています(図表3および4においては、便宜上「株式会社」等の機関名は省略しています。将来の日付は公表されている予定です)。

 何をもって所要期間というかはそれ自体難しい問題ですが、ここでは公開買付け開始から特別支配株主が売渡株式等を取得する日(取得日)までをもって所要期間とみています。ただし、売渡対価の支払いには実務上取得日から2、3か月かかっていますし、株式買取請求がなされ価格決定の裁判にまで至ればその対応も要しますから、取得日をもって案件が実質的に全て完了するというわけではないことにご留意ください。

<図表3>株式等売渡請求を用いた二段階買収の実例
公開買付者
(特別支配株主)
対象会社 公開買付開始日 取得日 所要期間(日)
1 マーレジャパン 国産電機 平成27年5月1日 平成27年7月29日 89
2 テンプスタッフ P&Pホールディングス 平成27年5月13日 平成27年8月5日 84
3 ZEホールディングス(増進会出版社の完全子会社) 栄光ホールディングス 平成27年6月19日 平成27年9月16日 89
4 高島 小野産業 平成27年8月14日 平成27年11月19日 97
5 スキャンポファーマ(Sucampo Pharmaceuticalsの完全子会社) アールテック・ウエノ 平成27年8月27日 平成27年12月3日 98
6 QAON ビットアイル 平成27年9月9日 平成27年12月9日 91
7 アルピコホールディングス マツヤ 平成27年10月16日 平成28年1月2日 78
8 イオンディライト 白青舎 平成27年10月28日 平成28年1月26日 90
9 ビッグモーター ハナテン 平成27年11月2日 平成28年1月26日 85
10 アスパラントグループ SPC2号 駐車場綜合研究所 平成27年11月26日 平成28年2月25日 91

所要期間の平均日数:89日

(2) 株式併合を用いた場合の所要期間

 このように、株式等売渡請求を用いた二段階買収は、おおむね 3か月で完了していると言えます。それでは、その他のキャッシュ・アウト手法の場合はどうでしょうか。
 ここでは、株式等売渡請求とならんで主流になりつつある株式併合の例で見てみましょう(図表4)。
 なお、「完全子会社が実現する日」という意味で、便宜上、株式併合の効力発生日を完了日とみています。

<図表4>株式併合を用いた二段階買収の実例
公開買付者
(特別支配株主)
対象会社 公開買付開始日 効力発生日 所要期間(日)
1 JWDホールディングス 日本風力開発 平成27年3月24日 平成27年9月9日 169
2 ツルハホールディングスおよびフジ レデイ薬局 平成27年4月14日 平成27年10月6日 175
3 FTホールディングス 日本バイリーン 平成27年8月10日 平成27年12月30日 142
4 NCSCホールディングス 情報技術開発 平成27年9月14日 平成28年2月5日 144
5 モスト・ユー ウライ 平成27年11月12日 平成28年3月1日 110

所要期間の平均日数:141日
※レデイ薬局の事例では公開買付けが2回行われており他の事例と単純比較できないため、平均日数の計算においては除いています。

 このように、株式併合を用いた二段階買収には、株式等売渡請求と違って株主総会決議が必要ということもあり(会社法180条2項)、株式併合の効力発生日までにおおむね 4、5か月かかっています。
 株式併合の場合には、株主総会決議だけではなく、株式等売渡請求の場合と同様に価格決定裁判への対応を要する可能性があることに加えて、効力発生日後、併合によって生じた端数を売却する非訟手続も要しますから(所要日数は案件・裁判所により異なります)、案件が完了したと実感できるまでは少なくとも半年はかかると言えます。

 株主総会を要しないということは、当然のことながら、費用の節約も意味します。株式等売渡請求による二段階買収が可能なのであれば(後記 「4. 種類株式発行会社の場合の留意点」、および 「5. 90%要件の確認に関する実務上の留意点」参照)、これを利用しない手はないと言えるでしょう。

新株予約権も対象になる

 2つ目のメリットとして、株式等売渡請求の場合、新株予約権も対象とできることがあげられます(会社法179条2項)。つまり、新株予約権も強制的に取得することができます。これはその他の手法にはない特色です。
 仮に株式の全部を取得しても、残った新株予約権を行使されてしまえば完全子会社化の目的は達成できませんから、新株予約権者が完全子会社化に同意していない案件において、株式等売渡請求にはメリットがあります。

 なお、株式売渡請求と併せて新株予約権売渡請求をしないときは、株式売渡請求について公開買付けをしなければならないため(金融商品取引法施行令6条の2第1項16号)、対象会社が新株予約権を発行している場合には、株式売渡請求と併せて新株予約権売渡請求も事実上しなければならないことに留意する必要があります。

種類株式発行会社の場合の留意点

 種類株式発行会社の取締役会が、株式等売渡請求に対して承認する場合に、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、種類株主総会の決議がなければ、承認の効力が生じません(会社法322条1項1号の2)。種類株主総会を開催しなければならないとすれば、期間短縮という株式等売渡請求の最大のメリットが失われます。

 したがって、実務上、種類株式発行会社の場合には、普通株式(上場株式)について株式売渡請求を実施することが種類株主に損害を及ぼすおそれがないか(公開買付者が公開買付けで総株主の議決権の90%以上取得した場合に株式等買取請求を行う実益があるかどうか)、当該案件の事情をよく分析して慎重に検討する必要があります。

90%要件の確認に関する実務上の留意点

90%要件の内容と確認のタイミング

 株式等売渡請求にかかる90%要件は、①株式等売渡請求時②その承認時、および、③取得日のそれぞれにおいて充足しなければなりません(坂本三郎編著「一問一答・平成26年改正会社法」(第2版、平成27年、商事法務)260頁)。
 実務的に重要なのは、①株式等売渡請求時および②の承認時です。
 公開買付けの決済をもって応募株券等の所有権が公開買付者に移転するため、二段階買収の場合、決済日後、①と②に最も近接した日における公開買付者の議決権数(分子)と対象会社の総議決権数(分母)の確認が必要となります。
 一般的に言って、90%というハードルはかなり高く(公開買付け開始前に90%以上取得できると確信できる案件は少なく)、直近の開示書類記載の総議決権数をベースにした議決権割合を計算すると、90%ギリギリということがあります。このような場合、株式等売渡請求に突き進んでよいものかどうか、ただちには判断できません。

対象会社の総議決権数と公開買付者の議決権数の把握方法

 ただちには判断できない場合には、分母たる対象会社の総議決権数は、直近の新株予約権の行使や単元未満株式の買取・買増請求の状況を確認することによって把握します。
 分子たる特別支配株主(公開買付者)の議決権数については、比較的容易に把握できますが(公開買付けの結果はプレスリリースおよび臨時報告書によって開示されます)、厳密な確認が必要な場合には証券保管振替機構に対する情報提供請求制度(社債、株式等の振替に関する法律277条)を利用することも考えられます。

 以上のことから、公開買付けの終了直後に混乱が生じないように、あらかじめ上記の確認作業に要する日数を把握した上で、全体的なスケジュールを組むことが肝要です。

株式等売渡請求の通知を受けた対象会社の取締役会が確認すべきこと

承認の是非に関する取締役の判断

 特別支配株主から株式等売渡請求の通知を受けた対象会社の取締役は、承認の是非の判断にあたり、「株式等売渡請求の条件等が売渡株主等の利益に照らし適正であるか」につき判断しなければなりません。なぜならば、対象会社の取締役会が株式等売渡請求を承認すれば、売渡株主(少数株主)は特別支配株主への株式売却を強制されるという重大な結果をもたらすからです。

対価の相当性

 対価の相当性(会社法施行規則33条の7第1号)に関しては、二段階買収の場合には公開買付者は公開買付けの強圧性を回避するために通常は公開買付価格と売渡対価を同一にする予定である旨を事前に(公開買付けの開始段階で)開示していますから、対象会社が公開買付けに賛同していた場合には、実質的に新たな判断をする必要はなく、賛同当時から承認時点までの間に事情の変化がないかを確認することが基本的な発想になります。

対価の交付の見込み

 対価の交付の見込み(会社法施行規則33条の7第2号)については、実務的には、特別支配株主からの通知内容(例えば、「本売渡対価の支払のための資金に相当する額の銀行預金を有しています」)とその裏付け証拠としての直近の預金残高証明書等を確認します。
 また、立法担当者が特別支配株主の負債も含めて、特別支配株主が売渡株主等に対して対価を交付することが合理的に見込まれるかを確認しなければならない旨述べていることから(前掲坂本272頁)、特別支配株主の直近の貸借対照表等も確認している例が少なくありません。

まとめ

 売渡対価の支払期限など実務的な関心は尽きませんが、紙幅の関係上ここで筆をおきます。この分野の常であるように、実例の蓄積に伴って実務上の課題が新たに認識され、それらの克服方法が編み出されていきますので、本稿の読者の皆様におかれましては、自社(ご自身)が株式等売渡請求の関係者になる際には、最新情報の収集に努め、必要に応じ専門家にご相談ください。

会社法179条(売渡請求)
1 株式会社の特別支配株主(株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を当該株式会社以外の者及び当該者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人(以下この条及び次条第1項において「特別支配株主完全子法人」という。)が有している場合における当該者をいう。以下同じ。)は、当該株式会社の株主(当該株式会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる。ただし、特別支配株主完全子法人に対しては、その請求をしないことができる。

2  特別支配株主は、前項の規定による請求(以下この章及び第846条の2第2項第1号において「株式売渡請求」という。)をするときは、併せて、その株式売渡請求に係る株式を発行している株式会社(以下「対象会社」という。)の新株予約権の新株予約権者(対象会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する対象会社の新株予約権の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる。ただし、特別支配株主完全子法人に対しては、その請求をしないことができる。

3  特別支配株主は、新株予約権付社債に付された新株予約権について前項の規定による請求(以下「新株予約権売渡請求」という。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求しなければならない。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りでない。
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