新株の有利発行における「払込金額が特に有利な金額」の判断基準

コーポレート・M&A

 当社は、上場会社ですが、第三者割当増資を行うことを検討しています。最近、市況全体が上昇傾向にあったことから、業績に特に変動がないにもかかわらず、ここ半年で3割程度、当社の株価は上昇しています。そこで、最近6か月の市場株価の平均の90%の価格で第三者割当増資を行おうと思っていますが、問題ないでしょうか。

 有利発行に該当しないためには、払込金額を取締役会決議の前日の終値の90%以上とするのが原則です。市場価格の急激な変動などがあった場合には、例外として6か月以内の期間平均の90%以上とすることも可能ですが、質問の程度の株価上昇であれば、例外が適用できる場合に該当すると認められる可能性は低いため、有利発行として株主総会の特別決議が必要になるものと考えます。

解説

第三者割当増資の原則

 定款上、株式の譲渡制限が付されていない会社(上場会社に限りません)においては、第三者割当増資は、原則として、取締役会決議により行うことができます。もっとも、「払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合」(会社法199条3項)は、有利発行に該当し、株主総会の特別決議が必要となります(会社法309条2項5号)。有利発行に該当するにもかかわらず、株主総会の特別決議を経ていない場合、法令違反として株式発行の差止め原因となります(会社法210条1号)。

第三者割当増資の原則

日本証券業協会の指針

 問題は、いくらであれば、有利発行に該当するかですが、この点に関して、証券会社を構成員として組織される日本証券業協会が「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(以下「日証協指針」といいます)という証券会社向けの指針を公表しています。
 日証協指針では、証券会社は、株主総会決議を経ずに第三者割当増資を行う会社に対して、「株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9を乗じた額以上の価額」を払込金額とするよう要請することが求められています。

【払込金額の原則】

払込金額の原則

 なお、これには例外が付されており、「直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる。」とされています。

【払込金額の例外】

払込金額の例外

 日証協指針は、あくまでも日本証券業協会の自主ルールではありますが、裁判所も日証協指針を尊重しており、この自主ルールに則った払込金額であれば、有利発行として差止めの対象としないとの規準が裁判上も確立していると評価されています(江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015)763頁)。

日証協指針の定める例外を適用できる場合

 上記のとおり日証協指針は、取締役会決議の前日の市場株価の90%以上を原則としているものの、例外的な場合には、6か月以内の期間平均の90%以上とすることを許容しています。
 そこで、どのような場合に、この例外として取り扱えるかが問題となります。

 この点について日証協指針は「価額又は売買高の状況等を勘案し」として述べておらず、裁判例でも、例外として取り扱うためには「市場価格の急激な変動や当時の市場環境の動向などの当該承認の直前日の市場価格によることが相当とはいえない合理的な理由が必要である」(東京地裁平成22年5月10日決定・金判1343号21頁)としているものの、具体的な基準まで述べたものは見当たりません。

 しかし、過去の裁判例1の傾向からすれば、半年ないし1年以内の期間において倍額以上に株価が上昇したような場合でなければ、例外に該当すると認められる可能性は高くないと考えられます。

有価証券上場規程に基づく規制

 なお、上場会社が第三者割当増資を行う場合、有価証券上場規程施行規則に基づき、「決議の直前日の価額、決議から1か月、3か月、6か月の平均の価額からのディスカウント率を考慮して、明らかに有利発行に該当しないと判断できる場合」を除き、「払込金額が割当てを受ける者に特に有利でないことに係る適法性に関する監査役、監査等委員会又は監査委員会の意見等」(有価証券上場規則402条の2第2項2号b)が求められ、ここでいう「ディスカウント率」についても、日証協指針の90%の基準が意識されているものと考えられています。

まとめ

 以上のとおり、第三者割当増資において有利発行に該当しないようにするためには、 払込金額を取締役会決議の前日の終値の90%以上とするのが原則であり、一定期間の期間平均の90%以上とすることは、半年ないし1年以内の期間において倍額以上に株価が上昇したような場合でなければ、裁判上、有利発行に該当するとして差止められるおそれがあるため、質問の事例の程度の株価上昇であれば、株主総会の特別決議を経ておく方がよいと思われます。


  1. 東京高裁昭和48年7月27日決定・判時715号100頁、大阪地裁昭和62年11月18日決定・判時1290号144頁、東京地裁平成元年7月25日決定・判時1317号28頁、東京地裁平成元年9月5日決定・判時1323号48頁、大阪地裁平成2年6月22日決定・判時1364号100頁、大阪地裁平成2年7月12日決定・判時1364号104頁、東京地裁平成16年6月1日決定・判時1873号159頁など ↩︎

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