社外役員を「飾り」にしない、うまい付き合い方

コーポレート・M&A

 上場企業の行動規範を示した企業統治の指針として、2015年6月から適用が開始となった、コーポレートガバナンス・コード。これにより、上場企業は社外取締役を2人以上起用することが義務化されました。

 しかし、「数だけそろえた社外役員は有効に機能しているのか?」と疑問を投げかけるのが、国広総合法律事務所の國廣正弁護士です。企業と社外役員との関係性において、何が問題で、どうすれば良いのか、三菱商事や東京海上日動、LINEの社外役員を務める國廣正氏の見解を伺いました。

社外役員は偉い人?

率直に、現在の「社外役員の在り方」について、何が問題だと思われますか。

 「要するに、飾りじゃん!」ってことですよ。コーポレートガバナンス・コードができて、上場企業は2人以上、社外取締役を置くように言われ、仕方なく並べているというのが、本質的な問題点です。

 結局、社外取締役を「置く」「置かない」ではなく、置いた社外取締役が「飾り」になっていることが最大の問題。つまり、この問題を解決するには、「飾りじゃなくするにはどうするの?」ということに尽きます。

どうして「飾り」になってしまっているのでしょうか。

 そこには、会社側の問題と、社外役員側の問題があると思います。「置かないといけないから、仕方なく飾りで置くんだ」という会社は論外として、「置くからには、活躍してもらいたいけれど、活躍の場を与えきれない…」といった会社側の問題には、「社外役員への遠慮」という意識の問題があるでしょう。

 会社側にとって、社外取締役や社外監査役は、敷居の高い存在となっています。「偉い人」「立派な人」という意識から、「ご迷惑をおかけして、申し訳ない」だとか、「お時間を取らせてしまって、申し訳ない」というような気持ちになっているように思います。

 昔、ある会社から、社外取締役の相談を受けた時に、「お時間は取らせませんから」と言われたことがあり、断りましたよ(笑)。そういう言い方をしているだけかもしれませんが、そういう言い方をするセンスや意識自体がダメだなと思います。

社外役員へ遠慮してしまうのは、会社の経営層でもそうなのでしょうか。

 役員や取締役含め、多くの場合、そうですね。日本企業は内輪で事業を進めていくような文化なので、外の人に見られることに慣れていないように思います。

では、社外役員側の問題はどこにあると思われますか。

 「楽して報酬がもらえてうれしい」というような人は論外として、1つは「いろいろ口出しすると迷惑をかけるのでは…」という遠慮。もう1つは、「こんな質問をしたら馬鹿にされるのでは」という変なプライド。その会社にいたわけではないからわからないことだらけで当たり前なのに、わかったふりをしてしまうんです。

 重要なことは、権限論や法律論ではなく、会社側と社外役員側の気持ちにあります。

東芝の不正会計問題も、会社側と社外役員側の意識の問題が原因だったと思われますか。

 東芝の社外役員たちが不正をわかったかというと、たぶんわからなかったんだろうけれども、しょうがないかと言うと、彼らが努力していたかどうかは疑問ですね。

 報告書には、監査委員会の委員である取締役(元法務部長)が、粉飾されている可能性を疑い、第三者意見を取り入れてもらうよう監査委員長に進言したと書かれています。そこで跳ね返されてしまっていたわけですが、問題はなぜその後に社外取締役に相談しなかったのかということです。社外取締役は、まさにそういう時のためにいるわけですから。もともと、あまりコミュニケーションができていなかったんだなと思いますよ。

 致命的なのは、社外役員が半数以上いて、彼らは不正を止めるために存在しているのに、一番肝心な場面で重要なリスク情報が入ってきていないことです。社外取締役と会社の間で必要なのは、何かあった時に電話をしてもらえるような関係性です。社外役員との関係性を考える上で、東芝の事件は最高の反面教師としての素材です。

國廣正弁護士

会社側と社外役員側のうまい付き合い方とは?

それでは、会社側はどのように社外役員と接するとよいのでしょうか。

 しっかりと会社を見てほしいと「思う」だけでなく、「どんどん身をさらす」ことです。社外役員は評論家ではなく、自分の会社のガバナンスをする人です。有益な意見を求めるためには取締役会付議事項だけではわかってもらえません。殺菌されていない情報を積極的に出さないと始まりません。社外役員をただ丁重に扱うだけでなく、意見交換し、企業風土を感じ取らせるために、情報提供していくことが重要です。「あなたには社外取締役として、こういうことをしてほしい」とはっきり伝えることも大事です。

 また、「社外役員が言ったことは、すべて守らなければいけない」といった意識も間違っています。社外役員は会社のことを全部わかっているわけではないですから、ピントの外れたことも聞いてきます。3つ質問したうちの1つにドキっとしてもらう、3打数1安打が、社外役員の仕事だと思います。2つの空振りは適当にあしらえばいいんです。過剰反応して、つまんねぇと思ってもレポートを出す、というようなことはやめましょう。

社外役員側はどのように意識するとよいでしょうか。

 まずは能動的に要求すること。取締役会で適切な意見を述べるためには、議案を読み込むだけでは不十分で、企業の実態を知らなければいけません。「自分は何をする必要があるのか、何ができるのか」を明確に意識して、恥ずかしがらずに能動的に、「あれ見せて、これ見せて」と言っていくことが必要です。常にヒットの質問だけしようと思うと質問できなくなったり、通り一辺の質問だけになってしまうので。3歩前進2歩後退の議論の方が、絶対に視野が広がります。

 また、取締役会の付議事項は最低限のやるべきことであって、その資料や周辺情報だけでは会社の実態を捉えることはできません。この会社はどんな会社なのかを知るには、「現場を見る」「社員と意見交換する」などしないとわかりません。

社外役員に弁護士が起用されることが多々あると思いますが、会社側は弁護士に何を求めていると思われますか。

 弁護士である社外役員に求められるものは、法律の専門知識ではなく、法的思考力を切り口に、そこから問題点を探って、コモンセンスで意見を述べることです。上場企業は顧問弁護士がいて、法務部もいて、法律のことはよく知っています。弁護士である社外役員には、独立性に加えて、事実整理力やリスク分析力、論理的説明力、ステークホルダー視点、コーポレートガバナンス・コンプライアンスなどの素養が重要となってきます。

 これが、「できている人が多い」とは、言えないように思います。議案に対して、「ここは『もしくは』ではなく『又は』だろ!」などと文章の言い回しの指摘ばかりをするような人もいるようですが、そんな指摘は取締役会で社外役員がすべきことではありません。

國廣正弁護士

社外役員として仕事をしてもらうための徹底した情報提供 − 三菱商事

國廣さんは、三菱商事の社外監査役を務められているんですよね。

 はい。三菱商事はもともとガバナンスをかなりがっちりやっている会社で、「こちらが言う前にやる」のが特徴です。社外役員への情報提供が徹底されています。

それはなぜなんでしょうか。

 商社はビジネスがものすごく多岐にわたっているため、その全体像をつかむのが大変なんです。「ちゃんと意見を言ってもらうためには、きちんと知ってもらわないとね」という意識が、三菱商事から強く感じられます。

そんな多岐にわたるビジネスについて、どのように情報共有されるのでしょうか。

 監査役会に社外取締役が加わり、まず、各事業部門のCEOからの業務報告と意見交換を年に1回、2時間くらいかけて行います。三菱商事には、「金属」「エネルギー」「機械品」「化学品」「地球環境インフラ」「新産業金融」「ビジネスサービス」の7つの事業部門がありますので、7回行うことになります。部門ごとに、現状や来年の投資、5年後を見据えた課題などについて、議論します。

 一方、地域ごとの説明もあります。「北米」「中南米」「欧州・アフリカ」「中東・中央アジア」「東アジア」「アジア・大洋州」「日本」の7つの地域にそれぞれトップ(統括)がいて、こちらでもそれぞれのトップと年に1回、各2時間くらいかけて議論します。

どのような話をされるのでしょうか。

 大きな投資案件や事業戦略、重要課題について議論することが多いのですが、事業の最先端で闘っている人がどのように考えているかを実感できるところに意義があります。おもしろいエピソードだと、日本から距離のある、アフリカへの進出の議論をしている時に、中南米の統括から見たら「すぐそこ」の距離だから、日本から攻めるのではなく、南米から攻めようという話になりました。例えば、チリのサーモンをアフリカで売れないか、そんな発想になります。

 こんな風に、年に14回意見交換をし、1〜2年経って、ようやく全体像がそれなりにわかるようになりました。ビジネスがでかすぎて、これをやらないと何もわからないです。

そのほかの事業部の情報は、どのようにして吸い上げているのでしょうか。

 財務や法務・コンプライアンス、環境CSR、内部監査部門といったコーポレート部門とも定期的な意見交換を行っています。監査法人とも、四半期に1回の頻度で意見交換を行います。

 また、毎年必ず1回、海外視察に行っています。

どのような場所へ視察に行っているのでしょうか。

 去年はチリのアンデス4000メートルにある銅の鉱山や、フィヨルドにあるサーモンの海面養殖場を視察に行きました。一昨年は、カナダのシェールガスの採掘現場へ行きました。カルガリからプロペラ機で2時間、そこからジープに乗って5~6時間かけて回る、そんなところです(笑)。

想像もつかないような場所です!視察に行って、どのようなことをされているのでしょうか。

 何よりも大事なのは、「事業の規模やオペレーションの実際を肌で感じる」ということです。例えば、チリでは氷河法という法律があり、銅を掘ることによって舞う粉塵が氷河に付くと黒くなって、温暖化により溶けてしまうリスクがあるため、いかに粉塵を上げずに掘っていくかが重要、などという話を現場を見ながら聞かされるわけです。また、この高地にある鉱山の過酷な状況で働いている日本人のスタッフの苦労なども直接、話してもらいます。

 カナダのカルガリでは、日本から女性社員が多く出向している現場でしたので、女性社員たちだけと話をする機会をセッティングしたりしましたね。

今年はどこに行かれるのでしょうか。

 ナイジェリアに行く予定です。去年、三菱商事はオラムという穀物会社に出資しました。アフリカの農場というと、「搾取」「過酷労働」といったイメージを持たれがちですが、オラムはCSR戦略をメインに打ち出している会社で、ゴマやカシューナッツ、アーモンドなどのニッチな穀物を対象に、マイクロファイナンスを組み合わせて、各農家から農作物を買って、人権、環境に優しいものとして売っています。

 CSRを強く掲げている会社なので、その実際を視察したいと希望を出し、行くことになりました。

実際に視察されて、何か指摘されたりしているのでしょうか。

 2〜3日の滞在で、問題を見つけられるわけではありません。ですが、実際に現場に行って、その規模や働いている人たちの姿を見て、会話をすることによって、社外役員として地に足が着いた意見を述べることができるようになります。

 会社側も、紙の上の情報だけに終始してしまいがちなところを少しでも実感を持ってもらおうという考えで、社外役員の海外視察に積極的です。海外視察は、社外役員を有効活用するための手段の1つなんです。

國廣正弁護士

チリの銅山にて

あるべきコーポレートガバナンスの姿へ − LINE

今年上場が話題になったLINEでも社外取締役を務められていますが、こちらは三菱商事と比べるとだいぶ毛色が異なりますね。

 百年の伝統のある三菱商事と比べると正反対の赤ちゃんの会社ですね(笑)。私が社外取締役に就任するまでの経緯からお話すると、LINEは日米で同時上場するために、しっかりしたガバナンス体制の構築が不可欠だと認識していました。LINEはビジネスを開始してから5年で、急速に成長したベンチャー企業のため、ガバナンス・リスク管理体制が追いついていない状況でした。そのため、これからグローバルに事業拡大していくにあたって、土台がしっかりしていないと、どこかでずっこけるぞという意識を持っていました。東京証券取引所やニューヨーク証券取引所からも、ガバナンス体制について問われていました。

 また、親会社である韓国のNAVERが株を8割近く保有しており、NAVERに利益が移転されないようにするために、利益相反を監視する観点からの少数株主保護としての役割も、社外取締役に期待されていました。

 そうした中、私に「社外取締役に」という話がきました。

どうして國廣さんのところに相談に来られたのでしょうか。

 LINEにはそれまで全く縁がなかったので、「なんで俺?」って聞いてみたところ、「いろいろリサーチした結果、一番厳しそうだから」と言われましたよ(笑)。

 社外取締役を受けるかどうかを決めるに当たって、ネットベンチャー企業ということで、ライブドア事件の印象もあり、マネーゲームをやるような体質がないかなど、出澤社長に徹底的かつ無遠慮に質問しました。そうして、極めて真面目な会社であることがわかりましたので、2015年10月に、社外取締役に就任しました。その後も、日韓の経営陣と十分に議論を繰り返しています。

 NAVERとLINEの創業者である李海珍(イ・ヘジン)氏は、2012年「フォーチュン」誌で「アジアで最も注目される企業家25人」に選ばれた人物で、まだ40歳台ですが、彼が日本に来て、また、私が韓国まで行って、十分に話をしています。事業を通じて世の中のためになりたいということを、建前ではなく、本気で言っているような人です。

 そうして、LINEは、2016年7月に日米同時上場を果たし、いよいよこれからという段階です。

社外取締役として、現在はどのような活動をされているのでしょうか。

 社内取締役は、日本人2名、韓国人3名、社外取締役は日本人3名です。基本的には月に1回、取締役会があるのですが、新しい事業がどんどん出てくるので、取締役会だけでなく、臨機応変に事前説明が行われ、意見を求められます。ものすごくスピード感のある経営判断をしています。

 また、どんどん取締役会の中身も改善されていて、以前は報告事項や決議事項に割く時間が多かったのですが、今はできるだけ議論の時間を取るようにしています。

 その一環として、取締役合宿というものも行います。取締役全員で研修施設に泊まり込み、2泊3日、企業としての在り方や事業戦略などを徹底的に議論します。

國廣正弁護士

韓国で行われた取締役合宿の様子

数年でここまで成長しているのですから、ものすごいスピード感でしょうね。

 そうですね。日本か韓国かといった狭い発想ではなく、グローバルにグーグルやフェイスブックのようなサービスとどう違いを出していけるのか、単に金儲けのサービスではなく、世の中のためにどう役立たせることができるのか、「社会の公器」としての責任に立ち戻る議論を心がけることが、私の役目だと思っています。

取締役会以外では、どのような活動をされているのでしょうか。

 社外取締役3名のみで構成される諮問委員会では、親会社との取引の利益相反を監視するだけでなく、コーポレートガバナンスやコンプライアンス、危機管理に関するいろいろな提言をしています。LINEは若い会社なので、リスク管理や危機管理がまだまだ甘い。大騒ぎされるような話でもないことが、メディアで大きく報道されてしまうこともあります。特にレピュテーションリスクが大きく、いじめの要因とされたり、親会社が韓国ということから攻撃的になる人もいて、多くのリスクに囲まれています。実は、LINEは全国の学校やPTAで「いじめを防止するLINEの使い方」という講習を数百回やっているのですが、そのアピールが不足しています。また、先例のない領域の事業であることから法規制の境界が不明確であるといったリスクもあります。

 このような状況でのより高い水準のリスク管理体制構築ができているかをウオッチしていくことが、私の役割です。社外役員としてはモニタリングに徹することが、あるべきコーポレートガバナンスだと思いますが、今はそうも言っていられないので、あちこちを駆けずり回り、かなり踏み込んで、体制構築などに口を出したり、でしゃばりすぎなんですが、執行役員向けに危機管理やコンプライアンスのセミナーも開いています。

だんだん巣立っていってもらえるように、という気持ちですね。

 そうですね。このままだと、社外取締役でなく、コンプライアンス担当執行役員になってしまいかねませんから、早く、「普通の社外取締役」になりたいと思っています(笑)。

 でも、とても楽しいですよ。「今はスマホ全盛だけど、あと何年続くのか?」とか「ウェアラブルの時代にLINEは存在できるのか?」など、常に最先端のことを考えている会社です。スピード感があるが故に、失敗も多いでしょうが、そうした経験があってこそ成長していけると思っています。ただ、それができるようにするためには、リスク管理の土台がしっかりしていないといけません。止まれではなく、進め。そのためには、変なところでつまずくなよってことを教えていくのが、私の役目です。

國廣正弁護士

取締役8名と、グローバル戦略やIT開発などの担当執行役員5名の集合写真。右から6人目が出澤剛社長、右から2人目が李海珍氏

最後に

 今後より一層、企業のガバナンス・コンプライアンスに対して高いレベルが求められてくる社会になるでしょう。大事なことは、「やらされ感」で社外役員を置くのではなく、積極的に活用していくことです。そのためには、「社内だから」「社外だから」といった無用な垣根は取っ払って、オープンマインドで議論することが、企業の成長へとつながっていくのでしょう。

(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)

  • facebook
  • Twitter
コンテンツの更新情報、法改正、重要判例をもう見逃さない!メールマガジン配信中!無料会員登録はこちらから

関連する特集

コーポレート・M&Aの人気特集

  1. インサイダー取引規制における「知る前契約・計画」の要件と活用方法
  2. 株主総会資料の新たな電子提供制度とは
  3. これからのインセンティブプランの形 第2回 有償ストック・オプションにおけるインセンティブについて
  4. グローバルで勝ち残る企業に必要な競争力とは